pigstarがnew mini album『ground 0』と、TVアニメ『純情ロマンチカ』のオープニングテーマに起用されている『衝動』を立て続けにリリースする。前作のシングル『君=花』から、約半年ぶりとなるこれらの作品。『ground 0』は短編小説のように綴られた8曲のストーリー。ダイナミックなサウンドに、随所に散りばめられた美しいピアノの旋律、絡み合う関口友則の歌声が、地に足を着け、人生の重みを踏みしめるように前へ前へと進む様を想像させる。『衝動』はスピード感溢れるバンドサウンドに乗せ、未来を信じて真っ直ぐに突き進んでいく様子を窺うことができる。自らの経験を肥料に、大地には深い根が張り、生きる力が漲った美しい花を咲かせ、その花が輝く太陽に向かって真っ直ぐに伸びていく。まさにpigstarが目指す、未来のようである。
今回は、新体制となる4人でのインタビューとなった。（interview：やまだともこ）
縦に繋がって歴史を担っている
──今回から新しくドラムに鎌田さんが加入されましたが、鎌田さんとはどんな出会いだったんですか？
友則：鎌ちゃんは、なべさんが前にやっていたバンドのローディーをやっていたんです。その頃からなべさんとpigstarは付き合いがあって、鎌ちゃんももともと知り合いなんですよ。
渡辺：僕が前にやっていたバンドとpigstarは一緒にイベントをやるぐらい仲が良くて、僕はやっていたバンドが休止になってpigstarに入ったんです。
──レコーディング後の加入になりますが、一緒にやってみてどうですか？
友則：やりやすいですよ。新曲はうちらもまだレコーディングでしか弾いていないので、最近のリハは気持ち的には鎌ちゃんも僕らも一緒。最初はサポートで叩いてもらおうかっていう話もあったんですけど、気も合うし、リズムも合うのでメンバーになってもらったんです。すごい勢いでメンバーになったよね。
──鎌田さんとしては、すごく変化があった年になりましたね。
鎌田：突然でした（笑）。いつの間にかここに座っているという感じです。
──今回、ミニアルバムのタイトルが『ground 0』じゃないですか。メンバーも新しくなり、心機一転という意味でタイトルを付けたのかなと思ったのですが。
友則：『ground 0』はいろんな意味に取られると思いますが、人間は0から築き上げて生きていかなければいけないという前向きな意味をアルバムのタイトルにしました。今のpigstarの立ち位置を0としたというよりは、自分のメッセージとか人間の力とか儚さとかそういった意味のほうが強いかな。
──タイトルを決めたのは友則さん？
友則：そうです。いろいろありましたよ。コンセプトアルバムを作りたいと思っていたので、物語のようなものという意味を込めて"short story"という案もありました。
──短編小説が並んでいるようなミニアルバムに仕上がりましたね。
友則：一番初めが『FLOST I』。新しい世界や社会に飛び出すことや、生きていくという所から始まって、後世に残す気持ちとか遺伝子とか、人間が生まれてから死ぬまでの思いを書きました。
──人生の始まりから終わりまでを表現しているような。
友則：今って、夢を持てない時代だと思うんです。前の3rd mini albumが『永遠の存在者』っていうんですけど、人間がなぜ生きているのか？ とかいうことを歌っています。『永遠の存在者』を作った頃は同世代の人や若い人が孤独になって自殺していくというニュースがすごく多くて、その時に、自分とその人は横には繋がっていないけど、縦には繋がっていて歴史を担っている大事な要員だと思うし、死ななくてもいいのにって思っていて。それの延長線上というわけではないですが、そこから一歩でも二歩でも踏み出せればと思って今回の作品を作りました。前はそこにいるだけでもよかったんですけど、少しずつでもいいから進みたい。自分に対しても言えることなんですけど、臆病にならないで一歩でも二歩でも前に進める応援歌みたいなものを作りたい。歌詞もわかりやすくダイレクトに書いているので、聴いてくれる人にもダイレクトに感じて欲しいと思っています。
──ということは、世の中で起きている出来事が詞になることは多いですか？
友則：僕自体が、昔は引きこもりに近いところがあって、手を差しのべてくれる人はなかなかいなかった。だから、そういう人たちの背中をポンと押してくれるようなものを書きたいっていうのがあるかもしれません。pigstarの音楽を聴いて、大丈夫だよっていうメッセージを送りたい。そういう時って、自分と同じように苦しんでいる人がいるっていうのがわかるだけですごく支えになるんです。頑張れ頑張れって言われるよりは、俺も寂しいんだよ、苦しいんだよっていう人がいたほうが、自分だけじゃないんだとも思えるし、自分だけじゃないっていうのもわかって欲しい。そういう気持ちが強かった。
