Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューSTANCE PUNKS('08年12月号)

No Futureな未来に突き進む自由、胸の一番奥にある大切なこと、靴の裏にへばりついた夢──
バンド結成10周年を締め括るに相応しい記念碑的大作『PEACE & DESTROY』、堂々の完成!

2008.12.01

心の平穏と破壊的行動。一見矛盾する所作に思うかもしれないが、七転八倒しながら不器用に生きる証を自身の音楽に刻み込んできたスタンスパンクスにとって、それは結成以来今日に至るこの10年の信条だったのではないか。
『PEACE & DESTROY』と題された、彼らにとって通算5作目となるフル・アルバムには、パンクを基点としたロックの理想的な円熟味が詰まっている。重厚なメロディーと熱量の高い演奏で一見口当たりは良いが、唄われている内容の重さは過去随一だ。生きることにどこまでも真剣で貪欲だからこそ、ヘヴィにならざるを得ない。生きているからこそ悩むし、悩むことは生きていることそのものだ。それでも彼らの表情は極めて明るい。ドス黒い現実と格闘しながら"No Future"な未来にハローと挨拶し、"今君は素敵な世界に生きてるか"と僕たちに問い掛ける。いつも無条件に傷だらけだが、笑みだけは決して絶やさない。靴の裏にへばりついた夢を忘れず、悲劇と裏返しの喜劇な人生を彼らは果敢に楽しもうとする。そんな彼らだからこそ、現実に絶望しない希望の歌が唄えるのだ。
パンク・ロックとは一瞬の刹那である。永続的な刹那は有り得ない。だが、胸の一番奥にあるパンク・ロックに初めて魅せられた時のピュアな感情さえあればどこまでも遠くへ行ける。『PEACE & DESTROY』はその絶え間なき実践が至上の楽曲として昇華した渾身の一作なのである。(interview:椎名宗之)

"No Future"だよバカヤロー!

──今年はとにかく、最初から最後まで10周年モード一色でしたね。

TSURU(vo):そうですね。ウチのマネージャーがそういうお祝い事が大好きなもんで(笑)。個人的には多少感慨深いものもあるんですけど、それを大々的に打ち出すのもダセぇなと思って。まぁ、大々的にやっちゃいましたけどね(笑)。

川崎テツシ(b):ここまで来たら最後まで大々的にやろうかな、っていう(笑)。

──でも、ファンもスタッフも、スタンスパンクスの10周年を盛り立てたい一心だったんでしょうし。

TSURU:うん。祝ってもらえることは素直に嬉しいんですけどね。

──10周年のシメにフル・アルバムをリリースする計画は当初からあったんですか。

テツシ:ホントはもっと早く出したかったんですよ。ミニ・アルバム、シングルと続いたので、今年はフル・アルバムを作りたいと思ってたし。

TSURU:9月くらいには出そうと思ってたんですけど、曲の準備が遅れたりして、結局12月になっちゃったんです。まぁ、それが結果的にはいいシメになった気がしますね。

テツシ:そうだね。3月のライヴを収めたDVDも一緒に出るし。

TSURU:アルバムが出てないのに、きっちり全国ツアーも組んじゃって。

テツシ:しかもそのツアーが『I LOVE STANCE PUNKS TOUR』っていうとんでもないタイトルで(笑)。バカっぽくていいですよね(笑)。

──今年はホント、攻めの一手でしたよね。ミニ・アルバム『BOMP! BOMP! BOMP!』のリリース、その直後に渋谷のクアトロで行なわれた10周年記念ワンマン、『アイワナビー』という至高のシングルとそのレコ発ツアー、毎年恒例の『ロックの日』、ライジングサンなどの真夏の野外フェス、『I LOVE STANCE PUNKS TOUR』、そして5枚目となるフル・アルバム『PEACE & DESTROY』の発表と、とにかく息をつく間もない精力的な活動で。

TSURU:凄く充実してたし、いい動きができたと自分たちでも思いますよ。

──これだけの過密スケジュールの中で、よくアルバムを作り上げる時間があったなと思いますが。

TSURU:確かに。まぁ、曲自体は前から少しずつ作ってたんですよ。

テツシ:デモも録ってたしね。『プラスチック新世界』や『夜明けはスーサイド』は2年前に作った曲だし、去年のライヴで一度試したこともあるんですよ。

──『黒いブーツ』と『アイワナビー』は、改めてフル・アルバムの中に収めておきたい気持ちが強かった?

