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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】SOME SMALL HOPE(2003年2月号)- 鉄壁の3ピースが奏でるささやかな希望

鉄壁の3ピースが奏でるささやかな希望

2003.02.01

とてつもなく大きな不安を抱えながらも、前へ一歩足を踏み出していく勇気。SOME SMALL HOPEの音楽を聴くと、そんなものが沸々とわき起こってくる。拭えない痛みを出発点とする彼らの唄はあまたある安易なポジティヴ・ソングとは一線を画し、口当たりはいいが決して甘さに流されない流麗なメロディに乗せて、やわらかく聴き手の身体中に染み渡っていく。文字どおり"ささやかな希望"を唄に込める彼らの横顔に迫った。(interview:椎名宗之)

現実の生活から生まれる嘘、偽りのない唄

──ミニ・アルバム『No Romantic』のリリースから2ヵ月が経って、今の心境は如何ですか。

北村:出た当初は何も判らずに聴いてたんですけど、今になって冷静に聴くと“まだまだだなぁ…”と。

佐藤:それは細かい点でしょ? ギターがどうこうとかさ。

北村:そういうのって後々になって凄く気になってくるじゃん? 今はそれが気になってしょうがなくなってきた時期ですね。

藤井: 私は結構その逆かもしれない。最初の頃はノイローゼになるくらい細かいところが気になって仕方なかったけど、もう直しようがないですからね(笑)。当たり前ですけど一生懸命作ったものだし、その時の自分たちの技量 がそこまでのものだったんだから、これはこれでいいのかなと。

佐藤:私は2人と全然違って、今もなお「してやったり!」って感じなんですけど(笑)。

──三者三様、見事に分かれましたね(笑)。

北村:何はともあれ、これをスタートにしてというか、作品としては精一杯やったものですから。

藤井: でも、作品に対して満足するっていうのはいつまで経ってもないんじゃないですかね。

北村:うん、その時点で満足したら次がないもんな。

──SOME SMALL HOPEの唄は、よくあるポジティヴ・ソングとは違いますよね。「本当は怖くて仕方ない」けど、「その先に見える道へ」踏み出していこう(「My Steady Beat」)とする。これはそのままバンドの姿勢にも通じると思うんですが。

藤井: そうですね。私が書く詞に関しては、ネガティヴなものがないと本当のポジティヴには絶対になれないと思ってるんで、自然とそういう歌詞になるんだと思います。ウチのバンドはこのとおり三者三様ですけど(笑)。

北村:3人とも結構仲が良かったりするんで、お互いの生活とか生き様みたいなものが手に取るように判るんです。そうした現実の生活のなかから生まれてくる唄っていうのは、嘘、偽りがないですよ。

──ええ、SOME SMALL HOPEの歌詞は上っ面だけじゃないのがよく判りますよ。

北村:うん、その上っ面に対して「そうじゃないんだよ」っていうリアリティを唄に込めてますね。

藤井: 今回のアルバムのタイトル自体が『No Romantic』ですからね。「ロマンティックなだけではダメなんだよ、ちゃんと現実と向き合わないと!」っていうのを自分たちも噛みしめつつ、決して押しつけがましくならないように、ありのままの自分たちをそのまま出しましたから。あと、勢いも忘れずに。初めてのCDというのもあったし、溜まりに溜まってたものを一気に吐き出した感じで。

──このアルバムには、平本レオナさんを中心としたHUSKING BEEの面々が全面 的にバックアップしているそうですが。

藤井: 昔やってたバンドの頃からずっと知り合いだし、音楽的にも個人的にも尊敬してます。今回もウチらのためにイヤな顔ひとつせず、いろいろやってくれました。基本的に機材を全部お借りしてます(笑)。

北村:ギターに関しては、アンプはほとんどハスキンのですね。あっこ(佐藤)に関してはドラム・チューナーの方を紹介してもらったり。

藤井: 私はハスキンから学んだことが一杯ありますね。一番大きいのは唄をうたうことに対する“自覚”ってことかな。凄く基本的なことだけど、ノドを大事にするとか、自分を大事にするとか。単に“唄をうたいたい”っていう気持ちだけでは現実的ではないんですよね。

佐藤:ハスキンの皆さんは時間が空いた時にスタジオへ遊びに来てくれて、精神的にも支えてもらったし、それは凄く嬉しかったですね。

あるがままの自分たちを出していく

──北村さん作の「星の音」は、藤井さんと北村さんの掛け合いヴォーカルが新鮮でしたね。

北村:一番最初に作ったデモテープの頃はもっとこの傾向が強かったんですよ。そう、めぐ(藤井)とバンドをやろうと思った時に、そういう掛け合いもできるだろうし面 白いだろうなと思った。

──一番最後に収められている「SOUL FLOWER」だけ英語詞ですが、元々はこの路線だったんですか?

