ビート・クルセイダースが6月にリリースしたDVD『Oh my ZEPP / PRETTY IN PINK FLAMINGO』は、彼らにとって初となるゼップ・ツアーの感動と興奮を余すところなく封じ込めたライヴ映像とメンバー主演の完全オリジナル・ドラマを同時収録するというノンフィクションとフィクションを意図的にない交ぜにした画期的な作品だったが、その大作ドラマの劇中歌を収録したスピンオフ作品『PRETTY IN PINK FLAMINGO サウンドトラック』が発表されることになった。ドラマの劇中歌はいずれも名曲揃いゆえに正式な音源として聴けるのは喜ばしい限りだが、ドラマで共演した高橋 瞳とのコラボレートによる新曲『ウォーアイニー』を収めているところに異能のお面集団の表現者としての意地と矜持を感じる。両者の持ち味が遺憾なく発揮された同曲の尋常ならざるクオリティの高さと煌びやかなポップ・センスにはいつもながらに脱帽。さらに間髪入れずに1年8ヶ月振りとなるニュー・シングル『LET IT GO』をリリースするというのだから、ロック界きってのそのワーカホリック振りにはただ平伏すのみ。偽村ユウキ×ジ・アマテラスではなく、晴れて高橋 瞳×ビート・クルセイダース名義のシングルが発表されることを祝して、ここは両者に賑々しく語り倒して頂こう。(interview:椎名宗之)
ビート・クルセイダース=紙袋を被った人たち!?
──今回のサントラなんですが、『PRETTY IN PINK FLAMINGO』の挿入歌をCDで聴きたいというファンのリクエストに応えてのアイテムなんですか。
ケイタイモ:そうですね。あとやっぱり、劇中で使った曲が余りにも良かったっていう。世治さんの作った曲も素晴らしいですし。
ヒダカ:また随分とエラソーに...一秒も曲書いてないくせして!
ケイタイモ:まぁ、そうなんですけど。だから...その〜、客観的に聴いても素晴らしかったわけですよ(笑)。
カトウ:要するに、本人たちとしてもCDとして持っていたいと思ったんですよね。
ヒダカ:オマエも一秒も曲書いてないくせに!
カトウ:まぁ、そうなんですけど(笑)。
ヒダカ:一秒も書いてないんだから、「持たせてもらってイイっすか?」くらい言っとけよ。
カトウ:じゃあ、「持ちたいんで作らせてもらってイイっすか?」ってことで(笑)。
ケイタイモ:改めて、持たせてもらってイイっすか?
ヒダカ:この印税泥棒どもが!(笑)
──先月号で世治さんにインタビューした時、この劇伴に「刺激をたくさん受けた」と仰っていましたよ。「『Now I'm Here』は僕の中で王道な感じ」だと。
ヒダカ:それ、読みましたよ。『Now I'm Here』を俺たちに提供して、世治さんのレーベルが嫉妬したって(笑)。それだけイイ曲ってことだから、嬉しい限りですね。
──ドラマを発端にして、こうしたスピンオフ作品が生まれるユニークさはビート・クルセイダースならではですよね。
ヒダカ:そこは最初から狙っていましたからね。「高橋 瞳をプロデュースさせてくれ」と真正面からアプローチしても絶対に断られるので、まずはドラマを作ることにしたわけですよ(笑)。
高橋:断るだなんて、そんなことないですよ!(笑)
ヒダカ:まぁ、下ごしらえみたいなものですね(笑)。
──随分と大掛かりな下ごしらえですけど(笑)。周囲のドラマの評判は如何ですか。
ヒダカ:正直、とてもイイですね。
カトウ:世代的にもストライク・ゾーンな人たちが多いみたいですから。
ヒダカ:そう、アラサー、アラフォーのウケが非常にイイんですよ。
──高橋さんの周囲の反応は?
