2008年、日本のロックの新たな地平を切り拓く期待のルーキーの登場である。聴き手を選ばぬ伸びやかで美しいメロディ、平易な言葉で綴られる情感の豊かな歌詞がまず群を抜いて素晴らしい。彼らの奏でる五線譜からは、はっぴいえんどやシュガー・ベイブ、スピッツやくるりといった叙情的な日本語ロックの系譜が如実に感じられる。それもただの模倣ではなく、新しい時代の感性がしっかりと息づいているのだ。その古典性と新しさのブレンド感が心地好い。また、写真の風貌を見てもらえば判る通り、その歌声は朴訥としていて何とも言えぬ温もりがある。小手先のスキルに頼らず、内なる喜怒哀楽から発露した言葉とメロディが肉感的な歌声で放たれた時、確かな体温をあなたは感じることだろう。感情の機微を巧みに織り込んだ繊細で力強い彼らのアンサンブルがまっすぐあなたへと届きますように。(interview:椎名宗之+やまだともこ)
交錯する期待と不安を歌に込めた
──上京してどれくらい経ちますか。
浦山:もうすぐ4ヶ月ですね。4月の末に引っ越して来たので。
寺井:もうすっかり東京人ですよ。
浦山:ウソつけ(笑)。
寺井:ウソです。まだ全然慣れてないです(笑)。
──東京の生活で一番違和感があるのはどんなところですか。
浦山:最近思ったのは、水辺がないですよね。東京湾に行ったらありましたけど、生活してる範囲にはないので。滋賀には琵琶湖が、京都には鴨川があったし。
──納涼感が足りないと?
寺井:でも、緑は多いですね。街中に緑がありますからね。大阪や京都の中心地に緑は少ないので。
浦山:東京は意外と公園があるから、緑があるように見えるんですよね。
──皆さん、上京する前は京都に住んでいたんですか。
澤本:上京する前の1年間だけ京都に、その前はずっと滋賀県の彦根に住んでました。
寺井:彦根は4年くらいですね。大学卒業と同時にちょっと街に住んでみようと思って、なぜか京都に行ってしまって。大阪に出る人が多かったんですけどね。
浦山:理由はライヴを京都中心でやっていたからなんですけど、周りからは「なんで京都なんだ!?」ってずっと言われてました。
──東京から見ると京都は独自のシーンがあるように思えますどね。一風変わったバンドが出てくるイメージがあるので。
寺井:それに乗りたかったんですけど、結局乗れなかったんです(笑)。京都の音楽シーンに対してずっと憧れがあったんですよ。何とかお近づきになりたいと思ってまして。
──実際、お近づきにはなれたんですか。
寺井:いや、ダメでした(笑)。
浦山:実感はないですね。結局は自分たちが好きなことをやっていただけです。
寺井:まぁ、住んでみたい願望はあったので、1年住めただけでも良かったかな。
──東京での生活はどうですか。
寺井:緊張しているのか、まだ余りリラックスできてないです。家に帰っても帰ってきた感じがしないって言うか。
──ツアー中のホテルに泊っているような感じ?
寺井:ホテルよりは寛げるかな、っていうくらい。知り合いとも一気に離れてしまったし。
──東京の街から作曲のインスパイアを受けるようなことは?
寺井:刺激は凄くありますね。いろんなライヴを見に行くと、特に刺激が多いです。こっちに来て新鮮な気分にはなれたので、その気分のまま新しい曲を作れたらなと思ってます。
浦山:僕らの曲作りは生活密着型なんですよ。なので、こっちでの生活が落ち着けばまた違ったものが生まれるんじゃないかと思ってます。ただ、向こうの要素は持っていたいので、たまには帰りたいですね。まだ4ヶ月しか経ってないですけど(笑)。
──今回発表される『ターコイズ』の中には上京してからの曲が1、2曲はあるのかと思ったんですが、全部向こうで作った曲なんですか。
浦山:全部向こうですね。
寺井:制作していた期間が上京間近だったので、離れるのが怖いとか、そういう曲が圧倒的に多いですね。
浦山:東京に出てくる前の3ヶ月くらい、東京に行こうか行かないかって話をしていて、正式に決まったのはもうちょっと後なんですけど、そういう複雑な心境の時に作った曲なので、その心境が表れてますね。
──期待と不安が交錯するような。
浦山:まさにそういう感じです。
──東京に出てきたのは、バンド活動をより活発化させていく決意の表れなんですよね?
