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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】吉野 寿(eastern youth)×磯部正文(HUSKING BEE, CORNER)(2004年10月号)- 個性豊かなソングライターたちが競演した全く新しい切り口のコンピレーション・アルバム

個性豊かなソングライターたちが競演した全く新しい切り口のコンピレーション・アルバム

2004.10.01

 以下に掲載する、吉野 寿(イースタンユース)&磯部正文(ハスキング・ビー/コーナー)両名の対談は、日本ではサイドアウトレコーズ、アメリカではファイヴ・ワンというレーベルから今月リリースされるオムニバス・アルバム『マイ・フェイバリット・ソングライターズ』の完成を記念して行なわれたものだ。
 この2人が、それぞれソロとしてのトラックを提供した同コンピレーション盤には、他にも、イースタンユースとは全米をツアーして廻った仲であるカーシヴのティム・ケイシャーや、同じくイースタンと親交のあるスパルタのジム・ワード(ex.アット・ザ・ドライヴ・イン)、まもなく待望の新作が完成するケイヴ・インのスティーヴン・ブロズキーら、インディー・ロック・ファンにとっては最高のラインナップが顔を揃えている。
 普段はバンドの一員として活躍しているソングライターたちが、「グループの枠組みを離れて自由に自分自身を表現してほしい」というオファーに対し、各自個性を発揮しながら、意外性に富んだ形で応えているのが聴きどころだ。ちなみに吉野氏は、話題の女性ユニット=M.A.G.O.とのコラボレーションという形で参加している。
 また、今月末には先日ニュー・アルバムを出したばかりのティム・ケイシャーの別 プロジェクト=ザ・グッド・ライフが来日し、イースタンユースの極東最前線に参加する予定になっているので、そちらも要注目のこと!(text:鈴木喜之)

機械に支配されちゃってる連中と、そうでない人達がいる

──まずは、今回この『マイ・フェイバリット・ソングライターズ』に参加することになった経緯について、簡単に教えていただけますか?
 
吉野:ケンジっていう男がいて、海外でレコーディングする時のコーディネイトとかの仕事を通 じて交流を持ってきたんですが、その人がレーベルを始めて。で、今回「こういうの作りたいから、ヤッテヨ!」って言われて、じゃあ、やりましょう、ということで。
 
──この作品に参加するにあたって、どんなことを意識しましたか?
 
磯部:せっかく海外で出て、向こうの人達にも聴く機会を持ってもらえるのなら、これが日本の感じ、っていうのを出そうとは考えましたね。 吉野:俺は、もうエモっていうのが嫌いで……っていうか、イヤになっちゃってね。そういうのにはしないぞ、って思ったし。アレンジも全部M.A.G.O.の2人に任せたんだけど、そしたらこれが出来てきた。最初と最後に入ってる部分も含めてね。
 
磯部:なんか、すごい叫びみたいなのが入ってるやつですよね。
 
吉野:あれは俺の携帯の着声なの(笑)。「ギャ-ッ」て。
 
──エレクトロニックな感触の音も入ってますけど、これは打ち込みじゃないんですよね。
 
吉野:ぜんぶ、M.A.G.O.のHa*さんがドラムパッドみたいなのを手で叩いてダンダダッって鳴らしてる。打ち込みに関しては、俺もリズム・マシーンとか買って、ちょっとやってみたこともあるんだけど、どうもダメだった。なんか「チャカポコポコポコ……」とかいってさ(笑)。だから子供用のドラムキットを買ったんだ。それを菜箸で叩くとすごい良い音するんだよ。
 
磯部:あー、僕もリズム・マシーンはダメですね、やっぱり人間と一緒にやってる感触が欲しい。それで、今回のでも人を呼んで、最終的に5人くらいで録ったんですけど。パーカッションの人がパッとトライアングルを叩いて、その音とか、良かったですね。
 
吉野:やっぱり、ピコピコに操られてちゃダメなのよ。こないだライジング・サンに出た後、北海道でバッファロードーターのシュガー吉永さんとよっちゃん(元D.M.B.Q.の吉村由加さん)の2人でやってるメタルチックスっていうバンドのライヴを見たら、基本は打ち込みで、そこにギターとドラムっていう編成なんだけど、ピコピコに支配されてる感覚がまるでないわけ。やっぱり機械に支配されちゃってる連中と、そうでない人達がいるっていうことなんだよね。
 
