第9回はフルーツポンチ亘さんがゲスト。ランドセル、アメカジ、自衛隊、音楽について、そして、ミドルサーティ、30代半ばの2人がいま思うところをすわカウンセリングかとばかりに語らった1時間をお届けします。(撮影/PANORAMA FAMILY 文・構成/山脇唯)
まあその、アメカジ系の。
山脇:亘さん、2児のパパなんですよね。
亘:はい。
山脇:去年ご一緒したユニットコント公演『すいているのに相席3.5』の稽古中に2人目が生まれて。上のお子さんが……
亘:上の子がもう5歳っすね。今年6歳で年長さん。来年小学校だから。
山脇:じゃあ、そろそろランドセル買わないといけない時期だ。
亘:この時期らしいっすね。
山脇:夏を過ぎると、人気の色とかは品切れが出るって聞きますよ。早く早くで決めないと。
亘:たまたま知り合いの革工房の人が……、まあその、アメカジ系の。
山脇:亘さんといえばの、アメカジの。
亘:その人が、自分の息子のためにランドセルを作って、せっかくだから「今年から商品化する」ってなって。「買いてえな」と思って……そしたら値段がね。色々値段設定があって、8万、9万円くらいするんですよ。女房に相談したら「いや高すぎるでしょ」みたいな。
山脇:相場っておいくらくらいなんですか?
亘:あれって、おじいちゃんおばあちゃんからのお祝いの品の感覚なんで。値段があってないようなもの、みたいな。
山脇:売る側からしたら、いくらに設定してもいい、みたいな感じですね。お祝い価格。
亘:本当にピンキリ。
山脇:それこそイオンで安かったりもするっていいますしね。
亘:そうそう。で。14万、15万くらいするものもあるし。
山脇:えー。どこにそんなお金がかかるんだ。
亘:クロコダイルの革、とかもあったりするし。
山脇:えー(笑)。
亘:逆にいじめられちゃうんじゃねえかみたいな。「なんだお前のランドセル」みたいな。あと、彫り物っていうか、模様が入ってるのもあるし。
山脇:そうか、革とか、こだわったりしたら、上へはいくらでも。
亘:話を聞いたら、革の違いで5万円のもあるっていう。それだったらそっちのがいいかなって。日本製の革なのか、イタリア製の革なのか、っていうところで値段が変わってくるらしいんですけど。
山脇:あーでも、6年間使うもの、って考えたら、そのくらいなんですかねえ。高学年くらいから「ランドセル恥ずかしいなー」みたいになりましたけど。
亘:確かにね。俺、6年間使ってたっけなあ。最終的にナップサックで行ってた気がするなあ。
山脇:たまにナップサックで行っていい日があって「明日ナップで行っていい日だよね?」って、確認しあったりしてました。
山脇:いま、ナップサックって言わないですよね。
亘:え、言わないですか? 言いますよ。ありますよ。
山脇:……そもそもナップサックってどれのことですか?
亘:(PANORAMA FAMILYのリュックを指して)あれは、まあリュックじゃないですか。こう、上をしゅってすぼめられるやつ。あれがナップサックです。
山脇:じゃあ、私たちが当時背負ってたのはナップサックなんですか。
亘:ナップサックです。
山脇:紐でしばって、ぺろ、ってついてたんですけど。
亘:え? ぺろはついてないですよ。ぺろってなんですか。
山脇:フタみたいな……え? ナップサックって何ですか?
亘:だから、上に紐があって。しゅってしぼって、それが背負うとこになる……
山脇:ああ、手芸でつくるやつか!
亘:そうです、手芸でも作ったし……。あれがナップサック。
山脇:さすが。お洒落用語に詳しい~
亘:いや、お洒落用語でもないですけどね、ナップサックは。
届いてたでしょう、それはアンテナ張ってないだけですよ。
亘:いやーでも、ランドセルも考えなきゃいけない。もうそろそろなんですよねえ。
山脇:あっという間ですよねえ。
亘:小学生ってなると、1つの区切りというか。あっちゅうまだったな、って。
山脇:小学生ともなると、社会に出る感じありますよね。
亘:1人で通学するわけですもんね。
山脇:あれ、初日に親は泣くらしいですよ、登校する背中みてたら泣けるって。
亘:わからなくはないかもしれない。もう今なんか、自分の子どもじゃなくても、頑張ってる姿を見るだけで、うるってきちゃいます。幼稚園の行事とか行くと、ちょっと成長を感じたり「ああ頑張ってるな」って思ったら涙じわ~って。
山脇:お父さんになって6年、変わったことってありますか?
