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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】ANOYO(2007年10月号)- 光と闇が交錯する人生を往くすべての人に捧げる、愚直なまでに赤裸々で真摯な詩

光と闇が交錯する人生を往くすべての人に捧げる、愚直なまでに赤裸々で真摯な詩

2007.10.01

身に起きたことをまず受け容れるのが大事

──ポエトリー・リーディングと言うと、とかく難解なイメージが付きまとうかもしれないけど、『リカオン』を聴くとANOYOはとてつもなくポップでキャッチーなバンドなのが判りますよね。

原田:そのつもりでやってますね。伝えるメッセージも「生きてたら楽しいよ」とか「でも、上手く行くようで行かないです」とか、極々簡単な言葉を選んで使ってますから。わざと哲学っぽいことや小難しいことを書こうと思えば幾らでも書けるんですけど、聴いてる人の理解が追い付かないとイヤだし、俺としてはそれじゃ面白くないんですよ。

──『リカオン』の収録曲はどれも、歌詞カードを読まなくても原田さんの話していることがちゃんと耳に残るんですよね。「ラジオ」の即興で語り掛ける部分もちゃんと伝わるし。滑舌がいいのは大きなアドヴァンテージだと思うんですけど。

原田:ホントですか!? 今まで散々「滑舌が悪い」「何を言ってるのか判らない」と言われ続けてきて、意識して滑舌を良くするように頑張ってきたから嬉しいですよ。

──そもそも、アルバム・タイトルの『リカオン』というのは何なんでしょうか。

原田:動物の名前です。耳がでかくて、イヌだかキツネだか判らない姿形をして小汚くて、動物の中ではかなりの上位に入るくらい好きなんです。狩りがムチャクチャ上手いんだけど、ライオンとかにうっかり横取りされちゃうんですよ。群れ方もハーレム状態じゃなくて、ボスは死ぬまでつがいと添い遂げるし、凄く家族的なんです。走るのが遅いけど声のでかいヤツは狩りの間に警戒の役目をしたり、適材適所にボスが配置したりして。そういう社会的なところがあって、俺にはそんなリカオンの群れ方が凄く人間っぽく感じるんですよね。

──リカオンの在り方と浮世に生きる人間の姿が原田さんの中で重なったわけですね。

原田:そうなんです。たとえば人間が浮気したりすると、動物的な本能が働いたなんて話をよくしますよね。でも、リカオンみたいに随分と愛らしくていじらしい動物だっているんだよっていうか。

──そういうストイックさというか、前向きで希望を忘れない姿勢は『リカオン』の収録曲にも通底していますよね。

原田:それはありますね。自分も明るく生きたいし、誰しもが明るく生きて欲しいですからね。人間って、悪いほうに酔っぱらいやすいじゃないですか? 良いことよりも悪いことのほうを過剰に受け止めてしまうし。明るく生きていくことを忘れないで欲しいっていう気持ちは常に抱いてますね。

──「24区」で唄われている“毎日を毎日歩いて行く/それは物凄く良いことなんだ”という一節も、忙しない日常に追われてつい忘れがちだけど、真理だと思いますよ。闇雲な熱量と明日へと繋ぐ活力を充分もらえるし。

原田:歌詞に関しては全部俺が考えて俺の中で完結しているので、他のメンバーからの意見はああだこうだ出ないんですよね。

前田:歌詞の内容に対してダメ出しをしたことがないですからね。あるとすれば、サイズの注文くらいです。「そこまで長いと誰も聴いてくれないよ!?」「喋り過ぎだよ!」みたいな(笑)。

──でも、「ブシ」という曲はほとんど唄わずに喋りだけで引っ張って行く9分近い大作ですよ?(笑) もちろん、冗長さを全く感じずに聴けるんですけどね。

原田:今回、アルバムを作るために初めて歌詞を起こしたんですけど、自分でも異常な長さだと感じましたからね(笑)。即興にする部分というのは、たとえば「ブシ」なら「ブシ」のテーマから外れないところで喋るから、「ブシ」の中で「24区」みたいなことは喋らないんですよ。

──ただ、「ブシ」と「24区」はコインの裏表のような関連性があると感じましたけど。

原田:その2曲は“対”の関係ですね。出来たのは「ブシ」のほうが先で、3、4年前からある曲なんですけど。明るく生きて欲しいし、楽しく生きて欲しいし、出来る限り笑いながら生きて欲しいという思いがどちらも基本にはあるんですよ。ただ、当たり前のように明日も辛いことがあるのは本当だよっていう部分を省くと、今度は楽しさに酔っぱらっちゃうじゃないですか? 大事なのは、身に降り掛かったことは良い悪いに関係なく受け容れて、そこから自分でどうするかを考えることだと思うんですよ。まずは受け容れることから始めないとダメだと俺は思っているんです。「24区」では、日々の暮らしは幸せなことのほうが多いよって唄ってるんですよ。2番目の歌詞で、朝起きたら決まった時間に会社へ行って、“毎日が毎日の繰り返しだ”と喋ってる部分があるんですけど、それは当たり前の話なんです。メシを食うために仕事をすれば繰り返すしかないし、そこから目的を持って行動できる人間なんてなかなかいないし、棚からぼた餅もそうそうあるわけじゃないっていうのが本当のところだと思うんですよ。