ヒダカ:そっちのほうが気になりますね。
高橋:みんな「面白かった」って言ってくれますよ。
ヒダカ:そうかな?
高橋:(ムキになって)そうです! でも、一番喜んでいたのはウチの母かもしれないです。こんなことを言ったら失礼かもしれないですけど、ウチの母はビークルさんのことを"紙袋を被ってる人たち"ってずっと言ってたんですよ(笑)。
──そんな、ダムドじゃないんですから(笑)。
高橋:でも、ドラマのDVDを見て"こういうバンドなのか"と思ったらしくて。
ヒダカ:やっぱり! 一番恐れていたことが起こったか!(笑)
高橋:いや、「イイじゃない!」って言ってましたよ。後からCDを送ってあげたら、それも凄く気に入ってくれて。
ヒダカ:「ドラマのほうが良かった」とか言ってなかった?(笑)
高橋:そんなこと言ってませんよ(笑)。
──お母様は高橋さんの演技に何と仰っていましたか。
高橋:笑ってました(笑)。
ヒダカ:普段の高橋とは正反対の役所だからね。高橋は挙動不審ではあるけど(笑)、あんなに遠慮がちなキャラじゃないし、むしろ自分からグイグイ行くほうだしね。
『ウォーアイニー』は可愛らしい恋愛がテーマ
──今回はそんな両者がコラボレートした『ウォーアイニー』という楽曲が新たに収録されていますね。我々の世代は135かい! というツッコミを思わず入れたくなりますけど(笑)。
ヒダカ:確かに(笑)。(高橋に)昔、そういう同じタイトルの曲があったんだよ。
高橋:知ってます。昨日聴きましたよ。
──『ウォーアイニー』はオリエンタルな趣きのあるディスコ・チューンで、また実にポップ含有率の高い一曲に仕上がりましたね。
ヒダカ:ドラマの延長で高橋と何曲か作りたいねって時に、運良くタイアップも決まったので(アニメ『銀魂』のエンディング・テーマ)張り切って作ったんですよ。ドラマの流れで『ビコーズ・ザ・ナイト』みたいな曲を作るのもアリだったんですけど、敢えて本来の高橋に近い曲にしようと思ったんです。俺の中のイメージとしては、ドラマの中で内向的だった偽村ユウキが徐々に社会性を取り戻して明るく復活していく...みたいな感じなんですよ。
──ヒダカさんの中では、高橋さんは明るく弾けたポップ・シンガーというイメージですか。
ヒダカ:いや、高橋はポップなナンバーが余り似合わないと俺は思っていて、もっと唄い上げる感じの曲が似合うんじゃないかと。麻倉未稀みたいなね(笑)。
──ああ、♪You need a hero 的な(笑)。
ヒダカ:そういうのが似合うと思って、ドラマ用に『ビコーズ・ザ・ナイト』を作ってみたら案の定ハマったんです。そうじゃない曲を作ろうと考えた時にいろいろと候補が自分の中であったんですけど、『ウォーアイニー』だったらキー的にも一番美味しいところにうまくぶつかるんじゃないかと思って。高橋は普通の女子よりもキーが若干高いから、その高くて美味しいところへうまく持って行ければポップに弾けるんじゃないかと。結果的には予想通りでしたね。普通にシブいのとかしっとりした感じの曲を高橋に唄わせたら、多分、石川さゆりさんみたいになると思うんですよ。
高橋:ああ、そうなんですかねぇ...。
ヒダカ:演歌がハマる声だと思うよ。抑揚も含めてね。
高橋:だったら是非、演歌も唄ってみたいですね。
ケイタイモ:じゃあ、増子さんとデュエットするのとかどう?
高橋:それ、イイですね!
