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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】In_the_Soup(2002年5月号)- カヴァーだろうが何だろうが、粉うことなきインスー印!

カヴァーだろうが何だろうが、粉うことなきインスー印!

2002.05.01

どこかで絶対的なものを求めてる

──前から訊きたかったんですけど、諭介さんって学生時代に女にモテました?(笑) 
 
中尾:う~ん、モテてはないんじゃないかなぁ…。どうやったっちゃかなぁ。もちろんモテたいっちゅう願望はあったけど、音楽やって女にモテるとは思わんかった。
 
──ナンパとかできます? 
 
中尾:しようと思ったらできますね。しようとは思わんけど。昔、路上で相方と唄ってた時に、女の子が付いてきたこともあったけど…。一度ね、終電なくした女の子と僕と相方の3人で、アーケードの段ボールのなかに「川」の字で寝たことはありますよ(笑)。可愛い女の子やったけど、そん時は全然変な気は起こらんかった。寝てる時にパッと横向いたら、相方はその子とキスしてたけどね(笑)。
 
──いい話ですね、それ(笑)。 
 
中尾:しかもその後、2人は付き合い始めたからね(笑)。
 
──普段からナンパできたり、日常生活でビッグ・ウェイヴに乗れる人は、表現には向かわないと思うんですよね。 
 
中尾:うん。モテたい願望はあるけど、モテたところですべてが満たされるわけじゃないしね。女にモテたくて音楽を始めた人だって、モテたからって音楽をやめるわけじゃないだろうし。別 のところに何かを求めてるんでしょうね。恥ずかしいから「モテたくて音楽を始めた」とか言うんじゃないかな。
 
──10年前に今の自分の姿を想像してました? 
 
中尾:…してない。小学校や中学校の頃はギターも弾いてなかったし、バンドにも興味がなかった。でも今思えばやけど、自分がアンプの上に足を乗っけて唄ってる姿を想像してた気もする。口では「そんなの大嫌いだぜ!」とか言ってたけど、人生のなかでそういう瞬間はあるだろうなって思ってた。やりたかったんだろうね、そういうことを。
 
──結果的には今、なりたい自分になれてますよね。 
 
中尾:やりたかったことのひとつはやれてると思う。それ以上のこともやってると思うし。 
 
──今度のシングルは、NHK教育の『真剣10代しゃべり場』という番組のテーマソングでもあるじゃないですか。あの番組を見ると、自分がこれから先どうありたいかっていう議論が真剣に交わされてますけど、本当に自分がやりたいことを見つけるって、凄く難しいことですよね。
 
中尾:10代の時は、将来の夢を訊かれると不安やないですか。自分がどうなるかなんて判らんし、訊かれても頑として言えることはない。「ビッグになるぜ!」っつうのがその頃の僕の返し言葉やったっちゃけど…。歌でメシを食おうとも思ってなかったし。だから大学卒業してからかな、具体的に自分が何かしなくちゃいけないって考え始めた時に、「歌しかないんだ!」って自分に言い聞かせた。その通 りやと思ったし。でも、昔ほどは「歌しかない!」とは思わんくなってきた。 
 
──それは、いい意味で音楽との距離感が出来てるからじゃないですか?
 
中尾:うん。これからもずっと歌は唄い続けてくやろうけど。この間、とあるバンドの人に、「“音楽しか自分にはないんだ”っていう考え方はヤバイっすよ!」って酔っぱらった時に言われたんだけど、「エッ! 音楽がすべてじゃないの!?」って思って。そういう考え方もあるなぁって。でも、本当に自分がやりたいことっつうのは、他人に何を言われても揺るがないやろうしね。未来に怯えて「これをやるんだ!これしかないんだ!」って決め込んでやるのもいいやろうし。田舎にいた頃に、居酒屋で「僕はビッグになるんだぜ!こういうことをやりたいんだ!」っちゅうことを吹っかけると、店のオヤジから「そんなに甘くねぇぞ!」とか言われたけど、それは力になった。
 
──「ナニクソ!」って?
 
中尾:うん。「夢っつうのはそんなに甘くねぇぞ~。お前たちもまだまだ青いねぇ~」って言われる度にワクワクして、「それはアンタだからダメやったんちゃあ!」って逆に説教したり(笑)。そういうことを言ってくれる人がいたということは、いつか僕にもそういう時が訪れるっちゃって思って、その時の自分に怯えるくらいに言い聞かせた。「絶対ビッグになる!」って。友達と一緒にヒッチハイクした時もね、お互い国際俳優になるとか、ビッグなブルース・シンガーになるとか、「絶対だな!? 絶対だな!?」って言い合ってたんだけど(笑)、「“絶対”って言ってるけど、その“絶対”が“絶対”じゃなくなる時が“絶対”に来るからな! そん時に“絶対”アンタのほっぺたを殴るから!」なんて言い張って。 
 
──ははははははは。

中尾:絶対、絶対、絶対…って、今考えると本当に怖かったっちゃやろね(笑)。その友達は今、その形を変えて幸せな家庭を築き上げてて、僕はこうして運良くやれてるほうで…。絶対が絶対じゃなくなったからって、もう殴りはしないけど(笑)。

 
──10年後の中尾諭介は想像できますか? 
 
中尾:10年後っちゅうことは…39(歳)か。うん、いい感じの大人になってる気はする。ならんとしょうがいない気がするし。心配はしてないですね。自分なりに折り合いをつけてやってると思う。
 
──「光った汗~」の歌詞にもありますけど、「どうも明るい未来は/何だか程遠そうさ」っていう時代じゃないですか。思春期の頃、大人になればそのぶん不安がなくなると思いませんでした?
 
中尾:うん。「絶対ね! 絶対ね!」って言い合ってた頃のほうが未来は明るかった気はしますね。そんななかで、やっぱり希望がないと生きていけんと思うしね。「“あたたかいコーヒー”が飲める」でもいいし、何かしら小っちゃいことでも希望が感じられることがないと。さっき「“絶対”なんてものはない!」って言っちゃったけど、やっぱ“絶対”なものを求めてるからこそ、こういう歌を唄うんでしょうね。 
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