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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】Good Dog Happy Men(2007年12月号)- the GOLDENBELLCITY音楽で奏でられる世界で一番新しい御伽噺、その最終章今、万感の想いを込めて鳴らす黄金の鐘

the GOLDENBELLCITY音楽で奏でられる世界で一番新しい御伽噺、その最終章今、万感の想いを込めて鳴らす黄金の鐘

2007.12.01

物語の終幕は希望しかなかった

──それにしても、ジグソー・パズルの最後のパーツが揃って三部作が完結して、ようやく溜飲が下がった思いですね。

門田:うん、これで良かったんだなと思っています。仮に入れたかった曲をすべて収めた2枚組にしたら、入口を狭めたものになっただろうし。全体のバランスの中で精選した15曲だし、作品としてのクォリティは凄く高いと自分でも思うから、結果的にはベターだったと思います。

内田:“the GOLDENBELLCITY”という寓話を表現しきる上で曲を削ぎ落としたことが功を奏していると思うんですよ。ふんだんに曲を詰め込むことが目的ではなかったし、あくまでこの街の全貌と現在・過去・未来を表現することが第一義だったから。

──とりわけ感動的だと思ったのは、14曲目の「黄金の鐘」で明日への希望が描写されていることですね。ポジティヴで力強くて、『the GOLDENBELLCITY』の結末としてこれほど相応しい終幕はないと思ったんですよ。

門田:この終わり方は一番最初に決めていたんですよ。この物語は世界の映し鏡なんだけれども、必ず“めでたし、めでたし”を約束されたものであると。物語が機上に乗って打ち上がる時に、その離陸先は希望しかなかったんです。まぁ、音楽をやっていて大変だったとか頑張ったとは余り自分では言いたくないんだけど、うまく着地できて良かったなとは思いますね。ただ、物語を単純に希望だけで終わらせることが「Yes」なのか「No」なのか、自分の中ではずっと葛藤があったんです。

──でも、この「黄金の鐘」は命の儚さを前提とした上で唄われている希望だから、示唆に富んだものになっていると思いますけどね。

門田:含みのある「Yes」も厭だったし、だとしてもこの希望というものを押し曲げてしまえば『the GOLDENBELLCITY』のすべてが音を立てて崩れてしまう。そういう本当にデリケートな問題に直面していたので、手が震えて歌詞が書けなかったんです。“黄金の鐘”は“the GOLDENBELLCITY”のシンボルですからね。だから最初は、この曲を入れない案もあったんです。最終的には入れることにして、歌詞を全面的に書き直したんですよ。

──「黄金の鐘」を入れるのと入れないのとでは、印象ががらりと変わりますよね。

門田:最初は含みのある「Yes」だったんですよ。希望だけなんて言い切っていなかった。

──2007年の社会情勢を顧みると、それはリアリティに則した表現ではありますけどね。

門田:確かに。映し鏡としてはリアルなんだけど、その映し鏡に対する自分の思惟を最後に込めたかったんですよね。それを言わざるを得なかった。

──『~ep1』と『~ep2』に比べると、本作は門田さんの思惟や哲学が歌詞に見え隠れする部分が多い気がしますね。たとえば「Groria Streetから愛を込めて#3 -嬉しくて哀しい事-」の“与えられた答えは とても退屈だから 頭悪くなる”とか、「Jewel Box」の“俺達もの凄く ドジだね/沢山の言葉で 薄めて 忘れて”とか、物語のフォーマットを借りつつも門田さんの考える物事の真理が巧みに綴られていると思うんです。

門田:それは、自分の個性や思惟を殊更出さないように考えているからこそ出てしまうんでしょうね。物事を考える基準としてあるのは、常に自分ではなくGood Dog Happy Menなんです。Good Dog Happy Menとしてはどうだろうかというのをまず第一に考える。だけど結局、それを突き詰めると俺自身になるんですよね。『the GOLDENBELLCITY』の物語を体現するにあたってなるべくフェアな姿勢で臨もうとしたし、飛び抜けて自分自身の個性が出た曲は外すようにしたんです。

──寓話という形を採りながらも、最終的にはやはり作り手の個性や主張が滲み出てしまうものなんでしょうね。

門田:『グリム童話』なんて完全にグリム兄弟による社会風刺ですからね。宮沢賢治のイーハトヴ童話にも同じことが言えるし、世界で一番新しい御伽噺を自分自身で作るにしても、最後はそうなるんだろうなという予感もありましたから。

内田:どんな表現であれ、作り手の思想が如実に出ることは絶対に避けては通れないことですよね。俺は今まで門田の作る曲をたくさん聴いてきたけど、詞に関しては門田なりに普遍性のある判りやすい表現をしていると思いますよ。門田が書く詞は本来もっと判りにくい難解なものだし、今回は門田と俺が喋るような話し言葉に近いものがある。

門田:『the GOLDENBELLCITY』で苦労した点と言えばそこだけだね。如何に判りやすく伝えるか。物語である以上、誰が聴いても判りやすく伝わるものでなければならない。俺達は音楽家であって劇作家ではないから、そこに一番苦心しましたね。身近なスタッフと詞の内容でやり取りをしていて、その人がこちらの意図とは全然違った解釈をしていた時は“ああ、この書き方じゃ伝わらないんだな”と思って愕然としましたからね。