ヒダカ:余りオススメはできないけどね(笑)。
──『ウォーアイニー』は高橋さんによる可憐な乙女心を描写した歌詞も大きな聴き所のひとつですね。
高橋:私とビークルさんと『銀魂』さんチームとでいろいろと摺り合わせて、可愛らしい恋愛をテーマにしようと思ったんですよ。
ヒダカ:高橋が一番苦手とする部分だよね(笑)。
高橋:はい(笑)。でも、私なりにいろいろと考えて書き上げました。
ヒダカ:高橋はこう見えてかなり男前だから、可愛らしい恋愛はできないタイプだと思うけど(笑)。
高橋:ヒドいですね!(笑) そんなことない...はず、ですよ!(笑)
ヒダカ:可愛らしい恋愛って、男からするとウジウジしているように見えるから、高橋にはムリでしょ。気に入ればスパッと行くし、ダメならスパッと切るタイプだと思うよ。
──この『ウォーアイニー』然り、本誌的に言えばメロン記念日とのコラボレート曲『DON'T SAY GOOD-BYE』も然りなんですが、唄い手の資質を見極めるヒダカさんの慧眼には改めて感服しますね。その唄い手の一番良い部分を引き出す才に長けていると言うか。
ヒダカ:俺はタロウやケイタイモみたいなクズと違って(笑)、基本的にそのミュージシャンの声にしか興味がないんですよ。歌声が好きか嫌いかが一番大事で、歌声さえ良ければどんな楽器が鳴っていてもイイんです。高橋には高橋の声、メロンにはメロンの声、カエラにはカエラの声でハマるものがあるだろうと考えていけば、自ずと答えは出てくるものなんですよね。
ケイタイモ:うん、そうっすよね!
ヒダカ:何言ってんだ、この便乗商法野郎が!(笑)
ケイタイモ:だからクズって言われるんですね(笑)。
ヒダカ:でも、高橋の声はずっと好きだったんですよ。ガンダムの曲(『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の主題歌『僕たちの行方』)もずっと鼻歌で唄ってましたから。
高橋 瞳のヒップホップ・ダンスに初めて女を感じた
──高橋さんの歌声の魅力はどんなところですか。
ケイタイモ:ブースに入って高橋さんの歌を聴いて思ったのは、超音波って言うか、キーにスパンと来る瞬発力が強いって言うか。それは感じましたね。
ヒダカ:声の足が速いって言うかね。ケイタイモは声の足が遅くて、もの凄く音痴なんで(笑)。
カトウ:オレは、吐息の混じり方がエロいなと思いましたね(笑)。
ケイタイモ:そこが"MP"(萌えポイント)だったわけだ(笑)。
カトウ:"Do you love me..."とかの部分を聴いて、年下に対していけない感情を抱いてしまいました(笑)。
ケイタイモ:アタシが言うのも何だけどさ、その格好(ヴァン・ヘイレン模様のつなぎ着用)でそういう話をしてると気持ち悪いよ(笑)。
ヒダカ:その衣装、ヴァン・ヘイレンって言うよりも蟹工船って感じだからね(笑)。
──高橋さんの手応えは如何でしたか、ビート・クルセイダースとコラボレートしてみて。
高橋:手応えだなんておこがましいですけど、いつもライヴを見に行かせて頂いていた皆さんなので...。
ヒダカ:過去形か!(笑)
高橋:いやいや(笑)。こうしてコラボレートできたことは純粋に嬉しかったですよ。あと、ライヴだけのイメージで接していたので...。
ヒダカ:相当エロいんだろうなと。実際、エロいんですけど(笑)。
高橋:いや、皆さんと現場でいろいろとお話ができて良かったなと思って。
ヒダカ:その話の最中でも、お面の下から胸の谷間しか見てなかったですけどね(笑)。
高橋:そういうことばっかり言うんですよねぇ、もう(笑)。
カトウ:曲を作りながら、高橋さんには踊りを教えてもらったりしたんですよ。
ヒダカ:ヒップホップ・ダンスだよね。
カトウ:そう、その時の高橋さんの身体の動きが艶めかしくて、そこでもいけない感情を抱いてしまいました(笑)。
高橋:そんなの、タロウさんだけじゃないですか?