北村:前のバンドでも英語でやってて、その流れで。だから最初の頃は違和感を感じてなかったんですよ。それから徐々に日本語でもやってみたくなったんです。

藤井: 日本語で唄をうたうもっと以前に、自分が自分であることを求めていくと、英語も喋れないのに英語でうたう私がちょっと嘘くさかったんですよ。ただ、英語でうたってる大好きな日本のバンドはたくさんいるし、過去の自分たちを否定するわけではないんですけど。何か突き抜けるような想いを表現をしたいと思っている時に、“何なんだ、この嘘くささは?”って凄い感じたんです。その話を2人にしたら、時期的に同じ思いを抱いてたらしくて。それからはすんなりと日本語に移行できたというか。

北村:現実の自分が詞で言っていることですから。ありのままの自分を出すという流れで。

藤井: なのに何でこの「SOUL FLOWER」だけ英語詞なのか? っていう話ですよね(笑)。これはスペシャル・ボーナストラックとしてとらえて頂ければと…。

北村:ライヴでは以前からやっていた曲で、この曲を聴きたいと言ってくれる人も周りに多かったし、音源として残しておきたいという単純な欲求ですね。

──今は折を見て新曲を練り上げている段階ですか?

佐藤:はい、3~4曲くらいを同時進行で進めてますね。

藤井: この『No Romantic』に入れた曲みたいに、判りやすいメロディで詞がストレートな曲ばかりをやると、人間ってものは全く逆なものをやりたくなるんですね(笑)。もうちょっと違う、尖った曲もやりたいなと。

──ああ、確かに。このミニ・アルバムが割とアッパーな曲調の唄が多かったから、もっとドンヨリとした暗いのも聴いてみたいですね(笑)。

北村:やりたいことはたくさん頭のなかにあるんですけど、それに技量が追いついてないんですよ(笑)。

藤井: それを何とか克服して(笑)、レコ発のライヴには新曲も何曲か披露したいですね。今はこういうのを作りたい、ああいうのを作りたいっていう気ばかりが先走ってますね。そればかり考えてます。

佐藤:私は、まずはレコ発のライヴを成功させたいっていうのが先かな。

藤井: そうね、まずはね。やっぱり自分たちの基本はライヴですからね。今って、CDはいくらでも手直しできる時代じゃないですか。だけど中身が薄っぺらかったり、嘘をついていたらライヴで全部丸見えですから。3月2日のレコ発は私のバンド人生のなかでもかなりの記念日だと思ってます。

北村:このバンドで2年半活動してきて、自分たちでライヴを企画したことがなかったんですよ。SOME SMALL HOPEがメインでやるライヴがなかったし、いい意味でのプレッシャーもありますね。これだけ長いツアーは初めての経験だし、楽しみですよ。一瞬、一瞬を大切にしたいです。

──今さらなんですが、バンド名の由来は?

藤井: ヴァージニア・アストレイというイギリスのアーティストの曲に「Some Small Hope」っていうのがあるんです。凄くいい曲で、思春期に衝撃を受けたあの感覚を今でも忘れないでいますね。

北村:ライヴのSEにも毎回使ってるんですよ。

藤井: 結構ウチらにピッタリかなと思って。あっこは最初「エ~」って言ってたけど(笑)。

佐藤:曲を知らなかった時はどうかなと思ったけど、今はこれで良かったなと思いますよ(笑)。

藤井: 世のなかにいろんな絶望があるなかで、私たちの音楽がほんのわずかな望みのひとつになればいいなって思うんです。

佐藤:本当にそうだねぇ。こうして音楽を通じて自分たちにも何かができるっていうのが、私たちにとっても希望になってるんですよ。

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