「歴史アイドル」じゃなくて「黒歴史アイドル」(豪さん)
──吉田豪さんをゲストに迎えた4月26日の美甘子ちゃんの誕生日イベント(「歴ドル美甘子生誕祭」@阿佐ヶ谷ロフトA)が、とにかく凄かったという噂を各方面から聞きまして……。
豪 あれは伝説を作りましたよ!
美 そうですか?
豪 アイドルイベントという括りだと奇跡でしょうね。地上波テレビに出ているような、いわゆるアイドルがやるイベントとしては有り得ないし。
美 えぇ〜、そうですかね?
豪 そこに無自覚なのもいいんですよ(笑)。まぁ、現場に事務所の人も居なかったですしね。
美 そうなんですよ〜(あっさりと)。
豪 そもそもイベントの発端は、年齢詐称をちゃんとカミングアウトしたいって所から始まったんですよね。実際、誕生日イベントをやるとなったら、ケーキに差すロウソクの本数だけでも周りが気を遣うだろうし(笑)。
美 だから本当はやるかどうか迷ったんですけど、会場側から「是非、やりましょう」って言って下さったんで、じゃあやるんだったらカミングアウトしちゃいたいなと。
豪 2歳サバ読んでたけど、誕生日だから一気に3歳増えちゃって(笑)。
美 でも、この機会に言えて良かったなあと思って。誕生日イベントってやったことがなかったんで、すごい楽しかったです。いつもやってるような歴史イベントは、結構しんどいときもあるから……。
豪 あぁ、お客さんの「お前、どこまで知ってんだ?」的なシビアな視点もあって。
美 そうなんですよ!
豪 その点、今回は自分の歴史を語るだけでしたからね。ボクは美甘子ちゃんのことを「歴史アイドル」じゃなくて「黒歴史アイドル」って勝手に呼んでるんですけど(笑)。イベントではボクに、これまでの半生を振り返るコーナーの聞き手になって欲しいっていうことで。
美 そう、豪さんと楽しくやろうと。
豪 そのとき自分の歴史を振り返る年表を見ただけで爆笑したんですよ!
美 ……何でしたっけ?
豪 本当に克明な年表を作ってきて、『幼稚園の時、好きな色は青でした』とか、知らないよ!っていう(笑)。で、高校の頃から歴代の彼氏の話が全部、年表に入ってたんですよ(笑)
美 私って、付き合った人に影響されやすい典型的な女子なので(あっさりと)。
豪 それをアイドルイベントでカミングアウトするのは、画期的すぎますよ! ファンが居る前で、「この彼氏に、大槻ケンヂさんのこと教えてもらって〜」って(笑)。
美 ああ、そっかぁ〜。
豪 その年表に『20歳のとき渋谷ハチ公前でゲリラパフォーマンス』って書いてあって、「これは何なんですか?」って聞いたら、「この時、本当に好きな彼氏が居て、その人と結婚式を挙げたんですよ。本当は結婚したいけど出来ないから、パフォーマンスで」って(笑)
美 その頃、舞台のワークショップに通ってて、そこで知り合った彼氏なんですけど、渋谷ハチ公前で結婚式ごっこなんて、絶対イヤじゃないですか。でもその人も面白い人で、友人に神父役やってもらい、ハチ公に結婚を誓ったんです。園子温監督の「東京ガガガ」に憧れてっていうのもあるんですけど。
豪 見知らぬ通行人にシャンパンシャワーもしてもらって(笑)。
美 そうしたら、周りの人も「ホントの結婚式かも」と思い始めて、皆に祝福されながら、渋谷東急のエレベーターって外が見えるんですけど、それでゴンドラみたいに降りてきて(笑)。その後、同潤会アパート前に移動して道行く人にキャンドルサービスをして(笑)。最後は東京駅前で、ケーキ入刀して……。
豪 会場に来たファンにしてみれば、彼氏の話なんか聞きたくないはずなのに、また楽しそうに話すんですよ。精神病院に入院してた話まで(笑)。そもそもボクが彼女と新宿ロフトの控室で最初に会った時の第一声は「この前、退院したばっかりなんですよ〜」って、心の病カミングアウトでしたからね(笑)。
美 その頃は別に病んでなかったんですけどね。
豪 ハチ公前でのパフォーマンスとか、入院前から狂ってるよ!って会場でツッコミましたけど(笑)。年表トークはその後、入院の話になって……。
精神病棟での体験を告白!