ヒダカ:いや、俺も高橋のレゲエ・ダンサーみたいな高速グラインドを見て、初めて女を感じたけどな。自分よりも年齢が半分以下の女子に対して何だけど(笑)。
──ビート・クルセイダースからはどんなアドヴァイスを受けたんですか。
高橋:「何してもイイ」としか言われなかったから、ちょっと不安になりました。
ヒダカ:ウチは、映画で言えば黒澤 明スタイルですから。「好きにやれ」って言いながらも設計図はちゃんと出来ているって言うか。邪魔なら家ごとどかしちゃえ! っていう。邪魔ならタロウごと消してしまえ! みたいなね(笑)。
高橋:事前にいろいろと自分なりに考えて、"エイ!"って感じでレコーディングに臨んだんです。それが全部「イイよ、イイよ」って言われるものだから、私は見放されたのかな? って思いました(笑)。
ヒダカ:いや、そういうわけじゃなくて、最初に本人がどうしたいかが見えないとこっちも決めていけないからね。0から10までこうしたほうがイイって言うのは簡単なんだけど、本人のやりたい方向にこっちも持って行きたいから。だから、言ってみればトニータナカさんみたいなものですよ。化粧の方向性としてナチュラル系なのかギャル系なのかをまず本人に選ばせて、後はトニータナカさんがメイクを施していくっていうね。高橋の場合は、最初からナチュラル系でイイ感じだったんです。
──『ウォーアイニー』はハンドクラップが小気味良いアクセントとして採り入れられたライヴ映えする楽曲ですし、ライヴでも両者の共演を是非見たいものですね。
ヒダカ:イイ振りですね。今後、我々のイヴェントに高橋をちょいちょい呼ぶつもりです。
高橋:是非お願いします!
ヒダカ:だから、高橋のファンは俺たちのチケットを買わなきゃダメだぞ、と言っておきたいですね。ただ、高橋が出るのかと思いきやタロウの小芝居で終わる時もあると思うので、それは先に謝っておきます(笑)。
──せめて高橋さんから教わったヒップホップ・ダンスくらいは披露しましょうよ(笑)。
カトウ:そうですね。高速グラインドをお見せしますよ(笑)。
ヒダカ:渡辺直美か! くらいのをね(笑)。
"ロック界の加藤 鷹"はお世辞抜きで天才です
──せっかくの機会なので他のサントラ収録曲についても伺いたいんですけど、まず、『THIS TIME / LAST TIME』。これ、完全に"ライヴハウス武道館へようこそ!"の世界ですよね(笑)。
ケイタイモ:アタシたちの世代だと遺伝子に組み込まれているような曲調だから、いつもの自分たちのレコーディングよりも盛り上がってましたね。
ヒダカ:まさに"お面BEAT EMOTION"ですよ(笑)。
ケイタイモ:往年のビート・ロック的要素に加えて、ちょっとザ・キュアーも入ってますよね。
ヒダカ:そう、コード進行は『BOYS DON'T CRY』っぽいからね。その"BOY"が"BOφWY"になっているという(笑)。
──ジ・アマテラスという架空のバンドだからこそ存分に遊べる部分もあるんでしょうね。
ヒダカ:そこもさらにスピンオフさせて何かやりたいんですよね。ジ・アマテラスとして1枚アルバムを作ったり、それとは別に架空のメタル・バンドを作ってタロウを主役に据えてみたりとか。
──ジ・アマテラスのデビュー&解散ライヴを同時にやってみるとか(笑)。