亘:なんだろうなあ、でも「家族のため」っていうのを強く思うようになりましたね。お金の使い方も、考えるようになりました、ちょっと。
山脇:むやみやたらとつかわない?
亘:それこそアメカジの物を買うにしても、家族に対して罪悪感がよぎるというか。
山脇:亘さんは、いつからアメカジなんですか?
亘:中学のときですね。ファッションに目覚めだす頃じゃないですか。ちょうどその時に、流行ってたのがアメカジで。
山脇:え? 同い年くらいですよね?
亘:1980年生まれなので、37歳の学年。
山脇:一個違いだ。え、アメカジ流行ってました? 地元どこですか?
亘:横浜です。
山脇:だからだ! それはおしゃれですよ。田舎までアメカジ届いてなかったですもん。
亘:届いてたでしょう、それはアンテナ張ってないだけですよ。
山脇:不良とばっかつきあってたからかなあ。
亘:そんなだったんですか。ありがちな、不良に魅かれちゃう人だったんですか。
山脇:みんなダブダブの服着てました。
亘:僕のときもいましたよ、もちろん。ボンタン、短ラン……ドカンっていって太いやつですよね。
山脇:そうです、そうです。学校のジャージもわざと2L着たりして。
亘:そことつきあう感じだったんですね、イケイケじゃないですか。
山脇:そうですね、イケイケのグループ……不良の自転車の後ろに乗るのがステイタスで。
亘:それこそ意外。おとなしめの感じなのかと思ってました。そっか、ブイブイだったんですね。
山脇:ブイブイ。自転車隠してました。通学、家が徒歩圏内だったんで、途中まで乗ってって隠して。隠チャリ。
亘:隠チャリなんて言葉、初めて聞いた。
山脇:横浜にはなかったのかな。
亘:ないですよ。
代々木公園いく途中に、その間にある古着屋さんに寄って、値段だけ見て「うおー!」って、何十万とかいう値段みて盛り上がって。
山脇:中学でアメカジに向うきっかけっていうのは? 誰かをみて「かっこいい!」ってなったんですか?
亘:誰、ってこともなかったんですけど、その頃の雑誌の表紙が、それこそ所さん、浜田さん、あとは、キムタク。そういう世代なんで、もう雑誌開けばアメカジしか載ってなかったんですよ。
山脇:古着のトレーナー着るぞっていうやつか!
亘:そうです。ジーパンに、ナイキだったり、チャンピオンだったりの、みたいな。あと、アイリッシュセッターっていうレッドウィングのブーツ。それこそキムタクが履いて、当時20万円まで値段が上がったりして。定価でいうと3万円くらいのものがですよ。
山脇:だいたい90年代初頭の出来事ですかね。
亘:僕が中学生だから、1995年くらいですかね。そういうのがバーって流行ったのは。
山脇:「これだ!かっこいいな!」ってなって。
亘:でも当時は……これ、考えられないんですけど、「BOON」とかの雑誌って10代に向けて出す感じじゃないですか。それなのに何十万円のヴィンテージとか載ってるんですよ。今考えると異様な。
山脇:10代に買えるわけないのに……
亘:「誰がターゲットなんだ」みたいな。
山脇:確かに。
亘:それを見ながら「うわ、かっこいいなあ」って。だから憧れでしかなかったんですよ。買えるのはレプリカみたいな。リーバイスでも現行モデルで、2万円しないやつを履いて、『なんちゃって』みたいな。フリーマーケットいって安いの探して。だから、ビンテージとかでもなんでもない、もどきみたいなやつを着て、って感じですかね。
山脇:都会っぽいですねえ。
亘:そんなことないですよ、渋谷のフリマいったら絡まれて、カツアゲされたし。
山脇:あの、代々木公園の。
亘:あと、当時はフリーマーケットがあちこちで同時に開催されてるから、日曜にみんなで行って、ハシゴするんです。代々木公園と、もうつぶれちゃったんですけど東急の上に、プラネタリウムとかあって。
山脇:今ヒカリエのところ。
亘:そこでもフリマやってて、まずそこにいって、代々木公園いく途中に、その間にある古着屋さんに寄って、値段だけ見て「うおー!」って、何十万とかいう値段みて盛り上がって。それが中3くらいの時ですかね。
山脇:そこからずっとアメカジで?
