互いが補完しあう、相乗効果の相乗効果。そんな夢みたいなことが起きた。昨年4月に新宿ロフトで行われた『ひみつきち』でだ。仕掛けたのはペテカンとIn the Soup。彼らのうねりの核がさまざまなエネルギーにシンクロして、その場は音楽とも演劇ともつかないなにかを生んだ。全ての感覚が弾け飛び、そして身の内に収束していくという信じられないようなエネルギーがそこにあった。そんなことを実現したペテカンとIn the Soup、今度は4月にシェイクスピア公演のために生まれたという東京グローブ座で『目を閉ぢる』なるものを行う。一体、今度は何が起きるんだ? シェイクスピアもひっくりかえるようなことを見せてくれるに違いない。
ペテカンとIn the Soupの接点、接合、そして『目を閉ぢる』について、ペテカンから演出兼役者の本田誠人、In the Soupからは中尾諭介の両氏にお話を伺った。[text:斉藤友里子]
気になるあいつ
──お二人が竹馬の友というのがペテカンとIn the Soupが出逢うきっかけとなったそうですね。
中尾諭介(以下、諭介):つきあいがはじまったのは高校の頃で。中学校ン時はあんまり遊んだりせんかった。誠人はその頃からきちんと相方がおる漫才をやっとって、いつも誠人の周りは人だかりができててさ。俺はかなり低レベルな、うんこちんこ系の笑いをね、やっとったのですよ。
本田誠人(以下、本田):僕らがネタやってると、少し離れたところで「うんこ! うんこ! うんこっ!」って叫んでるんですよ。なんやろな、この人って思ってたんですけど、なんか惹かれるところが……。ただ者ではないなって。
──お互い、気になる相手ではあった、と。
諭介:そう。誠人はなんか俺より街中に住んどったし、なんかオシャレやし。僕がケミカルはいてたら誠人はストレートジーンズ。僕はどっちかと言うとひがみ根性の目で見てて。そしたら、高校にあがってたまたま同じクラスになっちゃって。そのクラスはこの人しか知ってる人おらんでさ。で、長渕(剛)の話をしたら「おお、あれ知っちょっちゃ?! 」って。
本田:そうそう、長渕で急に距離が縮まった。
堅実派 奔放派
──それだけ目立ってた二人が一緒になるとよりいっそう目立つでしょう?
諭介:学校の先生に怒られる時とかも比較されたよ。先生に言われたことよく覚えちょるもん。「本田がなぜ面白いか判るか? 本田は締めるところを締めているからだ」って。
本田:並んで怒られてても、いっつも諭介の方が怒られてて。でもそんな諭介にハラハラする反面、僕は羨ましく思ってましたね。授業中に宿題を先生が発表するじゃないですか。ハッと諭介を見るとぼおーーっとどっか見てるんですよ。次の日にはもちろん怒られるんですけど、それでもいいじゃんって思えるところが。
──しっかり者と奔放者で、いいバランスじゃないですか。
本田:そうなのかもしれない。今回の『目を閉ぢる』のミーティングでも、そんな場面がありました。階段がいっぱいあったらって想定をしていたんです。僕はその階段をいかに一歩一歩登っていくかを最初に考えた。多分あのへんで疲れるからここで休憩を入れようって思いながら階段に登ったりしてると、諭介は全然登ってこない。なぁにやってだろと下を見ると、「……これパーンと行ったら飛べるかね」ってぽつりと言うんです。えーッ! 10段はとべないよ……あ、でも6段くらいだったら飛べるかもしれないって。諭介は昔から僕にそういう改革を起こすんです。
景色が切り取られたコマ劇場の工事現場で呑んだ
──お二人がこうした経緯で友達なったように「ああ、こいついいなぁ」と思った瞬間がペテカンとIn the Soupという間柄にも不可欠なのではないでしょうか。昨年の4月に新宿ロフトで行った『ひみつきち』。あのなんとも言えない1+1=∞な空気。あれを造り上げるためには「あ、これはきっとわかり合える」そんな瞬間がペテカンとIn the Soupにあったからなんじゃないでしょうか。
諭介:何年前か忘れたけど、新宿のコマ劇場の工事現場みたいなところにちょっと空き地があって、そこで呑んだことがあって。ペテカンとIn the Soupで。地べたに座って呑んだわけよ。やたら楽しくって、そのうちペテカンIn the SoupペテカンIn the Soupってお互いに一発芸とかしよって。その時のことが大きいかもしれん。うん、同じ感覚で笑いあえたね。
本田:ちょうど、映画館の前を工事してたんだよね。夜だからシャッターが閉まってるでしょ。その前に囲いがあって、そうするとちょうど座った時に向こうの景色がスクリーンみたいに切り取られてて、そこを使ってなんかやろうって言い始めたんだよね。そしたら、よく覚えてるんだけど、諭介が「馬飛びします!」って言い始めて。で、諭介がかがむじゃないですか。そしたら全然知らない人が諭介をポーンってとんだと思ったら、その後も続々と知らない人がとんでいく。
諭介:サラリーマンがいっぱいね。
本田:僕らが知らない間に諭介は街行くサラリーマンの人に「今、笑いをとらなきゃいけなくて、馬飛びしてもらえせんかね?」って頼んでまわってたらしいんだけど。
諭介:あれ、いい光景やったね。
本田:うん。今だにやってやっての?
諭介:うん、たまに(笑)。
僕がいるペテカン、諭介がいるIn the Soupじゃなくて。In the Soupとペテカンで
本田:その時にほんとに僕と諭介が言ってたんじゃなくて、ほんとにIn the Soupとペテカンとしてでなんかやりたいね、って話がでたんですよ。僕がいるペテカン、諭介がいるIn the Soupじゃなくて。In the Soupとペテカンで。
──そこから『ひみつきち』が生まれて、今回の『目を閉ぢる』に繋がっていくわけですが、今度はどんな企みなのでしょうか。
本田:前回の「ひみつきち」は、ペテカンとIn the Soupの空気同士をロフトで融合させた。それはもちろんのことで、今回はそれぞれのメンバーが一人一人ぶつかりあってるしばき合いがミーティングの段階から出てる。前回は僕が考えていったんですけど、今回はみんなから意見をいっぱい出してもらって「あんなことやりたい、こんなことやりたい」って。それを全部聞いた上で一つに。
──最後に。『目を閉ぢる』に何を込めますか?
本田:あの円柱のスペースにペテカンとIn the Soupの空気を充満させたい。帰った後お客さんが、今日はペテカンを観に行ったでもIn the Soupを観に行ったでもなく『目を閉ぢる』を観たってなるといいかなって。
諭介:僕は今まで観たことないなってものをみたいって気持ちでやるから。あとみんなぶつかっていけるって、すげぇ面白いよね。ほいで、しょっちょう思うんだよね。あの一緒に長渕とか歌った、同じ畑で、同じ空間で育った人が、またこうやって28にもなってやってるつうのはすげぇなぁって。それが違う人と知り合って、違うところでやってるつーのが、おもしれぇなぁって。すごく贅沢な人生歩んでるなぁって思うんですよ。楽しみだよ。掛け値なしで。