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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】浜崎貴司×今野多久郎(2003年1月号)- 「幸せであるように」は『イカ天』の精神だった

「幸せであるように」は『イカ天』の精神だった

2003.01.01

今も昔も変わらぬ“グッとくる”音楽

今野:別に否定するわけではないけど、「この人、音楽の場所にいるのが一番いいのかな?」って首を傾げたくなるアーティストも今の音楽シーンのなかにはいる。そういう人が余りに多いと情報過多のなかにそれも紛れ込むから、選ぶ側も判らなくなる。持って生まれた才能とか、育ってきた環境とか、人に見られるようになってからの育ち方とか、出会いとか…それは今浜崎が言った“運”ということだと思うんだけど…それも音楽人の素養次第なんじゃないかな。我々としては、まずは音楽を作る人たちの努力やエネルギーが損なわれないようにしないといけない。それと、今や50代になっても第一線で音楽をやり続けている人も珍しくないでしょ?

浜崎:ああ、この間来日したポール・マッカートニーなんて60歳だしね。

今野:ねぇ。日本のミュージシャンでも還暦に近い人たちがたくさん活躍してる。ただ商業的に考えると、そういう年輩ミュージシャンはシーンの表舞台から遠ざかってしまう。だからインターネットがある程度完成形を見ているメディアに対して投げかけられるのは、そういう人たちが今何をしているのかというのを、その人たちまで含めて伝えていくことだと思う。そんな技術的側面 以外の役目や使命をインターネットは持って生まれてきているんじゃないかと、僕は勝手に思ってるんだけどね。

浜崎:もう、「よろしくお願いします!」って感じです(笑)。

今野:インターネットの時代になろうが、変わらない部分はあるんだよ。やっぱり心の琴線に触れない音楽でなければ、どういう方法論で音楽を作ってもダメだと思うんだ。デジタルだろうがアナログだろうが関係ない。さっき浜崎が言った「もう自分のやりたいようにやるしかない!」っていうのは、居直っているわけじゃなくて、それを学んだからこその発言じゃないかな。

浜崎:そうなんですよ。それを学んで突き詰めていきたいんです。あと、ライヴというものがミュージシャンにとってより重要な場になってきていると感じていて、自分にとってライヴはやっぱり原点であり、活動の基盤なんですよ。僕もライヴとインターネットが巧く絡んだほうがいいかなと思った時期があって、イヴェントの生中継をインターネットでやってみたりもしたんですけど、実際のところはどうなんですかね?

今野:この〈LOFT LIVE LINE〉にしても、最終的には実際のライヴ会場へ足を運んでほしいんだよ。仮にテレビ以上のクオリティの画質や音質で配信をやったとしても、ライヴの現場へ行く人は行くと思う。自分の好きなミュージシャンが北海道でライヴをやるとして、本当に観たければ東京に住んでいても観に行くでしょ? だから〈LOFT LIVE LINE〉はカタログ的側面もあるかもしれないけど、“乱聴”のきっかけになればいいと思ってるんだ。「こんなにいろんなバンドがいいライヴをやってるんだよ」っていうのを、まだ音楽を聴く感覚が残っている人たちに向けてどう広げていくかが今後の課題だよね。

浜崎:本当に“乱聴”って大切ですよね。当時、NHK-FMで『サウンドストリート』っていう音楽番組が月曜から金曜まで放送されててね。佐野元春さん、坂本龍一さん、山下達郎さん、渋谷陽一さんがパーソナリティで、その日によって流れてくる音楽のジャンルが毎日変わってた。ロックンロールやらブラック・ミュージックやら何やら…その音楽に伴ういろんな知識も丁寧に解説してくれて。一週間聴き続ければ相当な音楽の勉強になったし、僕はその時に“乱聴”の体験を味わいましたね。ただ自分の21歳頃を振り返ると、横の時間軸を情報処理する能力はなかったんですよ。でも今の若いリスナーは、ニルヴァーナを聴きながら並行してサザンオールスターズを受け入れることができて、凄くピュアなんですよね。つまり音楽に対して意味を必要としていないし、持ちたくもない。重要なのはその触感というか感覚なんですよ。

今野:さっき僕が「インターネットの時代になろうが、音楽には変わらない部分がある」と言ったのは、ウチの娘は今高校生なんだけど、カラオケとかで未だにフォークソング系の歌を唄ったりするらしいんだ。

浜崎:ああ、なるほど。

今野:基本的に今も思春期の悩みは一緒なわけだ。皆でシングアウトする時に、尾崎 豊の「十七歳の地図」を唄っちゃう。唄に対して最大公約数を求めているんだよ。自分が抱いている感情を表現してくれるミュージシャンがいれば、それを同じように感じて唄いたいわけ。そういう部分は今も昔も変わらない。ただ、今浜崎が言ったように情報の入り方とか処理の仕方は明らかに僕らの世代とは違うよ。育ってきた環境や与えられてきたものも違うし、ラジオにしがみつくこともなかっただろうしね。

