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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】杉作J太郎(2004年9月号)- 周りは敵だらけですよ。もしかしたら自分も敵かもしれない

周りは敵だらけですよ。もしかしたら自分も敵かもしれない

2004.09.01

 96年10月から始まった杉作J太郎の東京ボンクラ学園も、はや8年。小学1年生が中2になっているというこの間、杉作J太郎が一貫として提示し続けてきたのが"男の美学"だ。演歌、東映からはじまってお笑い、プロレス、あいぼん運動と転がり続けるボンクラ達がついにたどり着いた"男の墓場"とはどのような境地なのか!? 9/24の「男の墓場プロダクションまつり」を前に、杉作氏がボンクラ学園史を語ったガチンコ・インタビュー。(TEXT:加藤梅造)

セックスしたくなるようなムードとの戦い

──ボンクラ学園もかれこれ8年ぐらい続いてますが、そもそも始めた動機って何でしたっけ?
 
杉作:最初のキャッチフレーズは“日本の義務教育の隙間を埋める”でした。つまり、学校でもっとちゃんとしたことを教えてたら世の中こんなにひどくはなってないと。
 
──世の中ひどいっていうのが根底にあるんですね。
 
杉作:僕はずっと世の中はひどいと思ってますよ。もともと人間はほっておいたら悪いことばっかするんだから。ルールだとか美学だとかいうブレーキをちゃんとつけてやらないと。悪いことをしている本人は快適かもしれないけど、みんながやりたい放題やってたら僕は気分が悪いですよ。そうならないために生み出されたのが男の美学なわけです。
 
──よく東映ヤクザ映画のビデオを流してましたよね。
 
杉作:最初の頃はそんなのばっかりでしたねえ。演歌と東映。あと何やったかなあ。もうあんまり憶えてないけど。
 
──いろいろやってますから。セクハラナイトとかありましたよ。
 
杉作:あれはひどかった。数少ない女性のお客さん一人一人に「オナニーは週に何回やってるの?」とか聞いて、「やってません」なんて言おうもんなら「やってないわけないだろう!」って。そしたら一人の女の子がトイレに立て籠もって終わるまで出てこなかった。あと、「オナニーは正座してテレビ観ながらやってます」って言う子もいて、あれは生々しかったなあ。
 
──まあ、その後、女性の客が来なくなりましたけど…。あと、JさんがWWF(現WWE)にはまってた時は、朝までWWFの話をしてましたよね。
 
杉作:そんなこともありましたねえ。あの頃は毎日WWFを観てた。
 
──WWFはなんで飽きちゃったんですか?
 
杉作:いや、あれは僕が飽きたんじゃなくて、WWFの脚本家が変わったら面白くなくなっちゃったんですよ。ああいうプロレスは脚本が全てだから。それまでは、どんなに下品なことや残酷なことをやっても、最終的な着地点が感動的な男らしい結末になってたんですが、ライターが変わってからは、単に残酷なだけな後味の悪いものになっちゃったんですよ。
 
──で、ここ数年、Jさんはモーニング娘。に熱くなってるんですが、なんでこれほどはまったんですか?
 
杉作:普通にかわいいと思ってるだけだったらこんなにはまらなかったと思うんですけど、やっぱり“あいぼん応援運動”があったからじゃないですか。
 
──ああ、加護ちゃんがまだ中学生だったころの一時期、元気がないからみんなで応援しようっていう。あれは異常に盛り上がりましたね。
 
杉作:まあ、今となっては歴史としてなかったことになってますが、僕の中では。加護ちゃんが凹んでたなんて事実はない!と。
 
──“あいぼん応援運動”はただならぬ雰囲気がありましたよね。
 
杉作:あれは一生懸命だった。まあ、その活動が今につながってますから。それまでWWFにしても他のものでも、ただ好きなものを取り上げてるだけだったんですが、あいぼん運動の頃から、僕がボンクラ学園でやりたいことははっきりしました。つまり対人間社会との戦いですよ。
 
──ボンクラ学園の最初のテーマに戻ったんですね。
 
杉作:初心を忘れてたんです。つまり、心ない人達、その人達が適当に作り上げている人間社会、これが敵ですよ。今、みんな適当に社会に参加しているわけでしょ。成り行き上。そしたら社会も適当になりますよ。その適当な結果 、息苦しかったり不愉快だったりしたらたまったもんじゃない。許さない! 戦争だ! と思ってますから。だからもはやあいぼんも関係ないんです。「問題はもう君の手を離れてしまった」という(笑)。男としてのあり方の問題なんです。過去の問題点のすべてがフラッシュバックのようにあの瞬間に凝縮した。例えて言うなら、高校生がいるとしますよね。3年間部活動をやってるやつもいれば、エロ本みてセンズリばっかりしている男もいますよね。かたや、机を並べている同級生に、3年間どっかの大学生やおやじとセックスしまくってる女もいるわけじゃないですか。まあ、そういうことですよ。だから世の中めちゃくちゃなんです。その子と俺なんかがうまくいくわけないんだから。歩んでいる道が違いすぎて。だからこれは戦争なんです。俺が勝つか、セックスしまくってる女やおやじ共が勝つか。つまりそういった社会をつくりあげているムードとの戦い。セックスしたくなるようなムード。つまり、自分自身との戦いでもあるんです。今、僕もつい敵が外にいるような言い方をしてしまいましたが、「敵はわが内にあり!」なんです(笑)。
 

