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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】中島卓偉(2007年5月号)- 2007年の新たなモードは"歌の際立ったスタイリッシュな音楽"

2007年の新たなモードは“歌の際立ったスタイリッシュな音楽”

2007.05.01

昨年3月、それまで以上に幅広い音楽性を体現していきたいという志から、アーティスト名をTAKUIから本名に改めた中島卓偉。佐橋佳幸をプロデュースに迎えた一連の作品で著しい成長を遂げた彼が今年新たに見据えたモードは、スタイリッシュな音楽を標榜すること、伝えるべき言葉をしっかり聴かせる歌を作ることだった。飽くなき表現欲求と妥協なきストイシズムを究めた結果生まれたアルバム『僕は君のオモチャ』は、従来のロック・モード全開な"動"の部分と己の内なる深淵を臨む"静"の部分がバランス良く表出した会心の作である。6月から展開される全国ツアーに合わせて、まさにライヴ映えする7曲を揃えたこの待望のアルバムについて卓偉本人にじっくり話を訊いた。(interview:椎名宗之)

多面的な意味を持つ『僕は君のオモチャ』

──率直にお伺いしたいんですが、前作までの佐橋佳幸さんのプロデュースからの反動で、今作はロック的な要素を強く打ち出そうという意図があったんですか。

卓偉:いや、そんなことは全然ないんです。佐橋さんと作ったアルバム『傘をささない君のために』が出たのは去年の5月なんですけど、元々一緒に仕事を始めたのは一昨年くらいからで、お付き合いさせて頂いてもう2年以上になるんですよ。初めて一緒に作ったのが一昨年の11月に出たシングル(『雪に願いを』)で、計シングル3枚とアルバム1枚を一緒に作ってきて。で、次はもう一度ひとりでやってみようと思ったんですよ。だから反動っていうよりは、今回はそこからもうちょっと進んでみようっていうところから始まったんです。

──サウンド的には、去年の11月に発表されたシングル『いま君に逢いたいと思うこと』からガラッと変わった感じはしますよね。今の卓偉さんが志向するありのままが出ているというか。

卓偉:そうですね。佐橋さんから学んだことはいっぱいあって、言葉は悪いですけど盗むところは全部盗んだつもりだし、活かすところは活かさなきゃいけないと思っているんです。毎回出す音楽にその時の自分のリアリティを出さなきゃいけないっていうのが一番重要なので。今年に入ってから作っていたデモ・テープの中から、“今の自分の唄いたいものはこれだな”って選んだ感じですね。

──思いのほかストレートで感情が剥き出しの曲が揃いましたね。

卓偉:色々細かいところとかエディットにこだわった時期もあったんですけど、最近はいい意味で面倒くさくなってきたんですよね。それよりも瞬発力というか、一気に走り切った感じというか、あまり作り込まないところにベクトルが向かい始めていますね。

──料理にたとえるなら、素材の味を最大限引き出すことを大事にするような。

卓偉:ええ。塩と醤油だけでいいだろう、みたいな。さじ加減も少なめにして。随分とこだわる部分が変わってきたと思います。細かいところを気にするよりは、時間をかけないところにこだわったりとか。

──なるほど。『僕は君のオモチャ』というタイトルは、色々と深読みのできる言葉だと思ったんですけれども。

卓偉:どんなふうにでも取れますよね。ダブル・ミーニング以上のものですね。

──歌詞を読むと、実は凄く切実なメッセージを秘めた曲じゃないかと感じたんです。そういう曲をあえてアルバム・タイトルに持ってくる辺り、「勝負に出たな」と思ったんですけど(笑)。

卓偉:いやいや(笑)。でもそうですね、初めに宮原芽映さんが詞を書いてきてくれた時はそのタイトルではなかったんですけど、「僕は君のオモチャ~」っていう唄い出しにもの凄いインパクトがあったんですよ。こういうアプローチがあるんだなって。その時はアルバム・タイトルに持っていこうとまでは思っていなかったんですけど、タイトルを考え出した時に“これ、面白いんじゃないのかな”って。で、実際お客さんにとって僕はオモチャであっていいと思うし、自分にとってはギターや音楽そのものがオモチャであったりするわけで、そういうひとつのモノを持って接し合うという意味にも取れるし、単純にロックっぽく「俺はお前のベビー・ドールだ」って言っても良いわけだし、いろんな解釈ができてピッタリなんじゃないかなと思ったんですよ。

──表層的にはラヴ・ソングっぽくも取れますけど、卓偉さんというアーティストが唄うと、スター・システム的なものを唄っているようにも取れますよね。送り手と受け手の関係性というか。

