昨年、目出度く結成10周年を迎えたニートビーツが、あの2枚組大作『BIG BEAT MIND!!』以来2年8ヶ月振りとなるオリジナル・フル・アルバム『ROLL ON GOOD!!』を完成させた。10周年を機に結成当初のオリジナル・ベーシストが再加入し、バンドとしての原点回帰を見事に遂げた彼らが今持ち得るありったけの勢いと潔さで臨んだ本作は、徹頭徹尾まさに純度120%のロックンロール濃縮還元アルバム。また、都内某所にあるMr.PANこと真鍋 崇(vo, g)の自宅の地下室にあるプライヴェート・スタジオ「GRAND-FROG STUDIO」でレコーディングされた初の作品であることも注目に値する。"OLDIES BUT GOODIES"なロックンロールをこよなく愛し、偏執的なまでに容姿優先で録音機材を蒐集し、頑なに自分達にしか出せない音を求めてこだわりを貫くその姿勢にはいつもながらに感服だが、その姿勢が益々度合いを増していることがこのインタビューを読めば判ると思う。「GRAND-FROG STUDIO」で新作とスタジオの造築について嬉々として語る真鍋の姿は、まるでおもちゃ箱をひっくり返して戯れるやんちゃ坊主のようだった。そうして何事も貪欲に楽しみながら深いこだわりを持ち続けるからこそ、ニートビーツの音楽は格式を重んじながらも格式からどこまでも自由なのだ。(interview:椎名宗之)
Mr.GULLYのベースがどうしても欲しかった
──昨年11月、オリジナル・メンバーだったMr.GULLYさんが電撃復帰したのは青天の霹靂とも言うべきビッグ・ニュースでしたね。
PAN:うん、舞い戻ってきたよ。まぁ、そういう時期だったって言うかね。ニートビーツとしてやりたいことをいろいろと考えた時に、一番理想的なベーシストでありバンドマンはやっぱりMr.GULLYしかいないだろうっていうのが俺の中にはあって。もちろん、Mr.ROYALも凄くいいベーシストだったんだよ。でも、バンドをもうちょっとアッパーにしていきたいと思った時に、GULLYのベースがどうしても欲しいと思って。GULLYが一度抜けた後もずっと連絡は取り続けていて、ROYALが辞めることになった時に「これを機にやらへんか?」って誘ってみた。
──ニートビーツを脱退して、GULLYさんは違うバンドを続けていたんですよね。
PAN:スリー・タイムスっていうブルース・ロック・バンドをやってて、彼は彼でそれなりに活動はしてたんだけど、もっと大きなフィールドでバンドをやりたいと。だったらニートビーツがあるやんか、って。
──でも、不在だった6年間という空白を埋めるのもなかなか困難だったんじゃないですか。
PAN:不思議なことに、その6年のタイム感が良かったりするんだよね。彼は6年前のニートビーツで止まってるわけで、それが俺達にとっては却って新鮮だったと言うかね。6年前のニートビーツの気持ちや姿勢を持ってる人間とまたバンドをやるわけだから、「あ、これや! あの時の俺達はこうやってたんや!」みたいな新たな発見もあったりして。
──GULLYさんが入って初めて音合わせをした時に、「これだ!」という手応えがあったと?
