ピールアウトが解散することになった。
ファンのみんながホントに驚いたのと同じで、俺も聞いた時は凄くビックリした。それはみんなもきっと共通 な認識だと思うが、ピールアウトが"最も解散しそうにないバンド"というイメージが強かったからではないかと思う。でもだからこそ、それと同時にやはり、"ロック・バンドは生き物なのだ"ということをみんな感じさせられたのではないだろうか。
このインタビューはこちらから"出来れば話を聞かせて欲しい"とお願いをして、岡崎くんに了承してもらったものである。解散が決まってからも、こうやってちゃんと話を聞かせてくれたところや、様々な場面 に、ピールアウトの"ロック・バンドとしてのイノセント"を最後まで追求した独特の美学を感じ取ることが出来る。ピールアウトの歌詞に"42.195キロを全力疾走する長距離ランナーのように"(「原始進化」)という有名なフレーズがある。ピールアウトとは、最後までそういう有り得ないことをそれでもやってしまおうとする凄まじいバンドだった。
インタビュー当日、出来上がったばかりの新曲「PEACE, ENERGY AND LOVE ~Peace, Energy And Love On Unchained Time~」(ベスト盤『PEALOUT 1994~2005』に収録)を聴かせてもらったが、それが本当に素晴らしかった。清々しさと未来への希望に満ち溢れていた。絶対みんな聴いて欲しい。(interview:シンスケ横山)
──まず、最初に言っておきたいんですが。
岡崎:はい。
──俺はピールアウトのファンだし、メンバーの3人と仲良くもさせてもらってるんだけど、今回の突然の解散宣言については、やはりファンとしても知りたいと思ってる部分が絶対あると思うんだよね。だから、それを岡崎くんが言いたくないことも含め、なるべくちゃんと包み隠さず聞いていかなければ、というのが今回の俺の使命かなと思ってるんだけど。
岡崎:うん、判った。なるべく頑張ります。
──それで早速なんですが、解散することになった理由から聞いていきたいんですが。
岡崎:理由は、単純な言い方をすれば、これ以上この3人でピールアウトとしてやれることはないだろうという言い方。複雑な言い方をすれば、やはり曲を作ったりバンド活動を続けていく上での3人の方向性のズレとか、3人とも仲はいいんだけど、パーソナルな部分で一人の人間の目指すものがピールアウトというバンドとしてはバラバラになってきてたからってことかな。
──一番最初に言い出したのは誰なんですか?
岡崎:近藤。近藤がソロで出た去年のフジロックのちょい前ぐらいで、『ROLLS NEVER END』レコーディング終了直後ぐらいの頃に、近藤が「活動に限界を感じていて辞めたい」って言い出して。でも、それまでに近藤に何となくそういう前兆は感じてて、それ聞いた時も俺、びっくりしなかったんだよね。
──前兆と言うと?
岡崎:さっき言った通り、音楽の方向性のズレとかで確執や衝突がなかったわけじゃないし、それにソロや高橋とやってるターンテーブルズだったり、ピールアウト以外での近藤の活動が増えたことで近藤のパーソナルな部分が開花していったっていう部分もやっぱりあったと思う。そういうのは端から見てても何となく感じてて。
──引き止めなかった?
岡崎:いや、俺と高橋で引き止めたっていうか、その後『ROLLS NEVER END』の発売も控えてたし、今までで一番長いツアーもやろうって決めてたし、そういうのもあるから「動き出してからまた考えようよ」って2人で言ったら、近藤も「判った」って言って。それから、しばらく保留になってた。でも11月ぐらいにそろそろ答えを出さないとなぁと思って、もう1回改めて3人で集まって話し合ったら、「やっぱり解散しよう」ということになって。
──3人とも解散ということで意見が一致してしまったと?
岡崎:『ROLLS NEVER END』を作ってる時には少なくとも俺には解散の意志はなかったんだけど…。実は、俺も近藤のこと以外の部分でも、内心は“そろそろ幕を閉じる時期が来てるのかな?”と思ってたところもあって。それで後で判ったことなんだけど、高橋も実はそう思ってたらしくて。
──それは、岡崎くんに関してはどういう時に感じてたの?
岡崎:俺が思う、あらゆる面でロック・バンドの緊張感を保つことが難しくなってきてたんだよね。ライヴで言うと、去年一度、良くないライヴがあったんだよ。それで自分達のベストなライヴを知ってるので、これは自分の目指してるロックとは違うと。そこでこういうピールアウト本来のギリギリなステージを続けていくことはもう無理なのかな、幕を下ろす時期を決めなきゃいけないのかな、と思ってた自分もどこかに実はあった。
──ライヴで完全燃焼出来なかったことがあったのが大きかったと?