ヒダカ:ドラマのブルーレイ・ディスクをサントラと同時発売するんですけど、そのブルーレイ用に解散ライヴみたいな体の映像を撮ったんですよ。「解散します!」と言った瞬間に笑ってる、みたいな(笑)。実際のライヴで撮ったから臨場感はあると思いますけどね。
カトウ:いつものビート・クルセイダースとしてのライヴの本編が終わって、スーツに着替えてアンコールで撮ったんですよ。あれは凄く面白かったですね。
──hurdy gurdyの2曲は、世治さんの持ち味がよく出ていますね。
ケイタイモ:世治さんらしい艶やかさがありますよね。
カトウ:一気にイギリス、UK感が出てくるって言うか。
──イギリスの湿った空の感じ、ありますよね。
ヒダカ:なんせ"唄う加藤 鷹"ですから、湿らせることにかけては天下一品でしょう(笑)。劇伴も世治さんに頼んだのは、お世辞抜きで木村世治は天才だと俺が思っているからなんです。酔っ払いさえしなければ凄くジェントルだし(笑)。今から7、8年くらい前、渋谷や下北のクラブで呑んでいると世治さんとレピッシュのマグミさんがそこへなだれ込んできて、若手がみんな逃げていくっていう図式があったんですよ(笑)。世治さんとマグミさんから逃れても今度は増子さんたちが待ってるから、どっちみち逃げ場はなかったっていう(笑)。あの時代をくぐり抜けてきた身としては、今のウチのファンだったら世治さんのサウンドにもバッチリハマると思うんです。最初からビート・クルセイダースを聴いていた人も、メジャーになってからのビート・クルセイダースを聴いた人もアラサーに近づきつつあると思うし、今なら世治さんのサウンドが心に響くんじゃないかと。それがアラフォーである俺にまで響いちゃった感じですね。
──ドラマの中であれだけ憎たらしい悪徳プロデューサーを演じる一方で、『Now I'm Here』のように瑞々しく美しいバラードを唄う振り幅の広さが凄まじいですよね(笑)。
ヒダカ:惜しむらくは、衣装が派手過ぎることですね(笑)。今の10代、20代にアピールするためにも、世治さんのスタイリストを俺がしたいですよ(笑)。
──劇中で唯一本人役で登場している怒髪天の増子さんが熱唱する『五月雨ゲッタウェイ』は、世の大瀧詠一フリークに是非聴いて頂きたい逸品ですが。
ヒダカ:俺自身、iPodに入ってるこの曲が流れると"イイ曲だなぁ..."って普通に聴いちゃいますからね(笑)。増子さんがMCを務める『音流』に俺たちがゲストに出るたびに、増子さんと俺で「いつか演歌をやろう」とずっと言い続けていたんです。この曲は純粋に、プロデューサーの視点として演歌にチャレンジしてみたかったんですよ。増子さんも本気で演歌が好きですから。で、その温度差を埋めるのはやっぱり森 進一さん路線なんじゃないかと。80年代に大瀧詠一さんや坂本龍一さんといったニューミュージックの人たちが演歌歌手に楽曲提供していたあの感じを、増子さんならうまくやれるんじゃないかと思ったんです。そしたらホントに上手くいったという。
曲作りの現場が"工場"から"工房"へ
高橋:私は『五月雨ゲッタウェイ』、大好きです。さっきヒダカさんに言われた石川さゆりさんの歌も、実はカラオケでよく唄うんですよ。
ヒダカ:そうなんだ? 絶対に歳ごまかしてるよね!?
高橋:ごかましてないですよ!(笑)
カトウ:演歌好きは親の影響?
