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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】アンダーグラフ ('06年8月号) - メッセージを発する立場としての責任感

メッセージを発する立場としての責任感

2006.08.11

 アンダーグラフが6月21日にリリースしたシングル『ユビサキから世界を』が、『世界の中心で、愛をさけぶ』や『GO』などの数々のヒット作の手がけた行定勲監督の手によって映画が完成した。一人でも多くの人に見てもらいたいという思いから現在全国各地にてフリースクリーンツアーの真っ只中。映像なり音楽なりの情報を発信し、何かを感じとってもらいたいという、お互いの作品に対する思いが重なり、この映画には両者の強いメッセージが込められていた。
先月に引き続きアンダーグラフへのインタビューが実現!行定監督に対する思い、映画に対する思い、作品に対する思いをお話いただいた。真戸原さんの言葉は本当に大事なものがいっぱいつまっていると感じた。(interview:やまだともこ)

命を無くすことへの美意識があるのならば、それは全く無意味なこと

──行定勲監督がアンダーグラフのシングル『ユビサキから世界を』にインスパイアされて制作された映画『ユビサキから世界を』の上映が始まりますが、この作品が出来上がって見たときはどういう心境でした?

真戸原:自分達の曲が映画になっているということで、今まで行定監督の作品を見てた時との距離感とは違いました。恥ずかしいような、どこに心を置いたらいいのかわからんという状態でした。

──出演されてたシーンはどうでした?

真戸原:最初に見たときはカットしてほしいなって思いましたけど…(苦笑)。

──でも、制服が似合ってましたね。特に中原さんの制服姿は見事なまでに…。

真戸原:僕らから見たらタクシーの運転手がギリでしたけどね(笑)。でも出演ってことになったときに制服着ても確実に浮きますよって話はしたんですけど、ユーモアが欲しいから浮いて欲しいって言われたんで…。浮きました(笑)。

──映画の主人公が高校生だったんですが、真戸原さん自身はどんな高校時代を送っていたんですか?

真戸原:人生の中で一番暗かったですね。学校生活におけるいろんな事に疑問があった時代でした。中学校の時ずっと野球選手になりたくて、高校も野球部に入るつもりで入ったんですが急にやりたくなくなってしまったんですけど、野球部に入らなかったことが自信を崩してしまったんです。人とうまくコミュニケーションも取れなくてなるべく目立たず…。後ろの人にプリントを回すのが精一杯で、友達もうまく作れないし、筆箱忘れたら借りられず…そういう人でした。ほとんど誰とも喋らなかったです。昼休みとか空く時間は一番辛かったですよ(笑)。音楽雑誌見てたりとか寝たりとか、典型的な閉じこもりで…。でも親を悲しませたくなかったので学校はちゃんと卒業しようって行ってはいましたけど…。無気力な高校生でした。高校生活って同じ時間を3年間過ごすという中で、違う入り口から入ってしまうと違うまま続いてしまうじゃないですか。もともと友達がいないところに一人で入ったのでそこで自分を表現する強さがなかったんです。

──今では想像ができないですね。映画の中では主役の女子高生が、未来も見えないし現状にも満足できてない。だったら死んでしまおうと集団自殺の計画を立てるストーリーだったんですが、こうやって死を軽く考えてしまう人がいることに対してどう思いますか?

真戸原:映画と同じようなことを思っている人がいるなら、それは全く勧めたくないことですね。だから映画を見ることで死ぬことをひとつの選択肢にしないようにと気を付けてます。何も素敵なことじゃないですから。若い頃って未来に対して不安だったりは絶対あると思うんです。でもそれは逃げずにいて欲しい。どっかで命を無くすことへの美意識があるのならば、それは全く無意味なことやなあと思います。自分が必要とされてない気がするのは大人になっても思うことやし、だから存在したいとがんばる。この映画は学生の人に見て欲しいって思いますけど、そこに影響を与える人たちにも見て欲しいですね。

──その心境にいる人が何かひとつでも得ることができれば…。

真戸原:映画にもあるように集団というところが、自分が思ってないこともできてしまう怖さがあると思うんです。誰かと繋がっていたいっていう気持ちは一緒なんですけど、目標の一つが命を落とすことっていうのは違うと思うんです。そのパワーを他に使えばいいのになあ。メッセージを出す側の人たちが意味のないことはないと、何かを伝えていく責任感を、親じゃなくても情報を発する立場として僕らみたいなミュージシャンもそうだし、記事を書く人もテレビの人も考えていかなあかんことやろうなと思います。誰でも人は必ず終わりがあるので、それは自分で決めることじゃない。それ以外のことっていうのはどんどん協力して人と人が触れ合うというのはいいことだと思うので、その判断だけは見失わないでほしいなあって思います。

一歩向こう側を見てもらえるような作品を作りたい

──ところで、行定監督の映画は『ユビサキから世界を』もそうですけど、美しい映像のさらに向こうの景色っていうのをすごく考えさせられました。

真戸原:僕らは音楽を作っていると小説とか絵に憧れたりするんですよ。というのは、音楽よりもっと深い部分を想像させてあげることができる。音楽はひとつの曲からいろんな想像が膨らむ。そういう流れで監督の映画は音楽的やったり小説的やったりするところが好きなんです。僕らも一歩向こう側を見てもらえるような曲を作りたいっていうのがあるので、僕が映画に求めているものと行定監督が音楽に求めているものが近いんやなあって思いました。「1人の中で一生持っててもらえるような映画を作ってみたいね」っておっしゃってましたけど、それって何回も観られる映画になってくると思うんです。映画と会話できる映画だと感じますね。

──行定監督の印象はどうでした?