亘:そうすね。そこからもうずっと。仕事するようになって、金を持ったから、今度は買えるようになった喜び、というか。当時買えなかったものを買えるようになった、みたいな感じっすかねえ。だからもう、ずっと。
山脇:アメカジ一筋。
亘:一筋……というか、ほかのがわからない。興味がわかないというか。
山脇:友達が変わって服装変わったりとか、彼女から「違うの着て」っていわれて変わったりとか、他にいくタイミングはなかったんですか。
亘:俺の周りも、そんなには変わらなかったんですよ。変わる人もいたけど……一時期モード系が流行ったりしたじゃないですか。
山脇:ありましたねえ!
亘:きれいめな感じにドン、って転向した友達のギャップについていけなくて。「なんだそれ」みたいな感じになっちゃうから。そっちにいくの、恥ずかしいわけでもないんですけど。そっちにいこうとはあんまり思わなかった。
山脇:そっちにいった亘さんが想像つかない。
亘:相当まわりにもいじられてたんですよ、そいつ。「何かっこつけてんだ」って。黒のシャツ着て~、みたいな。
山脇:ちょっとなんか、変でしたもんね。あの頃のきれいめ。
亘:途中、少し行きかけたのは、スケーター系。アメカジと並行っていうか、アメカジっちゃアメカジなんだけど、みたいな。ステューシーのTシャツ、ハーフパンツ履いて、とか。シルエットが全体的にダボッとした雰囲気には行きかけたことはありますけど、完全に路線変更みたいなのっていうのはない。
”不況の真っ只中”みたいな「大手の会社も潰れちゃうんだ」っていうのをニュースで見て……「これはまずいぞ」って。
山脇:性格的にそういう感じなんですかね。がらっと変わらない。
亘:そうっすねえ。趣味ががらっと変わったってことはあんまないかもしんないなあ。
山脇:わりと、雰囲気や性格的なものも、中学の頃からそんな感じですか。
亘:変わったよな、って言われたことはあんまりないですね、地元帰っても。
山脇:自衛隊入っても、あんまり変わらなかった?
亘:自衛隊は、びっくりされましたけどね。
山脇:「自衛隊に入る」ってなったときに。
亘:「どういうこと?」って「要素がわからん」って。それまで要素がなかったから、自衛隊っていう連想が出来ない、って。
山脇:どういう流れで、自衛隊に入ることになったんですか?
亘:僕、ずっと野球やってて。へたくそだし、弱い学校なんですけど、高校でも野球やってて。で、自分でバイトして、身体を鍛えるためにジムに通いだしたんですよ。そこで、海上自衛隊の人に会って、話聞いてたら「なんかよさそうだなあ」みたいな。
山脇:えー。
亘:特にやりたい仕事もなかったし、工業高校に行ってたから、工場かどこかに勤めてぼちぼちやんだろうなあ、みたいに考えてたところに、海上自衛隊の人から「自衛隊はそんなに悪くねえぞ」と。「きついイメージがあるけど、最初の3ヵ月の訓練は正直きついけど、それを過ぎたら、デスクワークもあるし色んな仕事もあるんだよ」「あーそうなんですかー」みたいな。「お前はこうやってジム通って身体を鍛えてる訳だし、3ヵ月なんて部活動の延長線上で乗り切れるから」「そういうもんなんすかねえ」「ただ、職種を選ぶ時に、きつい職種を選んだら、勿論ずっと肉体的にきついよ」って言われて。「じゃあ、いきます」みたいな感じになっちゃって。
山脇:あらまあ。
亘:就職を意識する頃に、”不況の真っ只中”みたいな「大手の会社も潰れちゃうんだ」っていうのをニュースで見て……「これはまずいぞ」って。小さい工場に勤めて、ある程度たったときに工場潰れちゃって、っていうのが一番最悪。それほどせつない人生はない、だったら公務員いいじゃねえか、と。
山脇:潰れない所に入ろう、って。
亘:それもあって、公務員になろうって、一応受けてみたんですよ。地元が横浜なんですけど、横須賀の境くらいのところなんで、横須賀の基地に勤められたらいいな、地元が近いし、って。で、横須賀だったら、海上だ、って海上自衛隊を希望したんですけど、そこは受からなくて。
山脇:はい。
亘:「航空自衛隊だったら枠が一個ありますよ」ってなって「ぎりぎりまで悩ませてください」って。でも海上自衛隊は、補欠でも枠があかなくて。じゃあプータローになるのもあれだから「とりあえずいきます」って航空自衛隊になったんです。
山脇:海上と航空は、どう違うんですか?
