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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】カサハラテツロー(2009年5月号)-設定が緻密に出来上がっている物語が、好きなんです

設定が緻密に出来上がっている物語が、好きなんです

2009.05.01

「学生運動×ロボットもの」という特異な組み合わせが話題となり、アニメ化(2009年1〜3月放送)もされた漫画『RIDEBACK』。何気ない学生生活と全世界的な紛争、少女の迷いと権力の意志......それらが複雑に絡み合い加速する。そんな、どこか懐かしく、だけど誰も見たことがない世界を描き出したカサハラテツローは、今最も注目すべき漫画家の1人である。(インタビュー・撮影/前川誠)

設定が緻密に出来上がっている物語が、好きなんです

──最初に興味を持った漫画って、何でしたか?

カサハラ:小学校のときに読んだ『ブラックジャック』ですね。とにかく手塚治虫が大好きで。当時は『少年チャンピオン』全盛期だったんですけど、僕はひたすら『ブラックジャック』と『ドカベン』だけを読んでました。

──「SF」に興味を持たれたのは?

カサハラ:星新一ですね。これも小学校のときだったんですけど、友達から借りて読んだらすごく面白かった。でも、その頃はまだ漫画と結びつけては考えてませんでしたね。
 SFと漫画・アニメが僕の中で初めて結びついたのが『風の谷のナウシカ』。それまではアニメも漫画も作品そのものだけを見ていて、例えばどういう人が監督しているとかそういうことは一切考えなかったんです。強いて言えば「手塚治虫っていう人が『ブラックジャック』を書いてるんだなあ」っていうくらい。でも『ナウシカ』のアニメを観たときに「あ、これ『カリオストロの城』の人なんだ」って、急に「作る人」と作品が結びついたんです。しかも『ナウシカ』ってガジェットがすごくレトロな感じで、一見ハードSFっぽくないんだけど、ものすごく設定が緻密に組み立てられてるじゃないですか。そこに、『カリオストロ』と通じるものがあったんですよ。
 『カリオストロ』を初めて観たのは中学生の頃だったんだけど、僕はあそこにSFを感じたんです。ストーリーとしてはルパンが伯爵と戦って……ということになっているけど、舞台そのものは、ローマ人が城を築くところから始まる訳じゃないですか。だから俯瞰していくと、実はメインプロットを取り巻く舞台自体に、壮大な物語が内包されているんですよ。

──ストーリーではなく、設定がSFだと。

カサハラ:そうなんです。現実とは全く違う価値観とか違うモノの見方があって、そこに自分が身を置いたときに何がどう見えるのかっていうこと。そういうことがきちんと、隅から隅まで出来上がっていることに感動したんですよ。小学校の頃は『宇宙戦艦ヤマト』とか『銀河鉄道999』とか好きだったけど、あんまりSFっていう意識は無かったんです。こんなこと言ったら怒られちゃうかもしれないけど、『ヤマト』も『999』も設定だけ考えたら穴だらけじゃないですか。「ヤマトって下から狙えば簡単に撃墜できるじゃん」とかね。そういうものよりは、しっかり現代の現実と結びついて出来上がっているものが好きだったんです。

──何かのインタビューで手塚治虫が『鉄腕アトム』の世界観を説明するときに、「現代と地続きの未来」みたいな言葉を使っていたんですね。完全に作りあげた未知の世界じゃなくて、未来都市なんだけど住人が下駄をはいて歩いている、みたいな。そして、そんな「未来における現代」の要素が『RIDEBACK』の中では「学生運動」という形をもって現れていると思うんですが。

カサハラ:そうですね。何となく懐かしいものと何となく新しいものが作品の中でくっ付くっていう。それについてはさっき言った『ヤマト』も『999』もそうだし、『スターウォーズ』のファルコン号だってそうだと思うんですよね。飛んでいるときは機械の塊みたいだけど、止まると蒸気機関車みたいに「シューッ」って音を立てる。だからライドバック(『RIDEBACK』に出てくるロボット)もね、どうしてもモーターじゃなくてエンジンで動かしたかった(笑)。

──しかも液体燃料で。

カサハラ:あの連載始めた頃はね、まだバイオ燃料とかそんなに有名じゃなかったんですよ。ブラジルでアルコール燃料が流行っているっていう話を聞いて、まあいずれそうなるのかなって思っていたら、まさか食料危機を巻き起こすような大問題になるとはね。今では悪者になっちゃってるし。

──その話にしてもそうですが、近未来を描くときに時代が作品を追い越してしまうという危機感は感じませんか?

カサハラ:『新世紀エヴァンゲリオン』も『AKIRA』も『鉄腕アトム』も『2001年宇宙の旅』も、みんな大丈夫じゃないですか。それに、僕は未来に何が起こるか当ててやるんだ、みたいな山師的な感じでもないんで。
 『RIDEBACK』はね、いつまでも読んだ時代から20年後の世界で良いんですよ。確かに、いろいろ言う人はいると思います。「この設定だったら2009年のモーターショーにライドバックが展示されてなきゃおかしいじゃないか」とかね。でもそれに対して僕は「まったくですね」とお応えするしかない。その辺は、いたって無責任なんですよね(笑)。

連載ができて自分が面白ければそれで良いんです

──そもそも『RIDEBACK』を描こうと思ったきっかけは何だったんですか?