高橋:そうかもしれないです。カラオケはおばあちゃんとよく行ってたんですよ。
ヒダカ:あのさ、お母さんを紹介してもらってイイかな?(笑)
──ヒダカさん、結婚したばかりじゃないですか(笑)。劇中のクライマックスを盛り立てる名曲中の名曲『ビコーズ・ザ・ナイト』は、偽村トオルの弾き語りヴァージョンが収められているのがレアですね。
ヒダカ:俺の弾き語りはドラマの音源をそのまま入れてあります。収録の現場で唄ったものですね。『ビコーズ・ザ・ナイト』は俺の中のレベッカ感..."レベッ感"を余すところなく詰め込んだんです。
──小林克也の"アメリ缶"ばりに(笑)。『ビコーズ・ザ・ナイト』をビート・クルセイダースとして披露することはないんですか。
ヒダカ:高橋がいればやりたいですね。今回、偽村トオル・ヴァージョンをサントラに入れたのは完全に"奥様対応"なんです。DJが言うところの"フロア対応"に対抗して(笑)。奥様がキッチンに立ちながらひとりで酒を呑んだり、旦那が出張で家にいない夜にベッドで泣いたりする時のお供として収録しマシータ(笑)。タロウみたいな存在感の軽いヤツがバンドにいる代わりに、こういう重みのある曲も入れておかなきゃっていう。多分、奥様世代から一番嫌われているのはタロウだと思うので。メタルを通っていない奥様にとって、タロウの存在は苦痛以外の何物でもないですからね(笑)。
カトウ:ビート・クルセイダースの初代ドラマー(ex.グループ魂でもあるイワハラさん)の奥さんがオレのことを大嫌いなのは知ってます(笑)。オレを見ると震えが来るみたいで(笑)。
──今回、高橋さんがセクハラ以外でビート・クルセイダースから得たものはありますか?(笑)
高橋:皆さんのスタイルが凄く理想的だなと思いましたね。私はバンドマンの皆さんとガッチリ仕事をする経験が今まで余りなかったんですけど、今回は"こうやって曲って出来上がっていくんだな"っていう過程を間近で見れたし、いろいろと勉強になりました。メンバーそれぞれに役割分担があって、全員が一丸となってゼロから曲を作り上げていくスタイルが純粋にイイなと思いましたね。
ヒダカ:高橋にとっては曲作りの場が"工場"から"工房"になった感じだよね。ウチは工場みたいなラインがガッチリあるわけじゃないけど、5人の職人が狭い工房の中でああだこうだ言いながらひとつ作品をせっせと生み出していくって言うか。
──今年のビート・クルセイダースは"WISE"工房や"メロン記念日"工房といった他の工房への遠征も盛んですが、"高橋"工房は如何でしたか。
ヒダカ:最初は気を遣いましたよね、俺の半分くらいの年齢だから。話題が合わないとダメだし。お菓子を用意しても、結局食べるのはメンバーのほうだったりして(笑)。あと、女性らしさを感じたのは、歌入れを暗いブースの中でやっていたことですね。
高橋:暗い部屋が好きで、そのほうが唄いやすいんですよ。
ヒダカ:そういうこだわりって、バンドマンには意外とないんですよ。部屋を暗くしなきゃダメとか、このマイクじゃなきゃダメだとか、ロウソクの前で唄わなきゃダメだとか。
──金沢明子じゃないんですから(笑)。ヒダカさんは歌入れにこだわりはないんですか。
ヒダカ:特にないですね。至って普通ですよ。
ケイタイモ:ヒダカが部屋を暗くして唄ってたら、アタシら引くよね(笑)。
ヒダカ:オナニーでも始めたんじゃないか!? と疑われるね(笑)。
ケイタイモ:全然関係ないですけど、昔、タロウがヴォーカル・ブースに入ってる時に「エサを与えないで下さい」って書かれた紙が貼ってありましたね(笑)。
カトウ:表に出て思わず笑いましたけど(笑)。オレも歌入れは普通です。高橋さんのような繊細さが皆無な人間なんです(笑)。
ヒダカ:だから、俺たちは意外と雑にやってきたんだなと。高橋のお陰で今後の反省点が見えましたよ。これからは二度とタロウには唄わせません(笑)。