亘:飛行機を扱うか、船を扱うか。わかりやすくいえば。
山脇:飛行機の方が人気ありそうですけども。
亘:話をきいたら、海上自衛隊希望の人が、補欠で陸上自衛隊にまわされることはあっても、航空自衛隊にまわされることは「珍しいな」って。「お前、成績よかったんじゃないのか?」だとしたら……海上自衛隊でいいじゃねえか、成績よかったんだとしたら(笑)。
山脇:そっか、そうですよねえ(笑)。
亘:そのへんのあれはよくわかんないですけど、フリーターになるよりはいいかって。
山脇:最初の3ヵ月はやっぱりきつかったですか。
亘:本当に、言われてた通りで。部活の延長線上というか……厳しいっちゃ厳しいんですけど。
山脇:ほー。
亘:今、戻ってそれをやれって言われたらきついです、もう。でも当時は、身体は動かしてたし、若さもあるし。
山脇:部活やってたらね、その身体でいけば、そんなに。
山脇:喋り方は統一されるんですか?
亘::普段はそうじゃないですけど、号令とか、そういうのに関して言うと、そんな感じです。教官、上官みたいなのがいる事務所的な所があって、そこに入るときは「入ります!!」語尾に「なんとかであります!」っていうのつけないといけない。
山脇:やっぱり。
亘:決まり事について、点検、試験みたいのがあって。「何々の決まりはなんだ」とか訊かれて「なんとかかんとかであります!」って言わないといけない、みたいな感じはあるんですけど。それ以外は普通に。
「せっかく航空自衛隊に入ったんだから……飛行機さわりてえな」って思い始めてきて。
山脇:最初の3ヵ月は、宿舎みたいなところに泊まりで?
亘:教育隊、っていう教育課程をすごすところがあるんですよ。わかりやすくいうと、東は埼玉、西は山口の防府の2カ所あって。うちらは埼玉にいって。
山脇:そこで勉強して……勤めるのはどこになるんですか?
亘:3ヶ月の教育機関を経て、そこで自衛官の基礎を学んで。で、職種を選ぶために適性検査を受けるんですけど、受けると「あなたが選べる職種はこれ」って絞られるんですよ。そこに色々、それこそデスクワーク的なのとか、飛行機の整備員とか、色々ばーって出てくるんですけど。
山脇:ええ。
亘:不思議なもので、3ヵ月の教育を受けると「せっかく航空自衛隊に入ったんだから……飛行機さわりてえな」って思い始めてきて。
山脇:デスクワークっていってたのに!
