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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】吉川晃司 後編(2007年4月号)-負けたって死なない限りは復活できる

負けたって死なない限りは復活できる

2007.04.01

負けたって死なない限りは復活できる

──COMPLEX時代の楽曲「MODERN VIISION」を改めて取り上げたのは?

吉川:別にCOMPLEXの曲を入れたかったわけでも何でもなく、凄く恰好いいギターのリフが出来たんですよ。こういう単純だけどどこかで聴いたこともないようなリフって、なかなか出ないものなんです。そのリフに合うマイナー・スケールでテンポの合う曲を探していたところに、この「MODERN VIISION」が巧くハマッたんで。ギター・ソロを弾いてくれたエマ氏(菊地英昭)に「マイケル・シェンカーが降りて来たわー」って言ったら、「マイケル・シェンカーがプログレを弾いたらこうなるかなぁと思って…」って大いに盛り上がりましたよ。我ら、マイケル・シェンカーが大好きで、世代も一緒ですからね。『科学忍者隊ガッチャマン』なら大鷲の健ではなくコンドルのジョー、『秘密戦隊ゴレンジャー』ならアカレンジャーではなくアオレンジャーかミドレンジャーがいいという感じとか(笑)。どういう美意識で何がしたいのか、アニメや特撮ヒーローのキャラクターを挙げて通じちゃうところって面白いよ。

──昨年7月に発表したシングル『サバンナの夜』から始まった、ディスコをテーマに掲げ、ダンス・ビートを強く前面に押し出したサウンドの方向性は、この『TARZAN』においてひとつの終着を見た感はありますか?

吉川:いや、まだその途中…分岐点くらいですかね。もっと突っ込んだダンスフロア的な曲もあるんですよ。でも、急にそれをやると受け手も戸惑うだろうし、自分が旗を振って先頭を走る以上は受け手の足元を照らすくらいのことはしなければと思いますし。まぁ、最初は8ビートの速いテンポの曲も作っていたんですけど、今回のアルバムのカラーには合わなかったんで次作にまわしました。

──「TARZAN」という曲のコンセプトとキーワードが生まれたことで、『サバンナの夜』からの一連の流れがひとつの円として形になりましたよね。

吉川:そうですね。締まった感はありますね。「TARZAN」という曲がサウンド的にも最後をキュッと締める帯の役割を果たしてくれたと思いますよ。

──「TARZAN」の歌詞にある「捨てられぬもの 守り続けたいもの」とは、吉川さんにとって具体的にどんなことですか?

吉川:愛、義理人情といった欠いてはならぬもの。そういったものが余りにおざなりにされてしまう今の世の中にゃヘキヘキしてるので。そんな世の中で、一番大事なことがくだらないものとして扱われること、計る物差しが失われてゆくことに無念を抱いておるわけです。

──「TARZAN」の中で吉川さんが訴えたかったことはつまり、「勝てなくてもくたばるな」ということでしょうか?

吉川:死ななきゃ大怪我したって復活できますからね。敗戦は良い経験になりますし、むしろたくさん負けておいたほうが良いくらいじゃないですか? 劉邦が如く! そういう意識があれば大丈夫と言うか、ヘコタレないで済むわけだし。ただし退路は必ず確保しておかなければなりませんが。どういうわけか、日本人は絶望癖があると言うか、土壇場に対面すると死を選ぶ傾向にあるようでして。それは、長い歴史の中でDNAにも組み込まれてしまっている。第一の要因は国土が狭かったからという説を唱えている中国人の文献がありまして、中国はイクサに負けてもとりあえず逃げてしまえば追い掛けようのない広大な大地があるので、敗戦しても一端逃げてしまって体制を整え再度臨めば良いので玉砕するという観念は皆無であるらしく、反して日本は逃げるには土壌が狭すぎて、最後は捨て身で突撃するしか術がなかったと。確かに史実を見るとおおよそそのようですよ。でもね、現代はだいぶ様相も異なって、負けたっていいんですよ。負けたって死なない限りは復活できる。その気持ちを常に持っていなければいけないと思う。