岡崎:いや、例えば曲作りに関しても長いスパンで辿れば、前の『WILL』っていう、ピールアウトなりのポップというものを形にした完成度の高いアルバムを作り上げることが出来たのは、自分達にとっても大きかったのよ。それで俺は、今はピールアウトのレコーディング・プロデューサーでもあるから、自分にも他の2人にもピールアウトのギリギリ感が出ないと俺はOK出さないし、唄で言えば、俺は世界一近藤の声のイイところを知ってるつもりだし、それを引き出す為のかなりスパルタな厳しいところもあって、それが『WILL』ぐらいからどんどん厳しくなっていったんだよね。
──そうだったんだ。
岡崎:うん。それで『ROLLS NEVER END』は、もうほとんど俺が独占で全部ディレクション、プロデュースして作った的なところもあって。それで結果 的には素晴らしいアルバムが出来たんだけど、そういうところでの方向性やいろんな面 でのズレもやはり生まれてきてたんだよね。それで、その頃から何となくメンバー間がバラバラな感じになってきてるな…ってのは予感としてはちょっとあって、それを自分で言い出すのか、他の2人が言い出すのかっていう緊張感はここ何年かは絶えずあったんだよ。だから遅かれ早かれ、近藤がもし言ってきてなかったら俺が「辞めたい」って言ってたと思うんだよね。
──う~ん……。
岡崎:でも『WILL』の後に、あえて1年ライヴだけをやり続けるって決めて、リリースもやめて、メーカーも離れて、マネージメントも離れて、“すべて自分達だけでやる!”って決めて、がむしゃらにやってたんだけど、その頃ぐらいからかな、俺と少なからず遠くはない感覚で、2人とも“もうそろそろ幕を閉じる時期が来るんじゃないか”っていう予感はきっとあったんだと思う。
──端から見てたら、ホント順調そうだったけど。
岡崎:でも俺、そんなもっと前に、実は1回「辞めたい」って言ったことあるんだよね(笑)。
──えっ、そうなの!?
岡崎:うん、「爆裂世界(バーストワールド)」のシングルを作る前。近藤に原曲を聴かされた時に俺の価値観の中にああいう曲はなくて、俺のコアな部分からは全く真逆な曲だったから、“こういうことやりたいとは思わないなぁ”と思って、「こういう曲はやれないから、俺、辞めたいんだけど…」って言ったの。そしたら近藤に「善郎、辞めるのは簡単だぜ!?」って言われたの(笑)。そのセリフ、この前近藤に「辞めたい」って言われた時にそのままそっくり返してあげればよかったけど(笑)。
──ははは。
岡崎:それで近藤に説得されて、何とか堪えながら(笑)その曲のアレンジを繰り返して、出来上がった曲を聴いた時、俺、身体が震えるぐらい感動したんだよね。あんだけ辞めようとまで思わせた曲がここまで素晴らしい曲になって、今やピールアウトの代表曲でしょ? それから、“もっと葛藤していいんだ、自分と違うものを取り入れたっていいんだ”って俺達、考え方がガラッて変わっていったんだ。でもそれと同時に、バンドとは別 の3人個々のパーソナルな部分も変化し始めたんだろうね。
──判る気がする。
岡崎:だから近藤に「辞めたい」って言われてから、引き止めてる自分と“来るとこ来たな”と思ってる自分がいて、それからは俺も無理に引き止めるような感じはやめて、無意識のうちに今までを清算するかのように、自分の中でも解散に向けてモードを変えていっちゃった部分はあったのかもしれないな。
──最後まで引っ張ってかなきゃ、と。
岡崎:だから、それをビートルズ好きな横山くんに判りやすく言うと(笑)。後期のビートルズで言うと、近藤はジョンみたいな感じで、自分でもうバンド以外の部分でもどんどん突っ走って、それでどんどん自我も芽生えていってる感じだった。それでバンドを何よりも一番に考えてしまう俺は、それはそれで認めてあげたい反面 、すごく葛藤したりして。そして最後には俺がみんなをもう1回まとめて、もう1回レコーディングさせたり…って考えると、俺はポールっぽいんだよね(笑)。
──そしてその状況を見つめながら、2人をやさしく支え続けるリンゴ高橋と(笑)。非常に状況がよく判りました。