支配人からの調教
──今のバンドの状態は、演奏的にもキャラクター的にもベストな状態に近いんじゃないでしょうか?
マリアンヌ はい、この4人になってからが本当のキノコホテルだと言ってもいいくらい。いろんな意味でバランスがいいんではないかしらね。ケンカもないし、でも言いたいことはみんなハッキリ言うし。
──端から見てると、マリアンヌさんが他の従業員を恫喝しているようにも見えますが。
ファビエンヌ 恫喝?
マリアンヌ 恫喝の意味がわかってないみたい。調教です、「調教」。
エマ それは......
ケメ もう毎日、泣きながら練習しています。
マリアンヌ 過去にはみんなの前で従業員を吊し上げたりしたこともあったんですが、そうすると辞めてしまうんです。それ以来、叱るときは影で呼び出してチクチクと嫌みを言うように方針を変えました。
──従業員のみなさんは、支配人から言われてきつかったことはありますか?
ファビエンヌ この衣装着ろって言われた時が一番つらかったです。
マリアンヌ ああ、この娘はミニスカートに抵抗があったらしくて、履きたくないって言うからキレましたよ、支配人は。
──でもそれは最初からわかって入ったんじゃないですか?
ファビエンヌ チラシで支配人の写真は見ていたんですが、まさか自分もこの衣装を着るとは思ってなかったんです。
──でも今やこの衣装はキノコホテルのトレードマークと言えるほど浸透してますよね。
マリアンヌ ミニのミリタリー服というのは早い段階から構想していたんですが、仕立屋をどうしようかと悩んでいた所、ちょうど服飾学校に行っている女の子がライブのお客さんで来るようになって、その子に相談して作ってもらったんです。
──キノコホテルには専属の記録係(カメラマン)もいるし、いわゆるキノコ・サポーターと呼べる人達が周りにたくさんいますよね。
マリアンヌ ええ本当に、ありがたいことです。私たちは音楽をやることしかできないので。
──調教の話に戻りますが、エマさんはステージ上でもよく支配人にいじられていてますよね。あれはどうなんですか?
エマ まあ...、嫌いじゃないです。
ケメ いつも漏らしてるよね(笑)
エマ 一番対極的というか、支配人はSですが私はドMなので...、利害関係が一致してるんです。
──それは素晴らしい(笑) あとケメさんはライブ中に支配人からディープキスの洗礼を受けることが多いですが、あれも調教の一種なんでしょうか?
ケメ 一番きつかったのが、ステージ上でいきなりワインを口移しで飲まされた時があって。私、ワイン飲めないんで「もう、やめて下さい」って。
マリアンヌ 拒絶してるのがわかったんですが、それが面白くて(笑) わりと最近のことだわね。
ケメ 去年の年末の実演会でのことです。
歌と物語
──1stアルバムの話をしていただきたいのですが、ライブではお馴染みの曲がずらりと揃った感じになってますね。
マリアンヌ 今までさんざん実演会でやっていた曲を今回スタジオ盤で改めて聴いてもらうんですが、聴き慣れた人も初めて聴く人も、それぞれどんな反応があるのだろう? と思います。
──全8曲ということで、CDとしては短い感じもしますが、収録曲をあえて少なくしたんでしょうか?