寺井:そうです。大阪にいるよりは、東京のような激戦区に行かないと枯れそうな気がして(笑)。厳しい気持ちでバンドをやりたかったんですよ。それが一番の理由ですね。
期待=イエロー、不安=パープル!?
──最近は地方にいながらマイペースに活動を続けるバンドが増えてきたように感じますが、皆さんの場合はいざ東京へ打って出てやろうと?
寺井:僕らはもともと滋賀の大学で集まったんですけど、バンドとしてはホームとする地元がないんですよ。滋賀もお世話になった土地ではありますが、ホーム不在のまま転々とここまで来たんです。
──まるで根無し草のように(笑)。
寺井:そういう感じです。全員京都出身で京都で活動をしていたらホームに対する愛着もあったんでしょうけど、僕らは根無し草のまま来たので、地元を守るような意識は余りないんですよ。
浦山:だから東京に出てくる抵抗も全然なかったんですよね。住めば都タイプなので、どの土地でも順応できると思うし。
寺井:僕は関西出身なんですけど、浦山は愛知県出身で一番転々としてるんですよ。
浦山:関西に行ったこと自体、よく判りませんからね(笑)。
澤本:言葉も転々と変わっているもんね。
浦山:まぁ、順応タイプなのでぼちぼち標準語になりつつありますけど(笑)。
──レコーディングも京都で済ませたんですか。
寺井:それはこっちです。曲だけ向こうで作って、プリプロを友達に協力してもらって、本チャンは東京で録った感じです。
──今回はバンドのセルフ・プロデュースなんですよね。
寺井:作っている時からああだこうだ言いながらプリプロをしたので、レコーディングに当たって問題はなかったと言うか、すんなり行けました。
──『ターコイズ』でリリースは何枚目になるんでしたっけ?
寺井:スプリット&ジョイント・アルバムを含めて3枚目です。
──となると、レコーディングのあれこれも理解し始めた頃ですか。
浦山:まだ判ってないことはいっぱいありますけど、初めてやった時に比べれば自分が何をしたらいいかっていうのは判るようになってきましたね。それと、ちょっと楽しめるようになってきました。前はテンパって自分で何をやってるのか判らずにやってる部分がありましたけど。今回はリラックスして、プリプロを通して曲のイメージも何となくみんなで共有できていたのでスムーズに行けたかなと。
──1曲目の『空はキレイさ』は、前作『High Color Blue』からの繋がりを意識した部分がありますか。
寺井:そういう繋がりは全然考えてなかったですね。この曲が関西から関東に来る期待と不安そのものだったりするんですよ。1曲目にした理由もそういうところで、新しい始まりを感じさせる曲と言うか。ただ、曲は最初から出来ていたんですけど、歌詞がなかなか書けなかったんです。"空はキレイさ"っていう言葉はずっと頭の中にあったんですけど、そこから広げられなくて、イメージはあるのに言葉にできなくて。それでどうしようかなって困っていた時に、滋賀で同窓会があって帰ったんですよ。同級生と朝まで飲み倒して、7時くらいに帰った時に晴れ晴れとした空を眺めていたら"これ行ける!"と思って、電車で単語をメモって歌詞をまとめたんです。
──東京での新生活と新しいアルバムの始まりを重ね合わせたわけですね。
寺井:ここから新しいスタートを切るような感じですね。それは他のふたりも同じ気持ちだったと思います。
浦山:ただ、そこには不安もいっぱいあったので、それが1曲目には詰め込まれています。まさに期待と不安ですよ。
──『High Color Blue』というタイトルからは高く澄みきった空の青を連想しますが、『ターコイズ』はそれよりも淡い、ちょっとくすんだ青ですよね。そんな青の明度がこのアルバムを象徴しているということですか。
寺井:期待と不安をキーワードにしてアルバムのタイトルを考えていて、"期待と言えば黄色かな? 不安と言ったら紫かな?"と連想して、最初は『イエロー&パープル』でいいやと思ったんですよ。でも、それじゃちょっとダサすぎるよなって話になって、期待と不安をひとつで言い表せる言葉はないかと考えてみたんです。で、いっそ黄色と紫を混ぜたらどうなるんかな? って思った時に、ターコイズくらいになるんじゃないかと。まぁ、多分ならないと思うんですけど(笑)。
──実際に絵の具とかで混ぜてみたりは?
