布袋寅泰との共同作業から学んだもの
──本作で注目してしまうのはやはり、『LOCK ON ROCK』のグランプリ受賞曲であり、アルバムのタイトルにもなっている「THE WALL」ですよね。バンドのセルフ・プロデュースと布袋さんのプロデュースと2つのヴァージョンが収録されていますが。
健司:トラックは2つとも違って、布袋さんにプロデュースして頂いた時にもう一度録り直したんです。自分達でプロデュースしたほうはクリックも被せもなしで一発録りしたんですけど、布袋さんにお願いしたほうは「こういうふうにやってみたら?」というアイディアをいろいろと頂いて。
──布袋さんによるプロデュースのほうは“SOLID BEAT”ヴァージョンということで。
健司:ええ、かなりソリッドな感じに仕上がったと思います(笑)。
亜里沙:自分達のほうはギターから始まって、布袋さんにお願いしたほうはドラムから始まるんです。リズム・パターンやキメとかもちょっと違うんですよ。
健司:2人でプロデュースしたほうはいつものライヴでやってる感じそのままなので、「いっそのこと全然違うものをやろう」と布袋さんが仰ったんです。
──布袋さんからはどんなアドヴァイスを受けたんですか。
亜里沙:具体的な説明とかいうよりも、まず音を鳴らしてみて…そこで浮かんでくるものがあるんでしょうね、布袋さんの中で。私達の演奏を目の前で聴いて、その場で直感的に思い付いたものをいろいろと言って下さってたと思うんです。
健司:ギターは「もっとトレブリーに、もっとエッジの効いた感じで」って言われましたし、ドラムの音の感じや歌のダブル・トラックは「スージー・クアトロっぽくしてみようか?」とか。僕らに対しては、ちょっと毒のある感じみたいなんが布袋さんのイメージやったと思うんですけどね。
──考えてみれば、第三者によるプロデュースということ自体、全く初めての経験ですよね。
亜里沙:そうです。これまでは自分達でウワーッと言いながら作るのが当たり前でしたから。全くの初体験です(笑)。
──その初体験が他でもない布袋さんなわけですから、物怖じしないほうがおかしいですよね(笑)。
亜里沙:ビックリしすぎて、キョトンとするしかなかったですね。正直、緊張して頭の中が10秒くらい真っ白になりました(笑)。“あれ、今何をやってるんかな?”っていう。でも、布袋さんから学べたことはたくさんあったんですよ。
健司:セルフ・プロデュースに関してはライヴとレコーディングが全然違うことに気付けたんですけど、布袋さんと一緒にやらせて頂いて思ったのは、こんなん言ったらエラそうですけど“冴えてらっしゃる”と言うか、“ああ、そういうことか”って言うか…。何て言うんですかね、レコーディングでの格好いいアプローチみたいなものですね。そこは凄く勉強になりました。音作りから録り方から、何から何まで。
亜里沙:私は、リズムが大事だということに改めて気付きました。ちょっとした違いなんですよね。ちょっとしたアイディアを加えてみることで大きな変化が生まれるって言うか、その面白みがありました。ちょっとしたことで聴く人をウキウキさせるようなものを与えるとか、そういうことを布袋さんから学べたと思います。
健司:聴く人を飽きさせない、マンネリにならない曲にするセンスが布袋さんは凄いんですよ。それもちょっとした工夫なんです。そのさじ加減が絶妙で、飽きるか飽きへんかの境目に敏感な方やなと思いましたね。
──亜里沙さんのブログに、レコーディングを終えて布袋さんと肩を組んだスリー・ショット写真がありましたよね。
亜里沙:私達はごっつい顔してますよね(笑)。真っ白と言うか、“終わったぁ!”っていう。1日で軽く痩せましたよ(笑)。
──他の収録曲については、布袋さんから何か意見を頂いたんですか。
健司:ちゃんと聴いてくれたみたいで、「他の曲も格好いいね」みたいなことを言ってくれはりましたけども…凄く恐縮しましたね。
絶対にこの2人だけでやり続けようと決めた
──「THE WALL」の歌詞にある“壁をぶち壊せ”という言葉は、ちょっと大袈裟ですけど2人の中で生き方の信条みたいなところがありますか。
健司:そうですね。僕ら自身にも当てはまる部分がだいぶありますよ。バンドは調子がいい時もあれば悪い時もあるし、浮き沈みが激しいんで、そういう辛い時に“こんなんに負けてたらアカン!”っていう気持ちが「THE WALL」には籠もってると思います。そう言えば、この曲を自主で録った時も、マスタリングをやり直したりとか結構大変やったんですよ。そういう時の気持ちも入ってると思いますね。
亜里沙:自分達をこうして持ち上げてくれた曲ではあったんですけど、聴いてくれる人達もこの曲に当てはまるところがあると思うんですよ。自分達の曲で誰かの人生を変えられたら凄く嬉しいですからね。
──まぁ、まずこの曲に人生を変えられたのは、他でもない亜里沙さんと健司さんだと思いますけどね(笑)。
亜里沙:はい、実際そうですね(笑)。
──2ピースのサウンドに拘るがゆえに、ベースレスを補うべくギター・アンプとベース・アンプを両方使って、オクターバー(エフェクターのひとつで、通すとオクターブ・ユニゾンの音階をデュアルで出すことができる)を同時に2つ踏み分けているんですよね。
健司:そうなんです。それで1オクターブ下と2オクターブ下の音をベース・アンプから鳴らしてるんですよ。昔はギター・アンプひとつでやってたんですけど、「ベースを入れたらどないや?」と周りから何度も言われて、“そんなんやったらベースの音も出したるわ!”と思って。それでこのスタイルになったんです。“どうや、これでベースの音も出とるやろ!?”って言うか(笑)。
──簡単に仰いますけど、実は大変な技巧派と言えるんじゃないですか?
健司:でも、知り合いにもベースレスのバンドがいて、ギター・アンプとベース・アンプを使って同じようにやってますよ。僕だけが特別なわけではないと思います。ナチュラルにベース・アンプからギターの音が出てるだけやったら聴覚上の低音と言うか、実際のベース音ではないので、音源を聴いた人から「低音のグルーヴがないね」と言われることが多々あったんですよ。それを聞くたびに自分の中では“クソッ!”と思っていて(笑)。判った、それならベースの音域も全部カヴァーしたろと思ったんですよね。
──そこまで頑なになって、この2人だけでやり抜こうとする姿勢が素晴らしいと思いますよ。
健司:亜里沙と2人で決めたんですよ。絶対にこの2人だけで最後までやり続けよう、って。ただ意地になってると言えばその通りかもしれないですけど(笑)、最初に決めたことなので、これだけはやり抜かな、って思ってるんです。