カトウ:そっちか!(笑)
マインドとして男気が注入された『LET IT GO』
──ビート・クルセイダースはこのサントラの後、間髪入れずにニュー・シングル『LET IT GO』をリリースしますが、注目すべきは怒髪天の皆さんがコーラスで参加していることですね。
ケイタイモ:そう、奇しくも増子さん繋がりなんですよね。
──先月、ビート・クルセイダースと怒髪天が両隣りでレコーディングしているスタジオで僕が怒髪天の友康さんにインタビューをしていたら皆さんがドカドカ乗り込んできて、「コーラス入れてくれませんか?」と増子さんたちに直談判していましたよね(笑)。
ヒダカ:そうそう(笑)。その日は隣りが怒髪天でしたけど、歌入れの前日までは隣りに曽我部恵一バンドが入っていたんですよ。だから、コーラスは曽我部君たち...ソカバンに頼もうとレコーディングの初日からずっと考えていたんです。曽我部君たちに挨拶したり、CDを交換し合ったりなんかしていたんですが、歌入れの3日目にスタジオへ行ってみたら"曽我部恵一バンド様"という張り紙が"怒髪天様"に変わっていたんです(笑)。でも、これはきっと音楽の神様が「増子さんたちに唄わせろ」と言ってるんだなと思って。それで"曽我部君、ゴメン!"という思いで怒髪天にオファーをしたわけです。
──当然コーラスも英語なわけで、アラフォーのナイスミドル4人衆に務まるのかと正直心配でしたけど(笑)。
ヒダカ:"LET"、"IT"、"GO"というたった3ワードとは言え、かなりハードルが高いですからね(笑)。
──でも、うまいことハマったと思いますよ。怒髪天の絶唱コーラスが加わったことで勢いグッと増した気がしますし。
ヒダカ:新曲はすでに4、5曲録っていて、ライヴでもやっているんですけど、その中でどれをシングルとして出すのがイイかを考えた時に、やっぱりBPMが一番速いのがイイだろうと思ったんです。そういう曲も『DAY AFTER DAY』以来出してないですからね。
──逆に、怒髪天の新曲にも皆さんがコーラスで参加されたそうですね。
カトウ:そうなんです。「オレたちも頼みに行こうと思ってたんだよ!」って増子さんに言われましたから(笑)。
──怒髪天の男くさいコーラスのせいもあるのか、『LET IT GO』はOiパンク的な匂いも個人的には感じましたけど。
ヒダカ:ありますね。最近、俺の中で"Oi感"がマイブームとして再燃してきたんですよ。今日も白いヒモを通したマーチンを履いてますから。でも、このきっかけはカジ(ヒデキ)君なんですけどね。カジ君のレコーディングにコーラスで参加したり、ライヴでも何回か唄わせてもらったんですけど、カジ君は常にマーチンを履いているんですよ。短パン王子と呼ばれながらもパンク心を忘れていないんですね。年上のカジ君が履いているのに俺が履かないわけにはいかないということで、こうして久し振りにマーチンを履いているんです。だから、サウンドそのものがOiっていうわけじゃなくて、マインドとして男気を注入して、Oiのイイ部分を採り入れてみたと言うか。
──高橋さんは『LET IT GO』をお聴きになりましたか。
高橋:はい、ライヴで。『ウォーアイニー』が終わってすぐに次のシングルを作るという話を聞いて凄いなと思っていたんですよ。しかも、その話を聞いて2、3日後にAXでのライヴを見に行ったらもう披露されていて、ビックリしました。
ヒダカ:ウチは早漏バンドだから、すぐに出したくなっちゃうんですよ(笑)。
──でも確かに、アイテムのリリースはおびただしい数ですよね。
ヒダカ:ガンガンに出してますね。『LET IT GO』も1年8ヶ月振りのシングルではありますけど、その間にベスト・アルバムも出てるし、ライヴ+ドラマDVDも出てるし、コラボレーションもあったし...これだけワーカホリックなのはウチかソカバンくらいじゃないですかね。
平野さん、映画のスポンサーになって下さい!