美 入院するってことは、まぁちょっとやそっとの鬱病じゃそこまでいかないと思うんですけど、その時は結構重かったんですよ。だから、常に「死にたい、死にたい」って言ってて……。
豪 でも入院したら、もっと凄い人たちがいて。
美 私は二人部屋で、もう一人の子が「なんで入ってきたの?」って聞いてきて、「ちょっと自分を傷つけちゃいまして……。」とか言ってたら、「そうなんだ〜、私、首吊りでリターン!」ってあっけらかんと言い始めて(笑)。「リターン」は退院してすぐ戻ってきちゃうことなんですけど。こういう人達に比べたら、まだマシな方なのかなと思って。
豪 鈴木慶一さんも同じようなことを言ってましたけど、心療内科に初めて行った人はそう思うみたいですね。
美 最初、病院に入るって聞いた時は、親にも心配掛けるし、ホントにダメな方の人間になっちゃったと思ってたんですけど。
豪 病院の中は松尾スズキさんの「クワイエットルームへようこそ」の世界、そのまんまだったみたいですね。
美 そう! すごいピアノが上手な子が居たりして。で、規則正しい生活になるんですよね。朝7時くらいに起きてちゃんとご飯食べて、寝る時は睡眠剤をたっぷり処方されて(笑)。
豪 身体に「鳥居」を描いてたのって、その頃ですか?
美 そう、その時の先生が凄くいい方で、自傷行為を防ぐために、何か別の方法で発散させようと考えてくれて。手首にボールペンで線を書くだけでも発散出来るらしいんですよ。それで、ある時、太股に「鳥居」のマーク(※鳥居のマーク)をなぜか描いてたんですけど、ずっと描いてたらその「(※鳥居のマーク)」が、「死」っていう文字に見えてきて(笑)。
豪 病院だと紐関係は全部、没収されるんですよね。
美 自殺しちゃダメだから、コートの紐とか、ズボンのゴムとかベルトとか、全部抜かれて。
豪 マーシーがよくギャグにしてますよね。そのせいでしょっちゅうパンツ見えちゃうから、「半ケツ(判決)出てるよ! まだ公判中なのに!」って(笑)。
美 でも、私も朦朧としている時に、持ち込んでいたiPodのイヤホンで首を絞めちゃったことがあるんですよ。まぁ、途中でコードが切れたからよかったんですけど。切れた時にハッと我に帰って、後で先生にその事を報告したら、先生が「そんなことしたらダメですよ〜」って、ベッドに手足を縛りつけられて、そのまま一日中、放置されたんですよ。で、トイレ行けないからって、オムツさせられて……。結局オムツは使いませんでしたけど。
豪 アイドルのオムツ告白って、かなり貴重ですよ! しかも全然エロじゃないのも画期的で(笑)。
美 それが思いの他、辛かったんですよねえ……。ずっと縛りつけられるっていうのが。
豪 なかなか人生の中で経験出来ないですよね。
美 死のうとして、こんなに大変なことされるんだったら、もう死なないと思って。すごいインパクトがある出来事でしたよ。
豪 ……みたいな話をイベントでも平気でするんで「ホントにこの話、大丈夫なんですか?」ってボクが聞いたら、「全然大丈夫ですよ! ねぇ、みんなも精神病院の話、聞きたいよね〜?」って、『ごきげんよう』のサイコロトークくらいの軽さで話してたから、爆笑したんですよ(笑)。
美 私、治ってんのかなって?
豪 治ってる治ってる。治ってないと、それは言えない(笑)。
美 そう、ホントに治ったし、逆にいい経験をしたと思って、自分の弱さも分かったし。ここまで行ったらダメになるなとか、セーブが利くようになったんで。鬱病を一回経験すると強くなりますよね。
豪 そういう話ばかりしてたイベントだったから、twitterでもブログでも、来てたお客さんが「どこまで書いていいんだろ?」とかすごいい気を遣ってて、みんな「詳細については書けません!」とか書いてたんですよ。ところが美甘子ちゃんは「吉田さん、今日のこと全部、豪さんのポッドで話して下さい!」って言ってきて。これ、全部バラしてもいいんだっていう(笑)。
美 そうですよ、是非どんどん話して下さい!
(以下、次号に続く)