マリアンヌ 本当はもっと候補曲があったんですが、削りに削った結果こうなりました。最初から狙ったわけではないんですが、聴いてみると案外これぐらいが丁度いいのかしら、と。一つの物語のように起承転結があって、一通り聴き終えた後にもう一度最初から聴きたくなるような感じになっているのではと思います。
──確かに、もっと聴かせてくれよと思いますよね。まだじらすのかと。
エマ Sだよ...。
──今、ぼそっと言いましたね(笑)
マリアンヌ キノコホテルの周辺にはSの人もいるんですが、いつの間にかMに転向してしまうケースが多いかも(笑)
──曲と同様、歌詞もまた独特なんですが、歌われている内容は情念的な恋心をテーマにしている歌詞が多いですね。
マリアンヌ どうなんでしょう? 実はあまり伝えたいことはなくて、実際、私は歌詞を書くのがすごい苦手なんです。できることなら人に頼みたいぐらい。歌詞がうまくできなくてボツになった曲もありますから。
──それは意外ですね。言葉に出来ないぐらいの激しい感情が伝わってくるのですが。
マリアンヌ そんなに激しい恋もしてないですから。したいわとは思うけど。
──いや、支配人の恋愛遍歴は非常に興味がある所です。プライベートでもドSなのか? とか。
マリアンヌ プライベートではドMを愛せないんです。男としては見れない。なにかやらせる分にはいいんですが...。まあ、そんな話はどうでもよくて。
──歌詞の話に戻りますが、今の時代、マリアンヌ支配人のように女の情念を歌う人っていないですから、そこがグッとくるんですよね。
マリアンヌ そうねぇ。世の中に恋愛の歌は多いですが、"ずっと一緒だよ"みたいな胸クソの悪い歌ばっかりで。私は物語として情景や色彩が浮かんでくるようなものを歌いたい。
──マリアンヌさん本人は意識してないかもしれないですが、キノコホテルを聴いて70年代的なものを連想する感覚って、昔の映画を見ているようなイメージが沸くからだと思うんです。例えば「還らざる海」では波止場での男女の別れが歌われてますが、これを聴いて僕は70年代の日活映画的な情景が思い浮かびました。
マリアンヌ お前、船かよ、って(笑) まあ今時の共感を求めるものではないですよね。私はある物語を一方的に提示しているだけで、それをどう解釈するのかは聴く方の自由です。
──物語を提示するという所が昭和的なものをイメージさせるのかもしれないですね。
マリアンヌ そういう意味では、昭和の歌謡曲は歌詞のレベルが高いと思います。ウェットな世界を一歩引いた乾いた目線で歌っている感覚というか。さらけ出しているかに見えても、それは私の中から絞り出したものではなくて、ただの物語でしかないという。
──実際にそんな体験してたら大変ですよね。
マリアンヌ 人を殺したりとかね。
──殺してそうですけど...
マリアンヌ (笑)
──ウェットな情景であっても、支配人のクールな声質で歌われることで突き放した感じになってると思います。
マリアンヌ 人間的な部分と人工的な部分のバランスは大事だと思う。人間くさい音楽ももちろんいいんですけど、キノコホテルでやる場合はもう少し人工的で無機質な感じを織り込みたいと思っています。
マリアンヌのせいで憂鬱
──CDもいいんですが、キノコホテルはやはりライブを体験して欲しいと思うんです。特に後半のケメさんの客席に飛び込んでのパフォーマンスや、支配人のキーボードにまたがってのプレイなどは観ていて鳥肌ものですからね。
ケメ いつも筋肉痛です。アザもめっちゃできてて。
マリアンヌ ギタリストはあのぐらいでないと。
──ライブではいつも陶酔するまでのめり込む方ですか。
ケメ その時のテンションにもよるんですが、難しいですね。毎回違うので。
──一方でエマさんの淡々としたプレイが対照的です。余裕が有りそうな感じで。
マリアンヌ 余裕がないから動けないだけよ。
エマ あえて冷静にやってるみたいに見られてるんですが...
マリアンヌ 本当は一歩でも動くとおしっこ漏らしちゃうから、この娘。
エマ はい、たいがいちびってます... いつも換えのパンツ持ってますから。
マリアンヌ 漏らしながらもがんばって弾いてる所が健気で可愛いの。涙目でね。
──(笑) えー、それでは最後にキノコホテルの次なる野望をお聞きしたいのですが。
マリアンヌ 今は音楽を演奏するバンドとしてやっていますが、いずれは映画など他の文化へも浸透していくようなものを目指したいと思います。
──キノコホテルというホテルができるといいですね。全国に支店ができるぐらいに。
マリアンヌ コピーバンドはすでにいくつかあるらしく、キノコ倶楽部とか、キノコ学級だとかキノコホテル別館というのもあるみたい。それも、なぜか名古屋に集中しているという・・。
──全国にキノコ中毒者が増殖中ですね。マリアンヌ様も憂鬱になっている場合じゃないですよ。
マリアンヌ いや、私はぜんぜん憂鬱なんかじゃなくてよ。どちらかというとむしろ、マリアンヌが人を憂鬱にさせることの方が多いし。だからアルバムタイトルは『マリアンヌのせいで憂鬱』が正式名称ということで(笑)