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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】BITE THE LUNG(2003年8月号)- 暮れない夕暮れに鳴り響く鳥肌系轟音ギター・ロック

暮れない夕暮れに鳴り響く鳥肌系轟音ギター・ロック

2003.08.01

じりじりと盛る夏に照りつける真っ赤な夕陽と蝉の音、そしてその抜け殻。あるいは、割れた海面 にはしゃぐように飛び込んでいく孤絶のカモメ...。巧みな隠喩を用いた叙情詩に絡みつくBITE THE LUNGのスリリングなアンサンブルは、聴き手の感性如何であまたものイメージを増幅させる。映像喚起力に富んだ彼らの生み出す音楽が濃縮されたファースト・アルバム『ハグレバード』の完成を機に、はぐれ鳥達の軌跡と今後の行方を訊いた。(interview:椎名宗之)

一筆で荒くなぞったはぐれ鳥の軌跡

──早速ですが、処女作完成の手応えみたいなところから聞かせて下さい。

遠藤:一言で言うなら、BITE THE LUNGとしての緊張感のあるロックが出来たと思います。

──頂いた資料のなかに「(このアルバムには)一筆で荒くなぞったはぐれ鳥の軌跡がある」と遠藤さんがコメントされていましたけど、まさに“一筆で荒くなぞった”感じですよね。

遠藤:そうですね。細部にまで緻密に組み立てて作り込むというよりは、もっとざっくりと荒々しい感じにしてみようかと。

──先行シングルの「蝉音 遠けれど」や「カモメのグレー」は、自主制作のデモCDにも収められていた、ライヴでもお馴染みの曲ですね。

遠藤:シングルは、本当はもうちょっと判りやすくキャッチーな曲にしたかったんですけど、自分達の色というものをよく考えて「蝉音 遠けれど」を選んだんです。もっと売れそうな曲…いわゆる青春パンクのようなものにすれば良かったのかもしれませんけど(笑)、そんな器用なマネはできないし、やっぱり他にはない、自分達にしかできない音楽を志向していきたいし。

──今回、制作にはどれくらい時間を費やせたんですか?

遠藤:レコーディングそのものは5日間くらいです。曲作り、その他諸々まで含めると2ヵ月は掛かりましたね。

吉岡:ドラムに関して言うと、「カモメのグレー」以外はどれもメトロノームを聴きながら録ったんですよ。でもそれだとリアルな感じが出ないというか、キレイにまとまりすぎちゃって。で、この曲だけメトロノームを外したら凄く生々しい質感を出すことができたんで、この曲には思い入れがありますね。

──「カモメのグレー」はバンドにとってかなり重要なポジションの曲ですよね。

遠藤:そうですね。一時期は必ずライヴの一番最後にやってましたから。

進藤:思い入れみたいなところでいくと、僕は「アーリー」が好きですね。ずっと8分(音符)をベタに行くというのが基本的にはあったんですけど、それも全部取っ払って、4弦を一音下げるドロップDのチューニングでしかできないようなフレーズを考えたりして。音の質感も今までにない仕上がりだと思うし。

──遠藤さんが曲を持ち込む時には割と隙間があるというか、余り決め込んだものにはなっていないんですか?

山中: 彼(遠藤)が曲を持ってきた時点で、その曲の持つ風景から浮かぶフレーズはあるんですけど、コード進行と全体の世界観みたいなところは僕が任される時もありますね。

遠藤:あとはセッションの時に足したり削ったりで。最初はザクッとした曲の断片から延々とセッションを始めて、そこから構成を練って徐々に色づけをしていく感じですね。

──詞も独特ですよね。水彩画のような透明感があって、一読すると意味を成さないけれど、サウンドに乗るとグッと伝わってくる。

山中: 少しずつ遠藤の詞のスタイルも確立されてきたけど、最初の頃はもっと判りやすかったよね。

遠藤:昔はもっとストレートにものを言うような青臭い詞を書いてましたよ。今は100%言い切るというよりも、言いたいことを6~7割に抑えて巧く行間を使うというか。詞はアレンジまで出来上がった後で一番最後に付けるんですけど、“何で次の行でこんな急に情景が飛ぶんだろう?”って自分でも読み返すと思いますよ(笑)。でも書いてる時はとにかく必死なんで。文法的に辻褄が合わなくても、自分のなかで統一感があって、唄ってみてメロディと符合していればOKなんです。

山中: 最近は徐々に意味が判らなくなってきてる。でも同時に、判らなくてもよくなってきてる。

──それと、「独唱」に出てくる“トビウオ”、「マンチェスタマーチ」の“ムシ”、暮れない夕暮れに鳴く“蝉”、夕闇に浮かんでははしゃぐ“カモメ”…と、人間以外の生き物が重要なメタファーになることが多いですよね。

遠藤:やっぱり、自分自身の弱い部分や汚いところを歌詞として吐き出そうとすると、どうしても直接的になってしまうんですよね。だからカモメやトビウオの姿を借りて、そこに自分を投影させるんです。

山中: 判りやすく「こうだ!」って詞で提示したほうが受け入れられやすいのかもしれないけど、遠藤の書く詞は聴く人によっていろんな風景が浮かんで、イメージが広がると思うんです。僕も自分なりの風景を思い浮かべてギターの音として出してますし。

自分達にしかできない音楽をやる自負

──詞の傾向と同様に、結成当初から徐々に音楽性も変わってきてますか?

