Good Dog Happy Menがお届けする、現代のお伽噺。それが"GOLDENBELL STORY"。三部作で構成されるこのお話は、お伽噺でありながらイマジナリティーとリアリティーが混在し、聴く者に風景を想像する楽しみを与えてくれる。また、ドラムの内田武瑠氏が描くイラストと照らし合わせながら聴いていると、the GOLDENBELLCITYは実存している街なのではないかと、非現実的と現実が混ざった作品の世界にすっかり入り込んでいる自分に気づく。the GOLDENBELLCITYの理想郷となった『Most beautiful in the world』から1年。ようやく真実の扉が開かれることになった。ここからたくさんの不思議なお伽噺が歌い継がれ、伝えられていくことになるだろう。(text:やまだともこ)
音楽を聴いて想像をさせること
──今回三部作でリリースされる『GOLDENBELL STORY』の第一章なんですが、改めて三部作で作品を世に出そうと思った経緯を教えて下さい。
門田:もともと前作『Most beautiful in the world』を出した後に、次はもっとボリュームがある作品を出したいって話をしてたんですよ。ボリューム感のあるものを出すなら少なくともシングルじゃないと考えたときに三部作っていう案があったんです。それを全部同じバランス、同じボリュームというわけでもなくて、第一弾はEPだけど、第二弾・第三弾は全然違う形で考えていて、結果、膨大な曲数が必要になったという経緯です。
──ライナーノートによると、「26年間分の『十分不思議な現実』を音にできないか」ということですが。
門田:俺たちはファンタジーっぽい歌を歌ってるんじゃないかと思われていると思うんです。でも、歌詞を読んでもらえばわかるんですけど、ファンタジーは風景として使っているだけで現実の話と思ってもらえたら、現実がどんなに歪な形なのかと言うことが伝わるかな。当たり前のことを当たり前と思わないで欲しい。携帯電話でメールするでしょ。そのコミニュケーションツールを使うことによって人間関係がどれぐらい変わったかな。小中高の時は(メールは)なかったから、コミュニケーションの仕方がすごく気になる。
──昔は携帯がなくてもコミニュケーションは充分に事足りてましたからね。
門田:インターネットに関しても情報を垂れ流すテレビもそうだけど、与えられたものをそのまま受け入れることしか今の俺たちに許されていない。情報を考える時間がないんです。そういう社会のあり方に対するアンチテーゼ的な音楽。目を見ればコミニュケーションできるんですけどね。“等身大のリアル”っていう武器を持っちゃったから、日本の音楽はそこの一点がダメなんですよ。これまでの日本の音楽は物語としても聴けたけれど、今はリアリティーを感じないとおもしろくないという価値観になってますよね。そこがずれてるのかなって思います。
──どこにリアリティーを置くか。聴いた人それぞれに想像しながら聴いてほしいっていうところですよね。
門田:俺たちは洋楽ばかり聴いているんだけど、英語がわからないから、ひょっとしたらこういうこと歌ってるのかもしれないって想像するんですよ。それで和訳を読むとずれてたりするんですが、俺が考えた意味の方がロマンチックだなとかがおもしろいんです(笑)。音楽を聴くことによって風景を想像する。それを与えてくれない日本の音楽っていうのはつまらないんですよね。
──Good Dog Happy Menなりの新しい音楽の提示の仕方がこの『the GOLDENBELLCITY ep1』となるわけですね。the GOLDENBELLCITYとは架空の国なんですか。
門田:国というか街ですね。三部作全部聴いたらどういう街かわかるようになっているんです。今はこの街に“Groria Street”という通りがあることぐらいしかわかってないんですよね。
──内田さんは、門田さんとイメージを話し合ってからイラストを描いたんですか?
