ウケていたネタを文字起こしして分析
──石川君にはお笑いのイベントやロフトでのイベントなんかで大変お世話になっているけど、昔のことはあまり知らないんだよね。最初の投稿はいつだったの?
石川:大学の4年くらいの時です。当時は福岡にいて、ラジオ自体は中3の受験の時からずっと聴いてたんですけど、初めて投稿したのはナインティナインさんのオールナイトニッポンですね。
──投稿はナイナイのみ?
石川:ナイナイさんと、あとGO!GO!7188さんの番組があったのでそこにも。
──投稿のきっかけはなんだったの?
石川:そもそも大学入ったくらいに「構成作家になりたいな」ってなんとなく思い始めて。それで構成作家っていう職業について雑誌で調べたんですけど、何もわからずで......。そしたらナインティナインさんのオールナイトニッポンで3ヵ月に1回ハガキ職人大賞みたいのがあって、それで1位になれた人が作家になっているらしいことを知って。「ああ、じゃあここで読まれて1位になったら作家になれるんだ」っていう、今思うと、細過ぎる道を見つけて。なのでハガキ投稿を始めたのは、ある種のオーディションみたいな感覚で。
──オーディション感覚っていうのは初めてかも。作家になるためのオーディションって意識があったってことか。
石川:そうです。とはいえ、当たり前ですけど、すぐには読まれなくて。でも性格上、いろいろと分析するのが好きな部分もあって。毎回カセットテープにラジオを録音して、1時から3時までリアルタイムで普通に楽しんで聴いて、3時から5時は録音したやつをもう一回聴き直して、ウケてた箇所を書き出す作業をまずやって。
──録音はともかく、書きだす作業!?
石川:それで、はねてるキャラクターの口癖だったりだとか、岡村さんの読むリズムだとかを勉強して、「こういうふうにしたら読まれるんだ」と分析していきました。最初の1、2ヵ月くらいは、ハガキを出しつつも、分析を繰り返してました。そしたらちょこちょこ短いのが読まれるようになって。
──そもそも競争率が高そうな番組だよね。
石川:そうですね。出し始めて2ヵ月目に初めて一回読まれて。でも、そこからまた読まれるまでに時間がかかって。3ヵ月目くらいから、2週に1回、3週に2回、くらいのペースで読まれるようになって。でも週に何本も読まれるみたいなことは、ナイナイさんの時は結果的に最後までなかったんですけど......。短いやつを読まれたら、長文のやつも読まれたいなぁと思い始めて、今度はウケた常連さんの長文ネタを文字起こしして。
──また文字に!
石川:さらにそれをハガキサイズにプリントアウトして。
──プリントアウトまで!
石川:で、だいたい長文だと、これくらいのフォントの大きさがちょうど良いんだとか分析して。これが岡村さんが読みやすいんだろうなぁって。
──岡村の目線になって!
石川:長文ネタはどれくらいの長さだとちょうど良いのか、短すぎても長すぎてもアレだし、ちょうどいい長さはどれくらいかな、って。基本、全部手書きで書いてたんで。だいたいの大きさがわかったら、そのサイズで下書きをして。そうやってたらだんだん読まれる回数が増えていったって感じでした。
──模写して勉強していく感じだよね。絵でも小説でもそういうことはあるけど、まさか投稿で!
石川:単純に面白いなぁと思った人のネタは、別に「悔しい」とかそういうのなしに、分析を兼ねて絶対に文字起こししてました。自分の長文が読まれた時は、自分が想像してた読み方と実際に岡村さんが読んだ感じを比較して、「あ、ここの言い回し変えられてるなぁ」「ここ端折られてるなぁ」ってところがあって、そこは次に活かしてました。読む側も気持ちいいリズムがあるだろうから、なんというか......極力シンクロ率を上げるというか。
──パーソナリティのことを考えすぎ! とにかく分析が好きだったんだね。
石川:そうですね、完全に理系脳だと思います。良いのか悪いのかわかんないですけど。
GO!GO!7188の番組でバランスが取れた
──GO!GO!7188のほうは?
石川:ナイナイさんでなかなか読まれなくて、そのストレスがあった時、金曜日の3時〜5時にGO!GO!7188のオールナイトニッポンをやってたんで、そっち出したら、比較的読まれて。
──ネタコーナーがあったの?
