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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】BAZRA(2007年5月号)- 聴いて驚け!! 音のグラデーションで魅せるアルバム『フトサマス』

聴いて驚け!! 音のグラデーションで魅せるアルバム『フトサマス』

2007.05.01

熱く男らしい3ピースバンド・BAZRAのニューアルバム『フトサマス』。いきなりデビューアルバム収録の名曲『体温』のリ・レコーディングver.で幕を開け、ロックなナンバーが続いていたと思えば、ファンク、ソウルと徐々にカラーが変わっていく。聴く側はその心地よい流れに身を預け、BAZRAの音に酔いしれることができる1枚だ。しかしふと聴き終わると、これが3ピースバンドの出している音楽だったことに気づき驚く。「この男たち、只者ではない!」と再確認するに充分な作品だろう。ただ"ロックバンド"というジャンルに収めてしまうには、もったいなく思える彼らの幅広さの根源にあるものは何なのか。フロントマンであり作詞を担当する井上鉄平(ヴォーカル・ギター)が示してくれた。(interview:古川はる香)

バンドとしての太さもグルーヴも増してきている時期

──アルバムタイトルの『フトサマス』は、“太さが増す”っていう意味に受け取っていいんでしょうか?

井上:そうきましたかー。素晴らしいですね(笑)。今回のタイトルは「なんだろう? この『フトサマス』ってのは?」って、ひっかかってもらえたらしめたもんだと思って付けたんですけど。薬品名とかであるじゃないですか? 『ナイシトール』とか『マスチゲン』とか。そういう話から『フトサマス』って言葉が出て。今年でバンド結成10周年なんですけど、バンドとしてのグルーヴも太さも増してきてると。あとは「ふっと冷ます」という意味にとってもらってもいいし。そこは聴いてくれた人に委ねるというか。

──今までのアルバムタイトルも『腹グロッキー』とか『凡 to be Wild』とか結構おもしろいですよね。どうやって決めてるんですか?

井上:曲が全部あがって、曲順を決めつつ、タイトルもメンバー、スタッフ入り乱れて決めてます(笑)。その都度みんなで考えてるんで、特に採用率が高い人もいないです。

──曲のタイトルは井上さんが?

井上:いや、ほとんど自分で考えられないんです(笑)。曲はセッションで作るんで、メロディがあって、歌詞を書いて、持って行って。みんなで「ここはこういう言葉じゃないほうがいいんじゃないか」って歌い終わってからみんなで考える感じですね。『体温』の頃は自分で決めてたんですけど。

──いつ頃からみんなで考えるように?

井上:今のレコード会社に移籍したくらいからですね。みんなでやってる感じが欲しかったのもあるし、ひとつにまとめるっていうのができないんですよね。キャラ的に(笑)。ま、曲はバンドの声なんで。みんなで考えたほうがいい気もするんですけどね。

──今回のアルバム収録曲も、いろんな人のアイデアが?

井上:入りつつですね。だいたい歌詞をみんなで見て「この部分いいんじゃないか」とか話して。そういう話をするのがおもしろいですね。

──必ずしも歌詞に出てくる言葉が拾われてるわけでもないですよね。

井上:だからそこがおもしろい!『呼吸』はそれっぽいような話をしてて、じゃあそれにしようってなったんだっけな? 僕、記憶力がすごい悪いんです(笑)。だから誰がつけたとか覚えてないんですよ。インタビュー向きじゃないんですよね!? でもがんばります!!

──お願いします!(笑) なぜ今のタイミングで『体温』をリ・レコーディングしたんですか?

井上:『体温』が収録されてた『ひょうろくだま』ってアルバムが廃盤になっちゃったんですよ。で、バンドが10周年、謙太郎(三浦謙太郎/ベース)が入ってからは7年目。今もライブでずっとやり続けてる曲っていうのは、『体温』くらいなんですよね。今のモードでアルバムを録るって時に、ライブですごく鍛えられてる曲なので、アルバムに入れるといいんじゃないかって話が出て。「入れたい入れたい」って言ってるときに、廃盤になるのもわかったんで、さらに思いが強くなったんです。「じゃあどこに入れよう?」って話しながら、1曲目に入れるって決めたときは、自分たちで「うわあ!! ドラマチックな感じがするぞ!」と。

──ドラマですね~。

井上:謙太郎が入って、今の3人になって初めてできた曲なんで、今のBAZRAの出発点みたいな曲なんですね。それが時間を経て、また今のモードで演奏できるのは、すごく意味のあることなのかなーって。

ロマンスギアで声の色を調節!

──アルバムの曲順はこだわりました?

井上:結構悩みましたね。曲全部録り終わって、みんなで紙に書いて出し合ったんですけど、わりとみんな近かったんですよ。ベースの謙太郎だけは「奇をてらった感じで」ってむちゃくちゃなの出してきましたけど(笑)。そういうところで話し合っていくうちに、この流れがいいなって。

──グラデーションみたいに曲調が変わっていきますよね。

井上:そうですね。色合いがどんどん変わっていくというか。ライブでの曲順はまだ別物だったりするんですけど、CDに関しては、1曲目『体温』で始まって、その後すぐに『JamRa#5』があるじゃないですか? 1曲目終わってすぐ仕切り直しっていうか。ライブじゃできないようなことも意識してましたね。

──すごく自然に聴けるんだけど、後で流れが変わってるのを気づくような仕組みですよね。

井上:昔から色で例えるのが好きなんですけど、僕の中で今回のアルバムは、暖色系の色からだんだん寒色系になっていくんだけど、最後はまた暖かい色に戻っていく。曲調はしっとりしてるんだけど、色合いだけ戻ってくるような。

──井上さんの声もいろんな色合いがありますよね。

井上:多分日によって違うし、自分の中でギアみたいなのがあるんです。僕の中で勝手に“ロマンス”って読んでるんですけど、ロマンスの加減が多いと『静かな情熱』みたいな感じになってきますよね。

──ロマンスギアの調節次第で変わる?

