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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】松井常松(2007年8月号)- ソロ・キャリア始動から19年、唄うことのリアルさを追求した真の"よろこびのうた"

ソロ・キャリア始動から19年、唄うことのリアルさを追求した真の“よろこびのうた”

2007.08.01

有機的なコミュニケーション・ツールとしての「歌」

──確かに、本作を聴くと松井さんの音楽的なルーツは非常に見えにくいですね(笑)。

松井:ルーツはないんだよ。ジャンルレスだから。あるとすればBOφWYだろうね。あれだけ長くひとつのことをやっていたわけだから。特に布袋君(布袋寅泰)から受けた影響はかなりあると思う。コード進行とかに自然と表れている時があるからね。

──BOφWYというバンド自体、ストレートな8ビートからポップの宝石箱をひっくり返したかのような多面的な音楽性までを内包したバンドでしたよね。

松井:そうだね。「わがままジュリエット」みたいなメロウな曲がある一方で、「ON MY BEAT」みたいに荒削りで対極的な曲もあったからね。

──囁くようにソフトな松井さんの歌声が耳に残るサウンド・メイクが施されていますが、唄い込みは何度もされたんですか。

松井:いや、そうでもない。ベースを抱えてライヴ・パフォーマンスをしていた頃は、もっとロックな感じで強く唄いたいと思っていたし、求められていたのもシャウトみたいな唄い方だったと思う。でも、『Nylon nights』を作った後に思ったのは、そうやって強く唄うのは僕の声が活きることではないんだろうな、と。ようやく自分の声をプロデュースできるようになってきたというかね。僕の声に魅力があるとすれば、低音が優しく柔らかく出るところだと思うんですよ。だから今回は自分の声を活かすように作ったし、力まずに唄わないと自分のいいところは出ないんだと思った。要するに、強く唄えないという短所を長所だと認識できるようになったんじゃないかな。短所というのは強力な個性であって、それを長所として引き伸ばしていけばいいだけ。足りない部分は他のものでフォローしていけばいいし、それが結果的に唯一無二のものになる。僕も音程やリズムが取れない部分はまだまだあるんだけど、そこを突き詰めたところで人を感動させるものにはなりにくい。それよりも、自分の中でニュアンスが素直に出たものであれば、音程やピッチが多少ズレていてもOKにしたところがありますね。

──情感に基づいた声の震えに嘘はないし、そうした瞬間を切り取るのがパーソナル・アルバムの醍醐味ですからね。

松井:今できないものを今記録しておいても意味がないしね。でも、ずっと今のままでいるつもりはなくて、もっともっと歌もギターも巧くなりたい。まぁ、この歳で言うことではないかもしれないけど、ギターを弾きながら唄うという今一番面白いことを発見しちゃったから、飽きっぽい僕にしては珍しく向上心があるんですよ(笑)。

──松井さんにとって、唄うことの面白さとはどんなところにありますか。

松井:どうやら僕は、人が大好きみたいなんですよ。意外に思われるかもしれないけど、今のライヴは演奏を全体の2/3だとすると、残りの1/3はトークなんです。そうやって顔の見える空間でみんなとコミュニケーションを取りながら気持ちが高揚していって、最後は凄く満足した表情で会場を後にしてくれるのが純粋に楽しい。オーディエンスが30人であっても、150人でも構わない。つまり僕にとって歌とはコミュニケーション・ツールなんですよ。同じことをベースでやろうとしても無理。だからもっと歌のクォリティを上げて、技術的に自分で甘んじているところを磨いていきたい。そのためにも、今は3日に一度はステージに立ちたい。キャパシティは問わずに、松井常松という人間の中身をどんどん見せていきたいんです。BOφWYを好きな人達はそれはそれでいいし、僕も大好きなバンドだし、あの中での松井常松っていうベーシストは確かに恰好いい。あんなにシンプルで恰好いいプレイをするヤツは今までいなかったしね。それはそれだけど、今の自分がやりたいことは明確に違っている。仮に今やっている形態のライヴを1万人収容のホールでできる日が来たとする。そうなればそれ相応のショーを作る自信が僕にはあるし、そういうのは全部イメージできるからね。

──BOφWY時代の寡黙なイメージが根強くある人達には、トークが1/3を占める今の松井さんのステージを観たら少々面を喰らいそうな気もしますけど(笑)。

松井:確かに最初は面喰らってるけど、帰る時にはみんな大好きになってますよ。そういうふうに自分をオープンにして楽しんでやっているからね。まだ僕のソロ・ライヴを観たことがない人は、是非一度遊びに来て欲しいですね。

──目下、CAPTAIN FUNKこと大江達也さんのプロデュースによる完全インストのベース・アルバムを制作しているそうですね。

松井:もう5曲くらい一緒にやってるんだけど、リリースはまだ未定の状態ですね。布袋君にプロデュースしてもらったGROOVE SYNDICATEというソロ・プロジェクトをやった時に大江君にも2曲くらいお願いしたんだけど、それが面白かったんですよ。あのシンプルなベースとデジタル・ビートの相性が凄く良かった。あれはあれで面白い世界が広がっていきそうだなと思ってね。ベースのリフを50個くらい大江君に渡したんだけど、僕が提供するのはプラモデルのパーツみたいなものかな。いや、プラモデルは完成型が見えてるからそれも違うね。

──プラスティックの断片かもしれませんね。

松井:そうだね。その断片を彼が好きなように組み立てていく発想なんです。いずれちゃんとした形にしたいね。9年間のブランクがあったから、アイディアは豊富にあるんですよ。そのアイディアの数々を早く形にしていきたい。

──解散から20年を経た今もなお、新たなファンを獲得し続けているBOφWYというバンドをどう思いますか。

松井:今の30代半ばから40代の世代の人達には強力な擦り込みになっているよね。“BOφWYと出会って人生が変わった”と言ってくれる人達の存在を忘れちゃいけないと思っています。僕自身、BOφWYに参加していなかったら、今みたいに自由奔放な音楽の作り方はできなかったかもしれない。僕がBOφWYから学んだのは“何をやってもいいんだ”という根拠のない自信、そしてロックとは自由であるべきだという姿勢なんです。だからこそ、この『Lullaby of the Moon』のように多彩な曲が揃った作品を生み出せたんだと思いますね。

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