寺井:してません(笑)。ただ、ターコイズという色はそんなに澄みきってないし、かと言って真っ黒なわけでもない。落としどころとして、期待と不安というふたつの言葉を象徴しているんじゃないかと思って付けたんです。
誰の心にも"悪い王様"がいる
──ちなみに、石としての意味は?
浦山:それが期待と不安だったんですよ。調べてみてビックリしたんですけど。
──それは偶然ですか?
浦山:いや、必然です。
──『空はキレイさ』の歌詞にある"偽りのない青さ"がターコイズの色なのかと思ったんですけど。
寺井:そういうのも全部繋げてあるんですよ。
浦山:パワーストーンのトルコ石には"旅のお守り"という意味があって、『空はキレイさ』にも"お守り"っていう歌詞が出てくるんですよ。自分たちがこれから東京で頑張っていく"お守り"の意味を込めて。
──それは偶然ですか?(笑)
浦山:まぁ、必然です(笑)。
寺井:あともうひとつ、"出世ができる"っていう意味もあるんです。
澤本:これは偶然ですけど(笑)。
浦山:『High Color Blue』というタイトルは、ひねりにひねったものだったんです。英語の"ハイカラー"と、日本語の"はいから"を掛けた言葉遊びで。あれはひねりすぎたな(笑)。
寺井:今回は音的にもシンプルにまとめたかったので、タイトルもシンプルにしたかったんですよ。前作の時は、音も目一杯詰め込んでふくよかにするのがひとつのテーマだったんですけど、今回はスマートな感じでやりたかったんです。単語ひとつで言い切るのがいいなと思って、こういう形になったんですよね。
──新たなスタートを切るアルバムとしては、まさに格好のタイトルですね。
浦山:そうですね。我ながら名タイトルだったと思います(笑)。
──仰る通り、音に関しては際限まで削ぎ落としている印象がありますよね。味付けとしては『孤独死キング』でヴァイオリンが適度に入るくらいですし。
寺井:他の曲が余計なものを極力入れない方向だったので、『孤独死キング』だけはちょっと違う感じにしたかったんです。適度に何かを足してみたり、実験ができたらいいなと。次に作るアルバムにそういう流れで繋げていけたらいいなと思ったんですよ。今後はコーラスを複雑に織り交ぜたい気持ちも漠然とあったので。
──傍若無人な振る舞いを続けて死んでいく王様の物語が綴られた『孤独死キング』の歌詞は、どことなく今の日本の在り方を揶揄しているように感じましたけど。
寺井:余りデカイことを言いたかったわけではなくて、人にはそれぞれ悪いところってありますよね。いい人にも悪いところはあるし、たまたまそういうイヤなニュースが多い時期に書いたんです。自分の中にも悪い部分があることを知るのが一番大事だと思うんですよ。この曲を唄うことで"自分でもそういうとこあるよね"って身体に染み込ませたかったんです。いろんな人がそういう思考ができればもっと良い明日が訪れるんじゃないかって言うか、ちっちゃいことが大きなことに繋がるんじゃないかと思って書いた曲です。
──"街の人からお金を取り上げては遊んでばかり"の王様ですが、実際にお金を偉い人に取り上げられている感覚はありますか。
寺井:刺されたくないので明言は避けますけど(笑)。でも、ちょっとは還元して欲しいですよね。消費税とか下げて欲しいです。
──私利私欲にまみれた悪い王様はみんなの心の中にもいるんだよ、というニュアンスですね。
寺井:力を蓄えすぎると傲慢になってしまう時があるんじゃないかと思って。自分もそうなるんじゃないかという不安もあるけど、それに気づけば違った生き方ができると思うんですよ。
各人が楽曲を持ち寄った"品評会"
──この『孤独死キング』だけアコースティック主体でストリングスを入れたりしたのは、そうした味付けが曲調に合うと判断したからですか。
寺井:サビ自体はバンドの状態で前からあって、AメロとBメロは後からアコースティックで付けたんですよ。アコースティック的な要素を入れたい願望が強くあったし、こういう曲をずっと作りたかったんですよね。
浦山:壮大な仕上がりになったよね。ストリングスを入れる前にコーラスを3人でやっていた時も最後に広がっていくイメージだったので、ストリングスでその広がりをさらに引き出したかったんです。
寺井:J-POPの王道であるストリングスを入れてみたい願望もずっとあったし。
──ストリングスは生ですか?