TSURU:そうですね。今の自分たちにとって重要な曲だし、特に『アイワナビー』は過去と未来の架け橋になればいいなと思って作った曲だったので。

──アルバムの1曲目に据えられた『Hello, No Future』は、その『アイワナビー』の世界観を踏襲してさらに押し広げた曲ですよね。

TSURU:うん。『アイワナビー』の兄弟みたいな曲ですね。

──行く末が何も判らないからこそ、"No Future"だからこそ自由な気がするっていう。

TSURU:俺たちは初期衝動を取り戻す必要のないバンドなんですよ。やってることは一貫してるから。だから今さら初期衝動が欲しいって思ったわけでもないんだけど、自分の中で"パンク・ロックって何だろう?""何故自分はこんなにパンク・ロックが好きなんだろう?"って考えた時に、セックス・ピストルズの『No Future』を久々に聴いてみたんです。で、やっぱりこれだな! と思って。そうだよ! "No Future"だよバカヤロー! って(笑)。


背水の陣でバンドに臨まないとバチが当たる

──パンクに刻まれた人間にとって重い言葉ですよね、"No Future"は。

TSURU:そう思います。ただ、8月にピストルズが新木場コーストでやったライヴを見に行ったんですけど、"No Future"という言葉の捉え方が違うと思った。彼らがまだガキの頃に唄った"No Future"とはまた違う、50歳を超えたジョン・ライドンの"No Future"があった。大人になると違う受け止め方ができるって言うか。だから、今は俺自身も10代の頃とは違った"No Future"の捉え方をしてるんですよ。ただ闇雲に何かをぶっ壊してみたり、気に喰わねぇヤツはやっちまえ! みたいな感じじゃない、もっと深い意味での"No Future"なんです。先の見えた人生の何が面白いんだよ!? っていう。"No Future"じゃないってことは、決められたレールの上を歩いていくだけだし、そんなレールなんてないほうがいい。30歳になった俺がピストルズの『No Future』を聴いて思ったのはそういうことなんです。

──同感ですね。『PEACE & DESTROY』というアルバム・タイトルは、この『Hello, No Future』の世界観を膨らませたものですよね。心の平穏と破壊を繰り返しながら未来を構築していこう、と言うか。

TSURU:"PEACE"と"DESTROY"のどちらかに寄ってるバンドが多いと思うんですよね。俺たちの世代は"PEACE"のほうに寄ってたし、俺たちの上の世代は"DESTROY"のほうに寄ってた。俺たちの周りには"DESTROY"するバンドが余りいなくて、昔のパンクのようにリスペクトされることが少なかったと思うんです。"青春パンク"とか"日本語パンク"とかいうダサいネーミングを世間的に付けられちゃって。でも、俺たちのパンクとの出会いはピストルズやクラッシュだったから、対バンともなると年上だろうと年下だろうと喰って掛かる。それは"DESTROY"寄りだと思うんですよ。でも"PEACE"な部分もちゃんとあるし、「スタンスパンクスっていうバンドはこうだよ」と打ち出す意味もあるんですよ、『PEACE & DESTROY』には。"青春パンク"と称されるバンドはみんないなくなっちゃったから、10年経った今なら打ち出しやすいと思ったんですよね。

──見事なまでに淘汰されましたよね。でも、スタンスパンクスだけはしっかりと生き残った。

テツシ:土俵際ギリギリですけどね(笑)。でも、そこがまたいいんじゃないですかね。

──常に土俵際ギリギリで"No Future"だという(笑)。

テツシ:だんだんと"No Future"もリアルになってきたけど、それも面白いと思うし。

TSURU:"No Future"に"Hello"って声を掛けてるうちはまだいいけど、"No Future"と"Good-bye"したらバンドが止まることになるからね。実際、そういうバンドも多いし。

テツシ:そう、だから"Hello"って言えてるだけまだいいんじゃないかな。

──30代を迎えると四六時中"No Future"と懇ろにもなるし、どんどん退路が断たれますからね。そのぶん、音楽をやることに腹も据わると思いますけど。

TSURU:ホントにそうですよ。30代と言っても、俺はついこの間まで20代だったからまだまだ青臭いガキですけど、一般的に社会復帰するにはギリギリの年齢じゃないですか。

