1年振りとなる怒髪天のニュー・アルバム『LIFE BOWL』、堂々の完成!! タイトルを直訳すると"人生丼"となるこの1枚には、その名の通り人生の様々なシーンが具材=曲となって詰め込まれている。寝坊して遅刻した、前髪切り過ぎたなどのごく日常的なトホホな出来事から、人間関係のややこしさ、本音を殺さなければならない生きづらさ、いつの間にか離れていったかつての仲間への想い、電車に揺られながら夢想する別な人生...。どうしたって格好付かない、情けなくショボクレた生活がそこにある。しかしながら怒髪天には、それを笑いに変えられる強さがあることを、この1枚が証明している。やりきれなくなるような生活の中に小さくとも確かな幸せを見つけ、逆境をも楽しんでしまう力があるのだ。生傷もそのままに、たとえヤセ我慢でも力強く笑ってくれるから、私達はこんなにも彼らに魅かれるのだと思う。具のひとつひとつを噛み締めればおなかいっぱい、でも何度でも食べたくなるこの極上丼について、メンバー全員に話を訊いた。(interview:稲垣ユカ+椎名宗之)
シンプルなものを時間を掛けて作った
──前作『トーキョー・ロンリー・サムライマン』の発売から、長いツアーをやりつつ夏フェスや各種イヴェントにも出演して、シングルのレコーディングもあって…とお忙しかったと思うんですが、その中でのアルバム制作というのはこれまでにない作業だったんじゃないですか?
上原子友康(g):そうだね。今までと大きく違うのが、今回はツアーをやりながら曲を作っていったところで。移動中の車の中だったり、ツアー先のホテルの部屋だったり。だからライヴとか対バンにも影響を受けた曲作りになったし。
増子直純(vo):あと、今回はレコーディングも3、4ヶ月に渡ってパートごとに3回ぐらいスタジオに入ったんだよ。
上原子:今まではスタジオも1ヶ所で、1ヶ月ぐらいずーっとやってる感じだったんだけど、今回はツアーと並行してたっていうのもあって、リズム録りの時は広めのスタジオで録って、ツアーに行って帰ってきたらギター録りのスタジオで録って、またツアーに行って帰ってきたら今度はヴォーカルを録るっていう感じだった。スタジオは4ヶ所使ったのかな?
増子:そうだね。それぞれのパートに適したスタジオを使うのはずっとやってみたかったことだから。でも、せっかくそういうスタジオを使っても、坂さんに「今回のスタジオどうだった?」って訊いたら「いやぁ、ロビーが吹き抜けで」って、ロビーの話なんかどうでもイイから(笑)。
──(笑)レコーディング自体はスムーズだったんですか?
上原子:うん。レコーディングに入る前に相当リハを積んで、集中して録ろうっていうのがあったから。曲を身体に馴染ませて馴染ませてドカンと録ろうっていう。
増子:リハは凄くやったから、曲に対するそれぞれの解釈っていうのがいつもより深いところまで行ってるよね。
──曲作りに関しては、前作のインタビューで友康さんが「余り曲を作り込まずにスタジオに持っていって、みんなで作っていく方法をしばらく取ってみようと思う」と仰っていましたが。
上原子:やっぱり家で独りでアレンジとかを考えてると多くを語っちゃうっていうか、メロディにしてもリフにしても余計なものが付いたりして、最初に出てきた時の初期衝動みたいなものからは懸け離れていっちゃうんだよね。だから今回も、最初のビートとリフとかが出来た段階でみんなの元に持っていくやり方をしてたね。
増子:曲の作り方からして、今までのようなイントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏、Bメロ、サビ、アウトロ、みたいないわゆるポップスのセオリーを踏襲しつつ、それを如何にロックとして鳴らすかっていうところからももう離れてる曲もあるからね。そういう枠すらも要らねぇかなって。
上原子:敢えてAとBだけにしようとかじゃなくて、自然とそうなった感じだけどね。要らないものは外しちゃおうっていう。
増子:考え過ぎてないっていうかね。どうしてもプラスしちゃう傾向にあったから。
──曲作りに際して、シミさんがいつもより多めにアイディアを出したりとかは?
清水泰而(b):いや、特にはないね。今回は最初のイメージ通りに進んだと思うよ。
増子:今回は割と軌道修正がなかったっちゅうか、最初にこういうものをやりたいっていうところにちゃんと集約していったね。
清水:ベースなんて、最初にバンって弾いたのをほとんどそのまま使ってるし。細かいところを直したりはしたけどね。だからそんなに難しくないし、その分シンプルでノリが良くなってればイイなと思ったんだけど。フレーズっていうより、音の質感とかのほうに時間が掛かったよね。
──1曲目のベースのイントロから始まって、全体的にベース主体のサウンドなのかなと思ったんですが。
清水:今回のは、20年前に怒髪天に加入した時に買ったベースの音から始まってるんだよ。
──そのベースは何故最近まで使っていなかったんですか?
清水:まぁ、壊れてたっていうだけなんだけど(笑)。直して戻ってきたからさ。もう握り潰しちゃってボコボコになってるんだけど、やっぱり使い易いんだよね。それは多分、自分のクセでボコボコだから。でも、今回のベースの音は今までで一番気に入ってるよ。
──やっぱり、パートに適したスタジオを使ったこともあっての音の良さなんですかね。
増子:それももちろんあるし、セクションごとにやってるから集中できたっていうのもある。
上原子:今回はホントにリハに時間を掛けたから、音作りがしっかり出来てたっていうのもあるね。
増子:うん、俺達が音で提示していきたいと思ってるものがやっと作れたと思うよ。
──あと、音が凄くクリアですよね。
増子:音数がいつもより少ないからね。
上原子:そう、ダビングも最低限にしたから。シンプルなものを時間を掛けて作った感じだね。
清水:あと、それぞれの楽器や声のバランスが凄くイイんだよ。それはエンジニアの人のアイディアとかも含めて出来たものだよね。
増子:今回のエンジニアの人とは初めて一緒にやったんだけど、いろんなことを試してくれたし、俺達がどんなことを望んでるかを凄く理解してくれる人だったよね。今までにないアイディアも出してくれたし、面白かったね。
清水:ドラムとベースの関係性とか、歌とドラムの関係性とかが凄くイイんじゃないかなって思うよ。
──その辺り、坂さんは如何ですか?
坂詰克彦(ds):いやぁ、勉強になりました!
増子:坂さんは毎回勉強だからね(笑)。坂さんは今頃ドラムに目覚めて、自分でドラム教室に通ってるから。でも、今回はそうやってちゃんとレコーディングの時間が取れなくてイヤだなぁと思ってたんだけど、そこは友康が「逆転の発想で行こう」って。ライヴ期間とレコーディング期間に分けて考えるんじゃなくて、バンドをやるっていうことは曲を作ってレコーディングしてライヴをやる一連の作業だっていうことを認識したらラクになったね。当たり前のことだなって思ったよ。
上原子:全部がひとつの大きい流れっていうかね。ライヴのリハーサル中に曲が出来たりすることもアリだし。