少しでも人の心を動かしたい
──ただただ辛いと歌詞にあっても、共感しづらいですからね。でも、自分が本当に辛い時って他の人に頑張れって言えないと思うんです。友則さんが、それを乗り越えたからこそ生まれる歌詞なのかもしれないですね。今は満たされているという部分はありますか？
友則：そうでもないですよ。でも、自分は音楽がなければ何もなかったかもしれません。そういった意味では前向きになれて、音楽をやって少しでも残せればいいかなって思ってます。
──伝えたい言葉がある、と。
友則：聴いてくれる人もいるし、それによって前向きになってくれる人もいる。そうすると、少なからず同じ境遇の人を救えたかなっていう気持ちになります。
──人の気持ちを動かすことって簡単にできることではないですからね。そう思うと、音楽の力って素晴らしいですね。
友則：大人になると、人の言うことって聞かなくなるじゃないですか。自分で気づくしかないと思っていて、実は自分の心にわだかまりがあって、映画を観たり、音楽を聴いたりして、初めて気づくことってありますよね。僕らが音楽をやることによって、そうやって少しでも人の心を動かせたらなって思ってます。
──先ほど友則さんは「音楽がなければ何もなかったかもしれない」とおっしゃってましたが、実際音楽をやっていなかったら何をしていたと思います？
友則：そうじゃない自分が想像できないですね。
渡辺：僕も、物心ついた時にはピアノやっていて、それ以降ずっと音楽と関わってきてるので、それがないという事がどういう事なのかよく解らないんです。生活の中で当たり前になりすぎていて。たまに一段落ついて、休みがあって何か違うことをやろうとしてみたりするんですが、全然何していいかわからない（笑）
友則：困ってるらしいんです。趣味がなくて。
渡辺：おにい（関口友則）の趣味がカメラで、マネしてカメラを買ってみたんですけど（笑）。
──趣味はマネしてもできるもんじゃないですよ（笑）。
渡辺：そうなんですよね。
──友則さんは、ここ最近で随分痩せましたが、それは音楽をやっていくにあたって支障が出たんですか？
友則：さっき言ったように、昔はずっと家にいたのですごく太っていたんです。だから、ハーハーゼーゼー言ってライブをやるのがきつくて、これはいけないなって。対バン形式の30分でもダメだったんです（笑）。後ろ向いて「苦しい！」ってよく言ってました。見た目がお相撲さんみたいで、痩せようというよりは体力を付けようと思ったんです。基本怠け者なので走るとかできないんですが、小さい頃無理矢理スイミングスクールに通わされていて、泳ぐことは得意で。それで泳ぎに行ったんですけど、最初は全然体力がなくて300mも泳げなくて。そこから毎日ヒマな時は泳ぎに行って、知らない間に痩せていったんです。体力作りのために痩せた。
──どれぐらい落ちました？
友則：26kgぐらいです。
──子供1人分じゃないですか。
友則：昔に比べたら別人ですよ。ライブ中に「石ちゃん!!」って言われてましたから（笑）。
──今は、ライブ中に苦しくなることはないですか？
友則：飛んで跳ねても大丈夫です（笑）。
鎌田：しばらく会ってなかったんで、ひさびさに会った時は、なべさんが話しているのがおにいだって言われるまで気づかなかったですからね。
友則：それぐらい変わったんです。
渡辺：当時はもっと太ったほうがいいんじゃないの？って言ってたんですけどね。
友則：別にいいんだけど苦しいんだよ（笑）。なんで痩せたんだ？ とか、痩せるな！ とかお客さんに言われたこともありましたよ。
渡辺：pigじゃねえじゃねえか！って（笑）。
──そういう意味もあってpigstarなのかなとは思ってましたけど。
友則：初めはもちろんそうなんです。
──pigじゃなくなっちゃったんですね。
友則：なくなっちゃいました（笑）。って今もそんなに痩せてるわけではないんですよ。
良二：痩せたら声が変わる心配もされましたね。
友則：不思議と声は変わらなかったですけど。
──良二さんは常に一番近くでお兄さんを見てきたと思いますが、昔に比べて変わったとは思いますか？
友則：ポジティブにはなったよね。
良二：年齢を重ねるごとにどんどんポジティブになったと思います。
恋愛の歌は嫌いでした（笑）
──以前に比べて、詞の雰囲気もだいぶ変わってきたってことですね。
友則：曲によってですけどね。『R16』や『them』は昔からの世界観ですね。恋愛ものは書いたことがなかった...というよりは、嫌いで嫌いでしょうがなかったんです（笑）。
──なぜ嫌いだったんですか？