カサハラ:ホンダがASIMOの前に開発した、P2(プロトタイプ2)っていう2足歩行のロボットがあったんですけど、それを観たときに「これだ!」って思ったんです。「これの上に乗りたい!」って。ただ、そのままだとただの邪魔な乗り物になっちゃうから車輪を付けて……とかね。そして腕は、ちょうどその頃アニメをやっていたエヴァンゲリオンの腕をくっ付けて(笑)。そんなロボットを作って、独りで「かっこいい〜」って言ってたんですよ。特に漫画にするアテもなく、時間を見つけては「ここに燃料を入れて……」なんて設定を考えて。

──とにかくロボありきだったんですね。その後作品化することが決まってから、主人公の尾形琳が産まれたんですか?

カサハラ:そうですね。主人公を男にするか女にするか迷ってたくらいですから。でも担当編集はずっと女の子が良いって言っていたんです。それで、ルパン三世の『さらば愛しきルパンよ』に出てくるヒロイン・小山田真希がラムダっていうロボットに乗るシーンがあるんですけど、さんざん迷ったあげくそれを思い出して「じゃあ主人公は小山田真希で良いや!」って(笑)。そして小山田真希にしたからこそ、ロボットに「おいで」って言うシーンが入った(笑)。

──ただ、そこで琳を女子大生にしたところが、素晴らしいと思うんです。これだけ2次元の世界に女子高生以下が氾濫している今の状況を考えると、きっと敢えて女子大生という選択肢を選んだに違いないなんて邪推をしてしまうんですが。

カサハラ:あはは。だって(漫画の世界には)かわいい女子高生がいっぱいいるじゃないですか。それと同じ土俵で相撲を取れるほど強くないですからね、僕は(笑)。それにきっと、女子大生が好きな人もいるハズなんです。少なくとも僕は、どうせ手を出すなら女子高生より女子大生の方が良い(笑)。

──そして、そこに学生運動を持ち込んだのは、主人公を警察と戦わせたかったからだという話を伺いましたが。

カサハラ:本当は主人公が白バイ隊員っていう案もあったんですよ。でも『機動警察パトレイバー』って(『RIDEBACK』が連載していた『IKKI』と同じ)小学館ですし、ゆうきまさみ先生と同じ土俵には絶対に上がれませんから(笑)。

──また出ましたね。土俵問題(笑)。

カサハラ:みんなと違う所に山を作って、その小さい山の大将で良いんだっていう。ずっと逃げ腰ですからね、僕は(笑)。

──でもその山を作れるのはスゴイことだと思いますよ。

カサハラ:必死に隙間を探してね。それで山を作ってみたら、隣にそっくりだけどもっと立派な山があったりとか……。

──それが功を奏して、本当に特異な山になったのが『RIDEBACK』だと思うんですが。

カサハラ:だからこそ一般の人がとっつきにくいんです。連載当初からね、いろんな業界の人に褒めてもらえるんですけど、いわゆる普通の人はダメですね。例えばウチの子供の友達が「お前の父ちゃん漫画家なんだって! スゲー!」って言って我が家に来るんですよ。それで「どんなの描いてんの? 見せて見せて〜!!」って言われて単行本を渡すと、「う〜ん、難しいかも。お、面白いとは思うんだけど……」って。

──子供に気を遣われてるじゃないですか!

カサハラ:でも、普通はそういう反応だろうなと思いますね。僕の漫画って、いろんなことをやっていろんなことを見てきた人が、その経験を保管しながら読むとすごい面白いんだなってつくづく思います。でもその保管庫が空いている人が読むと、台詞は説明が足りないし、キャラクターはそんなにかわいくないし、そもそも主人公の目的が解らないっていう。
 こんなこと言ったら絞め殺されると思うんですけど、『ナウシカ』の漫画もわりとそういうきらいがあるじゃないですか。

──ナウシカも琳も戦ってはいるんだけど、そこに解り易い「善VS悪」の構図が無いんですよね。しかも『RIDEBACK』では、敵である筈のGGFによる管理社会を肯定するような台詞が出てきたりもして。

カサハラ:だからね、いろんな人を敵にしてしまうんですよ。反体制の漫画だと思っていた人からは「あれ? 権力とか肯定しちゃうの?」って言われるし、学生運動なんて嫌いだ! っていう人はハナから読んでくれないし。

──でも、別にそこを描きたかった訳ではない。

カサハラ:そう、僕は連載ができて自分が面白ければそれで良いんです。もちろん皆に良い気持ちになってもらいたいと思ってエンターテインメントをやっている人もいると思うんですけど、僕みたいにそうじゃない人もいるんです。自分が気持ち良く思う世界に「付いてこい!」っていう。

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