──カップリングの『LIFE IN THE NATION』はインディーズ時代のリテイクですが、"国に生きる命"とはまた壮大なテーマですけれども。
ヒダカ:完全に選挙戦タイミングですね。政権交代のこの時期に唄うべきだなと思って(笑)。まぁそれはさておき、テレフォンズや竹内電気みたいなざっくり言うとディスコ・パンク世代のバンドが昔ウチを聴いていたと言ってくれて、そういやウチもそんな感じの曲をやっていたよなと思ったんです。このタイミングで改めてライヴでやりたいと思ったし、そのためにリメイクしてみたんですよ。改めて録ってみて、何の違和感もなかったですね。"これ、昨日もライヴでやってなかったっけ?"みたいな感じですよ。
──溜めの利いたリズムが特徴的なダンサブルなナンバーだし、『ウォーアイニー』とコインの裏表みたいなニュアンスもちょっとありますよね。
ヒダカ:そうですね。ウチのやる4つ打ちは一筋縄じゃいかないところが一貫していると思うし、『ウォーアイニー』と併せてこちらも聴いて頂ければ辻褄が合うんじゃないかと。
──怒濤のリリース攻勢は今後まだ続きそうですか。
ヒダカ:シングルをあと数枚出したいですね。『popdod』の時は『WINTERLONG』だけをシングルとして切って、後は配信シングルにしちゃったので、パッケージとしてちゃんとシングルを出したいんですよ。
──ビート・クルセイダースはそんなシングルのカップリング曲にも手を一切抜かないのが『LIFE IN THE NATION』を聴いてもよく判りますね。
ヒダカ:7インチ世代としてはカップリングにも手を抜けないんですよ。高橋に提供した『ウォーアイニー』のカップリング『珈琲ミルク』も頑張りましたからね。ちょっとシブめなジャズっぽい曲を作っちゃって、みんな全然演奏できなかったんですけど(笑)。
高橋:イイ意味で全然ビークルっぽくなくて、最初に聴いた時は驚きました。
ヒダカ:あの曲は言わなきゃ俺たちだって判らないと思うよ。エゴラッピンみたいな人たちと録りましたって言ったら、信じる人もいるんじゃないかな。
──そう考えると、つくづく多才なバンドですよね。
ヒダカ:音楽以外に何もないですからね。音楽とセックス以外に何の興味もないんですよ(笑)。
ケイタイモ:若いな!(笑)
ヒダカ:だから、ヒダカトオル・マニアな奥様は高橋 瞳のシングルもチェックスしないと損しますよ。むしろカップリングの『珈琲ミルク』のほうが奥様好みな仕上がりになってますから。
──『PRETTY IN PINK FLAMINGO』の話に戻すと、お面バンドがドラマの中で覆面バンドを装うというパラドックスを含めて遊びを真剣にやる今回のプロジェクトは理屈抜きで面白いし、できればこうした企画を定期的にやって頂きたいですね。
ケイタイモ:やりたいですね。演奏ひとつを取っても、普段とは全然違う引き出しが出てきますから。
ヒダカ:ドラマは経験できたから、欲を言えばいつか映画を撮りたいですね。日本版の『ドリームガールズ』みたいな映画をちゃんと作ってみたいです。80年代のレベッカみたいな女子ヴォーカル・バンドのサクセス・ストーリーを『ドリームガールズ』風に再現しながら撮ってみたい。まぁ、それも我々の独力では無理なので、この誌面を通じてスポンサーを募りたいですね。ロフトの会長・平野さん、お金貸して下さい(笑)。
──ウチの席亭は自分のことにしか興味がないですからねぇ...(笑)。映画立ち上げの際には高橋さんを主役に起用しますか?
ヒダカ:映画は芸術ですから、その時は脱がせますけどね(笑)。
高橋:それは困ります(笑)。
カトウ:オレも困りますよ、世界の黒澤ばりにオレの存在そのものを消されちゃいそうなので(笑)。