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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】THE BACK HORN(2003年10月号)- "伝える力"を増幅させ、リアルな希望を描出した『イキルサイノウ』

"伝える力"を増幅させ、リアルな希望を描出した『イキルサイノウ』

2003.10.01

THE BACK HORNがニュー・アルバム『イキルサイノウ』()すげえタイトル...を完成させた。映画『アカルイミライ』主題歌となった「未来」、シングル「光の結晶」「生命線」を含む本作は、生きることの孤独と葛藤をしっかり見据えながら、リアルな希望を描き出した意欲作。また、音楽性の幅広さと生々しいバンド感を両立したサウンド・メイキングも印象的。メンバー自ら「明らかに過去最高。"これだ!"って思えるアルバムになった」というこのアルバムは、これからの彼らにとっても、大きな意味を持つことになるだろう。(interview:森朋之)

凄くいい精神状態で臨めた過去最高作

──新しいアルバムが出来上がりましたが…。
 
菅波栄純 (g):はい。
 
──聴いてますか、このアルバム?
 
山田将司 (vo):聴いてますね。レコーディングが終わった直後はずっと聴いてて、ちょっと飽きて、最近はまた聴いてます。もちろん完全に客観的にはなれないですけど、素直に“いいなぁ”って思いますね、今回は。
 
岡峰光舟 (b):うっかり1曲目から聴き始めると、つい最後まで聴いちゃいます(笑)。結構長いんですけど…(収録時間54分04秒)。
 
松田晋二 (ds):いつも新しい作品ができるたびに“過去最高”って思うんですけど、今回のは明らかに過去最高。インディーズ時代のものを含めて、“これだな!”って感じがします。
 
──なるほど。栄純さんは?
 
菅波:自分達の作ったアルバムをこんなに聴いてるのは初めてです。基本的に(自分達のアルバムは)聴かないタイプなんだけど。
 
──なぜ、そんなに聴けちゃうんでしょうね?
 
菅波:謎ですね(笑)。
 
松田:でも、どうでした? このアルバム。
 
──まず、音楽の幅が広がりましたよね。
 
松田:あー、なるほど…。
 
──で、リアルなバンド感も伝わってきて。
 
松田:うん、そうですね。このアルバムのレコーディングは7月だったんですけど、一番最初は今年の1月から2月にかけての合宿だったんですよ。
 
──曲作りのための合宿?
 
松田:そう、僕らの曲作りは、だいたい合宿なので。で、その時から(アルバムの)ムードは始まってたんですよね。それがアルバムの全行程が終わるまで続いていたというか、曲が生まれた瞬間の新鮮な感じが全くぼやけることなくパッケージされた。それが今回のアルバムの一番良いところかなって思います。そのことが聴く人にとって、体が動くような感じだったり、直接的にグサッと刺さるような感じになってくれれば…。
 
──今年の1月っていうと、『心臓オーケストラ』のツアーが終わった直後ですよね。
 
松田:そうですね。ツアーが終わって1週間くらいで、すぐに山中湖に行って。そしたらもう、バンバン(曲が)できたんですよ。栄純があらかじめ、コード進行とかメロディを持ってきたものもあったし。
 
──特にコンセプトは定めず?
 
松田:はい。そういうことはできないので、僕らは。ただ、楽曲にもいろいろ新しい刺激を入れたいなっていうのはありますけどね。“前の曲の焼き直し”っていうのはイヤですから。だからといって、“何か新しいことをやろう”って意識するわけじゃなく、凄くいい精神状態で臨めたと思います。ツアーが終わった後の気晴らしってわけでもないんだけど、“曲でも作りに行こうか?”って感じでできたので。それも、良かったんじゃないかなぁ。
 
──4人のテンションがストレートに伝わる音になってますもんね。バンド感がはっきりと感じられるというか。
 
松田:うん、レコーディングしてても、“今の感じは良かった”っていうのが判るようになってきて。『心臓オーケストラ』までは、そんなことも判らないくらい、がむしゃらになってたから。
 
岡峰:アレンジを作りながらレコーディングしてたから。今回はある程度、どうすればいいのか見えてた。それも、大きいと思う。細かいところで“もっとこうすれば良かった”っていうのはナンボでもあるけど、アルバムを通 して、バンドのアンサンブルは凄くいい感じになったと思います。ベース、ドラム、ギター、ヴォーカルっていう単純な形なんだけど、今までになくバランスもいいし。
 
松田:両方に良さがあると思うんですよ。レコーディングをやりながらアレンジを練って作り上げていくのと、今回みたいに瞬間的にバッと録っていくのと。
 
──音自体も、凄くいいですよね。
 
松田:レコーディングのエンジニアさんは、同じ人(林 憲一氏)なんですけどね。たぶん、お互いのことが判ってきたんだと思う。人間性を含めた理解が深まって、それが音の部分で炸裂したというか。こっちが新しいものを持っていけば、向こうにとっても刺激になるだろうし、反応も変わってくるし。
 
