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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】Discharming man(2006年8月号)-蝦名啓太(ex.キウイロール)のソロ・ユニットが放つ 無垢な美しさを湛えた妙なる音楽

蝦名啓太(ex.キウイロール)のソロ・ユニットが放つ 無垢な美しさを湛えた妙なる音楽

2006.08.01

名盤だ。無垢な美しさによって凛と奏でられた、間違いのない大名盤。であれば本来は声を大にして推薦すべきなのに、このままずっと一人静かに聴いていたいと思ってしまうのは、この音が心の一番柔らかいところに直接触れてくるからだろう。ex.キウイロールの蝦名啓太によるソロ・ユニット、Discharming man。アコギやエレクトロニカ中心で作られたメランコリックな音空間を、ときに迷子のような心細さで彷徨い、ときに呆れるほど強い意志で塗り替えてしまう唄の力。バンドを離れ、ひとりぼっちから始まった彼の唄は、世界中の孤独とコネクトするために放たれているかのよう。そして憐憫とも応援とも違うかたちで、それでも生きていく意味を優しく教えてくれるかのようだ。この音楽の前では、感動というものを素直に受け入れることができる。そんな素敵な作品に、あなたは最近出会えていますか?(interview:石井恵梨子)

キウイロールは時代が見落としたささやかな光だった

05_ap01.jpg──まずは改めてキウイロールの解散について聞かせて下さい。傍から見るかぎり行き詰まりはまったく感じられなかったのですが、バンド内で何があったのでしょう?

蝦名:
まぁ、俗に言う音楽性の違いってヤツですね。やりたいことが変わってしまったような気がします。自分の中では今Discharming manでやっているようなことをキウイでもやろうと思ったのですが、全員がそうは思わなかったということです。実際、後期にやってた長尺の曲なんかは練習やっててもみんな辛そうだったし(笑)。でもあのメンバー以外でやる気はなかったので、終わらせることに決めました。

──高校時代から10年以上続いたバンドだけに、終わらせるという決断は簡単ではなかったと思います。当時メンバーが感じていたことは? また、今振り返ってあのバンドのことをどんなふうに感じていますか?

蝦名:みんながどう感じていたかはちょっと判らないけど、たぶん今でも怒っていると思いますよ(笑)。たまに会った時はそういう素振りは見せないけど。でも各自良いバンドをやっているから、それがとても嬉しい。いつかみんなのバンドで企画とかしたいです。もちろんシェルターで。でも結局、キウイロールって時代が見落としたささやかな光だったと思います。それを見ていてくれた人達への感謝の気持ちは今も昔も変わらないです。

──解散前から蝦名さんは「音楽は続けていく」と明言していましたね。当時描いていたヴィジョンは? ソロではなく、もう一度バンドを、と考えることはなかった?

蝦名:もう一度バンドをやってしまうと、また同じ繰り返しになるような気がしていて。その時からまずは1人でやろうと思っていました。昔からシーケンサーで土台は作っていたのですが、本格的に完成形を作ってしまおうというのは当初からありました。

──ソロでありつつ、レコーディングは2人編成だし、ライヴの時はバンド編成の時もあるそうですね。メンバーの紹介の意味も含めて、Discharming manの編成および活動内容をざっと教えて下さい。

05_ap02.jpg蝦名:まずは小野寺くん。彼とはPCを使ったライヴを、セイキさん主催の『nocturne tour』でよくやりました。彼とは長い時間いろいろな作業をしました。今は仕事で滋賀県にいるので、しょっちゅう一緒にはやれないのですが、これからゆっくりと進めていこうとは思っています。今アコギで唄う時は、boiler frogのノッチがドラムを叩いてくれています。今度『nocturne tour』のV.Aが出るんですけど、その時はノッチと一緒にやっているのが収録されています。あと、バンド編成をこないだからやってみまして、その時はザキくん、清水くん、たまきくん、高橋くんという地元(札幌)の素晴らしい演奏者の人達に声を掛けてやりました。これがまたいいんですよね。10月4日にシェルターの15周年でカウンターアクションでやるんですけど、その時もこの編成でやります。どうしてライヴの編成をコロコロ変えるのかというと、曲によっての表現方法が違っていて、それを実現させるには根本から変えていかなければならないから。これはキウイをやめたのと通ずるところではあるのですが…。

──Discharming manという名前はSmithの名曲をもじったものだと思いますが、この名前に込めた意味・気持ちは?

蝦名:結局はDischargeとSmithってことなんですけど(笑)。どっちも高校時代すごく好きで、あやかりたいというだけの話ですね。あと単純にオレ自身チャーミングじゃないっていう、そういう意味も込められています。パッと浮かんだ時、あっ、いいなと直感的に思ったので、そのまま命名しました。

──Discharming manがお手本とする、または理想とするアーティストはいますか。

蝦名:やっぱbjorkかなぁ。彼女が唄うとどんな伴奏でも全部彼女の歌になる。それがスゴい。歌がど真ん中にあって、尚且つ実験的でもある。活動の指針はやはり彼女ですかね。あと最近になって小谷美紗子さんを初めて聴きまして、あぁこういう歌を唄わなきゃいけないな、と思いました。どうしても抽象的に表現してしまう部分が自分にはあるから、もっと直接的に突っ込んでいくと、そこから広がっていく世界というのも存在する。承知していたけど、示された感はありました。

唄うことでしか世の中と繋がることができない

05_ap03.jpg──音作りにおけるこだわりは? たとえば「過去分子」のトラックは“歌の伴奏”の域を超えたアブストラクトなものですが、そういった音響系への興味は。実験的・革新的でありたいという意識は強いのでしょうか?