これだけ純度の濃い表現は他にない自信がある

01_ap3.jpg──余分なものを際限まで削ぎ落とした上で判りやすく、しかも言葉遣いに自分らしさを残そうとするわけですからね。

門田:本当に難しかったですよ。歌詞を書くのは割とたやすいほうだけど、物語を書くのは凄く難しい。

内田:最近、精神カウンセリングに関する本を読んで勉強しているんですけど、その中の書物にこんな話があったんです。イタリアのとある街に、何をされても全く怖がらない少年がいたと。街の人が幽霊が出るぞと吹聴したり、殺人鬼に襲わせたりしても、その少年は一向に怖がらない。でも、少年が帰宅して自分の影を見た途端に彼は怖がって死んでしまうんです。自分の内なる怪物に恐れを為すというか、俺にはその話が現代社会の暗部を如実に表していると思ったんですよ。国も言語も時代背景も全く違うのに、普遍性を持って自分自身の中で響くものがあった。『the GOLDENBELLCITY』にもそういう誰しもが共感する普遍性が内包されているし、2007年という今の時代にこの作品が世に問われることが凄く意義深いことだと思うんです。現代の在り方と『the GOLDENBELLCITY』の表現方法、現代社会との関係性や距離感がとても近しいものだと俺は思うんですよね。

──その内田さんの話を聞いて思い出したんですが、“Bad Drug Happy Men”と唄われる「B D H M」では、自分達のネーミングをもじって現代社会の暗部にフォーカスを当てていますよね。

門田:「B D H M」は現代人の依存性について言及したつもりなんですよ。恋愛だってドラッグだと思うしね。

──“Bad Drug”というのは、金や権威といった今や世の中の物差しになっているものも含めた総合名称ですよね。

門田:確かに。形が何であれ、依存性を増長させるのがこの現代社会だから、その歪んだ世の中が要求する依存性に対する皮肉でもあるんです。

──この三部作が『Most beautiful in the world』へとどう繋がるのかが非常に楽しみだったんですが、最後の「今、万感の想いを込めて」の“美しい事を 忘れないように”という最初の一行を聴いてなるほどなと思いましたよ。“物語がひとつ 始まりを伝える”というこの曲が『Most beautiful in the world』への架け橋の役割をしっかりと担っていますよね。

門田:でも、この曲を最後にするつもりは最初になかったんですよ。この曲が出来た時は1曲目か最後かなとは思っていたんだけど、仰る通り最後に置いたほうが『Most beautiful in the world』に繋がるなと思って。それと、クライマックスで終わりたくなかったというか、「黄金の鐘」というクライマックスの後に“to be continued”の部分が欲しかった。“the end”で終わるよりも“to be continued”にしたかったんです。

──ただ、何というかこのままでは終わらないニュアンスも何処となく感じられるんですよね。

門田:そうなんですよ。次のアルバムでは全然違うことをやろうと考えているんですけど、たとえば5年後、10年後にもう一度この物語に取り組んでみたいと思っているんですよ。どうなるかは判らないけれど、同じやり方で同じ世界の映し鏡を構築してみたい。

──それをやるには、ある程度時間を置くことが必要なんですか。

門田:でしょうね。コンセプチュアルな音楽ばかりをやるバンドにはなりたくないし。この先は単純に余り意味のない音楽をやりたいんです。『the GOLDENBELLCITY』は意味ありきで始まったものだから、その真逆の音楽をやりたい。

──それは、『the GOLDENBELLCITY』のような緻密に構築された音楽を作り上げた反動なんでしょうか。

門田:まさにそうですね。“the GOLDENBELLCITY”にいる間はこの街から早く出たくて仕方なかったんですよ(笑)。それをずっと思い続けてきた8ヶ月間でしたから。曲を作るにしても、それが『the GOLDENBELLCITY』に関連しているか、もしくはそこに糸口がなければすべてを後回しにせざるを得なかったんですよ。だから今は凄くたくさんの曲を書き上げているんです。それまではすべての基準が『the GOLDENBELLCITY』からの定点観測で、それがどんなに良い曲でも今の自分達だけの内容ならば“やらない”という選択肢しかなくて凄く辛かった。とにかく、『the GOLDENBELLCITY』は聴き方を限定させるアルバムではありますよね。

──でも、それだけ聴き手が音楽と向き合うだけの時間を専有させる作品とも言えますよね。今やそういうアルバムも少なくなってきたし、1枚のCDに費やす熱量も稀薄になってきたじゃないですか。

門田:そうですね。音楽に限らず、何かを表現している人達には必ず突き刺さるものがある作品だと思うし、これだけ純度の濃い表現はちょっと他にないという自信はありますよ。一介のインディーズ・ミュージシャンがここまでできるわけだから、俺達と同じ音楽家には危機感を募らせて欲しいですよね。表現に懸ける熱意と音楽を愛する気持ちがあれば絶対に成し遂げられることだし、次の作品に向けての自分達に対するプレッシャーにもなりますからね。

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