寺井:はい。本数は3本しか入ってないんですけど、迫力が違うし、生で正解でした。
──澤本さんは完成したアルバムをどう思いますか。
澤本:全部いい曲だなと。1曲1曲それぞれのカラーがあって、まとめて聴いても凄くいいし、飽きの来ないアルバムだと思いました。
──全くの同感です(笑)。
澤本:すいません、自画自賛で(笑)。
──出来上がった作品はご自身でも聴くんですか。
澤本:僕は最初に聴いて、その後1週間くらい聴かないで、また聴きます。そうするといろんな発見があるんですよ。最近はコンスタントに聴いていますね。
──今回、澤本さんが『いいじゃないか』、浦山さんが『1.2.3』の作詞をそれぞれ担当していますが、作曲で楽曲提供することはないんですか。
澤本:他の人に提供するってことですか?
寺井:他の人にって(笑)。まだ早すぎるよ。
浦山:メロディは完全に寺井君に任せてますね。曲を全部作る前に、3人がそれぞれ5曲ずつくらい持ち寄るんですけど。
寺井:今回、曲も詞も全部作ってくる品評会を忘年会がてら企画したんですよ。
浦山:それが余りにひどすぎて(笑)。これはアカンなっていう曲もありました。
澤本:その時に歌詞を3人とも書いてみて、このメロディにはこんな歌詞が面白いんじゃないかっていうのがあったので、「この曲は俺が書くよ」っていうことになって。
浦山:今までずっとそうしてきたわけではないんですよ。
寺井:品評会をやるのは今回が初めてです。成功したとは言い難いですけど(苦笑)。
浦山:相当酔っぱらってましたからね。
──その品評会で出た歌詞が今回使われたりとかは?
浦山:その予定は全くないですね(笑)。
──じゃあ結局、その品評会は何だったんですか?(笑)
澤本:まぁ、記念ですね(笑)。
寺井:今後、何らかの形で世に出るかもしれないですけど。
──その品評会で選に洩れた楽曲というのは、LOVE LOVE LOVEらしくないという基準ですか。
浦山:それはあったかもしれないですね。
寺井:バンドでやっている以上、僕らはスタジオで曲を煮詰めるタイプで、品評会の曲にはそういう雰囲気が全然なかったんですよ。ひとりで作った感じと言うか、曲調も全然LOVE LOVE LOVEじゃなかった。それぞれのルーツや影響を受けたものが出すぎていたから、これは使えないなと。
──各々のソロ曲みたいな感じだったと言うか。
寺井:そんなの、間違いなく売れませんから(笑)。
メンバーのルーツ・ミュージック
──皆さんの考えるLOVE LOVE LOVEっぽさとはどんなところでしょう。
寺井:具体的には言えないですけど、3人で音を作り上げている感じが凄く出てると思うんですよ。仲がいいほうのバンドだと思うし、コーラスを増やしたいという方向もあるし、みんなでやっている感覚を大事にしているんです。そういうところが"らしさ"じゃないですかね。
──"ウイウイウー"(『サイダー』のコーラス)をもっと増やしていきたいと。
澤本:あれ、実は意外と難しいんですよ。
浦山:あれを増やすと大変です(笑)。
──確かに、ハーモニーがよく似合う楽曲がLOVE LOVE LOVEには多いですよね。
寺井:自分たちの武器のひとつとしてコーラスはあると思っていて、まだ簡単なことしかできないですけど、いずれはもっと難しいコードでやりたいんですよね。
──そもそも、3人の音楽的なルーツはどういったものなんですか。
浦山:話すと長くなりますよ?(笑)
──巻頭3ページ空けてあるので大丈夫です(笑)。では、澤本さんから。
澤本:ドラムのルーツは余りない感じですが、音楽を始めたきっかけはブルーハーツでした。
寺井:彼はもともと自分でヴォーカルとハープをやるバンドを続けていたんですよ。
澤本:そのブルース・バンドと並行してLOVE LOVE LOVEをやっていて、そっちがなくなったのでこっちを頑張ろうと(笑)。ずっと聴いていたのはブルーハーツやはっぴいえんどで、このバンドに入ってとにかくいろいろ聴くようになりましたね。