遠藤:確かに変わってはきてるのかもしれないけど…昔はもっと華やかなポップ・ソングをやっていたとか(笑)そういうのではなく、言葉にすると陳腐ですが、自分達が本当に恰好いいと思うロックを追求して、余りジャンルも限定せずにやってきた結果 、現在に至るというか。初期のメンバーは僕と山中の2人だけなんですが、途中「個性がない」とか「何をやりたいのか判らない」とか散々言われて模索しながらやってきて、何とか自分達のスタイルを確立して今回のリリースに漕ぎ着けた…という感じですかね。全くのアマチュアの頃は「ジャンルは何ですか?」とか訊かれると答えるのに困ってたんですけれども、今は「判らないです、スイマセン」って自信があるからこそ言えるし、それくらい自分達にしかできない音楽をやっている自負はあるんです。

──今更なんですが、バンド名の由来は?

遠藤:“ヘビースモーカー”を意味するスラングなんです。直訳すると「肺に染みる」とかいう意味で。

──音楽的なルーツとしては、テレヴィジョンやパティ・スミスなどのNYパンクに影響を受けているんですよね。

遠藤:はい。本来はパンクってもっと暗いものだと思うんですよ。でも日本だと特にパンク・カルチャーは明るいイメージがあるというか、パンク・ファッションはイケてるものとして消費されますよね(笑)。僕はパンクをやるなら人がよけていくようなパンクをやりたいんですよ。

──パンクってメイン・カルチャーに対するアンチテーゼとして成立しているわけだし、メインにはなり得ない本質的な宿命にありますよね。

遠藤:そうですよね。だからパンク・バンドがゴールデン・タイムの歌番組に出るようじゃダメなんですよ(笑)。

──今年の初頭に初めてBITE THE LUNGのライヴをシェルターで観た時、SEはドアーズの「The End」だし、MCで吉岡さんが「今、ロックの衝動を感じています」みたいなことを堂々と仰って、若いのに今時珍しいバンドだなと失礼ながら思ったんですよ(笑)。

遠藤:うん、あれは名言だった(笑)。

吉岡:ああ、そんなこと言いましたっけ? MCというものがまだよく判らなかったんでしょうね(笑)。ライヴ中は集中すると頭が真っ白になるんですよ。

──BITE THE LUNGのライヴにはもの凄く張り詰めた空気感がありますよね。観ている側も体力を使うというか、1曲1曲のあの切迫感が何とも言えなくて僕は好きなんですが。

遠藤:ヤケクソですね、もう(笑)。

吉岡:ライヴの最中はメンバーとよく目が合うんですけど、こっちも力一杯見返してるんです。そこでも結構体力を消耗するんですよね。それが……かなり快感なんですよ(笑)。メンバー同士でも“負けたくない!”って闘争心に火をつけ合うのも重要なことだと思うし、そうやってお互い高め合っていきたいですね。

山中: ライヴ中はギリギリのところまで追い詰めてやってますからね。最後はもうフラフラ。でも一杯一杯になりながらもやっぱり凄く気持ちいいんですよ、誰か観ていようが観ていまいが。暑苦しいのが嫌いな人はホント嫌いになるバンドだと思いますけど、そういう非難の目ですら気持ちがいい(笑)。

──今度のレコ発ツアーのファイナルは、遂に自分達のイヴェントとしてシェルターに凱旋しますね。

遠藤:シェルターはロックの殿堂だと僕は思ってるんで、そこで余り恥をかくようなことはできないし…対バンのBUNGEE JUMP FESTIVALにはない暗さを思いきり出していけたらと(笑)。

山中: 僕はツアー全日がファイナルのつもりで臨みたいと思ってます。より緊張感を研ぎ澄ました成果 をファイナルでは観てもらいたいですね。頑張ります。

進藤:ファイナルは9月になりますけど、僕らの青春はまだまだこれからなので…よろしくお願いします。

吉岡:ツアーに出ること自体が初めてなんで、一生モンになるようなライヴを重ねていきたいです。

──また吉岡さんの名MCを期待してます。

吉岡:(笑)シェルターではまたやると思います。でも本当に、ロックの衝動を忘れたらオシマイですよ!

──ファースト・アルバムの手応えを感じて、早くも次作の構想とかありますか?

遠藤:そうですね。まだメンバーには話してないんですけど、実はもう自分のなかではアルバム・タイトルも決まってるんですよ。ヒントは、今回のが“ハグレバード”で「飛んだ」ので、次のは「潜って」みようかと(笑)。とにかく、次作はもっと自分の心の淵を覗いたような内向的なものになると思います。どれだけ否定的なことを言われようが、自分が作るメロディと唄さえあればそれでいいんだって、今回のアルバムを作って自信が付いたんですよね。僕ら自身にとっても、聴き手にとっても、常に次の展開や作品が楽しみなバンドでありたいと思ってます。

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