亘:「デスクワークとかあるよ」「補給業務とかあるよ」って言われてたのに。飛行機、触りたいなって思って、第1希望に航空整備員って書いて。あと武器弾薬整備員と、第4、第5候補くらいまで選べるんですよ。だからデスクワーク的なものもいれつつ。……あとから聞いたら「第1希望に何を書こうが『武器弾薬整備員』を書いた時点で、もうそれになっちゃうから」みたいな。
山脇:えー。
亘:で、武器弾薬整備員っていって、ミサイルを戦闘機につんだり、そういう武器関係の整備をするっていう役職っていうか仕事に就くんですけど。
山脇:そんな、武器を使うなんてこと、あるんですか。
亘:訓練としては。年間に、これだけの射撃をこなしてくださいよ、っていう訓練計画があるんです。それに基づいて訓練がされるんですけど。
山脇:へええ。
亘:細かいことをいうと、ミサイルを撃つ訓練、爆弾を投下する訓練、機関砲を撃つ訓練みたいなのがあって。それに応じて、弾を詰めて、爆弾つめて、って訓練用のダミーを詰めて。
山脇:ダミーがあるんだ。そうですよね、訓練のたびにバンバカやってたらね。
亘:たまに実射訓練もありますけどね。海に向って、とか、標的のダミーを吊るして、そのダミーにむけて撃つ、とか。そういう訓練に向けての準備。
山脇:撃つのは、別のひとですか。
亘:撃つのはパイロットです。
山脇:駐屯地は。
亘:青森の三沢ってところです。
芸人を目指す運命だと思って浮かれてるから「試練だ!」と思って。
山脇:そこから、なぜ芸人に?
亘:芸人は、地元の友達に誘われたんです。
山脇:それは、どのくらい青森にいてから?
亘:自衛隊にはトータルで5年いて、2任期勤めたんですけど、3年目かなあ。1任期が3年で、2年目以降が2年任期になってくるんですよ。その、1任期終わって継続するか、くらいのときに、小学校から知ってるフナコシっていう友達が「亘、お笑いやんねえか」って言ってきて。ちょうどそのとき、継続も迷ってたし……今思うとホームシックだったんじゃねえかっていう部分もあるんですけど。
山脇:ああ。
亘:それを口実に、地元に帰りたかったんじゃないのかな、って部分もあるし。悩んでる時期でもあったんですよ。この仕事を3年やって、この仕事を一生するのか? って、色々ちょっと見つめなおしてる時期でもあって。
山脇:で、ホームシックもあって。
亘:そのときに、芸人に誘われたのを、運命だと思い込んで「じゃあいく」って。それも不思議な話で、その前に違う友達からも誘われてたんです。
山脇:「お笑いやんねえか」って?
亘:はい。そいつも小学校のときからの仲なんですけど、人間的に「その感じだったら絶対無理だよ」って奴だったんですよ。そいつは「二日酔いだから仕事行かねえ」みたいなていたらくだったんで「そんな感じだったら無理だと思うよ」って断って。でも、「もし、誘ってきたのがフナコシだったら俺はいくかもしれねえなあ」ってそいつに言ってたんですよ。そしたら1年後にフナコシが誘ってきたから「え?!」って。
亘:ただ、フナコシは一浪して早稲田に入ってんですよ。だから、僕の2任期目の終りと、卒業が重なってて。それまでにそこから1年半くらいあったんですけど、そこは、ちゃんとそこまでやろうか、って。
山脇:すごい、しっかり、ちゃんとした2人! 冷静な判断ができている。
亘:もう一つ理由があって。そいつは高校の時に親父が死んじゃってるんです。だから、シングルマザーで、一浪して、早稲田いれてもらってるんですよ。そういう事情もあるから、親孝行のためにも絶対卒業はした方がいいよ、って。そいつ自体は「中退してもいいと思ってる」とか言うんですけど「それは卒業した方がいいよ、ちょうど俺も任期があるから」って話がまとまって、目指すことになるんですけど。
山脇:ええ。
亘:その猶予の1年半の間に、そいつが就職活動をしてしまって。そしたら、「亘、……伊藤忠商事に就職が決まった」
山脇:うわー、立派! 親孝行!
亘:「おお、そうかあ! じゃあそっちにいけよ!」って。俺はもう、やるつもりになってるから。その事態もよく考えたら、誘っておいて切り離す……裏切られてるんですけど。芸人を目指す運命だと思って浮かれてるから「試練だ!」と思って。
山脇:すごいなあ!