あいぼん応援運動から男の墓場プロ設立へ

──8月1日に加護ちゃんも無事モーニング娘。を卒業しましたが、Jさんはどんな気持ちでした。
 
杉作:陳腐な言い方ですけど、あいぼん応援運動をはじめてから約3年間のことが走馬燈のように思い起こされました。「思えば遠くへきたもんだ」という感じもありますね。3年前の僕は、とりあえず面 白そうな仕事はなんでもやるというとても受け身の人間でしたけど、やっぱりこの3年間のうちに、攻めていかないと敵は倒せないというのがわかりましたから。それで「男の墓場プロダクション」という映画制作プロダクションを起こしたわけで。
 
──モーニングの応援と映画制作が繋がっているんですね。
 
杉作:もともと映画を作りたいというのは20年来考えていたことですが、かといって僕はお金があるわけでもないから、なかなか飛び込めなかったんです。そういう躊躇していた気持ちから攻めの姿勢に転じるきっかけになりました。
 
──墓場プロには、宇多丸さんにしろ掟さんにしろ、一緒にモーニングを応援していた人が多いですよね。
 
杉作:世間には誤解している人が多いと思うんですけど、モーニングのファンにもいろんな人がいるんでそれを全部一緒に考えてはいけないと思うんです。今僕らが一緒にやっている人達は、最初モーニングのどこに感動したかというと、東映の任侠映画とか、子供の頃に観ていたプロ野球とか、あるいは昔のヤクザとか、つまり男の世界なんです。討ち死にしてもいいというぐらいの出て行き方、それがモーニング娘。に見えた。それだけのことなんです。もし今の映画やプロ野球にそれがあったら、モーニング娘。じゃなくてもいいんですよ。ただ、モーニング娘。にはかわいくてきれいな娘がたくさんいるわけだから、男らしい人が彼女達に惹かれるのは当然のことですよね。だから、男らしさを求めることとモーニング娘。を応援することはなんら矛盾する部分はない。そのへんを口で説明するのがややこしいから映画を作ろうと。
 
──そう言われると非常に納得できますね。
 
杉作:ただ、僕みたいなのが映画なんかに手を出しても儲かるわけない、だから“男の墓場”と名乗ってるんです。これが儲かるんだったら“男の天国プロダクション”って言いますよ(笑)。でもまあ、人間、最終的には誰でも死ぬ んだから、やれるところまではやりたいと思います。目標はジェット・リーを墓場プロに呼ぶことですね。まあとにかく、男の墓場プロで提示したいことは、ボンクラ学園でずっと言っていることと同じで、悪いことはやっちゃいけないということなんです。じゃあ、悪いことって一体何なのか?とか、悪いことなんか結局ないんだって議論はあってもいいけど、それはもっと先の話であって、最初から悪いことはないなんてことになっちゃうと、何してもいいってことになっちゃうじゃないですか。まずは悪いことはしちゃいかんだろうと。だから、どういうことがカッコよくてどういうことがカッコ悪いのかっていう基礎的なことを、これでもかっていうぐらい映画の中で提示していきたいです。もしこの先、墓場プロの映画が毎週どこかで上映されるようになったら、例えば、渋谷で酔った女の子をバンで拉致するような輩はいなくなると思いますよ。そんなみっともないことは男としてやっちゃいけないってことがみんなわかりますから。女を口説くんだったら、(トラック野郎の)桃次郎みたいに正々堂々と口説けと。まあ、手法は全然違いますけど、気分的にはマイケル・ムーアよりも熱いですよ。マイケル・ムーアほどわかりやすくないですが。
 
──マイケル・ムーアは標的が具体的ですからね。ブッシュとか全米ライフル協会とか。
 
杉作:みんなも嫌いな敵でしょ。こっちはみんなが忘れかけているようなことを主張しているわけですから。周りは敵だらけですよ。もしかしたら自分も敵かもしれない。だから、最初はなかなか理解されないかもしれないですね。もう食うや食わずですよ。それでもなるべく観客の興味を引くようにしていきますけどね。
 
──今度のボンクラ学園では、「男の墓場プロダクションまつり」として初上映作品(『任侠秘録人間狩り』と『怪奇幽霊スナック殴り込み(仮)』の二本立て)の話もいろいろ聞けると思いますから、“男の美学”を知りたい老若男女は是非遊びにきて欲しいですね。今日はどうもありがとうございました。(8月19日三軒茶屋にて収録)
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