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トップインタビュー【復刻インタビュー】the band apart(2007年9月号)- 木暮栄一(ds)が語る新作『fadeouts (for JUSTICE)』の方向性

木暮栄一(ds)が語る新作『fadeouts (for JUSTICE)』の方向性、

2007.09.01

the band apartが自身のレーベル"asian gothic label"を立ち上げて早3年。これまで幾度となく共演を重ねてきた国境を越えた盟友、mock orangeが3年振りとなるニュー・アルバム『CAPTAIN LOVE』を発表するのと同時に、彼らもポテンシャルの高い最新曲2曲を収めた限定シングル『fadeouts (for JUSTICE)』を世に問う。これはthe band apartの『RECOGNIZE ep』とmock orangeの『mind is not brain』がレーベル初のアイテムとして発表された3年前を彷彿とさせ、この強力な2作品を基点に"asian gothic label"が新章に突入したことを強く印象付けるものである。来たる4年目以降も同レーベルが良質な作品をコンスタントに量産していけるようエールを送るべく、本誌では堅い絆で結ばれた両バンドのインタビューをお届けしたいと思う。(interview:椎名宗之)

'80年代のニューウェイヴを意識した最新シングル

──the band apartのシングルとmock orangeのアルバムが同時リリースと言うと、3年前の12月に“asian gothic label”から初めて音源が出たことを思い出しますね。

木暮:そうですね、言われてみれば。あれから3年も経ったんですね。早いな。特に計画らしい計画も持たず、目標らしい目標も持たず、流されるままここまで来たので、余り実感はないですけど(笑)。

──去年の12月には両国国技館でのライヴも成功を収めて、3年前にはそんなこと夢にも思わなかったんじゃないですか。

木暮:ホントですよね。まさか日本の国技が行なわれる場所でライヴをやるなんてね。国技館でスタンディングのライヴが行なわれるのは、俺達がやった時で何年振りとかだったみたいですけど。でも、今思うと…“ホントにあそこでライヴをやったのかな?”っていう感じですよ。あの日も結構緊張してたし、あっという間に終わりましたからね。

──木暮さんは緊張するほうなんですか? いつも何事にも動じないクールな印象があるんですけど。

木暮:緊張はしますよ。クールな時は緊張してる時なんです。だから、大抵は緊張してます(笑)。

──今回の限定シングル『fadeouts (for JUSTICE)』ですが、間に両国国技館でのライヴを収録したDVD『Stanley on the 2nd floor』がありつつ、音源としてはサード・アルバムの『alfred and cavity』以来、約1年振りとなりますね。

木暮:そろそろ何らかのリリースをしていこうとレーベル・スタッフから提案があって、リリースの形態を考えるところから始めたんです。去年出したmock orangeとのスプリット・シングル『DANIELS E.P.』と同じパッケージにして、色違いにしようと。そのアイディアがまず最初にあった感じですね。

──収録曲の「shine on me」と「Moonlight Stepper」は以前からあった曲なんですか。

木暮:いや、リリースが決まってから出来た曲ですね。レコーディングが6月だったかな。その前にプリプロは間に合わないな、ってことになって──まぁ、それはいつものことなんですけど(笑)、合宿みたいなものをSTUDIO VANQUISHでやりまして。1人最低1個ネタを持ってくれば4曲出来るから、そこから2曲ピックアップしようっていう大人びたことを最初は言ってたんですけど…。

──案の定、その思惑通りには行かなかった、と(笑)。

木暮:ええ。まず俺が最初に持って来たネタは、相当練習しないと叩けないドラム・パターンだったのでボツになったんですよ。自分で考えておきながら(笑)。川崎(亘一/g)が持って来たのはF1中継のオープニング・テーマみたいなワン・フレーズで、それ以降発展しなくてダメで。原(昌和/b)と荒井(岳史/vo, g)が持って来たのも最終的には後回しになって、結局はゼロから作ることになったんですよね。

──1曲目の「shine on me」は誰の持ちネタから発展していったんですか。

木暮:原ですね。ボツにしたネタとはまた別のネタを幾つか付け足したんです。それも途中で煮詰まって、原が「このネタつまらなくない?」って言うのを「いや、これはいいんじゃない?」って諭しながら作りましたね。

──原さんは自分のネタに新鮮味が感じられなかったんですかね。

木暮:1人でずっと考え続けてたネタだから、自分では判断しかねる部分があったんじゃないですかね。

──「shine on me」は、最初に聴くとLPで言うところのB面1曲目っぽい地味な印象もあるんですけど、何度も聴き込むうちにシングルの風格が出てくる曲だと思ったんですが。