蝦名:確かに「過去分子」が一番やりたい感じに近づいているような気がします。あのトラックはライヴのことも考えて小野寺くんにほとんど作ってもらったんですけど、今度は自分だけでちゃんと作りたいなぁと思っています。オレ、PanasonicとかGastr del solが結構好きで。あの感じと歌が合わさればいいなぁというのは昔からあったし、それが少しは出たかなと。ただ革新的でありたいというのはいつからか無くなりましたね。結局自分が作ると実は実験的だったりするから、特に意識することは無くなりました。

──今のスタイルになって、自分の歌はどう変わってきたと思いますか。爆音の中で唄っていた頃と比べて最も違うところは?

蝦名:爆音の中で唄っていたことが、どれだけ唄いづらかったのかを痛感してます(笑)。別にオグのギターがどうだったってわけじゃなくて、あの環境で唄うからこそもっと振り絞る、その良さは確かにあったと思います。だけど今はかなり伸び伸びと唄ってますよ。こんなにオレって声出るんだぁとか(笑)、こんな唄い方も出来たんだぁとか、いろんな発見はありますし。歌ってものは、それだけで狂気を感じさせることも出来るし、衝動をそこに詰め込むことも出来るし、描いている情景を見せたりすることも出来る。それが出来る時と出来ない時があるから、もっと頑張んなきゃいけないなぁとは思いますけど。

──アルバム全体を通して感じられるのが、大きな“喪失感”です。やはりキウイロールを解散させたことが大きかったのかと邪推したくなりますが、実際のところは? それ以外で、今回の曲ができた背景・出来事があれば教えて下さい。

蝦名:まずキウイについてはかなり出てしまっていると思います。メンバーや関係者、および応援してくれた人達にもゴメンなさいという思いはあったし、今でもある。でも何のために音楽をやっているかというと、仕事ではなく、やりたいからやっているわけで。そういう意味で人間関係で彷徨うよりは、自分の描く世界の中で彷徨いたいというのはありました。あとは長く付き合っていた彼女と別れたりとか、親父が死んだり、ちょっとトラブルに巻き込まれたりとか、いろんなことが全部含まれてはいます。ここだけ聞くとなんか暗い人みたいですね(笑)。でも曲にぶつけているから、当の本人は割とあっけらかんとしていますけど。

──このアルバムを作り終えて、自分と歌の関係性について改めて考えたことがあれば教えて下さい。

蝦名:歌によって救われるのは今も昔も変わりません。というか歌の内容云々より、唄っていることが素晴らしいと最近は特に思います。ここでしか世の中と繋がっていないなと痛感しますね。

──昔から蝦名さんの歌声は“チャイルディッシュ”“無垢”“幼さ”という言葉で語られることが多いですね。持って生まれた声質だから変えようがない部分もあるでしょうが、今回のアートワークを見ても“幼児”がモチーフになっているのは明らかです。蝦名さんにとって子供・幼児とは一体どんな存在なのでしょう?

05_ap04.jpg蝦名:幼児ってのもまた語弊がありそうですけど(笑)。でも結局削られると思うんですよ、世の中に出ると。セコセコ頭下げて、作り笑いの毎日で、何で生きているんだろうと思う時もある。でも子供の時ってそんなことお構いなしに生きているし、全てが楽しかったし新しかったじゃないですか。でも社会に出てからはいろんな世界を見てきた分、それ以上は踏み込まない自分もいるし。踏み込む勇気も薄まった。だから広い意味でですけど、子供でいたいというのはある。お金や力関係で人と接するのがスゴくイヤなので。もっと単純になりたいというか、何事にも真っ直ぐに接したい。それを常に自分に言い聞かせてるのはありますね。話が逸れたかな(笑)。

──音楽と向き合った時、自分の中のチャイルディッシュな部分がこれだけ強く出てくる理由はなんだと思いますか。

蝦名:実際子供だからだと思いますよ。思考が単純だし。ガマンが出来ないんですよ、何事も。欲しいものは欲しいし、キライなものはキライ。それはある。でも結構ガマン強いんですよ、こう見えて(笑)。だから曲に全て反映されるというのはあると思います。

──以前「形になるまでおそらくあと3年はかかると思う」と言っていましたね。かなり長いスパンで考えているようですが、Discharming manは将来的にどう発展していくのでしょう? 理想や希望も含めて、今考えていることを教えて下さい。

蝦名:やっぱりそれぐらいの期間はかかってしまうと思います。キウイが10年であそこまでいったように、時間というのはどうしても必要だと思っています。やっている間に気付くことも多いし、こればっかりはどうしようもないことなんですよ。その理想形というか、頭の中に存在しているものをこれからも表現していきたいです。実際にアルバム制作から9ヶ月ぐらい経っちゃってるんですけど、今はまた違った風景が見えているので、早く次の作品も聴いてもらいたいです。

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