浦山:僕が最初に音楽を聴いたのは...マッキー(槇原敬之)とかかな。初めて買ったCDはB'zの『Don't Leave Me』でしたね。ちょうど小学校くらいで。それからは兄貴の影響で、いきなりディープ・パープルとか行った後にパンクを聴いてました。あと、高校の時からサックスを吹いていたこともあって、パンクからスカ・パンクに行って、そういうバンドばかり聴いてましたね。それがある時に過去の記憶が蘇って、ユーミンとか山下達郎さんを聴くようになって、最後にはっぴいえんどに辿り着いて。そんな時期にこのふたりと出会ったんですよ。
寺井:僕が初めて買ったCDはミスチルの『Tomorrow never knows』で、それが小学6年生くらい。バンドをやりたい願望のまま、ずっとピアノをやっていたんですよ。高校の時にバンド・ブームがちょうど来ていて、高校に入ったくらいから洋楽に興味を持ち出して、当時ハマったのがレディオヘッド。結構どっぷりハマってしまって、CDも全部買い集めて、弾き方も研究して、それでバンドを始めたんです。その後は、大学2年生くらいの時にはっぴいえんど。それまでずっと洋楽が好きだったから日本語で唄いたくなかったんですけど、LOVE LOVE LOVEが始まって、はっぴいえんどと出会ったことによって邦楽に対するイメージが覆されたんです。その頃、友達の留学生に「日本人は日本語で唄わないとダメだよ」って言われて、言われてみればそうだなと思って。海外の人は日本に来ても英語で唄っているし、それでもちゃんと伝わるわけだから、日本人なんだし日本語で唄おうと。そこから本格的に邦楽に興味を持ち出したんです。だから自分のルーツは、洋楽で言えばレディオヘッド、邦楽で言ったらはっぴいえんどですね。
聴きやすいメロディと言葉が好き
──3人の共通項としてあるのがはっぴいえんどなんですね。
寺井:僕は彼らと出会ってから知ったんですけど、みんなの重なる好きな部分ではありますね。
──世代的には、『Lost in Translation』を見てはっぴいえんどを知ったクチですか。
寺井:あれは後から見ました。最後にしっとりするいい映画ですよね。
──LOVE LOVE LOVEも平たい言葉と平たいメロディで歌を紡いでいるし、はっぴいえんどのDNAをしっかりと受け継いでいると思いますけどね。
寺井:そう言われるのは素直に嬉しいです。
──『ターコイズ』の音の質感は何とも言えない温もりがあって、聴き手との距離の近さを感じますね。これは意図的な施しなんですか。
寺井:そういうところは、僕らがアンダーグランドを目指していないというのがひとつ理由としてあると思います。難しい音楽もできないし、いろんな人に聴いてもらいたいので、聴きやすい音にしたいんですよ。自分たちも聴く側になれば聴きやすいメロディと聴きやすい言葉が好きですから。
──歌詞を書く上で、小難しい言い回しを使いたくなったりしませんか。
寺井:たまにそうなりますけどね。でも、必死に辞書を引かないと出てこないんです(笑)。そういうのもちょっとはいいと思いますけど、難しい言葉のオンパレードになっても読めなければ全然意味がないし。読めてナンボだと思いますから。今は手書きも減って何でもメールで済ませてしまうから、余計に難しい言葉が敬遠される時代なのかもしれないです。
浦山:僕も松本隆さんのような歌詞を書きたいと思ったけど、やっぱり書けないよね。
澤本:思いっきり書こうとしてたけどな(笑)。
浦山:全く無理でしたね。『1.2.3』を松本隆さん風に書いてみようと思って頑張ったんですけど、"路面電車"しか出てこなかったですから(笑)。
寺井:路面電車なんて通ってないやん、自分の街に。
澤本:だから「バスならいいんじゃない?」って提案して。
浦山:「"路線バス"にしよう」って言われて、却下しました。無理したらアカン! って(笑)。やっぱり自分に書けることを書こうと思って、ボツにしたんですよ。
──『1.2.3』も『いいじゃないか』もサビは同じフレーズの繰り返しで、一度聴いたら忘れないキャッチーさがありますよね。