──バイトの募集年齢も制限されてくる頃ですしね。

TSURU:うん。でも、俺自身はここ何年か働いたこともなくて、「クソッタレ!」と唄い続けて何とか生活を成り立たせて...。

テツシ:ああ、ヤバイ。そういうことを考えただけで手に汗が滲んでくる(笑)。

TSURU:もうまともな職にはありつけないかもしれない。それでもバンドをやり続ける。俺はそこにパンクを感じますけどね。

テツシ:俺はスタンスパンクスが上り調子だった20代の頃でも、常に理性は働いてたんですよ。仮にバンドをやめたらどうするか? って。バンドはもちろん一生懸命やってたけど、それ以外に自分のできることを考えることもあった。でも、今はそれじゃダメだなと思いますね。端から見ても"こいつはバンドしかできないんだな"って思われないとダメだし、もっともっと背水の陣でバンドに臨まないとバチが当たる。せっかく好きな音楽をやってるんだから、それくらいの覚悟がないとダメなんですよ。


今君は素敵な世界に生きてるか

──その覚悟の表れなのか、『PEACE & DESTROY』は腹の据わった作品だと思いますよ。"PEACE"と"DESTROY"という相反するものが混在していると言うか、『アイワナビー』や『1000の星クズ』のようなメッセージ性の高い楽曲がある一方で、『ワーキングホリデーの悲劇』や『夜明けはスーサイド』のようにライヴ映えするノリの良い楽曲もあるし。

TSURU:そうですね。放課後の澄みきった青い空を唄ったかと思えば(『放課後の青空ボーイ』)、"SEX DRUGS ROCK'N'ROLL"(『ワーキングホリデーの悲劇』)とか"今夜死んでくれ"(『Please Die Tonight』)とか叫んだりしてるし(笑)。

テツシ:それって、中高生の頃の気持ちと一緒だと思うんですよ。余り深く考えずに"これが言いたいんだ!"って気持ちを爆発させるばかりなんだけど、『放課後の青空ボーイ』や『星屑のメロディー』の歌詞にあるようなロマンティックな部分もちゃんとあって。

TSURU:そんな中高生の頃のように、思ったことをそのまま素直に出した曲が今回は多いかもしれないですね。"こんな曲を書いたらこんなふうに思われるんじゃないか?"とか、そういうのはもうなくなっちゃいましたから。俺たちは俺たちでしかないっていう気持ちにブレはないし、その意味では腹が据わったように聴こえるのかもしれない。若い頃は外野の声が気になるものだけど、何をやるにもスピードが早いから、そんな声もはね除けちゃうんですよね。

──『放課後の青空ボーイ』はホントに名曲ですね。"今君は素敵な世界に生きてるか"という一言はグサッと胸に突き刺さりましたよ。

TSURU:そうやってグサッと突き刺さるような人が増えると、俺たちとしては最高だなと思うんですよ。こういう曲に「グサッときた」って素直に言えない人は腐ってると思う。そういう人は決まって「何だよ、スタンスパンクスって」って言うんですよ。お前だって50〜60年代のアメリカの青春映画が好きだろ? って言いたくなりますね(笑)。ジェームス・ディーン好きだろ? マーロン・ブランド好きだろ? そういう青春映画が好きで、何で俺たちの音楽はダメなんだよ!? って思う。俺にとって、すべての始まりはジェームス・ディーンだったんですよ。中学の1年生の時に『エデンの東』を見て感動して。

──『理由なき反抗』とか?

