Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】増子 直純(怒髪天)×三遊亭 小遊三 後編(2007年6月号)- 憧れの小遊三師匠と落語をめぐる大放談!

憧れの小遊三師匠と落語をめぐる大放談!

2007.06.01

噺は八分目のところで終わらせるのが粋

z_01.jpg増子:俺は一時期バンドをやめて、3年間働いてたことがあるんですよ。穴あき包丁の実演販売をやったりしていたんですけど、一度本気で落語家になろうと思ったことがあるんです。でも、弟子入りするのも大変だろうなぁ…なんて考えてるうちに、またバンドを再開しちゃったんですけどね(笑)。

小遊三:いやぁ、バンドは一人でやってるんじゃないからねぇ。こりゃあ大変なことだと思いますよ、ましてや増子さんはリーダーとしてまとめ役をやらなきゃいけないわけだから。

増子:でも、メンバーがいると楽なんですよ。ちょっとテンションが下がることがあっても、他のメンバーとフォローし合える相互作用がバンドにはありますから。それに比べると噺家さんはたった一人なわけだし、もし体調が悪くなったりしたら替えが利かないし、大変ですよね。

小遊三:まぁ、自分と気が合わなくなったら病院へ行くしかしょうがないよねぇ(笑)。やっぱりそりゃあ、何人かでやるほうがパワーが出るのは何事も間違いないことでね。でも、それはそのぶん苦労も多いと思うんだよね。

増子:確かに、個々人が引かなきゃいけない部分もありますからね。

小遊三:その点、噺家は一人一人のパワーは小さいかもしれないけど、気楽だよね。でも、噺家なんて誰にでもなれますよ。そんな向き、不向きもヘチマもないですよ。言ってみりゃあ、職工さんみたいなものだからね。同じ所にスパーン、スパーンとグラインダーを掛けられるようになればイイのと同じですよ。毎日、毎日高座に上がって、偉大な先人達がその時代、その時代にやり続けてきた古典落語を「こうやったらウケるよ」って教わって、それを自分でやってみてスパーンと笑わせられなきゃしょうがないでしょう?

増子:平たく聞いたら確かに仰る通りなんですけど、実際にやってみると難しいものですよね。真打の噺家さんは枕の部分を聞いただけでも“上手いなぁ…”と感服するし、看板になってる人はもう噺の始めから違いますからね。時事ネタを採り入れるのも凄く自然ですし。

小遊三:いやぁ、時事ネタを採り入れるのは逆に増子さんのほうがお上手でしょう。昇太みたいに新作落語をやる人は毎朝新聞を読んだりなんかして色々と考えてるんでしょうけど、僕らよりもライヴをやってる人のほうが上手いんじゃないですかねぇ。

増子:でも、シリアスな曲の前のMCで笑わせるわけにもいかないですからね(笑)。ただ、俺は基本的に人を笑わせることが凄く好きなんですよ。

小遊三:お客さんがドカーンと笑うと気持ちイイですよね。あれは何とも言えない快感ですからねぇ…。

増子:そんな性分なので、「MCが長すぎる!」ってスタッフに怒られたこともあるんです。ワンマンのライヴで2時間半超えちゃって、その内の1時間は俺が喋り倒してたみたいで(笑)。だけどホント、落語はちゃんと勉強したいと思ってるんですよ。特に古典落語は凄く好きなんですよね、とにかく面白いから。同じネタでも噺家さんによって終わり方が全然違うじゃないですか。志ん生師匠の噺を聞いてると、“ここで終わっちゃうの!?”って唐突に終わるのもありますよね(笑)。

小遊三:あるある。そういうのは単純に時間がなかったり、“お客さんがドカーンと笑ったからもうこの辺でイイや”ってんで終わらせたりもするんですよ。例えばね、噺の終わりのほうでドカーンとウケて、サゲ(オチのこと)があとこれっぱかり残ってると。しかも、そのサゲが余り面白くないと。それをわざわざ最後までやっちゃう人がいるんです。そういう時は、ドカーンとウケた時点でサーッと下りてくりゃあ粋なもんなんですよ。ドカーンと来たらもうちょっと話したくなって、ちょいとオツなところを聞かせようなんて思っちゃダメなんです。“もうちょっと聞きたいな…”って思う八分目のところでサッと終わらせることができりゃあ、お客さんに“ああ、面白かったなぁ…”って思わせることができるんです。

z_02.jpg増子:なるほど、その引き際が肝心なんですね。ラジオ演芸とかの音源を聴くと、まさにそんな感じですよね。突然サクッと終わっちゃいますから。

小遊三:昔のラジオは生でしたからねぇ。「生で13分半でお願いします」なんてお願いされてやってるので、サゲまで行かずに途中で終わっちゃってるのもあるでしょうね。あとは、間の部分をスッポリ抜いてサゲに繋げることもありますね。短くするのは長くするよりも楽ですよ。長くするにはゆっくり喋んなきゃいけない(笑)。

増子:俺がやってた穴あき包丁の実演販売も、口上を師匠から聞いて教わるんです。でも、教わったそのままをやると師匠に怒られるんですよ。そこで自分なりにアレンジしなくちゃいけないんですけど、ヘンにアレンジしすぎるとまた怒られるんです。じゃあどうすりゃイイの!? っていう(笑)。古典落語もそれに近いのかなと思うんですよね。

小遊三:うん、そうですよ。「そっくりそのままやったら影法師でダメだから、自分で工夫しなさいよ」って弟子に言うんだけど、これが面白いもんでね、たいてい師匠の悪いところを真似ちゃうもんなんですよ。だから稽古してあげるのは、稽古するほうも勉強になるんです。“そこ、おかしいぜ”なんて思っても、よくよく考えると自分がそういう話し方をしてるんですね。だから、師匠の良くないところをスーッと避けていくようなヤツは伸びてくね。

このアーティストの関連記事

酒燃料爆進曲

TECI-119/1,200円・税込

amazonで購入

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