内田:視覚的なものは全て俺のイメージです。ただ、俺が一人で考えてるものではなくて、手を動かしたのが俺なだけで、門田の詞だったり、リハ中にみんなで演奏したときに手を動かしているので話し合いはしないです。でも俺が描いた絵を門田が違うって言わない自信がある。初めて絵を見せる時はビックリしてますけど、不思議と軸はずれてないんですよ。 伊藤 いつも予想以上のものができあがるんですよ。
──あくまでバンドのサウンドからインスピレーションを受けて…。
内田:基本そうですね。あとは自分の想像。三部作だからまだ発表されてない曲が今回発表されてる曲につながっていたりする部分もあるので、想像してつなげて聴いて欲しいですよね。
門田:音楽っていう表現=ライブと音源じゃないですか。ライブに関してはみんな表現というのを言及するのに、ジャケットは人に任せちゃうのが不思議ですね。
内田:自分たちで表現できる部分は精一杯自分たちでやって、できない部分はまわりの人に助けを求めて。俺らはいい環境でやれてるなって思います。
0.1%の真実
──門田さんが描く“the GOLDENBELLCITY”はどこに在るんですかね。
門田:the GOLDENBELLCITYはGood Dog Happy Menという楽団がいたとしたら、その楽団が生まれ育った街なんじゃないかな。俺たち4人は共通の故郷はないから架空なんですけど、通っていた中学とか高校とか一緒の時間を過ごした場所が一番近いかもしれないですよね。
──どんな街なんですか?
門田:今の時点で言えることは全然ないんだけど、the GOLDENBELLCITYっていう街はすでにもうないんですよ。そこに住んでいた人なりのメモリーのひとつひとつなんです。メルヘンな世界観の住人もいるんだけど、悪い薬ばっかりやってる人もいたりするんです。等身大のリアルさという切り口で世界を語るとすれば、やれて四畳半までじゃないですか。だからもしかしたらthe GOLDENBELLCITYにも住めるんじゃないかなって思うところまでいきたいんです。こういう世界は廃墟になるということはわかるし、東京だってそうなるときはある。時間軸としての街の流れ、この街の始まりから終わりまでを三部作で描きたいんですよ。
──その理想郷とするものが『Most beautiful in the world』。このアルバムからさかのぼったお話ということですね。
門田:結果としてですけどね。最初にエンディングを出す気はなかったから。
──でも謎かけはありましたよね。『(can you feel!?)~Most beautiful in the world~』で「話は続く」って歌ってましたから。
門田:そういう意識だけはあったんです。バンドの物語として、ひとつの物語をずっとやれたらなって思ったんです。
内田:現実味があるから、演奏するときもこの世界の何を歌ってるのかなってすごく考えます。風景として伝えられればって思った時に、子供の頃はサンタクロースがいるって信じてたけど、今は99.9%いないって思うんです。でも0.1%いるかもしれないって思う。俺らはそこの0.1%の真実を歌ってるのかなって。曲を聴いたり歌詞を読むとそんなことを思います。
──表現って曖昧で、いくら感情を吐露すると言っても、フィルターを通すと不純物が入るから、結局のところストレートじゃなくなりますよね。
内田:俺らは音楽をやり始めたときの気持ちの部分をやってる気がする。
──ところで、GOLDENBELLの名前の意味は?
門田:GOLDENBELLはとっても皮肉を込めているんです。黄金の金。強いシンボルですよね。今回鐘がいろんな曲のいろんな部分で出てくるんです。戦争に召集される合図の鐘だったり、時計塔の錆びた鐘がぶらさがっているだけだったり、旅に出る発車のベルだったり、悲しく聴いてる人や、ものすごくワクワクしながら聴いている人や、聴く人によって印象が変わるもの。そういったものを人工物で表現したかったから鐘にしたんです。
内田:Groria Streetも“Gloria”とは違う字面ですからね。いろんな解釈ができる。
門田:真実っていうのはこの世にない。そこを音楽で強く言いたいんですよ。俺がサンタはいるって思ったら俺にはサンタがいるんだよ。科学的に証明できる物質としてのサンタなのか観念としてのサンタなのかっていうのはあるでしょ。観念としてのサンタなら存在してもいいと思う。そうやって自分で決めていかないと。まあ俺はサンタいない派ですけど(笑)。