TSURU:それよりも『エデンの東』に感動しましたね。チキンゲームに興じる不良を描いた『理由なき反抗』のほうが感情移入はしやすいのかもしれないけど、『エデンの東』の主人公のほうが共感できた。父親の愛に飢えて、ナイーヴで押し潰されそうなジェームス・ディーンが当時の俺には魅力的だったんですよ。まぁ、それに感化されてリーゼントにしてみることはなかったけど(笑)。

──それはパンクと出会ったのと同時期ですか。

TSURU:いや、ジェームス・ディーンのほうが先ですね。パンクと出会ったのは遅くて、18歳の時なんです。でも、ジェームス・ディーンに俺はパンク的なものを感じてましたね。

──確かに、太く短く生きて燃え尽きるだなんて、ジェームス・ディーンはパンクそのものですよね。

TSURU:うん。だからシド・ヴィシャスよりもジェームス・ディーンに共感できましたね、俺は。

──『放課後の青空ボーイ』の"大切なのはひとつだけ/胸の一番奥にある始めの事だけ"という歌詞にも胸を衝かれましたが。

TSURU:大事なのは、何かを始めた頃のビッグバンだけなんです。長いことバンドを続けていれば自ずと考え方も変わっていくし、初期衝動を取り戻すことは絶対に無理なんですよ。初期衝動は初期でしかないし、一度しかない。初期衝動っぽいことをやるのはできるだろうし、また別のバンドを始めるなら話は別だけど。とにかくバンドを始めた当時の思いや目に見えた景色は、10年もやっていれば確実に変わるんです。でも、"胸の一番奥にある始めの事だけ"を忘れなければどんなに変化しようと大丈夫だと思うんですよ。10代の頃に比べて心も汚れてしまっただろうけど、汚れてしまったからこそ綺麗なものを10代の頃以上に綺麗と感じることができる。

──汚れてしまったことで清濁併せ呑むようになるからこそ表現に深みも出ると思うし、ピュアなものに対する嗅覚も高まるような気がします。

TSURU:そうですね。いつまでバンドを続けられるか判らないけど、やっている限りはそういう青臭いことを恥ずかしげもなく伝えていけるバンドになりたいですね。

ガキに届かなきゃクソ程の価値もない

──『Please Die Tonight』の中に"偉そうに言ったところで ガキに届かなきゃクソ程の価値もないんだ"という歌詞がありますけど、いつまでもガキの味方でありたいというスタンスパンクスの姿勢がここにもよく表れていますね。

TSURU:それこそがスタンスパンクスにとっては一番大きなテーマなんですよ。もちろん世代に関係なく自分たちの音楽を聴いて欲しいし、年上の人たちに褒められれば素直に嬉しいんだけど、やっぱりそれだけじゃダメなんです。ガキが聴いて、その心を激しく揺さぶるようなものがパンク・ロックだと俺は思うので。したり顔でパンクを語る大人たちのことはもう知ったこっちゃないって言うか(笑)。

テツシ:でも、そんな大人たちもザ・フーを見に行けばガキに戻れると思うんですよ。この間、俺も武道館でフーを見たんですけど、あの時に感じた昂揚感は中学生の時と全く一緒だなと思ったんですよね。40年以上活動してるバンドで、生で見るのも初めてなのに、こっちがどれだけ歳を喰ってもティーンエイジャーの気持ちをちゃんと思い出させてくれる。俺たちはその足元に全然及ばないけど、ロックの素晴らしさをまだ知らない子たちに強い衝撃を与えられたらいいなと思うんです。

TSURU:フーは俺も見に行ったんですけど、スーツを着たおじさんたちがノッてるのを見て、日本もまだまだ捨てたもんじゃねぇなと思いましたね(笑)。あれは嬉しかったな、凄く。

──スタンスパンクスの歌詞に出てくる"ガキ"って、フーの『The Kids Are Alright』みたいなところがありますよね。"Kids"って日本のパンク・シーンだと割と軽んじられる言葉だけど、年齢を重ねたいい大人でも"Kids"の部分を心に宿していると思うんですよ。

TSURU:うん。そうじゃなければ、あれだけたくさんのサラリーマンが仕事帰りにフーを見に行かないと思いますよ。俺たちだって、世間一般で言えばもうガキっていう年齢じゃない。でも、この間ロフトでライダーズの20周年ライヴを見た時、ライダーズやスタークラブが出てきた瞬間にワーッと鳥肌が立って、一気にガキに戻りましたからね。