亘:ドラマチックな感じの試練だと思って、そう捉えて。俺はもう気持ちが定まってるから、とりあえずNSCいってみるわって。もともとNSCがあることも知らなくて、フナコシに教えてもらって、「じゃあそこに入学するんだ」って思ってた時にフナコシが就職したから「一応いってみるわ」って1人で。
山脇:自衛隊を、辞めて。
亘:さすがに自衛隊の人に言いづらくて、言えなくて……「大工になります」って。友達から建設事務所の名刺をもらって「ここにお世話になることになりました」って。
山脇:テレビとか出るようになって、連絡こなかったんですか。
亘:NSCに入った時に、密着取材みたいなのがあったんですよ。誰か、他のグループを取材してて「NSCっていうところに通ってます」みたいな。で、俺は変わった経歴だから「あなたもともと何してましたか?」「自衛隊にいました」ってインタビューを受けて。それが青森にも流れて。「あれ?」「これ、亘だよな」って。売れるとかのだいぶ前に、バレて。
山脇:うわー。
亘:「すいません、あの、言いだせなかったんですけど」みたいな。
山脇:正直に言ったんですね。
亘:「実は、これやってます」」って。
俺発信でどうこうっていう感じじゃないんです。受身受身で。
山脇:そこから、どんどんと、今に至る、と。
亘:今に至ってますねえ。
山脇:芸歴でいうと……
亘:13年目です。
山脇:どうですか、13年。
亘:どうなんすかねえ。
山脇:もともと、お笑い好きだな、やりたいなーってのがあったんですか?
亘:好きではありましたね。でも、人前に立ってどうこうっていうのは、あんまり考えたことないですね、職業として。それで金もらえてたら面白いなあ、いいよなあ、っていうのはありましたけど。まさか本当に、なるとは思ってなかったです。
山脇:どんな感じですか? 「ワーヤルゾー!」って感じだったのか、気づいたら風が吹いてきて、フワー、なのか。
亘:きれいな風に言うと、運命に身を任せた、という感じで。それこそ地元の友達が「やろうよ」って誘ってくれて、みたいな。で、そこに乗っかって、ただ、きた。俺発信でどうこうっていう感じじゃないんです。受身受身で。
山脇:コンビ組むときも?
亘:まあ。そんな感じですね。
亘:さっきも言ったんですけど、もちろん売れたい、ってのはありましたけど、ホームシックっていうのがあったから。こっちでなんかやって、それがだめならだめでいいや、と。
山脇:帰ってきたかった。
亘:ていうのが、なんか……。勿論そのときは「お笑いやる」って気持ちで来てたけど、でも、よくよく冷静に考えると「絶対売れてやる!」みたいな、「ネタをばりばりつくって」みたいな感じではなかったので。
山脇:なんだろう、すっごい体力があるんですかね。筋肉があるというか。いくら流されてたって、体力がないと、絶対にへこたれることはあると思うんですよ。「こんなはずじゃなかったのになー」って。
亘:運がいいんじゃないですかね? へこたれる前に売れたし。って自分で言うのもあれですけど(笑)。
山脇:まあまあ(笑)いやでもありていにいうと、売れて。
亘:まあ、食えるようになった、と。その運もあると思うんですけど。
山脇:そっかー。
亘:3年目4年目とかでテレビに出だすようになって。
山脇:3年って、早いですもんねえ。
亘:自衛隊での貯金もあったんで……金に困った時期もあって実家に行ったりもしましたけど、基本、貧乏エピソードもそんなないですし。借金エピソードみたいなのもないし。
山脇:借金は、ないほうがいいですよ、そりゃあ。
亘:でも昔の芸人さんの感じでいうと、そういうのあるじゃないですか。
山脇:苦労話みたいな。
亘:そんなのもないし。そこがもし、ずっと食えなくて、ずっとバイトしてて、ってなってたらへこたれてる、かもしれないです、勿論。
「落ちる可能性があるんだ」っていうのもイメージがつくじゃないですか。
山脇:怖かったりはなかったですか? 3年目の段階で売れたのって。
亘:ずっと怖いですね。あ、でも売れてるときはそんなの思わなかったです。
山脇:そうか……わからなかったのもあり、若さもあり。
亘:この先に何が待ち構えてるのか、っていうのをあんまり考えてなかったので。だから「墜落する」みたいな想像はしてなかった。ただ目の前のことに……まあ忙しかったっていうのもあるし。怖さはなかったっす。今思うと怖いですよね、本当に。浮き沈みがある世界じゃないですか。