磯部:今、電車とかでも、乗るとすぐにみんなこうやって(携帯を開ける仕種)ずーっとメールしてるじゃないですか。あれ、そうしていないとどうにも落ち着けない、みたいな感じなのかな。
 
吉野:ぼーっとすりゃあいいのに。俺はもう、少しでも機械がうっとうしい感じが気に触ったら、すぐに携帯ぶっ壊すもんね。
 
磯部:あははは!(手を何度も叩く) *この後しばらく携帯破壊話が盛り上がる。
 
──(笑)なんだか話は広がりましたが、そうやって、打ち込みに支配されないように音楽をやるんだ、という気持ちを再確認するにも、このオムニバスに参加したことは意味があったと(笑)。
 
吉野:そうですね(笑)。
 
磯部:ちょっと強引だけど(笑)。 また第2弾をやりたいですよね
 
──ちなみに、他の収録曲で、おっと思ったものはありますか?
 
吉野:やっぱりティム(・ケイシャー:カーシヴ)のやつは面 白かった。向こうじゃ女子から「キャー! ティム~!」みたいに言われてるらしいけど。実は、あいつは毒人間だからさ。そのただもんじゃない感じがやっぱりあるな、っていうか。
 
──ティムの場合、弾き語り+αみたいなスタイルに関しては、すでにカーシヴとは別 にグッド・ライフというバンドでやっていますから、それとはまたさらに違う、エレ・ポップみたいなのを出してきましたよね。
 
吉野:多面性があるんですよね。
 
──磯部さんは?
 
磯部:やっぱりもう、吉野さんのやつが。これはもう、ハスキンのツアー先で、車の中でかけてても、みんな無言になってましたからね(笑)。
 
──(笑)。これ、音がものすごく生々しいですよね。特にヴォーカルなんかは同じ部屋にいて歌われているように聴こえてきますし。
 
吉野:作った時は、かなりちゃんと録ったつもりだったんだけど(笑)……二宮くんにミックスしてもらってね。本当は、カセット・テープにガチャっと一発録りでやってやろうと思ってたくらいだから。ガチャっていう音も入れてやろうかってね。で、ぜんぶ揃ったのを聴いてみたら、けっこう他の人達のはローファイじゃなくて、ちゃんと録ってるから、「あれ? 大丈夫だったかなー」と。
 
──いや、きっと、他の海外の参加者達も今頃これを聴いて「しまった、やられた!」って思ってるんじゃないでしょうか。
 
磯部:せっかく日本から参加してるんだから、違うことをやってないと。
 
──磯部さんの曲の歌詞も凄いですよね。「にんじん食べた馬のパワー」って。
 
磯部:これは……「オホホ」で終わる曲を作りたかったんですよ。脇をつつかれたりするのに弱くて、されると「おほほほ」とかってなっちゃうんで。
 
──そもそも、磯部さんが日本語の歌詞を書くようになったのは、吉野さんの意見を聞いたのがきっかけなんですよね。
 
磯部:まさにそうですね。その頃はもう英語で歌詞を書くっていうことに疑問を持ち始めていて、それでもなかなかふんぎりがつかないのを後押ししてもらった感じでしたね。これで言い訳ができたぞって(笑)。
 
──まさにその後、作詞の才能が爆発的に開花したように思うのですが、吉野さんは現在の磯部さんを作詞家としてどう評価していますか?
 
吉野:叙情詩じゃなくて、現代詩的な感覚っていうか。パズルみたいっていうか、意外とドライに言葉を扱っているな、って。その中に叙情はあるんだけどね。
 
──確かに。
 
磯部:あと、このアルバムは、ジャケットがものすごくいいですね。最初にメールのファイルで送られてきて見た時に、思わず「このジャケット超いいんスけど」って返事しました。
 
吉野:いやー、もし単発でイラストの仕事とかあるようなら、ここまで連絡を、っちゅう感じなんですけど(と前方下半分を両手で指差す仕草)。*スタッフ注:本作のジャケット・アートを担当されたのは、切り絵作家の吉野有里子さん。マジで何かあればご一報を!
 
磯部:また第2弾をやりたいですよね。今回やりがいありましたからね、僕。もっとやってみたいことがまだいっぱいある。
 
吉野:日本の人も、もっとたくさん入れてね。同じ『マイ・フェイバリット・ソングライターズ』ってタイトルで。
 
磯部:家で、自分だけの楽しみでやってるような曲って、吉野さんとかもきっと作ってると思うんですけど、そういうのを、こんな形で発表の場を持てると、また「人に聴いてもらう」ってことで意識も違うと思いますから。
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