PAN:うん、やっぱりあった。彼が弾いて彼が唄った瞬間に、6年前でバンドを止めといても良かったなと思ったくらい。いや、それは言い過ぎやな(笑)。止めといても良かったものもあるな、って言うか。そういう気持ちはバンドをやってる人なら判ると思うねんけど、試行錯誤して勢いだけで作ったファースト・アルバムには勝たれへんな、みたいな感覚がどっかにあるやんか? GULLYと音合わせをした時にそういう感覚が蘇ったね。だから、そのブランクが逆に良かったって言うか。だって、ツアーに出るかって話を彼にした時に、「エッ!? ホテルになんて泊まれるの?」みたいな感じだったから(笑)。当時はまだ機材車の中で寝たりとかしてたからね。
──GULLYさんの復帰がバンド結成10周年に実現したというのも、奇妙な巡り合わせを感じますね。
PAN:うん。やっぱり俺達はバンドマンと一緒にバンドがしたいっていう気持ちが凄くあって、GULLYのほうがよりバンドマンらしかったっていうことかな。彼は俺と同級生だし、気心も知れてるからね。
──そんな新生ニートビーツによる記念すべき第1弾アルバム『ROLL ON GOOD!!』は、プライヴェート・スタジオである「GRAND-FROG STUDIO」でレコーディングされた初の作品でもあるわけですね。
PAN:やっとのことでね。2年以上もの間ずっとオリジナル・アルバムを作らなかったのは、スタジオの完成に合わせてたところがあったかも判らへん(笑)。何年も前からずっと自分のスタジオは作りたかったんだけど、実際に動き出したのはこの2年くらいだったからね。次のオリジナル・アルバムは自分のスタジオで録りたいってずっと思ってたし。
──ちょうど1年前に取材でお伺いした時は、まだ壁がコンクリートの打ちっ放しの状態でしたよね。
PAN:そうそう。まだ卓にブルーシートが掛かってる状態でね(笑)。いろんな人達の協力もありつつ完成した感じだよ。「こんな機材があるよ」とか「こんなことをやってみたい」とか、手伝ってくれた人達がみんな面白がってくれたから、完成までは意外と早く漕ぎ着けた気がする。とは言っても、メンテナンスだけで1年半は掛かってるけどね。
──やっぱり、スタジオを借りてやるのと自分のスタジオを使うのとは気持ちが全然違うものなんですか。
PAN:全然違うね。「ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』は南フランスのキースの家の地下スタジオで録った」なんて聞くと、無条件に憧れるやん? 今までいろんなスタジオを使ってきたし、そのスタジオごとに良さがあったけど、望んでる音を100%録れた所はなかったんだよね。まぁそれは当たり前の話なんやけど、今までは望んでる音の7~8割が録れたら最高、って感じだった。それは仕方のないことで、それ以上のパーセンテージを上げるのであれば、今自分が知っている範囲での録音環境じゃ絶対にムリなのが判った。
──プロ・トゥールスを主体としたデジタルな環境ではダメだと?
PAN:うん。それも確かに悪くはないけど、デジタルで作ろうとするアナログ感にはどうしてもムリがある。新しい機材で古い音を出すのはやっぱり違うなと思ったし、それやったら古い機材で新しい音を目指したほうがいい。それこそが俺達の中でのハイファイって言うかね。そう考えた時に、自分でスタジオを作るのが一番だなと思ったんだよね。それがきっかけだった。 THE NEATBEATS
機材蒐集の基準は見た目と色と形
──ミキサー卓も、アンプも、楽器も、何から何までがヴィンテージで揃えているんですよね。
PAN:そうだね。ただしメディアはデジタルやから、たとえば「納品はこのオープンリール式テープで」って言ってもムリなわけ。ホントはそこまでやりたいけど、限界はある。だからギリギリまでアナログにしたいっていう感じ。そこはまぁ、自分の中で妥協してる部分ではあるけど、とにかくギリギリまでは各駅停車で行こうと。でも終点まで行くには新幹線に乗らんと、っていうのがあるね(笑)。
──下世話な話で恐縮ですが、このスタジオで一番高い機材はどれになるんですか。やっぱり卓ですかね?
PAN:うん、やっぱりそうなるかな。イコライザーやコンプレッサーといった類のものも結構するんだけどね。スタジオの影も形もないのに、こういう機材をもう15年も前からずっと集めてたんだよ。何でかと言えば、そういう機材を集めることによって自分でスタジオを作らざるを得なくなると思ったから。だからこのスタジオにある機材は一気に買ったものじゃなくて、年に何回か買ったものが集まった感じなんだよね。買ったところで、家に置いてボーッと眺めてるだけなんやけど(笑)。それを見て「ホンマにスタジオ作らなアカンな」って状況に自分を追い込んで奮い立たせるみたいなね。
──PANさんにとっての機材蒐集の価値基準というのは?