寺井:言葉って何気ないところにあると思うんです。羞恥心という言葉も普通に使ってるけど、歌になった時に妙な引っかかりがありますよね。そんなことをテレビで羞恥心を見ていて思ったんですよ。ふとしたところに印象的な言葉が落ちてるんだなって。そう考えると面白いですよ。だから"路線バス"でも行けるのかもしれない(笑)。
浦山:『いいじゃないか』も『1.2.3』も何も考えずにパッと出てきた言葉で、何でもない言葉をプッシュしてみると意外と一番素直に入ってくるんですよね、聴いている人にも。
──歌詞と同様に曲の組み立て方もシンプルで明快ですよね。複雑な転調もないし。
寺井:転調もやってみたいんですけど、できないんですよ(笑)。僕の理想としては、音楽的に難しいことをサラッとやって聴かせたいんです。余りに単純だと深みが出ないじゃないですか。だから今はこれしかできないと言うか、まだまだ未発達と言うか(笑)。ただ、メロディは極力難しくしていないつもりです。聴く人の頭の中に波形みたいな感じで入っていくのを意識していますね。
楽曲に仕掛けられた巧妙なトラップ
──最後のサビの前にブリッジが入る曲が多いですけど、妙なフックがあると言うか、耳に残るんですよね。これは狙いですか?
寺井:フックとまでは意識していないですけど、何かが足りないと思ってしまうんですね。そういうのを入れたほうが最後も盛り上がるし。曲の構成はみんな意識していて、たとえばサビを2回繰り返すのもアリだけど、それですんなり行ったら2回目のサビが生きないねとか、そういうのは凄く考えて作っているんですよ。たいていサビが先に出来ているので曲はそれほど時間が掛からないんですけど、構成はうまく行かなくて、それに凄く時間を注いでます。何かが足りなかったらコーラスも必要になってくるし。LOVE LOVE LOVE的な楽曲の方程式はそこにありますね。Aメロがあって、Bメロがあって、サビがあって、Cメロ。それで最後に盛り上がる。今後はそれをもっと発展した形で、サビ2があるとか、そういうのもできるようになりたいです。
──構成に煮詰まった挙げ句、無理矢理作った感が出てしまうことはありませんか。
寺井:そういうのは自然に消滅していきますね。パソコンには保存しておくけど、曲としては出せないですから。
浦山:自分たちでも納得できないレヴェルだし。
澤本:何よりも聴きにくくなってしまうので。あくまでも聴きやすい構成であるべきだと思ってますからね。
寺井:やっぱり、起承転結がないと作品としては今ひとつなんですよね。
──そうした構成にしてもアレンジにしても、セルフ・プロデュースだと客観的な判断がつきづらいようにも思えますけど。
寺井:構成に関してはそうでもないですね。イントロの長さのジャッジを始め、いろんな部分を自分たちで決めることに関して、特には困らなかったですね。
──上物と言えばギターだから、浦山さんがアンカーマン的な役割を果たしていたんですか。
浦山:いや、すべて3人でジャッジしました。僕が音を足しまくろうとした結果、どうも良くなかったんですよ。デモの段階ではどんどん足していこうとしたんですけど、冷静にデモを聴いて、今回は要らないものを削ぎ落としていく方向がいいと判断してああいう形になったんです。
寺井:僕もだいぶ口を出して、最初はケンカ腰にもなったりして(笑)。
浦山:バンドは僕ひとりでやっているわけじゃないですからね。上物に関しても、寺井君の家でふたりして試行錯誤してました。
──『サイダー』という清涼感溢れる曲は今回のアルバムの中でも出色の出来ですが、皆さんの家の冷蔵庫にはビールしか入ってなさそうですよね(笑)。
寺井:いやいや、サイダーしか入ってないですよ。僕は完全にサイダーしか飲まないです。黄色くて泡立ちもいいやつですけど(笑)。『サイダー』は個人的に一番好きな曲なんですよ。サビにアコースティック・ギターが入っているんですけど、あの感じが凄く好きで。音もいいバランスに収まっているし。最初にこの曲を作った時は、ちょっとテクノっぽい感じにしたかったんです。クラブ・ミュージックを意識した4つ打ちな感じで。まぁ、結局は全然違う方向に行ってますけどね(笑)。サンプリングで全部、ドラムをパーツで録っていったらいいんじゃないかと思ったんですけど、余りの僕の無計画さが祟って、それはできひんやろっていうことになって。ホントはキーボードも入れたかったんですけど、敢えてその部分を"ウイウイウー"っていうコーラスにしたんですよ(笑)。