──それと同じような昂揚感を、皆さんもライヴを通じてオーディエンスに与えているじゃないですか。

テツシ:うーん、どうかな。まだまだだと思いますよ。

TSURU:自分たちのことはよく判らないもんですよ。ああいうふうに鳥肌が立った感覚を自分たちも与えられているのかどうかは。

テツシ:昂揚感を感じてくれてる人たちはちゃんといると思うし、そうじゃなければ俺たちもやってる意味がないし、単なる自己満足だけで終わらせたくないですからね。ただ、余り押しつけがましくはしたくないんですよ。受け止め方は人それぞれでいいと思うし。

TSURU:ひとつ思うのは、メンバーがステージに現れた瞬間に会場の雰囲気がガラッと変わるようなバンドになりたいですね。俺自身、そういうバンドに憧れてきたし。出会い頭一発でドン!とキメるのが俺の中ではパンク・ロックなんですよ。

テツシ:最初の一音で、いいライヴかそうじゃないかが決まると思うんですよね。

TSURU:そう、そこで決まるよね。1曲目ですべてが決まる気がする。

──テツシさんの手掛けた楽曲の中で、『プラスチック新世界』は一風変わったものですよね。無条件にノレる楽曲がテツシさんの作風として多いと思うんですが、この曲には激しさの中にも情緒が溢れている。

テツシ:個人的にはいろんなタイプの曲を作りたいと思ってますけど、『プラスチック新世界』みたいな曲のほうが書くのは得意かもしれないですね。『プラスチック新世界』を書いた時は、歌詞とメロディが素直に出てきた感じだったんです。この曲に出てくる報われない少年少女って昔からいっぱいいると思うし、俺自身もそうだった。衝動に駆られて犯罪に走ってしまう人たちもいると思うし、その気持ちも判らなくはない。人のものを盗んでみたり、誰かに危害を加えてみたり。でも、それはやっぱりやっちゃいけない。俺はそういう衝動を音楽に昇華できたからラッキーだったんですよ。だから、俺にとっての音楽みたいなものがみんなにも見つかればいいなと思うんですよね。


生きている存在証明をライヴで感じる

──『24色の夜明け』の中に"欲しかったもの盗んでみても 本当に欲しいのはそんなもんなんかじゃないって事 よく知ってるだろ"という歌詞がありますけど、まさにその通りですよね。七転八倒して手に入れたものだからこそ価値があると思うし。

TSURU:そう、盗める程度のものっていうのは、自分にとってどうしても必要なものじゃないんですよ。

テツシ:情報でもモノでも、ラクに手に入れられるものはすぐ飽きちゃいますからね。

──皆さんが追い求めているのは10代の頃に憧れたパンク・ロックであり、その理想的な形を未だに模索しているわけですよね。

TSURU:うん。答えは絶対に見つからないでしょうけどね。

テツシ:答えは要らないんだと思います。あと、音楽をやり続ける理由も。なんでバンドをやり続けているかなんて、自分たちでもよく判らないですから。

──やりたいからやっているとしか答えようがないですもんね。

TSURU:ただ、自分が生きている存在証明みたいなものを、最近はライヴをやっていて強く感じるんですよ。大袈裟に言えば、"ああ、こうやって生きていていいんだ"と思う。誰かが俺たちのライヴを見て「今日のライヴ、凄く良かったよ」と言ってくれる。それを聞くと、自分が存在していてもいいんだなと素直に思えるんですよね。

──スタンスパンクスのライヴを体感しているオーディエンスも、生きている証みたいなものを感じているんじゃないですか?

テツシ:でも俺は、ライヴに来てくれるお客さんにはその場だけが自分の居場所だとは思って欲しくないですね。自分が普段生きている世界は終わりなき日常なわけだから、そこでも踏ん張ってもらわないと。もちろん逃げ道として俺たちの音楽を選んでくれるのは全然構わないんだけど、そこから自分には何ができるのかを考えて欲しい。こんなことを敢えて言わなくても、ちゃんと感じ取ってくれてるとは思いますけど。

TSURU:まぁ、俺たちのライヴはみんなにとって八つ当たりする場所だと思うし、俺たちに向けて怒りや悲しみを全部ぶつけてくればいいんですよ。その代わり、ライヴが終わってそのハコのドアを開けたら自分で行動しろよ、と思う。俺たちが受け止められるのは狭い四方のハコの中だけだから。

