蛭子さんをテレビ通りの人だと思っていたら……
吉田豪(以下:豪) お客さんからの質問なんですが、『今年、蛭子能収さんの個展が行われたそうですが、それがが中止になりそのお店も一ヶ月程、お休みしたそうですね。面白そうなので理由が知りたいです』。これ、お休みどころか、そのお店自体が無くなっちゃったんですよね?
根本敬(以下:根) (ずっと鞄の中をゴソゴソと探してる)
豪 ……ちょっと、根本さん! 何やってるんですか(笑)。
根 あぁ、蛭子さんが作っておいて、面倒臭くてずっと出さなかったDMがあったんだけどなぁ……。
豪 あ、その展覧会の。
根 それがさ、本当に葬儀の案内状みたいで。
豪 ダハハハ! その時点で予告してたんですね(笑)。
根 結局ね、もう話してもいいと思うんだけど、蛭子さんが来年大きな展覧会をやるみたいで、その肩慣らしに一度お洒落な画廊で個展をやったらどうかって話だったんですよ。
豪 噂だと画廊側が「タレント」蛭子的なものを期待してたら、ちょっと違った、みたいなことみたいですけど。
根 そうです。まぁ、根本的なことを言えば、向こう(画廊)の考えが物凄く甘かったんですよ(笑)。蛭子さんをテレビ通りの人だと思っていたら……。
豪 「ほのぼのとしたお父さん」的なものを想像していたわけですよね(笑)。
根 そうですね。で、尚且つ、いま蛭子さんと佐川一政さんと俺とで、海外から仕事の依頼が来ても対応できるようにマネージャーも付けて、「ハッテンバ・プロダクション」というのを立ち上げたんですけど、蛭子さんからそのコーナーも作りたい、と。で、佐川さんはダメ元で、佐川さんが殺害して食べたルネの頭部と肉、体の手足が無くて所々食べられてる、そんな感じのアクリル画を展示して。
豪 ……そのお洒落な画廊に?
根 そうそう。俺は適当にドローイングで、よく見れば本当にチンコとマンコしかないんだけど(笑)。何だかわからないものを、まぁ、場当たり的に当てといて。で、後は蛭子さんの絵をメインに展示とかしてたんですけど、そこの画廊の店長が、芸能人の蛭子さんが個展をやってくれるというんで、舞い上がっちゃって、ある幻想を抱いてたんですよね。それは、オープニングの日にシャッターを開けると、もうバーッと人だかりが出来てて、全員一変にガーッと入ってくると。でも、いざシャッターを開けたら、2〜3人しか来てなくて。
豪 ダハハハハ! ワイドショーの取材とかも来てるイメージだったのに(笑)。
根 まぁ、それでも初日は5人くらい来たんだけど。(唐突に)で、話はその一週間前に戻しますけど。
豪 はいはい。戻しましょう(笑)。
根 一番最初に絵を搬入したのは佐川さんなんですよ。ちゃんとその店長に「ハッテンバ・プロダクション」のブログのアドレスを教えておいて、「この人は、もしかしたら問題があるかもしれませんけど、そちらでご判断して下さい」と言っておいたんですけど「いいんじゃないですか?」って言っててさぁ。
豪 まさか歴史的な大犯罪者として有名な人だとは知らなかったんでしょうね。
根 まぁ、蛭子さんのお友達だし、なんか有名な人なんだろうと。で、一週間後、いよいよオープンした訳ですよ。でも全然、人が来ないと。で、暇を持て余して何となくそこで「佐川一政」という人を検索してみたら……。
豪 あ〜、そこで知っちゃったんですか(笑)。
根 昔、パリの日本人留学生がさぁ、白人女性を殺害して食べたっていう事件があったのを知って。しかも、その本人が書いた絵だっていうことで。
豪 最初は「物騒だけど想像力のある絵だなぁ」なんて思ってたら(笑)。
根 で、その店長から「どういうことですか?」って、俺とか蛭子さんとか「ハッテンバ」のマネージャーに電話があって、俺は岸野雄一さんと対談してる所だったから、とりあえず「ちょっと一時的に対処を考えるから」って、その絵の上に新聞紙を掛けて、見たい人だけ覗いてもらうという対処法も考えたんだけど(笑)。そしたら、次の日も店長から電話が来て「お客さんからクレームがきた」と。で、「ママに代わって下さい」っていうわけ。
豪 ……ママに?