PAN:見た目と色と形でしか買ってない。「このノブ、カッコいい!」とか「この大きさ、最高!」とか、そんな感じ。性能云々抜きの話で、まるで女性を見た目で判断してる感じ(笑)。「あの子、カワイイ!」とか、そんなレベル。機材にはどれも長所と短所があるんやけど、それもまぁいいと。「この子、カワイイけど性格悪いな。でも悪くてもいいや」みたいなね(笑)。そうやって好きなメーカーを覚えてそれをどんどん集めていくと、不思議なもんでいろんな情報が自然とこっちに届くんだよ。たとえば、「日本にセルマーのアンプばかりを集めてるヤツがおる」っていうネットワークが海外の楽器屋さんにはあって、「セルマーと言えば日本ではあの男が絶対に買う」ってマークされるようになる。だから俺のところには「セルマーのヴィンテージ品がありました」っていうメールが頻繁に届くんだよね。
──確かにスタジオにはセルマーのアンプがズラリと並んでいますけど、そこまでセルマーに固執させるものとは何なんでしょう。
PAN:見た目とロゴ(笑)。そこが一番大事なポイントで、音は二の次。スイッチが1個しかないっていう潔さもいいね。その潔さがカッコいいし、「これぞ男のアンプ!」って思うね(笑)。アンプはイギリスとかヨーロッパのが大好きなんだけど、レコーディング機材はアメリカのがやっぱり一番凄い気がする。ロックンロールもイギリスがアメリカを倣ったわけだから。
──ミキサー卓は、何でも曰く付きのシロモノだそうですね。
PAN:そう、「トム・ダウド(アメリカのレコーディング・エンジニア/プロデューサー)がこの卓を使ってた」って言うて売り付けられた(笑)。その当時使ってたスタジオの予備卓っていう話を聞いて、即買いしたんだよ。もしかしたらデレク&ザ・ドミノスの『いとしのレイラ』もこれで録ったんじゃないか? っていう。まぁ、8割方は「ウソやろ?」っていう気もしてるけど(笑)、自分の中ではそのつもりでいるから。その夢に賭けてみるって言うか、「エッ、トム・ダウド? 『いとしのレイラ』!?」っていうワードだけで「じゃあそれや!」って決めた。日本では余り使われてなくて、結構レアだってことが判ったから、まぁええかと。でも、この卓でレコーディングしてると急に音が出えへんかったりすることがよくあって、要するに少しずつ壊れていってるわけ。で、「凄い壊れるねんけど、どうにかしてくれへんか?」って買ったところにメールしたら、「そこの部品を新しく入れ替えろ」と。それで「その部品を送ってくれ」って返事したら、「その部品は見つけるのが凄く難しい」って(笑)。じゃあ勧めるなよ! っていうね(笑)。厄介なところもあるけど、そういうのもまたいい。だって、ビックリすることに1チャンネルずつ音が違うんだからね(笑)。
──スタジオの片隅にあったピアノも、かなり年季の入ったものでしたよね。
PAN:あれはかなりいいピアノでね。知り合いに譲ってもらったんやけど、輸入禁止の象牙を使ってるみたい。そういうのは何やろ、集まってくるのか呼んでくるのか判らへんけど。「何かあったらちょうだい」って言いまくってるし、貰えるものは何でも貰って帰るクセがあるからね(笑)。アナログからデジタルに機材が移行する90年代に、処分されかかったアナログの機材を結構貰ったりもしたしね。向こうからしたらゴミみたいなもんやけど、何で捨てようとするのかが俺にはよう理解できへんかったもん。