真戸原:テレビでは見たことがあったので「本人や!」って芸能人を見る感じでした(笑)。でも打ち合わせの時に僕らの曲に対してだったり、脚本に関してだったりすごく熱く話してくれたんです。僕は監督のファンでもあるので、「この人の撮る映画には間違いはないなあ」って思ったんです。だから話のエンディングだけ聞いて、それ以外は好きなようにやっていただきました。笑わせたいっていう気持ちもあるし怒りも持っているから、その気持ちが作品の活力に変わってはる人やなあという感じでした。エネルギーがどんどんどんどん出てるっていう印象です。

──そのエネルギーを受けてアンダーグラフの次の作品にも生かしていこうっていう…。

真戸原:それは大きいと思いますね。わがままでもいいんやなって思うときもあったし、やりたいことを突き進むってこういうことなんやなとも思いました。監督でも死ぬほど考えてるんやと思うと考えることは大事やなあと思います。

──アイディアがぽんぽん出てくるわけでは…。

真戸原:ないみたいですね(笑)。

──今回は行定監督が『ユビサキから世界を』を聞いたイメージが映画になってますが、私がこの曲に対して思っていた映像もあって、それぞれイメージの仕方があるんだと感じたんです。だからこの曲を多くの人が聴いた時もっといろんな映像があると思うとそれを全部知りたくなりますね。

真戸原:僕も知りたいですよ(笑)。エンディングだけ知りたかった話も行定監督という一人のフィルターを通した映像はこれで、個人個人違うって普通やと思うんですよね。僕らの曲がスタートにあるとするならば、映画のイメージとは違うっていう人がいても嬉しいんですよ。それはごく自然なことだと思うんです。僕らの音楽が好きな人はその映画と上手く距離感を取ってくれて、自分の中ではこうやからこうしたいって思ってくれてるってのは逆に言うと映画にしてもらって良かったです。

──1人のイメージが映像になることによって、より自分のイメージを膨らませやすくなりますしね。では真戸原さんは映画などに触れて曲を作るということはありますか?

真戸原:映画というよりは日常ですね。思いつくのは『バースデーシグナル』(2ndアルバム『素晴らしき日常』)はスタッフの人に子供が産まれてお父さんになったその顔を見て作った曲。責任感と幸せを想像できる一瞬の表情があって、そこから作っていった曲です。日常のほうがリアルだと思うんですよ。いろんな人に会ったり表情見たり…。なので、映画を見たとしても自分と置き換えるという感じですね。

──イメージですが映画だったり芸術だったりに触れていることが多そうですよね。

真戸原:空き時間とかは映画見てたりしますね。本を読んだり映画を見ることは受験時代での唯一の娯楽だったんです。勉強の一環なんですけど、純粋に楽しいながらほんまにタメになってるような。美術館は絵の知識はないんですけど、その方が楽しめますし。絵って自分が考えたことしか答えないってところがおもしろいなと思うんです。

──芸術っていう土俵で言ったら詞を書いたり曲を作る真戸原さんと、映画を作る行定監督は同じ土俵に立てたような手応えはあります?

真戸原:それは恐れ多いですよ(苦笑)。でも同じ匂いを感じることができたってだけでも、やってることとか言いたいことは間違ってないんだなっていう確信に変わってますね。

──今後、何か一緒にやれるとしたら?

真戸原:ドキュメントを撮ってもらいたいですね。レコーディング現場とか。僕らの心の中まで映像にしてくれると思うので…。でも、忙しそうですから(苦笑)。

値段がつけれなかったという意味のフリースクリーン

──では『ユビサキから世界を』の無料上映会が各地で開催されますが、こういうものが開催されるというのは真戸原さん的にどうですか?

真戸原:ほんまに素晴らしいことだと思います。正直言うと僕らはどれぐらいお金がかかってるかとか具体的ことはわからないですけど、その人たちの協力がないとできないと思うし、行定監督っていう映画監督の立場もあるし、いろんなリスクがある中で無料で映画を上映するっていうのはいろんなハードルを越えた上で実現できたことやと思うんです。行定監督も今回の映画に関してはそれを望んでくれたし僕らの中では無料だからこそ価値がある。値段がつけれなかったという意味のフリースクリーン。だからこそ友達10人集めてこの映画を見たいからDVDの原本送ってくれって言ったら「それでもいいから送ってみたい」って話が出てるぐらい、僕らが届けたいメッセージがこういう形で出るっていうのは美しいですよね。上映会には僕らも参加してライブやるところもありますし、いろんな人に見てもらいたいという気持ちです。

──それ以外にも今年の夏は野外ライブもあったり…。でも正直アンダーグラフって夏のイメージがないんですけど…。

真戸原:大阪の時は野外でストリートやってたんですがね。でも今年サマソニにも出演させていただくんですが、アンダーグラフとサマソニっていい意味で違和感があるので(笑)それを見に来て欲しいし、違和感を楽しんでもらえたらって思いますね。僕ら意外と夏は好きなんですよ。今年は夏バージョンになってがんばります(笑)。

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