──全くの同感です。「ブシ」も「24区」も物事の光と影の両面にちゃんとフォーカスを当てているし、安直な頑張れソングとは一線も二線も画していますからね。

原田:肯定はしてあげたいけど、「頑張れ」とは余り言いたくないですね。どんなにフラフラしてるヤツだって、みんな頑張ってるんだから。フラフラするのだって、それはそれで大変ですからね。

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音楽が変えるのは世界じゃなく、人の心

──「ブシ」と「24区」が長尺の曲でありながらも滞りなく聴けるのは原田さんの声の説得力も大きいんですけど、バンドのアンサンブルがしっかりしているからこそだと思うんですよ。

小林:でも、各々のパートが他のパートに対して余り口出しをしないバンドなんですよね。そこは暗黙の了解なんだけど、最後はちゃんとキレイにまとまるのが僕らのやり方なのかなと。

──バンドのリーダーは小林さんなんですよね?

小林:いや、僕は象徴的なリーダーですね(笑)。大抵はイエス・マンなので、バンドは上手く回ってると思いますよ(笑)。

原田:バンドのバランスは凄くいいですよ。バンド内の悩みとか人間関係の不和の話をよく聞くけど、俺達はそういうのとは無縁ですね。

──一見、原田さんのワンマン・バンドのようにも思えるけど、ちゃんと音源を聴けば、誰が欠けても成立しないバンド然としているのがよく判りますよね。

原田:むしろ、俺が一番権力がないですからね。会社で言えば、入社早々いきなり窓際に追いやられるくらいの平社員ですよ(笑)。平どころか、雑巾掛けから始めるバイトみたいなもんです。たまにみんなの湯飲みに雑巾で絞った水を入れたくなるんですけど(笑)。

──アルバムで箸休め的な役割を果たしている「5884」は、要するに「コバヤシ」ということですよね?

一同:
オオーッ!

前田:初めて解読してくれた人がいました!(笑)

──果敢にもヒューマン・ビート・ボックスに挑戦されていますけど(笑)。

小林:というか、あれでも一応歌なんですけどね。歌詞が書いてないだけで(笑)。“ド、チ、タ”…つまり“どっち行った?”って唄ってるんですよ。

前田:よく言うわ。そんなこと初めて聞いたよ(笑)。「5884」は小林がヒューマン・ビート・ボックスなんてできないのを判ってて僕が提案したんですけど、まぁ笑ってくれればいいなと思って。

原田:情報量の多い曲が多過ぎるから、そんな息抜きの曲もあったほうがいいなと思ったし、いいフックにもなってるんじゃないかと。

──確かに、「ブシ」と「24区」が続けて配置されていたら息苦しい印象は拭えないでしょうね。

小林:最初はそういう手もあったんですけどね。でも、それは常識としてないだろうと思って。

──パニックスマイルとナンバーガールが融合したかのような「ジェーン」やジャジーな雰囲気のある「カルキ」、パンキッシュな「アンネ」など、曲調はヴァラエティに富んでいて最後まで飽きさせませんね。

前田:元々、僕はアップライトのベースを弾いていたくらいですからね。壊れてから使わなくなっちゃったんですけど。

小林:結果的に多彩な曲が揃ったのは、自分達が飽きないようにするためでもあるんですよ。仮にパンク一辺倒だと自分が非常に退屈してしまうと思うので。どのジャンルもつまみ食いしたい欲求が根本にあるんでしょうね。

前田:それはあるね。どんなジャンルでも万遍なく好きだし、ルーツ・ミュージックみたいなものが特にないからじゃないですかね。

──良い意味で根無し草なんでしょうね。でも、だからこそ何かのフォロワーで終わらずに確たるオリジナリティを生み出す土壌がある。

原田:だから最初の頃は他のバンドによく言われましたよね、「何がしたいんだか、どういうジャンルなんだか訳が判らない」って。

林:僕が加入した時も、バンドの背骨らしきものもまだ何もなかったですからね。

前田:最初は「何だこりゃ!?」と思いましたよ。演奏がまず全然できてなかったし、完全に我流でやってましたから。今のスタイルになって、ここまで濃くなったのは本当に最近のことなんです。

原田:今でこそリーディングをやるバンドも増えてきましたけど、俺達がバンドを始めた頃は青春パンクの真っ只中で、完全に浮いてましたからね。バンドを始めてからいろんなバンドのライヴを観てきたんですけど、「音楽が世界を変えるんだ!」みたいな熱い物言いが俺は大嫌いで、そんなわけねぇだろ! と思ってたんですよ。それは今でも強く思いますね。

──でも、その音楽を聴いた人の人生が変わることは往々にしてあるんじゃないですか。少なくとも、その人の生活の半径3メートル以内は確実に変える力はあるでしょう。

原田:ええ、音楽が変えるのは世界じゃなくて、その人の心だと思ってますからね。でも、世界を変えるのはあくまでも人ですから。音楽で世界を変えたいと思ってるんだったら、早くバンドを辞めて政治家になったほうがいい。繋がってるようで繋がっちゃいないんですよ。音楽が必ずしも聴いた人の心に良い変化を与えるわけじゃないんです。聴いた人の気持ちを明るいばかりでなく、暗い方向に持って行くこともできるわけで。俺は音楽が何かのためにあると思ったことはないですけど、もしも音楽が変えられることがあるとしたら、音楽は人がやってるものだから人の心は変えられると思うんです。その音楽も、結局のところ俺が話せるのは俺が思うこと以外にないんですよ。

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