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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】wash?(2004年8月号)- 所在なく霞んだ想いを音楽に託して伝えたい

所在なく霞んだ想いを音楽に託して伝えたい

2004.08.01

真昼の月を自分達の姿になぞらえた

──ファースト・アルバム『?』に比べて、サウンドに整合感が増して微妙に変化した印象がありますね。

奥村:『?』を制作した時、俺以外のメンバーは完全に自分達だけでコントロールできる状況下でレコーディングをするのが実質的には初めてのことだったと思うんですよ。そこでの経験で後悔もあったろうし、思っていた以上にやれたという自信にも繋がったろうし、そういう個々人の経験的貯金みたいなものがサウンドにも如実に表れていると思いますね。それとやっぱり、今回エンジニアを担当してくれた井上うにさんの力が凄く大きいです。

──椎名林檎さんの一連の作品のミックスを手掛けている方ですね。

奥村:そうです。「ナナイロ」に関して言えば、俺はもっとバッキバキの音にしようと思っていたんだけど、うにさんからの提案で「思っているよりも10歳くらい若くした感じのほうがこの曲はいいよ」と言われて。仕上がりを聴いてみたら、確かにうにさんの言う通りだった。

南波:うにさんが言うから説得力があるんだよな。作品に対する共通の意図がうにさんとバンドの間にあって、ちゃんとゴールが見えていたからこそ成し得た阿吽の呼吸だったよね。

奥村:「ナナイロ」のカップリングの「light」は逆に、うにさんのほうから「もっとバキッとしてみよう」と提示してきてくれて、さすが判ってくれてるなぁと。でも、それはカップリング曲だからそうしてくれたのかな? と思って、「パズル」を「light」よりももっと歪んだ感じにしてもらうにはどう伝えようかと考えていたんですけど、こっちが言う前に勝手に凄まじいことになってた(笑)。語弊を恐れずに言うと、「パズル」はともするとR&B調になってしまいがちな曲なんですけど、うにさんはきっちりロックに聴こえるように仕上げてくれたんです。

──「ナナイロ」も「パズル」も、wash?サウンドの肝であるファズやディレイがしっかり歪んでいながらも歌がちゃんと真ん中にあるという、絶妙なミックスに仕上がってますよね。

奥村:うん。エンジニアの人ってどうしても後から音圧や歪みをグッと増すことを怖がるものなんですけど、うにさんはこっちが言う前から俺の意図する音質の状態にしてくれてたし、俺のほうからそのひとつ前の段階に戻してもらうようにお願いしたこともあったんです(笑)。実際、「パズル」の歌のパートは、最初はもっと歪んでましたからね。

南波:奥村が「ひとつ前に戻してくれ」ってエンジニアさんに言うなんてあり得ない話だからね(笑)。「もっとやれ! やれ!」とはいつも言ってるけど。

──「パズル」のカップリング曲の「過剰サル商売」って、これはつまり…。

奥村:「Too Much Monkey Business」(チャック・ベリー作の有名曲)のタイトル直訳ですね(笑)。『?』の時にも「犬になりたい」という曲をやって、あれもイギー・ポップの「I Wanna Be Your Dog」を俺なりの解釈でオリジナル曲に仕上げたんですけど、その系譜ですね。「ナナイロ」に入れた「S.S.」も同じ部類の曲ではありますね。この系統の曲は、俺達にとってなくてはならないものなんですよ。犬、サル、と来たから、次は鳥あたりで行きたいと思ってるんですけどね(笑)。

南波:そう、チキンまたはバード方面で何か探して、wash?の“動物三部作”を目指してますから(笑)。

──当初は「cheese」という曲が「パズル」のカップリング候補曲だったんですよね?

奥村:そうですね。最初に考えてた「cheese」の出来が余りに良くなってしまったんですよ。それでも絶対に「パズル」には勝てないし、「パズル」に優る曲は今のところ自分達にはない。だったら「cheese」はアルバムに入れようってことになったんです。

──11月にリリースされるセカンド・アルバム『真昼の月は所在なく霞んでる』は、どんな仕上がりになりそうですか?

奥村:シングルから窺えるような感じかな。曲間の秒数までこと細かくこだわってマスタリングにも臨みました。アルバムのタイトルは「エレベーター」という収録曲のなかの歌詞から取ったんです。月というのはやっぱり夜にあるべきもので、昼間は太陽もあるし、空自体の青さに溶け込んで目立たないものだけど、真昼に月が見えたところでちょっと間が抜けた感じもするんですよ。そんな真昼の月を自分達の姿になぞらえて、“今の俺達って何なんだろう?”って言うか、誰しもがそんな想いを抱えているのかな? っていう意識を「エレベーター」を作った時に抱いたんです。このアルバム・タイトルだけは、もう半年前くらい前から決めてあったんですよ。

──そのタイトルの由来というのは?

奥村:その頃にちょうど、東京という街について考えていたんです。俺は東京生まれの東京育ちなんですけど、未だにこの東京という街に馴染むことのできない自分がいる。それをずっと引きずっていて、例えば東京以外の出身者であれば「東京という街に馴染めない」という言葉も成立しやすいと思うんです。その時に考えたのは、東京は地方出身者ばかりが集まった田舎者が作ってる街なんだと。東京に古くからずっといる人もまた東京人という田舎者なんだと。そういう人達が作り上げる街を本心から好きだと俺はやっぱり言えないんですよ。俺も含めて、みんな寂しいから本質を探し始める。生きる意味を探し求めようとする。でも、そんなことを真剣に突き詰めようとすれば、最終的な答えは死ぬしかなくなってしまう。そういう想いを抱えながらも、俺は今日も東京の街に所在なく佇んでいる。そんな自分自身の姿がまるで“真昼の月”のように思えたんです。

──今回の三部作は、『?』の時のテーマである“他者との距離感”をより感覚的に、映像的に拡がりを持たせて発展させつつも、でもやっぱりwash?の奏でる音楽には他者との関わり合いから見える自分、それでも摩擦を渇望する根源的な欲求が通底している。そうした感覚は普遍的なもので、だからこそ僕達リスナーを魅了してやまないんだと思いますよ。

奥村:やっぱり、今の時代は人と人との交わり方が希薄なんだと思うんです。みんな不安で怯えているんだけど、本心では言いたいことをガツンと言い合いたいし、しっかりと受け止められたいし、確かなものが欲しいし、褒められたいし、心から笑い合いたいし、同じ想いを共有したい。そういう所在なく霞んだ想いを、俺達は音楽に託して伝えようとしているんです。

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