曾田茂一〈FOE, EL-MALO〉+高桑 圭〈GREAT3〉から成る(ライヴでは+テレビ君)"HONESTY"が放つセカンド・アルバム──その名も『AMERICAN ROCK』は、パンクやニュー・ウェイヴを通過した粋なオトナ2人組が肩の力を抜いてさり気なく良質の音楽を聴かせる、今年五指に入ること間違いナシの大名盤である。これはお世辞でも何でもなく、遂にこの日本でも"シンガー・ソングライター"と呼ばれる範疇の音楽で胸を張って「恰好イイ!」と明言できるアルバムが登場したということだ。いつまでも"BOY meets GIRL"的なドキドキ感やトキメキを忘れない2人が生み出す極めてココロの純度が高い音楽に、TOO SHYなボーイズ&ガールズもジャスト・ワナ・ハヴ・ファンになること必至!(interview:椎名宗之)
迷った時には“HONESTY”(誠実)なほうを選ぶ
──昨年1月の初音源リリースから、思いのほか早くセカンド・アルバムが完成しましたね。
高桑:曲は一杯あるんですよ。それこそ、アルバムの5枚目分くらいまでは(笑)。ライヴはずっとコンスタントにやってたんだけど、新曲をぼちぼちやりたいなというのがあって、だったらアルバムも一緒に作っちゃおう、と。
──お2人とも多忙な身であるにも関わらず。
會田:圭クンとはプライベートでもいつも一緒に遊んでいるので、その合間にでも作業はササッと自然にできちゃうんですよ。圭クンがまるで日記のように書いている曲の数々のなかから、僕が“詞を書いてみたいな”とか“イイ曲だな”と思うようなものをピックアップしていく感じですね。アルバムの全体像というか、テーマみたいなものは最初にはなかったんですけど。
──タイトルは豪直球に『AMERICAN ROCK』で、しかもオープニング・ナンバーは「1984」という曲名で…ヴァン・ヘイレンじゃないんですから(笑)。
高桑:(笑)ジャケットのデザインも僕が手掛けてまして。タイトルをどうしようかと考えていた時に、手書きで“AMERICAN ROCK”と弱々しく書いてあるとイイかな? って漠然と思い付いたんです。でも、アイゴンに「タイトル、“AMERICAN ROCK”でどう?」って最初に訊いた時はさすがに驚いてたけど(笑)。
會田:確かに最初はビックリしましたけど(笑)、改めて考えてみると“AMERICAN ROCK”っていうイメージが漠然とデカいもので、テーマがデカければデカいほど面 白いと思うようになったんです。周りの人にこのアルバムを聴かせてみても、「これって“AMERICAN ROCK”だよね!」って言う人もいれば、「全然“AMERICAN ROCK”じゃねぇじゃん!」って言う人もいるし、受け止め方はそれぞれですよ。それと、“アメリカのロック”という字面 通りの意味で言えば、僕らがスポンジのように音楽を吸収していた時代の匂いもあると思うんです。特にその「1984」がそうで、自分が洋楽を聴き始めた当初にあったアメリカの雰囲気と、現在のアメリカに対する印象に開きがあったりなかったりするようなところを歌詞に留めて。1984年に起きた出来事を直接的に書いたわけではないんですけど、僕が高校1年生だった当時のことなんかを思い出しつつ…。
──“AMERICAN ROCK”=1984年という、明確な根拠はないけれど“ロックの桃源郷”的なイメージがなぜかありますよね。ブルース・スプリングスティーンの『BORN IN THE U.S.A.』然り、プリンスの『PURPLE RAIN』然り…。
高桑:そうなんですよね。俺らも何か決定的なものがあるわけじゃなかったんだけど、アイゴンとそういう漠然とした共通 項のレベルでずっと話をしていて、より感覚的でイイなと思ったんです。
會田:ファースト・アルバムには「1999」っていう曲もあったんで、次のアルバムでは70年代まで遡ろうかと(笑)。
──「1984」の冒頭に「いつか夢見ていた アメリカのNEWSはあんまりだ...」という歌詞がありますけど、根拠なき正義を盾に戦争を正当化させる現実のアメリカに対しての憤りは根底にありますよね?
高桑:うん。もしそういう感情がなければ、僕が手掛けたデザインももっとパキッとしたものになっていたと思うんですよ。ジャケットを見てもらえば判る通 り、今のアメリカを象徴するようなモヤモヤした感じにしたかったというか。
會田:実際にアメリカに行くようになったのも、実はここ数年なんですよね。90年代は仕事でもプライベートでもロンドンばかり行ってましたから。21世紀に入ってからは海外へ行くにもアメリカばかりで、自分がそこで見た現実の景色を作品に投影してみたいとも思ったし、何よりも、僕から見ると圭クンって凄く“アメリカン”な感じなんですよ(笑)。出会った頃、圭クンはアメリカに詳しい人というか、アメリカのカルチャーと直結してるようなイメージを勝手に抱いてたんですよね。
高桑:確かに、コーヒーは薄いほうが好きだけどね(笑)。
──“AMERICAN ROCK”と謳いながらも、全編を通じてゴリゴリのギター・リフが響き渡るようなカラッとしたアメリカン・ロックをやっているわけではないところがイイですよね。「Rock'n Roll」という曲は、タイトルのイメージと相反するメランコリックなバラードだし(笑)。
會田:HONESTYでの僕の詞の書き方はどれもそうなんですけど、デモで圭クンが適当な英語で唄ってるのを聴いて、そこから膨らませていくんです。「Rock'n Roll」は、サビの部分を圭クンが“ロックンロール”って唄ってるように聞こえたから、タイトルも「Rock'n Roll」で行こうと。圭クンの語感をたどるというか、割とそういう空耳作詞法が多いんですよね(笑)。この曲調で「Rock'n Roll」と名付けた時点で“勝ったな!”って思いましたから(笑)。
──身も蓋もない言い方かもしれませんけど、スウィートな歌モノが揃ってますよね。肩肘張らずにリラックスして聴けるというか、曲調はバラエティに富んでいるけれども、川のせせらぎのように穏やかに流れていくような…。
高桑:アイゴンとHONESTYを始めた時に、どんなことをやっていけばイイんだろう? と最初は思ったんだけど、お互い素に近いものをやればイイんだって徐々に方向性が固まっていった感じなんですよね。それはライヴもまた然りで、アイゴンとの化学反応が起これば自ずと“HONESTYモード”になるというか。例えば、アイゴンが歌詞を作る上で迷いがあった時は、俺は割とまっすぐな印象を受けるほう…それこそ“HONESTY”(誠実)なほうを選ぶんです。“今はニュー・ウェイヴみたいなのが流行ってるから、ちょっと採り入れてみよう”とか、そういうイヤらしい計算はHONESTYには一切ないんですよ。
會田:そうだね。ストレートに仕上げるから、今回の作業も凄く早かったですよ。僕は一晩に歌詞を3曲書くような日が2~3日は続きましたから。まぁ、そうしないとリリースに間に合わなかったんですけどね(笑)。「1984」も実は圭クンが10年前に作った曲で、圭クンのなかではずっとボツ曲だったみたいなんだけど、「イイじゃん、やろうよ」って圭クンが唄わないことを前提に説得して(笑)。