テツシ:そういう狭い空間の中で受けた影響ってでかいですよね。自分の部屋で音楽と向き合うのもそうだし。

──『夜明けはスーサイド』は"俺の夜明けはすぐさ"という前向きな歌詞で終わるのに、タイトルは何だか不穏ですよね(笑)。

テツシ:不穏と言えば不穏ですね(笑)。ダイナマイツの『トンネル天国』を聴いてたら、ふとこの曲が頭に浮かんだんです。"夜明けはすぐさ"っていう言葉が聞こえて、"すぐさ"が"スーサイド"になったっていう、おやじギャグのレベルですね(笑)。そこから発展して、ダイナマイツとか村八分とか、見てくれからして悪そうでドキドキするような感じの曲をやりたかったんですよ。

──『真夜中に咲く花』のように、疾走感と切なさが同居した感じの曲もスタンスパンクスの大きな持ち味のひとつですよね。胸が締め付けられるようにグッとくる感じと言うか。

TSURU:グッとくるのはいいですよね。グッとくる、感動することの大事さをここ1、2年で思い出したような気がするんです。人間には忘却力があるけど、忘れることとなくなることは違うんですよね。一度経験したことを忘れることはあっても、完全になくすことはないと思うんですよ。単に記憶の片隅に追いやられるだけで。自分としては、そのグッとくる感覚が隅に追いやられていた気がするんです。親子愛や友情、ロックを聴いた時の感動。そういうものに胸が締め付けられる感覚が薄れるとやっぱりダメですよね。歌詞の判らない洋楽を聴いても、何だか胸がギュッと締め付けられる感覚ってあったじゃないですか。クラッシュのファースト、1曲目の『Janie Jones』を聴いてギュッとくるあの感じ。そういう感動と今回俺たちが打ち出している感動とはちょっと質が違うかもしれないけど、いずれにせよ感動することが大事なんですよ。感動することは人生そのものなんです。


価値のあるものはクズの中から探し出せ

──パンク・ロックを出発点として10年間疾走し続けてきたバンドが、『星屑のメロディー』のようにロマンティックなミディアム・ナンバーを完成させるに至ったのも確かな成長の跡が窺えますね。TSURUさんの唄い方も他の曲とは違って聴こえるし。

TSURU:変わった唄い方をしたと言うよりも、敢えて力を込めて唄わないようにしたんですよ。それが曲を作ったテツシからのリクエストでもあったし。そういうのは普段余り言われないんですけど。

テツシ:『星屑のメロディー』みたいな曲も、俺の中ではパンク・ロックのひとつなんですよね。曲調はパンク・ロックじゃないかもしれないけど、インスピレーションを得たのはヴェルヴェット・アンダーグラウンドだったので。ニューヨーク・パンク独特の倦怠感が凄く好きなんです。熱いことは言ってるんだけど、ちょっと斜に構えてると言うか。ラモーンズはそれを打ち破ってストレートな曲をやってますけどね。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは中学の時によく寝る前に聴いてたし、ニコの声も凄く好きなんです。あの空気感が好きなのかもしれない。

TSURU:パンク・ロックだからって速けりゃいいってもんじゃないしね。スタスタスタ...ってやればパンク・ロックなのかと言えばそうじゃないし。

テツシ:速さを求められるのも判るんですけどね。でもそれがファスト・コアとかグラインド・コアになって、挙げ句の果てにはテクノまで行っちゃうじゃないですか。もう人力じゃ演奏は無理っていう(笑)。

──TSURUさんはどちらかと言えばピストルズやクラッシュといったUKパンク寄りだし、テツシさんは今の話を伺うとニューヨーク・パンク寄りだし、ソングライターであるふたりの嗜好がバランス良く取れている気がしますね。

テツシ:そうかもしれない。UKパンクなら俺はボーイズとかバズコックスとかが好きなんですけど。

TSURU:テツシはキラキラしてるバンドが好きだよね。俺はそれよりもアジテーションしまくる不良のパンクが好きだったし、テツシとはいいバランスだと思いますね。

──表層的なパンク・ロックは、自分たちがやるぶんには余り魅力を感じませんか。

テツシ:どうだろう。それが面白く感じればやると思いますよ。

TSURU:バンドを始めた頃は"ああいうバンドみたいになりたい""あのギタリストみたいに弾きまくりたい"って思ってたけど、今はもう"俺たちは俺たちでしかない"って言うか。