石川:ありました。比較的、コーナー以外も面白かったんですよ。結果1年くらいやってたんですけど、僕が一番読まれたんじゃないかな、って思います。それでバランス取ってた気がします。ナイナイさんで木曜日読まれなくても、次の日に読まれるやつがあるからっていう、やっぱそのドキドキというか、ハガキを読まれた瞬間の「よっしゃ!」っていうのと読まれなかった時の凹み具合のバランスを取るために......。両方読まれなかったら、土日、月、火、水とかはもうずっと「はぁ......」って落ち込んでました。
──それはもう地獄だよね。GO!GO!7188の番組があって良かった!
石川:そういえば、GO!GO!7188さんは唯一、自分がライブ会場に観に行ったバンドなんです。福岡時代に。
──もともとGO!GO!7188が好きだったの?
石川:いや、番組を聴き始めてから好きになりました。
──ラジオにはそのパターンってあるよね。俺も小学生の時に中島みゆきのレコード買ったし。
石川:GO!GO!7188の番組が始まった時に、そこで初めてバンドを知ったんですけど、曲も好きになったし、ラジオも面白いなって思って。3人グループの、女の子2人だけでやってて、面白い雰囲気で。
──そうやって2つの番組に投稿していたわけだけど、ハガキを送る上で気をつけてたこととかあった?
石川:自分は基本ハガキのみで送ってたんですが、1回に送るハガキは5枚までとかルールを作ってました。
──制限してたんだ。
石川:逆に、5枚までだから、最低でも5個は絶対にネタを考えないといけないっていうふうに思って。でもふつおたには絶対送らないぞ、そこで読まれてポイントを稼いでも、そこで順位に入ってもそれは意味をなさない、って。で、読まれたところを編集して、自分セレクションのカセットテープを作ってました。ペンネーム○○、っていうところから、ネタ読まれて、じゃあ次のハガキ読みましょう、ってところまでを編集して、それを繋げて。自分のそのネタハガキを読んだことによってフリートークが生まれたら、そこも自分のブロックってことにしてテープに入れてました。初めて60分テープが1本溜まった時は嬉しかったですね。他にも自分の中でルールはありました。スケジュールじゃないですけど、ルーティンもありました。木、金で文字起こしして、分析して、ボンヤリ作って、土日でリサーチとなんとなく概要作って、月曜日に清書して、月曜日の深夜に決まったポストにハガキを出していくっていう、なんとなくのルーティンを作ってて。
──そういえば忘れてたけど、大学は?
石川:一応教員免許の資格というか、一応は数学の先生になるっていうふうな表向きではあったんですけど、でも、大学4年の時にみんなが就職活動しているなか、自分は一切せずに大学を卒業して、その後1年間プータローというか、何もしてない時期があったんですけど、そこがもうずっとハガキばっかりを書いてた時期ですね。
──卒業はできたんだね。
石川:はい。大学を卒業して、4月から2月くらいまで約1年、ずっとネタハガキを書いてました。実家ではほとんど口もきかず、バイトもせず。
──実家にいたんだ。怒られなかったの?
石川:怒られないように、ちょっともう距離を置いて。ハガキ出してることも知られたくなかったんで、ノベルティとかが郵便受けに届くのを、絶対に取られたくなくて、夕方あたりにずっと耳を澄まして、郵便受けがガタンってなったら、即、取りに行ってノベルティを回収するっていうのは続けてました。
──パブロフの犬的なことになっていそう!
石川:そんな時に、『構成作家募集』っていう福岡吉本の新聞の広告欄にあって、それに履歴書を送って。で、面接して、それで劇場に入れて。そこから今に至ってます。
──広告で!
石川:結局、新聞の広告欄で構成作家になりました。ナイナイさんのラジオではなく。でも、最初に言ってたオーディションじゃないですけど、ナイナイさんで読まれたら、やっとスタートラインに立てるっていう気持ちが強くあったので、もしも投稿せず、読まれなかったらこの世界に入らなかったと思います。少なからず読まれたことによって、あ、そっち側に行ってもいい資格をもらえたのかなと思ってます。
──なんだかんだで投稿がきっかけってことか。投稿は人生を変えるね。
せきしろ:1970年北海道生まれ。主な著書に『去年ルノアールで』『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』『たとえる技術』『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』など。