──ああ、あのコーラスはテクノを意識したものなんですか(笑)。
寺井:シンセ的なアプローチと言うか。周りからはよく「あの"ウイウイウー"っていう曲」って言われることが多いし、おっしゃー! 罠にハマってる! と思うと嬉しいですね(笑)。
──トラップの仕掛け方が巧妙なのは、LOVE LOVE LOVEの楽曲の特徴なのかもしれませんね。
寺井:まぁ、計算はできないんですけどね。『サイダー』は計算してますけど。計算と言うか、"ウイウイウー"がないとスーッとただ流れて行っちゃうような気がして。
澤本:「何か欲しい、何か欲しい」って言ってたもんね。
寺井:だから「ここは印象的なコーラスを入れよう」って話して、スタジオでふたりに入れてもらったんですよ。
予期せぬフレーズが生まれるバンドの面白さ
──レコーディングの現場監督と言うか、発言の比重が高いのはやはり寺井さんなんですか。
寺井:そうですね。でも、何もできひんけど偉そうみたいな感じです(笑)。曲をイメージしたものが僕の頭にあるので、それをどれだけ的確に伝えられるかが大変なんですよ。
──ある程度の設計図があるわけですね。
寺井:それは完全にあるんですけど、僕はドラマーやギタリストじゃないからどういうふうに叩いたり弾いたりすればいいのか判らない時もあるんですよ。でも、全く予想していなかったフレーズがふたりから出てきて、結果的にいい曲が出来るところに僕は一番面白みを感じていて、それがバンドをやっている一番の楽しみなんですよね。自分の思い通りにやってしまってもいい曲にはならないと思うし。...今、ちょっといいこと言いましたよね?(笑)
──太字にしておきます(笑)。今回、そういった予期せぬフレーズはどんなところで出てきましたか。
寺井:余りよく覚えてないですけど、『サイダー』のサビの"ドンドン"っていうドラムは予想外でした。他にも多分いっぱいあるんですけどね。プリプロの段階でそういうのがあるんですよ。
──歌詞とかは?
寺井:歌詞はありますよ。ふたりが初めて書いた歌詞は、普段自分が選ばない言葉を選んでいるし、スタンスの違う面白さがありますね。浦山は男気があって、"明日があるぜ!"みたいな感じですけど、澤本は意外とジメっとした甘えた感じがありますよね。
──母性本能をくすぐるような?
寺井:僕が一番くすぐるタイプだと思いますけど(笑)。澤本の歌詞は言葉が直接的で、周囲からも好評なんですよ。あ、別に浦山の歌詞が好評じゃないってわけじゃないですよ?(笑)
浦山:いいよ、フォローしなくて(笑)。
寺井:澤本の歌詞は、女性から「キュンとする」ってよく言われるんです。悔しいから本人には言ってないですけど。
澤本:今初めて聞いた(笑)。
──寺井さんの書く歌詞は、どちらかと言えば澤本さん寄りですよね。
寺井:男か女かで言ったら女ですね。女性的でなよなよしたところがありますから。
浦山:ただ、歌詞の中で結論を言わないよね。
──そこは聴き手に委ねていると。
寺井:そういう歌が苦手で、いやいや決めつけんといてよって思うし、その時々によって違う答えが出せるほうが面白いと思うんですよ。僕は映画のサントラが凄く好きで、イメージを膨らませられる音楽が好きなんです。そういう音楽を自分で作れているかと言えばできていないと思いますけど、答えは出さないようにしてますね。
──ただ、曲からは何とも言えない優しさや人柄の良さが出ていますよね。
寺井:いや、実際は判んないですよ。優しさが災いしてがっかりされるタイプです(笑)。