14_ap01.jpg卓偉:そう言って頂けると嬉しいです。オモチャっていう言葉は判りやすいけれども、意味合いが深いですよね。僕が歌を録った時に思い浮かべていたのは、小学校低学年の頃に親父に買ってもらったウクレレで、それが一番初めに触った楽器だったんです。中学生になってウクレレがエレキ・ギターに替わって、それから色々ギターを買ったりしたんですけど、この詞はどんどん新しいギターを取り替えていく自分に向けたウクレレからの言葉のような気もしたんですよね。あるいは自分が誰かに向けて言う言葉かもしれないし。凄くいろんな意味合いに取れるなと思ったんです。

歌詞がちゃんと聞こえるようにしたかった

──今回、本来はフル・アルバムとして発表する予定だったのを、あえて7曲入りのサイズにしたそうですね。

卓偉:そうなんです。毎年1月から3月までは曲作りの期間に充てているんですけど、かなり手応えのある曲が多く出来たんです。ずっとフル・アルバムを作るつもりでレコーディングしてきたんですけど、今フルを出して今年それ1枚で引っ張るのも勿体ないなと思って。例えば12曲に絞ると、そこから漏れた曲は発表が来年になってしまったり、来年新しい曲が出来たらもう発表しないかもしれないし。1曲でも多く発表したいという気持ちもあって、だったらとりあえずこの7曲を出して夏にツアーをやってから、年内にもう1枚出してもいいかなと思ったんです。

──収録曲の選曲基準はどんなところだったんですか。

卓偉:あまり理由はないんですよね。5年前に作った曲も入ってたりとかするし。でも、絶対に今の気分でやっとかなきゃいけないのはこの曲だっていうのがあるんですよね。

──「テレビジョン」は詞を何度も推敲されたそうですね。

卓偉:ええ。僕は今の世の中に流れている曲は歌詞が聞こえなくなっていると思うんですよ。曲が洋楽っぽくなってるから日本語が乗りにくいのかなとも思うんですけど、自分が今まで聴いてきた音楽は歌詞がちゃんと聞こえてくる音楽だったし、だからこそ歌詞の聞こえる曲が作りたいと思っていて。どこまで行っても自分の曲っていうのは完全に客観視はできないものなんですけど、聴いた時に聞こえづらいところは全部書き直したんです。後で歌詞を読んで「こういう曲だったんだ」って知るよりも、聴いている時に何を唄っているのかが判る曲にしなきゃいけないと思うんですよ。それが最近、特に大事なことに思えるんです。

──最近の曲は歌詞が聞き取れない傾向にあるのは何故だと思いますか。

卓偉:何なんでしょうね? でもやっぱり、聴いていて歌が聞こえてこないと勿体ないと思うし、自分の歌がそうだったら嫌だなと思うし。いい曲を作るのは勿論なんですけど、それをよりいいものにするのがいい歌詞なんじゃないかと思いますね。最近はそういうことに対して気持ちが向かっていますね。

──以前はそれよりもサウンド志向が強かったですか。

卓偉:そうですね。昔はどちらかと言えば歌詞よりも音楽的な部分によりこだわっていましたね。でも、今は聴いた人が立ち止まって考えさせられる歌詞のほうがいいと思っています。

──確かに、今回のアルバムは歌詞を聴いてどこか引っ掛かるような曲が多いですよね。

卓偉:「テレビジョン」なんかは詞を書くのに随分と時間が掛かりましたね。凄くパーソナルな内容なんですよ。でも、そのほうが普遍的なことを唄うよりも一人ひとりとリンクしやすいんじゃないかと思って。大勢に伝えようとする歌よりも、自分の中にあることを唄っているんだけど広がりがあるというか。

──「僕はただのテレビジョン 自分だけが映せない」という内省的な歌詞でも、テレビという普遍的なものを比喩として用いているので、聴くほうも自分自身に重ねやすいかもしれないですね。

卓偉:そうだといいですね。人間って自分を一番客観視できないですからね。端的に言えば、自分のライヴを僕は一生観られないし。

──テレビやDVDで自分の姿を見るというのは、どんな気分なんですか。

卓偉:最初の頃は実感がなかったですけどね。半信半疑というか。あと、テレビで唄う時は当て振りなので、ライヴの時のようにドラムの生音に合わせて唄うことができないんですよ。それを割り切って考えることが最初はなかなかできなくて。そういう、テレビって奥深いようで実は薄っぺらいものだよっていう部分を自分自身と重ね合わせたりしましたね。でも、例えば渋谷の街頭ヴィジョンにしたって、映っている姿は見えても、その人は自分自身のことは見えていないんじゃないかなと思うし。

──言い得て妙なテーマではありますね。

卓偉:そうですね、凄く良いテーマだったと自分でも思います。

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