──負けてみないと、相手を思いやる気持ちも生まれてこないですからね。

吉川:そうですよね。肉を切らさず骨を断つのが一番いいですけど、そうもいかないですからね。今の日本人はなんでこうも机上の空論が多いんだろうと単純に思いますよ。たとえば、大学院の英文科を卒業してもまともに英語も話せない。文法を教わるばかりで、生きた会話を疎かにした結果ですよね。自分の肌で感じて、自分の指の先で触って、自分の舌で味わって、いろんなことをすべて自分で判断していけばいいんです。とかく日本人は常識、常識と言いますけど、常識なんて要するに平均値なわけですよ、御上(!?)が扱いやすいように平均的な人間を製造するという。良識なら素晴らしいけれど、常識は駄目だと思います。ならばむしろ悪識のほうが個性があって良いかもしれない。なので、常識人なんてものにはなりたくないですねぇ。日本人の民族性として言えば「和を以って貴しと為す」という部分もあるけれど、それはそれで美しいものだと思うておりますが、地ならしされて角がなくなってどうするんだ。それとこれでは意味が違いますわね。

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20歳のナイフと40歳のナイフの尖り方の違い

──ところで、吉川さんは新宿ロフトに足を運ばれたことはありますか?

吉川:ロフトは客としてアナーキーとかを観に行ったりもしていたんですけど、布袋(寅泰)君と知り合ってからはよく呑みに行きましたよ。彼がロフトで喧嘩して殴られて、ついでに僕まで誰かに殴られちゃったりして(笑)。自分も高校の頃に広島のライヴハウスによく出入りしていたし、ああいう匂いは好きでしたけど、僕がロフトに客として行くと「お前、吉川晃司だろ? なんでこんな所にいるんだよ!?」なんて言われましたね。まぁ、当時はいわゆるアイドルだったし、他のお客さんにとっては異物に映ったんでしょうね。でも、ロフトはツバキハウスと並んで刺激的で面白い場所でしたよね。

──今後追求していきたい音楽的志向はどんなところでしょうか?

吉川:「大人が恰好いいと思えるロックってなんだろう?」というのが数年前から身に付けたいテーマなんですよ。テンポの速いストレートなロックもやりますけど、そればかりじゃ幅が広がりませんからね。ロックとかパンクっていうのは、音の構造がどうこうって言うよりもスピリッツだと僕は思っているから、それを維持しながらちゃんとキャリアと対峙した音楽もやりたいんですよ。スーツを着ていても、ギターを鳴らした時にその人の年齢なり円熟味が出てくるような佇まいと言うか、そういうのがいいなと思いますね。その年齢なりのセクシーさと尖り方がこれからもずっと自分の中でテーマになっていくでしょうね。20歳のナイフと40歳のナイフは尖り方がやっぱり違うだろうし。