友則：若い頃は"色恋歌ってるんじゃねえよ"って思っていて、それよりは政治とか世の中のこととかを歌う方が好きだった。でも、違った表現をしたいなって思ったのが、1st mini album『グライド』に収録されている『Lag』とかなんですけど、自分の世界観を通しての恋愛ものを書いてみようと思ったんです。そこからは恋愛ものを普通に書けるようになった。
──今回、君と僕の曲が多いですよね。
友則：初めは抵抗がありました。高校の時は彼女がいる男子を見ながら、時間無駄にしてるよ、やりたいことやれよって思ってました。（笑）
──まあ、それがやりたかったことだと思いますけどね（笑）。そんな時期を経て、恋愛の曲を書けるように。
友則：なりました。でも、やさしい曲が書けるようになったのは最近ですよ。前は暗い曲ばかりだったよね。ファーストの時はビルの上から飛び降りたらとか、そんなんばっかり。一番キツかったときに書いた詞ですね。
──当時は自分の思いを誰かに聴いてもらいたくて吐き出すという感じだったんですか？
友則：自分の感じている思いを詞にしていただけですね。
──今は聴いてくれる人にメッセージを伝えたいというところですね。
友則：一歩進んだところというか。
渡辺：単純にパッと聴き明るいとか暗いとかありますけど、おにいの詞の世界がはっきりしているので、僕の中では純粋さが全部に出ていると思いますよ。曲調はありますけど、世界に関しては昔と比べても違和感はないですね。
良二：少しずつ変化しているとも思うし、たくさん詞を書いてきたから伝えやすくなっただろうし、言葉選びも変わったし。
友則：弟に言われると恥ずかしいですね（苦笑）。
──その時に出す言葉とか雰囲気とか、素直に出てきている感じはしますね。
良二：CDを聴いてくれた人たちからは、pigstarの詞は心にグサッと刺さるようだと言われることも多いです。
渡辺：時代性もあるけど、自分の思っていることが伝えられるようになったり、その結果言い回しが変わったり、中から外に向かうように変化してきたと思いますよ。
──辛いという思いをストレートに吐き出すことがかっこいいと思う時期もありますが、それを経て何かを伝えていきたいという時期に来たと。その方が多くの人に伝わる気はしますよ。
友則：それぞれ辛いことってたくさんあると思うし、みんな大変だとは思いますけど、どうしようもない人っているじゃないですか。不器用な人というか。それで自分を傷つけてしまう人もいますからね。外から聴けばうちのバンドも他のバンドも差がないのかもしれないですけど、そういう人に聴いてほしいです。
サウンドの魅力
──サウンドもかなりダイナミックになっていますが、アレンジは皆さんでやられているんですか？
友則：基本的に洋楽しか聴かないので、「JIMMY EAT WORLD」のような広がる派手なぶっとい音が好きだし、「Mae」のような壮大でドラマチックなものや複雑なリズムな音楽はみんなすごく好きですね。
良二：結成当初から、壮大なサウンドというのは口癖のように言ってましたからね。
友則：だから、何も考えなかったら全部壮大になっちゃうよね。
渡辺：広がって終わっちゃう。
──洋楽ばかり聴いてきた人って、自分たちの鳴らす音にも洋楽のエッセンスが色濃く出ることが多いんですけど、pigstarはそうでもないんですよね。日本人が聴きやすい曲にアレンジされている。
友則：メロディーがはっきりしているので、そうなるんだと思います。メロディはしっかりと聴かせて、その中でやりたい音楽を表現できればいいなと思っています。
──5曲目の『Sheep Song』のようなピアノの旋律が美しい曲も耳に残りますね。
友則：ずっとピアノを封印してたのに、いきなりあんだけ弾けるってことは相当練習したってこと？
渡辺：あなたが弾いてって言うからでしょ（笑）。
友則：ピアノ自体は小さい時から弾いていたけれど、バンドでピアノは弾かないって決めていたんでしょ？
渡辺：ピアノが嫌いなわけではないんですが、僕のパートはあくまでギターだと思っているし、バンド内で弾くのは抵抗があったんですよ。それに座ってるのがロックじゃないと思ってましたから。(笑)
──お上品な感じがしますよね。
渡辺：3rd mini album『永遠の存在者』の中に入っている『バロック』でピアノ弾いてって言われて、家では作業する時に弾いたりしてましたけど、ブランクがありますからね。バンドでまともにピアノやキーボードを弾くっていうのは、これが初です。ピアノを入れたいねっていう話は前からあったんですけどね。
友則：いっぱい入れたね。だから大変なんだよね。
渡辺：ギターも弾いて、ピアノも弾いて。
──でも、ピアノが入るとだいぶ変わりますからね。
友則：凛としますよね。
──ところで、1曲目の『FLOST I』と最後の『FLOST II』の伴奏はまるっきり一緒なんですか？
友則：一緒です。
──同じものを使っているということ？
友則：はい。