浦山:『1.2.3』は、寺井君をちょっと意識して書いたつもりなんですよ。僕が何も考えずに書いたら、きっと寺井君が嫌がる詞になると思います。唄うのは寺井君だし、バンドの世界観を大事にしようと考えたつもりなので、比較的優しい感じの歌詞になったんじゃないかと。曲調はガッツがあるのでそうは聴こえないかもしれないけど。
寺井:まぁ、"ゆるガッツ系"だよね(笑)。
──でも、『1.2.3』はライヴで盛り上がる定番曲ですよね。
寺井:最近大変ですよ。他の曲はミドル・テンポが多いんですけど、ミドルはミドルでもアッパーな『1.2.3』はテンションをどこに落ち着けていいのかが難しい。悩ましい曲ですね。
自分たちにしかできないことを一生懸命やるだけ
──ところで、ぼちぼち都内のライヴハウスにも慣れてきた頃ですか。
寺井:凄くやりやすいですよ。東京はやりやすいライヴハウスが多いですね。
──アルバム同様、ライヴも等身大であることがポリシーですか。
浦山:ライヴは3人だけでやるので、小手先を使わず、ただまっすぐにやるしかないですね。東京に来てより一層そう思うようになりました。昔は余計なことをいっぱい考えながらやってましたけど。
寺井:他のバンドのライヴを見だすようになって、やっぱり盛り上げなアカンのかなと思っていた時期もあったんです。それで盛んに手拍子してみたり、無理に盛り上げようとしてみたんですけど、何か違うなって(笑)。そうこう日が経っていくうちに、自分たちのできることって何だろう? って考えるようになって。結局、僕らはマッキーにもブルーハーツにもなれないし、それでも僕らにしかできないものがあるはずだと思ったんですよ。自分たちにしかできないことをただ一生懸命やるしかないよな、って。そう考え直してから、ライヴはひとつ前進できたように思います。
澤本:MCも事前に考えてやらないとダメだと思ってましたけど、結局はうまく喋れないので(笑)。喋れないんだったら曲をちゃんと聴いてもらおう、3人で曲に対する思いを一生懸命ぶつけようと決めてから、どうやってライヴに向き合うかがより明確になったと思いますね。
──まぁ、歌が雄弁であればいいと思いますけどね。いい歌なんですから。
寺井:昔はどうしてもMCにオチを付けたいっていう思考回路が働いていたんですけど、東京に来てからはそういうのを求められてないことをありありと感じたし、それならやめようと思って。それ以降、ごく自然体のまま関西でライヴをやった時も凄くスムーズにできて反応も良かったので、とにかく自分たちを信じてやり続けるしかないですよね。
──3人で東京に出てきて、バンドの結束がより強まった感じですか。
澤本:上京してから意識がガラッと変わったので、そのぶんまとまったところはあると思いますね。
寺井:まぁ、この人と一緒じゃなきゃダメだとは思ってないですけど(笑)。
──それはまた問題発言ですね(笑)。
寺井:いや、オマエがいないとダメだとか、ちょっと重荷になりすぎるのも良くないと思って。もっと自然に繋がっている感じがいいんですよ。
浦山:「よく一緒にいるよね」とは言われますけどね。
澤本:わざわざ3人でディズニーランドに行こうっていうのはないですけど。
寺井:それはイヤやな(笑)。
──まぁ、アルバムが出たら、イヤでもツアー先で一緒にいないといけませんからね。
浦山:それは全然苦痛じゃないんですよ。
寺井:もしかしたら人生で一番長くいるのかもしれない。親よりも一緒にいるんちゃうか?
浦山:それはない(笑)。まだまだや。
──ライヴに臨む覚悟も万全だし、レコ発ツアーも期待して良さそうですね。
寺井:プレッシャーにならない程度の期待を受けつつ(笑)。僕は人から何を言われても余り気にしないタイプで、自分の中での問題が一番大きいんですよ。だからまず、自分に打ち勝たないと。
──褒められて伸びるタイプですか。
寺井:浦山は褒められても伸びずに、ただ調子に乗るタイプです(笑)。凄く態度が大きくなるんですよ。
浦山:それこそ、『孤独死キング』ですよ。
寺井:うまいんだかうまくないんだか...(笑)。でも、地に足を着けた活動をちゃんとしていきたいですね。全く見ず知らずの土地に来た以上、一からコツコツやっていこうと思っています。