テツシ:自分たち以外の何者にもなりたくないし、実際なれないと思うんですよ。

──仮にフーの『The Kids Are Alright』をスタンスパンクスがカヴァーしても、フーのようにはならないでしょうしね。

テツシ:そうなんですよ。それが俺たちの持ち味だと思うんですよね。

TSURU:カヴァーはいろんなオムニバスでやってきましたね。エレカシやブルーハーツ、モッズやスタークラブとか。

──『Hello, No Future』の"すべてのクズども"、『アイワナビー』の"クズ星"、『星屑のメロディー』と『1000の星クズ』の"星屑"と"星クズ"という具合に、今回のアルバムには"クズ"という言葉が頻出していますね。

TSURU:ああ、ホントだ。考えてみれば"クズ"だらけですね(笑)。

テツシ:クズはクズでも星クズだし、キラキラしてるから救いがあるんじゃないかな(笑)。でも、ホントに価値のあるものはクズの中から探し出すべきだと思う。他の人から見たらクズにしか見えないようなものでも、自分にとっては凄く大切なものってありますよね。小学生の頃、砂場で拾った大事な貝殻を親に勝手に捨てられたりとかしたじゃないですか(笑)。そういうのって大事ですよね。自分にとって大切なものって、お金じゃなくてちゃんとした価値のあるものだと思うから。

──個人的には『1000の星クズ』の歌詞の秀逸さが群を抜いていると思うんですよ。特に、"忘れたフリして今も覚えてんだろ 夢は靴の裏にへばりついてるさ"という一節にはハッとさせられました。

TSURU:そういう感じしないですか? 夢を抱いた頃はキラキラしてたのに、だんだんと踏み潰されて自分でも不安になって、限界を感じてしまう。でも、まだ靴の裏にへばりついてる感じって言うか。

テツシ:その靴の裏にへばりついてた夢に気づかされることもあるんですよね。昔よく聴いてたCDを棚の奥から引っ張り出して聴いてみたら、当時抱いてた夢が鮮やかに蘇ることもあるじゃないですか。それは音楽の持つ力ですよね。

──それはありますね。10代の時に聴いた『Sandinista!』も、今聴くと感じ方が変わっているでしょうし。

テツシ:変わりますよね。それは映画でも本でもテレビ番組でもそうだろうし。

"人生は喜劇だ!"と思えるようになった

──アルバムの最後を飾る『24色の夜明け』ですが、この"24色"というのは?

TSURU:生も死も人間の数だけあるっていう、その象徴と言うか。たまたま手許に24色のクレヨンがあったんですよ。ガキの頃って、訳もなく死について考えてみたくなるじゃないですか。今のほうが歳を取ったぶん死はリアルだっていうのに。ただ、ガキの頃は今以上に死が何なのか判らないから考えすぎちゃって、ドキドキして眠れないことが俺はよくあったんですよ。で、最近久し振りにそれと同じようなことがあって、ゾーッとしたんです。でも、金持ちでも貧乏でも、いつかは必ず死ぬわけで。

──人間、死ぬことだけは平等ですからね。

TSURU:だから、クジみたいなもんだなと思ったんですよ。普段から身体を鍛えたりタバコを控えたりして健康に気を遣っても事故に遭って早死にすることもあるだろうし、場合によっては自分から死を選ぶ人もいるかもしれない。そういうのをいろいろと考えていくと、死の恐怖から逃れることは人間にとって最大のテーマなんだなと思って。宗教に需要があるのもそこですよね。でも俺は宗教を信じることができないし、やっぱり死ぬのは怖い。じゃあどうするか。俺が行き着いたのは、もう笑うしかないと。死を喜劇と捉えるしかない。ドリフのコントに出てくる、額に三角の白い布を付けて出てくるオバケみたいな格好で「おつかれ! またどっかで会おうな!」って言う死に際がいいなと(笑)。そういうふうに考えたら、徐々に死の恐怖が薄らいでいったんです。死ぬのはみんな一緒じゃん、大したことねぇや、って。