──歌詞だけが変わって、伴奏が同じなのでどれだけ意味を持たせているのかと感じさせますよね。これは友則さんの案になるんですか？
渡辺：基本的にはそういう感じです。リーダーなんで。
友則：リーダー兼ボーカルで作詞作曲ってなかなかいないですよね。
──そう言われてみたら、リーダーはドラムの人だったりしますね。
友則：すごく大変なんですよ、全部やるから。でも、そこはやるべきだと思っているので。
──アレンジとか曲は友則さんがメインで案を出していくんですか？
友則：曲はそうですけど、『Sheep Song』はなべさんが原案で、ピアノで作ってきたんです。そこから肉付けしてメロディー付けて。
──詞は最後に？
友則：だいたいメロディーが先にでき上がって、そこから意見を出してバンドサウンドにして、詞を付ける。悩むと全然できないし、悩まなければ5分でできることもあります。それを寝かせて3ヶ月後とかに作ることもある。その時の気分でワーっと気持ちが乗れると作れるんですけど、詰まると長いんです。
──そしたら違う曲に取りかかって。
友則：また戻るとできちゃう場合もある。一期一会じゃないけど、1曲1曲まったく違う作り方ですね。
──今回の8曲は多くできていた中から選んだ8曲なんですか？
友則：コンセプトアルバムとして作ったので、ほぼ全曲新曲。
──このために作ったと。
友則：レコーディング日が決まっていて、その日までに全部上げていくっていう作り方でかなり大変だったんですけど、できないとは思わずに、絶対できるんだと思って作りました。たまにお酒を飲みながら「チクショー！」って言っていたこともあります（笑）。でも、メンバーの前ではそんな顔を見せずに。
メンバーを信頼している
──全体的にはどれぐらいかけて制作したんですか？
友則：最後のほうは1ヶ月で5曲とか録ったよね。すごいスピードでしたよ。
渡辺：3日前に初めて聴いてレコーディングした曲もあります。全部新曲でやりたいと思ってましたからね。
友則：こん詰めて作った曲もあったり、すぐにできた曲もあったり。でも、レコーディングの1日前にメンバーに渡しても絶対に良くなるから大丈夫だと思っていた部分もありますよ。メンバーを信頼しています。
渡辺：正直きついですけどね（笑）。
友則：完成度が高いアルバムになったよね。
──前回が半年前だから、けっこう早いペースですよね。
友則：『衝動』もほぼ同時に作ったから、全部で10曲。
──音楽を作るってイメージ勝負だと思いますが、映画を観たり、美術館へ行ってインスピレーションを湧かせるようなことはありますか？
友則：ありますよ。映画大好きですし、感受性を高めるモノは何でも手を出します。
──みなさんは？
良二：映画は観ます。でも、ベースのフレーズとかコーラスを作るために観ることはないですね。良いアレンジをしたいと一生懸命やっているだけなので。
友則：演奏をする人はそうかもしれないですね。曲とか詞とか全体的なイメージを作る人は、そういう部分も大事なことなので。
──先ほど『衝動』の話が出ましたが、こちらは『ground 0』の2日後にリリースされますね。かなりスピード感のある曲でしたけど、これは『純情ロマンチカ2』のオープニングテーマにも使用されてますが、アニメを見てから曲を作ったんですか？
友則：前からあった曲なんですが、それをアレンジして、試行錯誤してできた曲です。
──アニメのオープニングでやることによって、アニメのイメージも付きますよね。知名度は広がりますけど、そこの懸念はなかったですか？
友則：でも、自分たちを知ってもらう場所が増えることは良いことだと思ってます。カラオケで歌ったとか言われて不思議な感じになりますよ。
──ファン層も広がりますしね。
友則：そうなんですよね。アニメは日本の文化ですからね。
良二：聴いてくれる人が増えることがすごく嬉しいですよ。
──『衝動』も10月からテレビで流れ始め、2月にはワンマンも控えてますが、来年はどんなところに向かっていきたいとか考えてます？
友則：来年はライブでもっと力を付けていって、僕らもロックバンドなのでいろんなところで他のバンドさんに果敢に立ち向かって行きたいと思っています。来年はドンと行きたいですね。
──はい。では最後に読者の皆さんに一言ずつお願いします。
友則：new mini album『ground 0』、new single『衝動』がリリースされます。みんなの思いが詰まった、良い作品になったので聴いてもらいたいです。
良二：来年2月15日に新宿ロフトでワンマンがあるので、聴いてくれた方は足を運んで頂いて、一緒に楽しみましょう。
渡辺：『ground 0』を聴いて、『衝動』を聴いて、ライブに来て下さい。って、2人の抜粋みたいになっちゃいますけど（笑）。
鎌田：言いたいことは3人に言われてしまいましたが...。初めましてになるので、僕のことも見て下さい（笑）。