「全部ボクが悪いんですよ、でも蛭子さんだって悪いんだ!」(画廊の店長)
根 そう、そのお店は店長だけじゃ回せないからって、何かにつけて、その店長のママが傍に居るわけ。
豪 そのママっていうのはスナックのママ的なものじゃなくて?
根 そいつのお母さん(あっさりと)。で、そのママが病気になった時は店も休んじゃう、そういうお店で、それで「ウチのママに代わって下さい」と言うんだけど、それはおかしいでしょ? 窓口は店長なんだから。で、まぁ、色々調べてみると、個展が始まるまでに一週間も期間があったのに、佐川さんの事も調べてなければ、お客さんからのクレームも来てないわけ。初日に来た5人のお客さんが帰る時、皆、不機嫌そうな顔に見えたんだって(笑)。それでドンドンそういう思考に陥ったみたいで……。で、まぁ、佐川さんの絵を外すんであれば、俺の絵も取り外すことになるから、急いで空きスペースに、青林工藝社に置いてある蛭子さんの書き掛けの絵を、蛭子さんの絵を見ながら俺が完成させて。もう、俺らは「蛭子劇画プロダクション」だから(笑)。急いでそのスペースに合う絵を描いたんだけど。で、その夜に、また一悶着あってさ。店長が、もうこれでウチの店が潰れるかもしれない、と、そこまでパニック状態に陥って。そんなパリで事件起こした人の絵を飾って……。
豪 こんな展覧会やってしまったらもう終わりだ、と。街で評判にもなるし。
根 そう。で、何度もその店長が「もう中止にして下さい」って、土下座しようとするんだけど、「土下座するな」と。土下座させないで「お前は馬鹿だな。馬鹿って認めたら許してやる」って言って、「はい、私は馬鹿です」って、それを3回位言わせてそれでも埒が開かないから、じゃあもう帰るかってときに、蛭子さんの絵で、大小の首が宙を舞っているのがあって、それを通行人の人が見られるように、外に向けて展示してたのね。その絵に対して、「あの〜、その絵なんですけど、これを見て気持ち悪いという人もいると思うんで、取り外していいですか?」って言い出して。それで、もう我々は全面撤退することになるんだけど。……あ、そうだ、話はちょっと戻るんだけど。
豪 どうぞ、どうぞ。いくらでも戻しましょう(笑)。
根 その店長と揉めてる最中に、「お前いくつになるんだ」って聞いたら、「実は今日が誕生日で、35歳であります!」って言うから、俺が蛭子さんの絵を差し替えながら、「おめでとう」って言ったら、「ありがとうございます!」って(笑)。
豪 そこは力強く(笑)。
根 でもさ、元はと言えば芸能人の蛭子さんが来るから舞い上がって、客が沢山来るって単なる幻想でしょ? そんなこと絶対あるわけないし、サブカルと言われるけど、そういう人達からは蛭子さん、見限られてるからね。テレビでたまに見る人だから。
……で、展覧会の当日に、我々の絵は取り外すってことになったわけね。でも、その次の日に、蛭子さんとか俺の絵を見に来るお客さんが居るわけじゃない? その時に店長は、「いや、そんな人達の絵は最初からありません」って、もう、お店のブログから俺たちのことを削除してんの。
豪 最初からなかったことしにして?
根 そう、もう空白になっててさ。で、そのことを突っ込んだら、また店長がどんどんヒステリックになっていって「大丈夫なの?」ってママも心配しはじめて、最終的には「全部ボクが悪いんですよ! でも蛭子さんだって悪いんだ!」って言い始めて(笑)。
豪 完全に子供じゃないですか(笑)。その言い合いのときって、蛭子さんも怒ってたんですか?
根 蛭子さんは段々退屈してきてて(笑)。こんなことで揉めるのは面倒臭いから、早く帰りたいな〜。
豪 早く麻雀したいな〜って(笑)。
根 そういうのもあって、もう帰ろうとした時に「蛭子さんの絵を見て、気持ち悪い人もいると思うんで……」って言われたから、さすがの蛭子さんもムッとして、それで全面撤退した、と。
豪 世間では「蛭子の呪い」的なものが原因じゃないかと言われてましたけど、むしろ因果的というか。
根 まぁ因果というかね、その店長がバカだったって話ですよ(笑)。