井上:そう。でも調節があんまりきかないんですよ(笑)。0か100のスイッチみたいな感じで(笑)。でも、それじゃいけないだろうって、今は0、1、2の2段階くらいにはなってきてると思うんですけど。

曲の触れ幅の多さが今のBAZRAの武器

──アルバムを通して聴いてると、本当にいろんなジャンルの曲が入ってますよね。

井上:「BAZRAっていうバンドが鳴らすのは、こういう音楽だ!」ってひとつに決めちゃおうかって時期もあったんです。でもそういう風にやっていくと、どうしても煮詰まる。今回いろんなジャンルだったり、リズムとかもすごくいろんなことやってるんですけど、これだけいろんなことをできるバンドっていうのは、3ピースで他にいないんじゃないかって、うちのザ(・ミエダタクヤ/ドラム)が言ったり、いろんな人が指摘してくれて。だったら今回のアルバムは、そこを目一杯振り切ってしまおうと。

──これを3人でやってるんだっていうのに驚きましたよ。ゲストミュージシャンは鍵盤弾いてる山本隆二さんだけですよね?

井上:そうですね。BAZRAはもともと俺とザ・ミエダタクヤだけだったんで、人数とか考えない作り方をしてたんですよ。「ここホーンセクションが入って」とか、頭の中でだけで考えてて。今は音楽として成り立ってるけど、当初はやりたいことが先行してたから、どっちかっていうと頭でっかちになっちゃってたんです。「できないけど、やっちゃおう!」みたいなのがあったんですよ。今回は10年経って、自分たちがやりたいことを自分たちでできるようになってるっていうのが実感できたアルバムだし、これだけ曲の触れ幅があるのはおもしろいなと思って。今、それが俺らの武器だと思うんです。

──自分たちのできることがわかると同時に、できることも増えてきたというか。そのバランスがよくなってきたんでしょうね。

井上:どこに向かうかっていうのが、なかなか定まらなかった。ライブも含めてそうなんですけど、それが今できてる感じなんですよね。

──これだけ曲の触れ幅があるのは、誰かものすごく幅広く聴いてる人がいるんですか? それともみんなの聴くジャンルがバラバラ?

井上:音楽聴かないメンバーもいますよ。ベースの謙太郎は、昔から音楽を聴いてるところをあまり見たことがないですね(笑)。札幌にいた頃、ライブにみんなで車に乗って行くのに、CDがずっと変わってなかったです(笑)。それも「なんとなくかけておくか」程度で、聴いてる感じが全くしなかったですね。

──それは何のCDだったんですか?

井上:インコグニートだったんですけど、流行ってたっちゃあ流行ってたけど、遅いっちゃあ遅いというか。微妙なラインで行くなーと思って(笑)。まぁタクちゃん(ザ・ミエダタクヤ)はすごく聴いてますね。最初から幅広かったのかな? 僕はジミヘンからスタートして、ファンクとか黒人音楽に影響受けてて。タクちゃんと最初に聴いたのがピーター・トッシュで、「すごくいいよねー。こういうバンドにしよう!」って盛り上がってたんです。でもその翌週にはジョン・ゾーンとか聴いてて「こういうバンドにしよう!」って(笑)。

──迷走してたんですね(笑)。そんな遍歴を経て今があるような。

井上:そうっすね。タクちゃん家でいろいろ聴いて、どういうバンドにしようか話してる時期が結構長かったんですよ。ピンク・フロイドも聴いたし、ジャズも聴いてたし。ホントだ、幅広いわ!(笑) でも僕らが共通してたのは、札幌は札幌でいろんなシーンがあるんですけど、そこでバンド同士が手を取り合ってるのに嫌悪感を抱いてたところですね。札幌でライブやってた頃って、月10本くらい狂ったようにやってて、いろんなハコでやると、ハコごとに仲間を増やしていこうとするバンドがいたんですよ。そこで「俺らのグループに入らない?」って勧誘的なものをされても「誰が入るか!!」って、どこにも属さなかったんですよ。言ったらライバルなのに、つるんでるのがイヤで…。バンドに対して「いいな」と思ったら、普通にライブを観に行けばいいのに、それが日常の中まで影響されるのはどうなのかなと思って。

──対バンをお願いするとかそういうのではなかった?

井上:そういう風に音楽的なところで繋がってればいいのに、飲みに行って「お前の彼女がさー」って音楽と関係ないことまで言われると、「余計なお世話です」って感じになっちゃう。その姿勢の延長で、BAZRAではちゃんとメロディがあって、歌詞もある曲をやるけど、姿勢としては、どこにも属さない、誰もやってことがないものをやろうということになったんです。

──○○系ってくくられないようなものを?

井上:そういう風に言われないようにしていくぞってところは、きっとあると思うんです。だから僕らはあんまり「○○系」とも言われないし。逆にそう言われないから説明が難しいっていうのもあるんですけど(笑)。特に今回のアルバムは、そういう誰も突き進んでない道を突き進んでいくぞって感じで、BAZRAが多面性に満ちたバンドなんだと確信を持って作った1枚になりましたね。

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