木暮:自分達としては、'80年代のニューウェイヴっぽいものを意識したんですけど…余りそうはならなかったですね。往々にして狙った通りにはならないものですよね(笑)。

──構成も派手な展開ではく、グルーヴを敢えて抑えながら最後の最後に大きなうねりに持って行くところが渋いかな、と。

木暮:そうですね。どういう訳か、余りキャッチーなところは出さないで行こうっていう話をみんなでしてましたからね。

捉え所がないけど良さのあるものを作りたい

──その時々のメンバーの音楽的嗜好が作品に反映されるのがthe band apartの常ですから、今はニューウェイヴなモードということなんでしょうか。

木暮:聴いてる音楽に関して言えば、これまでは4人とも好んで聴くのがバラバラだったんですけど、今はジャズの混迷機からWEATHER REPORTが超新星として現れた時期の音楽を全員がタイムリーに聴いてますね。あと、チック・コリアがスタンリー・クラークとやったRETURN TO FOREVERとか。まぁ、まだ聴き始めだから、俺はWEATHER REPORTくらいしか深く聴いたことはないんですけど。「shine on me」が出来たのをきっかけに、そういう音楽を聴くようになった感じですかね。

──エンディングのほうで聴かれる不協和音には、そんなクロス・オーヴァー系の即興性も感じられますね。

木暮:最近はああいうのがやってて楽しいんですよ。でも、それをあからさまにやるとメチャクチャなことになるから、おまけで付けたみたいな感じですね。

──2曲目の「Moonlight Stepper」は「shine on me」と一転してキャッチーな要素もあって、バンドが目指した'80年代のニューウェイヴっぽさも垣間見られますね。YESの「OWNER OF A LONELY HEART」とかTHE POLICEの「EVERY LITTLE THING SHE DOES IS MAGIC」みたいな匂いもあり。

木暮:この曲は荒井が元ネタを持って来たんですけど、そういう感じのことを言ってましたね。'80年代のロックっぽいメロディ主体で、ずっと聴いていたくなるようなもの、捉え所がないんだけど良さのあるものを作りたいって。これも余り派手さはない曲かもしれないけど。

──“Don't stop the radio”っていうフレーズとメロディがどことなく'80年代っぽいですよね。

木暮:“No, No, No, No”っていう歌詞も何となくそれっぽいですよね(笑)。歌詞を考えてる時に、ここまで来たらそういう方向にしようと思って。'80年代と言っても、日本のそれっぽい感じがしますけど。

──サウンドの質感としては、『alfred and cavity』の延長線上にあるのかなと思ったんですが。

木暮:そうですね。ただ、ドラムは『alfred and cavity』の時よりもオープンにして、残響が出ちゃうくらいにしたんですよ。俺としては、「Moonlight Stepper」は'80年代のLAメタルのスネアの音とか、ドラム・マシーンのチープな音みたいな感じで録りたかったんですよね。それをエンジニアに伝えて、チューニングを色々といじったりしてましたね。寂しい感じの曲だから、ドラムがちょっと後ろのほうで鳴ってる感じにしたかったんです。そこは結構思ってた通りに出来たと思いますね。

──シングル・タイトルの『fadeouts (for JUSTICE)』というのは?

木暮:「shine on me」も「Moonlight Stepper」も、フェイドアウトで終わる曲なので。

──単純明快ですね(笑)。以前、本誌のインタビューで原さんが「mock orangeは音源を出すたびに変わっていくのが魅力」と仰っていましたが、the band apartにも同じことが言えると思うんです。だから、今回のシングルが次のアルバムのヒントにはならないと思うんですが、如何でしょう。

木暮:今は何とも言えないですけど、違う感じになっていくんじゃないですかね。ライヴで昔の曲をやっていても、段々と手癖が違ってきたのが判るし。やっぱり、昔の曲のほうが認知度は高いじゃないですか? だから野外フェスとかで「この曲はやっておくべきか?」みたいな話はいつもしてるんですけどね。

──でも、不特定多数が集まる野外フェス然り、“STUDIO VANQUISH TOUR”ファイナルのステラボール然り、大きな会場では人気の高い初期の曲をかなりの確率でやりますよね。

木暮:ああ、言われてみるとそうかもしれない。まぁ、“これは必殺ネタだ!”と思って作った昔の曲を今聴くとピンと来なかったりもするけど、それは時期的なもので、その時々の嗜好に左右されますからね。昔は“ヘンな曲だな”と感じてた曲が今は凄くキャッチーでいいなと思えたりもするし。

──木暮さんが感じるキャッチーな音楽とは、たとえばどんな類のものですか。

木暮:ジャクソン・ファイヴがやってたフリー・ソウルとかですかね。人によって“キャッチー”っていう言葉から想像する音楽は違うんでしょうけど。

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