局アナはいつも対戦相手を選べない
吉田 豪(以下、豪):今日が完全に初対面なんですよね。これまでは、すれ違った時に会釈したかどうかっていうぐらいで。
吉田尚記(以下、よ):そうなんですよ。お姿は何度かお見かけしてるんですけど、ニアミスを何度も繰り返して、今日いきなりロフトプラスワンっていう(笑)。
豪:せっかくだからお互い、控え室でもほとんど話をしないようにしてたんですけど。
よ:そうですね。
豪&よ:はじめまして。よろしくお願いします(笑)。
豪:お互い、同時期に「聞く力」の本を出した吉田っていう共通点がありますけど。
よ:そうですよね(笑)。書店でもかなり近いところに並べてありましたね。
豪:ボク史上、一番売れた本が『聞き出す力』なんですけど、それを軽々と越えて売れていったのがよっぴーさんの『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』ですよ!
よ:いやいや、どうなんでしょうね。
豪:いい本でしたね。
よ:うわっ! これだわ〜! これが吉田 豪さんですよね! 武器をいっぱい抱え込んできてる!
豪:そんなことないですよ(笑)。
よ:あと、もうひとつ怖いのが、お客さんのレベルがめちゃめちゃ高い! ちょっとしたことで喜ぶような人ではないと言うか、弱い薬に慣れちゃってるような人が多いですよね?
豪:大丈夫ですよ! それで、よっぴーさんの本を読んで、インタビューや会話をどう捉えているかっていうところがボクと考え方が違っていて面白かったんですよ。「サッカー的なゲーム」って例えを出してたじゃないですか。「みんなで勝利を目指すもの」っていう。
よ:すっごいちゃんと読んでくださってますね……。
豪:ボクにとってのインタビューは、「仕掛ける可能性のあるプロレス」みたいな解釈なんですよ。予定調和ではなくて、相手が気を抜いたら仕掛けますよ、っていう緊張感がなきゃいけない。
よ:プロレスっていうのは分かりますね。それって一番楽しいんですよね。でも、僕の場合は、例えばまったく喋れないグラビア・アイドルの相手をしなくちゃいけないこととかがあるんですよ。だから、こちらとしても、まったく驚かないような話に「え〜!」って言ったりしなくちゃいけなくて。
豪:いい受け身をとって、いかにすごい技だったかを見せなきゃいけないんですね。
よ:そうなんですよ……。スカイダイビングのインストラクターみたいな感じですね。「この子、このまま放送に出したら絶対に事故る!」っていう子を、お腹に括り付けて飛ぶ。
豪:パラシュートを引いたりするのも、全部よっぴーさんがしなきゃいけないわけですね。
よ:そうなんですよ! 「おいおい! いま勝手にパラシュート開いちゃダメだよ!」みたいなことがよくあるわけです。だから話すような話題がなくても、全身黒い服を着てたら「黒がお好きなんですか?」みたいなどうでもいいことを聞いて、まるで放送が成立してるように見せるのが僕の仕事なんですよね(笑)。
豪:そこはボクと違って、ボクは基本的には好きな人に会いに行って喜んで話を聞く仕事なんですよね。でも、局アナは興味がない人の相手もしなくちゃいけない。
よ:そうなんです。それが楽しい部分でもあるんですけど、対戦相手を選べないんですよね。でも、みなさんも同じだと思うんですよ。日常生活ってそうじゃないですか。話したい人としか話してるわけじゃないですよね。でもプロレス的なものが好きかどうかを聞かれると、たぶん好きなんです。じゃなきゃ今日ここにいない(笑)。
面白くないのに「面白かった」とは一度も言ってない
豪:逆に言うと、ボクもサッカー的なチームプレイって、すごく分かるんですよ。複数でのトークイベントとかは基本そうなりますから。でも、インタビューだとたまに良い試合にしようっていう共通の意識がまったくない人がいるじゃないですか。とくに、相手がプロモーションとしか思ってないことがありますよね。
よ:はいはい、いますね! でも、プロモーションのために、プロモーション的なことを喋って、プロモーションになった試しがないと思うんですけどね。
豪:それでも、プロモーションのことしか頭にない宣伝担当がいるから、「もっとちゃんと映画の話をしてください!」って怒られたことが何度もありますね……。
よ:でも、だいたいの人が真面目な映画の話を聞いて映画館に観に行くわけじゃないですよね。
豪:そうなんですよ。現場での失敗談とかを聞いて「そんな面白いことがあったんだ!」って映画に行く人はまずいないのに。
よ:僕もそうだと思う。映画以外でも、例えば相撲って、最近また盛り上がってきていますよね。でも一時期それほどでもなくて、そのちょっと前が絶頂期だった。その時期に何があったかと言うと、朝青龍が揉めに揉めてた時なんですよ。だから、みんなが興味を示すことって、プラスやマイナスはどっちでもいいはずなんですけどね。
豪:だから実写映画版の『進撃の巨人』も、原作の漫画を読んでない人とかでも「なんかゴタゴタしてるみたいだから観てみようかな」っていう人が多いはずなんですよね(笑)。
よ:ですよね(笑)。『進撃の巨人』と言えば、石原さとみさんのラジオとか聞いてた人います? 『石原さとみ SAY TO ME!』とかけっこうクレイジーだったんですよ。
豪:どんな感じだったんですか?
よ:最初は普通に、最近の仕事の話とかをしてるんですよ。それで、「それでは、私が最近聴いている曲を聴いてください。キングギドラで『最終兵器』!」
豪:え! そっち系が好きだったんだ!
よ:え〜! って(笑)。これホントに放送で言ってましたからね! 今だったらヤフーニュースでトップですよね(笑)。その頃、まだネットがラジオのおいしいところを広めたりとかはやってなかった時代なんですよね。
豪:いまなら即、広まりますよね。
よ:なんだろ……行けば行くほど、分け入れば分け入るほど、売れている人が面白いとか、売れてない人が面白くないとか、そういうことじゃないことが分かってきますね。売れる売れないなんて運ですね。
豪:完全に運ですよね。あと、やっていることは好きじゃなくても、本人が面白いことはいくらでもあるじゃないですか。音楽として好きじゃなくてもインタビューは成立するし、映画として面白くなくても成立するし。こっちは批評家じゃないから、褒めたり貶したりが仕事じゃないですからね。
よ:そうですね。豪さんの本にも書いていらっしゃって、僕も同じだなと思ったのが、「どうしよう、これ」っていう作品について話をしてくれって仕事がたま〜に来るんですよ。その時に、これは自信を持って言えますけど、面白くないのに「面白かった」とは一度も言ってないんですよ。でも、「このシーンは好き」みたいな発言はしてる。そこは豪さんとまったく一緒だな、と思いましたね。
豪:そこはボクも守ってますね。
よ:だから、「ハリウッド版『ドラゴンボール』の話をせよ」みたいな時は、完全にそういう感じでしたね(笑)。
豪:ダハハハハ! そんな過酷なミッションがあったんですか!
よ:ありましたよ! それはハリウッド版『ドラゴンボール』の試写会が武道館で行なわれることになり、その試写会の仕切り、主催がニッポン放送だったからですね。
豪:うわ〜!
よ:局アナって、そういうガベージ感と言うか、「局アナならなんとかなるだろう」っていう……。
豪:処理してくれ! って(笑)。
よ:誰も手をあげなかったものをディスポーザーのようにズリズリズリっと。好き嫌いの激しい人は続かないですよね。だから、一部の女子アナの人がどんどんおかしな方向に行くのは、きっとそういうことですよ(笑)。