──音の進化ぶりも凄いですけど、歌の内容も強烈ですよね。第一、タイトルが『イキルサイノウ』だし…。
 
菅波:(笑)。
 
松田:まぁ、凄く難しい言葉ではあるんだけど、このタイトルのもとで、全部の曲がバッと飛び込んでくる感じはあると思うんですよね。記号っていうんじゃないけど、ひとつのメッセージとして、この言葉が飛び込んでくる……そういう意味では、言葉と音の間にうまく関係ができてるんじゃないかなって思います。タイトル案は、いろいろあったんですけどね。凄くいいアルバムになったから、バンドの名前をタイトルにして『THE BACK HORN』がいいんじゃないか、とか。あと、“漢字+カタカナ”のタイトルが続いたから(『人間プログラム』『心臓オーケストラ』)、そうじゃないものにしたかったっていうのもあったし。
 
──でも、どこから出てきた言葉なんですか? 『イキルサイノウ』って。
 
松田:えーと、「ジョーカー」っていう曲の歌詞に“生きる才能”って言葉があって。この曲はアルバムを象徴してる曲でもあるし、いいんじゃないかなって。
 
自分が置かれた場所でどれだけがむしゃらになれるか
──あ、なるほど。でも、どうですか? みなさんは自分に“生きる才能”があると思います?
 
松田:(笑)。うーん……まぁ、いろんな意味があると思うんですよ、その言葉には。たとえば、“自分の才能を生かすか、殺すか”っていうことも含まれてくるだろうし。今、僕はこうやって話してますけど、もしかしたら、お菓子屋さんになるっていう道もあったかもしれないわけで。
 
──そうですね。
 
松田:常に、無限の可能性があると思ってるんですよね。瞬間、瞬間でいろんなことを選びながら生きてるっていうか。そんななかで“俺はもうどうでもいいや”とかって可能性を自ら殺していくのは、もったいない……そういう意味合いも込められてて。
 
──深いっすね…。まぁ、4人は自分の意志で音楽を選んだわけで、そういう意味では“生きる才能”がありますよね。
 
松田:まぁ、そうですけど…。ただ、僕らには“生きる才能”がないから、音楽という接点で社会に適応してるとも言えるわけじゃないですか。
 
──確かに(笑)。
 
松田:今はこうやって活動の場を持つことができて、それは恵まれてると思いますけど、危ういですよね。サラリーマンが会社をリストラされるのと同じで、バンドが解散しちゃうとか、(レコード)会社からクビ(契約)を切られるっていうのは普通 にあることで。政治家でも何でも、そこは同じなのかなって思うんですよね。で、だったら、自分が置かれた場所でどれだけ一生懸命、がむしゃらになれるかっていうのが大事なんだと思う。そこで、“どうせ何やってもムダ。どうでもいい”って思うのは、やっぱり良くないことで……。僕も、もともと福島でサラリーマンをやってたんですよ。会社でも割とうまくいってたし、彼女もいたし、特に問題はなかったんですけど、そういう生活が余りにも退屈になって。で、“もっと世界を見に行こう!”と思って東京に来たら、こんなことになってて。
 
──気が付いたら、こうなってた?
 
松田:なってましたね(笑)。でも、もしも今みたいになってなくて、最悪の状況になってたとしても、“あの時(福島を)飛び出してこなければ良かった”とは考えないと思う。……や、判んない、“やめとけば良かった”って思うかもしれない(笑)。
 
──(笑)。でも、THE BACK HORNのライヴを観てると、よく思うんですよ。“この人達、バンドがなかったらどうなってたんだろう…?”って。
 
山田:(笑)。
 
──あ、そんなことないですか? 音楽がなくても、ちゃんと生きていける?
 
松田:この2人(将司、栄純)にその質問はけっこうキツイ(笑)。生きていけないと思いますよ、僕が言うのもアレですけど。
 
山田:(笑)。まぁ、何だかんだ食いつないでいけるとは思いますけど。
 
菅波:あと、彼女とかいれば…。
 
──彼女のために頑張れる?
 
菅波:や、養ってもらえるかな、と。
 
松田:…ダメだ(笑)。
 
山田:最初から(社会に)適応する気がないんだ?
 
菅波:そんなことないよ。適応してるし、今も。
 
松田:違うよ、“もし音楽がなかったら?”って話だから(笑)。でも、将司は結構大丈夫かもしれない。意外とバランスもいいし。
 
山田:定職とかは無理かもしれないけど。
 
松田:ただ、この人(栄純)は…。
 
菅波:大丈夫、できますよ!
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