──刃を研ぐ回数も違うでしょうし、40歳のナイフの刃は所々欠けてもいるでしょうし…。

吉川:欠けてるナイフのほうが殺傷能力は高いやもしれぬ、要はその欠けかたでしょうかね(笑)。

──あと、長年使い込んだぶんだけ刃を支える柄の部分が握りやすく、滑らかな触感をしているでしょうね。

吉川:うん、まさにそういうことなんじゃないかと。そういう音楽をこれからも作っていきたいですね。

──バンドマンとして夢を追いかけている若い世代に対して、何かメッセージはありますか。

吉川:僕はよく日曜日に渋谷へ行くんですよ。ジョギングがてら昔の歩行者天国のほうへ行くと、テクノあり、ラップあり、パーカッションの集団あり、いろんなジャンルの音楽が溢れているけど、ロック・バンドの周りは客が少ないですね。演奏はなかなか巧いんですけどね。それが象徴的な風景として僕には映っているので、今の若いロック・バンドはなかなか厳しい状況にあるのかな? 僕は全く違う経路を走ってきたのでなんですが、まぁ、いつだって喉が渇いた奴でいて欲しいなと思いますね。ロックだパンクと言いながら何処かのお姉ちゃんに食わせてもらっているようじゃダメだろうし、それはハングリーとは言えないよね。まぁ、こういう言い方をすると語弊があるかもしれないですけど、今の若い人達を気の毒に思う部分もあるんですよ。僕らが若かった頃のほうが今よりは夢ののりしろが残されていて、ちょっと失敗してもやり直しが何回でも利くくらいの空き地が浮き世にはあった。今の若い人達は一回失敗すると二度と浮上できないような恐怖感を背負っているじゃないですか? デビューするチャンスは僕達の若い頃より多いのかもしれないけど、今や音楽もコンビニの食い物扱いみたいな、消耗品として溢れかえっている状況なんで、うまいことデビューできたとしても短命に終わるという危惧はねぇ…これ否めず。思うに文明って奴はリンゴと同じようなもので、一度成熟しちまうと、あとは腐って落ちるしかないわけで、甘酸っぱい頃が実は一番美味しいわけなんだろうけれども、今やこの日本は腐る直前くらいまで来ちゃってるんじゃないかなぁ。もう熟れすぎちゃって、食ってみたところで甘ったるすぎてキレがないと言うか。そこにいくら酸味や渋味みたいなものを求めても無理な話で、であるならばいっそのこと、さっさと腐って落ちちまって、改めて種から這い上がってこないと駄目なのかもしれないけれどね。文明って奴は人間を堕落させるに相違ない! 文化は違うけれどね。言葉は文化。車は文明。

──若い世代にも強く訴えかけるだけのメッセージ性、生きるヒントみたいなものが「TARZAN」という曲には込められているんじゃないでしょうか。

吉川:まぁ、まさに平成のドン・キホーテですからね。若い人達には「まず笑ってくれよ」って感じかな。この滑稽さを若い人達が聴いて、「こういう阿呆なヤツもいるんだな」と思ってくれればいいのかなと。現代の東京の街を木枯らし紋次郎がさすらっているような感じでいいんじゃないかって(笑)。キツイことばかりじゃ良くないと思うけど、キツイ時こそチャンスだと思いますよ。ホントにヤバイ時ほど心が乾いているものですから。ほら、スポンジと一緒で乾くなら乾ききっておけば、次に泉を見つけた時にゃあ吸引力絶大なわけでしょ? 今でも大きなトラップが来たぞと感じた時に、僕はチャンスだと考えるようにしているんです。それだけでもだいぶ心持ちが違うしね。あと、もうひとつ若い人達に言いたいのは、世の中が大変だからって甘えていいという構図にはならないということ。それで誰も助けてはくれないよ、と。どれだけ不景気だろうとせっせと頑張っているヤツはいるわけで、そこを甘く見てはいけない。フリーターを10年やったとして、30にもなるんでそろそろ何処かの正社員になりたいと考えたところで、責任を負っていない経験ってモノは、当然、たいして身にはなっておらぬであろうと踏まえられてしまうし、いろんな種類の仕事をこなしたと言ってみても説得力に欠けるわけで。雇う側からしてみれば、なんの経験がないとしても若くて柔軟性も高く、対価も安くて済む新卒をね、採る! これ、十中八九間違いないでしょう。ああ、それからこれは僕の望みなんだけど、若い連中といろいろと交われる市民権を与えて欲しいなぁ、おっさん(!?)にもさ。「僕らは僕らでやりますから」という傾向が若い連中にはどうも強いようだけれどさ、おいちゃん達も交ぜてくれよ~とね(笑)。こっちも若い新鮮な感性には常に触れていたいと思いますので、はい。最後に、今の若い人達には「世の中完成しちまってて夢は少ないわ、チャンスは狭いわで大変だろうけど頑張ってくれよー! わしらも頑張るけぇのう~」と言いたいですね。

(interview:長谷川 誠+椎名宗之)

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1. TARZAN
2. プレデター
3. ベイビージェーン
4. Honey Dripper
5. MODERN VISION 2007
6. Love Flower
7. ジャスミン
8. サバンナの夜 -ALBUM MIX-
9. Banana Moonlight
10. ONE WORLD -ALBUM MIX-
11. ムサシ
12. Juicy Jungle -ALBUM MIX-

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