──なるほど。だから最後に「バイバーイ!」っていう明るいさよならの挨拶が入っているんですね。

TSURU:そうです。死ぬ時はあんなふうに明るい感じでよろしく! っていう(笑)。

──己の身に降り掛かるピンチやスランプも、"人生は喜劇だ!"と思えば笑いながら乗り越えられるでしょうし。

TSURU:うん、まさしく。去年、一昨年と個人的に調子が悪かったんですよ。バンドに対してモチベーションが上がりにくかったり、いろんな不安に襲われるようにもなって。でも、今はそれを乗り越えて"人生は喜劇だ!"と思えるようになった。『24色の夜明け』はそういう結論に基づいた曲なんです。

テツシ:どういう死に方をするのかを考えると、必然的にどう生きるかを考えるんですよ。悲劇と喜劇は表裏一体だから。

──"辛い時ほど笑おう"って、よく言いますからね。

TSURU:何かのテレビで見たんですけど、人間が手足を動かすのは脳からの指令に基づくものじゃないですか。でも、無理やり笑って口角を上げるのはそうじゃなくて、無理に笑うことで脳が"笑ってるな"と判断して、結果的に明るい気持ちになったりするそうなんです。だから、辛い時ほど笑うのは効果があると思いますよ。

──そう考えると、今回の『PEACE & DESTROY』は口当たりの良いサウンドとは裏腹にかなりヘヴィな内容だと言えますね。

TSURU:意外とヘヴィだと思いますよ。ヒューマニズムや人生の苦しさや美しさが今までで一番反映されてると思うし。まぁ、そういうのはいつも根本にあるんですけどね。ライヴでよく使われる「楽しくやろうぜ!」っていう言葉は、俺たちの場合、単純明快なハッピーさではないですからね。笑顔満載、爽やか、最高っていうのは求めてない。それよりも、「おまえはホントにハッピーなのか?」って常に問い掛けてる感じなんです。だから、額面通りのハッピーさを持ち合わせていない人のほうが俺たちの音楽は心に響くと思いますよ。もちろん、単純明快なハッピーさが悪いって意味じゃなくてね。俺たちも単純明快に生きられたらどれだけラクだろうと思うし。でも、そういう人間じゃないから、苦しみながらも一歩一歩進んでいくしかない。苦しんでないフリはしますけどね(笑)。

──でも、そうやってもがき苦しみながらも浮き足立つことなく活動を続けてきたからこその10周年なんだと思いますよ。

TSURU:一生懸命やらなきゃ続けられないですからね。小さな足場かもしれないけど、10年やってきてそれだけは残せた自負があるし、10年経って今もこうしてバンドを続けていられるのはやっぱりラッキーなことですよね。


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PEACE & DESTROY

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01. Hello, No Future
02. アイワナビー
03. 放課後の青空ボーイ
04. 黒いブーツ
05. ワーキングホリデーの悲劇
06. Please Die Tonight
07. 星屑のメロディー
08. 真夜中に咲く花
09. 夜明けはスーサイド
10. プラスチック新世界
11. 1000の星クズ
12. 24色の夜明け


10th Anniversary ワンマンライブ 2008.03.09

EPIC/Kowalski ESBL-5002>
4,515yen (tax in)
2008.12.10 IN STORES

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*『PEACE & DESTROY』と『10th Anniversary ワンマンライブ 2008.03.09』のW購入者特典として「100着限定・メンバーデザイン・オリジナルTシャツ」応募券封入。

LIVE INFOライブ情報

PEACE & DESTROY TOUR
1月17日(土)千葉LOOK
1月18日(日)横浜F.A.D
1月21日(水)宇都宮HEAVEN'S ROCK
1月22日(木)高崎SUNBURST
1月23日(金)熊谷HEAVEN'S ROCK
1月25日(日)札幌COLONY
1月29日(木)高松DIME
1月30日(金)松山SALONKITTY
2月1日(日)福岡DRUM SON
2月7日(土)金沢vanvan V4
2月8日(日)岡山PEPPER LAND
2月11日(水・祝)新潟CLUB RIVERST
2月12日(木)八戸ROXX
2月14日(土)盛岡CLUB CHANGE WAVE
2月15日(日)仙台HooK
2月21日(土)名古屋APOLLO THEATER【ワンマン】
2月22日(日)大阪KING COBRA【ワンマン】
2月27日(金)渋谷O-WEST【ワンマン】

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