浜崎:うん。最終的に“グッときてる”状態っていうのは同じですよね。ただ、今の若いリスナーは何でもアリなわけだから、やっぱり自分は開き直るしかないと思ってるんですよ。「俺はこれしかできない!」ってところで特化するしかない。

今野:浜崎の曲に「我想うゆえに我あり」ってあったじゃない? あの曲を聴いて当時僕も同化していったし、ひとつの表現方法としての手段は見えるけれど、それを除いて「我想うゆえに我あり」という言葉で考えさせられるところがたくさんあった。僕はそういう情報の投げかけ方が大事だと思うんだよね。ひとつの言葉やメロディから如何に多くの人たちが反応するか。それが“グッとくる”ってことだよね。

インターネットは人に会うためのメディアであってほしい

浜崎:僕ね、今の状況って『イカ天』の時とよく似てると思うんですよ。『イカ天』に出るバンドはパンクもあればブルースもあって、「♪チカンにあいたい~」なんてヘンなバンドまでいたし(笑)、今もそういう混沌とした状況でしょ? そのなかで“グッとくる”エンターテインメントが出口として必要だと思ってますね。そこには今の時代だからこその切り口がないとダメだけど。今の音楽事情を聞くと、僕はその時流と真逆のことをやろうとするんですよ。必死に想いを伝えようとすると、どうしても曲が6分くらいの長さになってしまうんですけど、「この曲のテレビサイズどうしますか?」とか訊かれても「テレビサイズ? いらない!」なんて答えちゃいますからね。だから、自分の曲をきちんと紹介できるメディアが欲しいですね。だいたいさ、テレビ番組に出て最短2分半に縮めて何とかなっちゃう曲なんて……凄くいい曲なんだと思いますよ(笑)。そこに意味はない。唄っていく意味というのが僕にとっては凄く重要なんですよ。それは自分が生きていくことにも関わってくるから。

今野:浜崎は明らかに歌い手であり表現者だから、テレビがメディアとして一番有効かどうかは判らないね。でも僕はテレビを敵対視してるわけじゃないし、昔からテレビっ子だしね。ラジオの良さもまたあるし。それらを全部否定して「インターネットの時代ですよ」なんて言うのはちゃんちゃらおかしいと思ってる。だってメディアが一個増えただけだから。ただ、インターネットを脅威に感じたらテレビの制作に関わる人も当然工夫するでしょう?

浜崎:どうでしょうねぇ。

今野:浜崎が唄う6分の曲は、現存するメディアでは居心地が悪いかもしれないけど、3年経てば居やすい場所にあるかもしれないし、そのきっかけとしてインターネットが鬼っ子として成立している部分も多々あるわけだから。でも鬼っ子だけじゃマズイから、20何年間も音楽に携わってきた人間としては何とか話もさせなきゃな、なんて偉そうに思ってるところもあるの。浜崎みたいなアーティスト側が強烈に発信していかないと、メディアも活性化していかないしね。

浜崎:うん。僕らのような音楽家が溢れんばかりに突っ走るしかないと思ってますよ。この間、サッカーのレアル・マドリードを生で観に行ったんですよ。で、ロベルト・カルロスが物凄い弾丸シュートをするからあの戦術が生まれるとかさ(笑)、ロベカルがいなかったらあり得ないですよね。戦術はコンセプトでは思いつかないですから。ミュージシャンはロベカルのように突っ走る、思いきり蹴るしかないわけです。『イカ天』の時もそうだったんだと思いますよ。僕らもがむしゃらに突っ走ったし、あの番組が器を用意してくれたんだと思う。これからも僕は意味にこだわっていくだろうし、最終的に意味を乗り越えてグッときちゃうところまで聴き手を連れていきたい。聴いたら2~3日引きずりそうな歌を唄っていきたいし。

今野:アーティストが「間違いないぞ!」ってところで突っ走ってくれないと、本当にメディアがダメになってしまうからね。

浜崎:それと、インターネットから情報を得るだけじゃなくて、インターネットの世界を覗いたら外へ出ていって誰かに会うことを個々人がさらに意識してほしいですよね。それで孤独になっちゃうとイヤだなぁと僕は感じますね。インターネットからある音楽情報を得て、そのミュージシャンに会いに行くチャンスを増やしてもらえたら嬉しいです。あくまでも外に出る、人に会うためのメディアであってほしいなぁと。漠然としてますけど。

今野:そう、インターネットから得た情報で、そこから自分が何をするかが問題なんだよ。とにかく、何があってもアーティストありきなんだ。突出したアーティストが何人も出てこないとダメだよ。だから浜崎も何を言われようが「関係ねぇよ!」って突き進んでくれない限り、下の世代から新勢力も出てこないし。

浜崎:僕もちょっと横道を逸れてみようかなと思って、「よし! ポップな曲を作ってやるぞ!」なんて姑息なことを思っても……全然作れないんですよ(苦笑)。だからやっぱり、自分のやりたいことをやるだけなんです。頑張りますよ。

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