山脇:はい。
亘:だから、今はすげー怖いですよね。
山脇:家族を背負ったこともあるし。
亘:そうそう、それもあるし。ピークがあって、それまで上がってってたものが、少し下降線になって「落ちる可能性があるんだ」っていうのもイメージがつくじゃないですか。
山脇:ああ。
亘:昔だったら、経験がないから、上がってくつもりじゃないですか。
山脇:ここからいくぞー、っていう。
亘:ゆるやかかもしれないけど、どんなに売れてなくても、まあ、上がっていくつもりじゃないですか。でもそれが、上がってって、ピークを超えて少し下がってくると「あ、このまま落ちていく可能性もある」と思うから、だから、今の方が怖いです。どうなっていくんだ自分は、みたいな。
山脇:言うても、事務所が大きいから、そんな大きな、ガクッてことはないのでは……。
亘:わかんないですよ、そんなのは。そんなこともないでしょう。
山脇:そうなんですか? 皆さんには幸せでいてほしいからなあ……。
亘:それこそ公務員みたいな感じじゃないでしょう、いくらなんでも。
山脇:会社は会社だから。
亘:そう思うと、自衛隊っていいところだったんだなあーっていうのを、より思うし(笑)。
山脇:なくならないから。
亘:まあ、怖さはありますよねえ。
本当だったら、そんなの関係なく、変化していかなきゃいけない部分なのかもしれないんですけど。
山脇:今年37歳。いろいろ、どうですか? えーと……
亘:カウンセリングの時間ですか(笑)?
山脇:いやいや。自分も思うところがあって。20代ってイケイケじゃないですか。イケイケドンドンできて、ここから。
亘:なんだろ、それこそ、独り身だったら、失敗してもいいやって思えるんですけど。もう、最低稼がないといけないお金ができちゃってるっていうか。
山脇:基本の、生活を守る、お金が。
亘:家族を養わないといけない人間になっちゃったので。だから、うん、そういうのも考えますよね。それは今までなかったかもしれないです。
山脇:はい。
亘:今までは……、一人だったとき、お笑いやろうと思ったときもそうですけど。自分だけだったら、失敗したとしても、どん底に落ちたとしても「まあ、自分だけ背負えばいいや。ホームレスになろうが、それはそれで仕方ない。それが自分の実力だし」っていう風に思えてたけど、今はそうもいかないから。家族をホームレスにするわけにはいかないじゃないですか。かといって無責任に「自分はこんなですから、別れてください」っていうわけにもいかないし。
山脇:はい。
亘:家族の幸せも感じるし。その、幸せの天秤が、家庭と仕事、どっちの幸せに重きをおくか、みたいな部分があったりするし。
山脇:ええ。
亘:だから、怖いは怖いっすよねえ。今の方が。
山脇:お父さんだし、ねえ。
亘:保険とか、学費とかも払わなきゃいけないし。
山脇:大学まで考えると、ここから、もう。
亘:食費も払わないといけないし。
山脇:ごはんどんどん食べるようになりますもんね。子どもは。
亘:独り身だったら、バイトしてまかない食いまくって、っていうのもいいかもしれないですけど。
山脇:家に、食べさせなきゃいけないひとがいると。
山脇:自分について、変化するべき、変化しないべき、だとどっちですか?
亘:これ、難しいですよね。でも、変化はするべきだ、と思うんですよね。対応するべき、というか。それはやっぱり、対応はしなきゃいけないと思う。ただ、その対応した結果、何かしらストレスを抱えるのだと、結局、自分のバランスが取れないというか……壊れちゃうなーっていうのも嫌だし。そこを考えると変化しない、っていう部分もあるし……
山脇:それがアメカジだったりする……?
亘:かもしれないですよね(笑)。変化しなきゃいけない所もあるし、バランスを取るために、自分を癒せる、納得できる部分ははあった方がいいと思うし。
山脇:はい。
亘:本当だったら、そんなの関係なく、変化していかなきゃいけない部分なのかもしれないんですけど。なんて言うんですかね。要は「変化したくない」って言うのは、考えようによっては『わがまま』であったりするじゃないですか。
山脇:ああ~
亘:「こうすりゃいいのに」って、第三者からみるとそうかもしれないけど、「でも俺は、これで人生を歩みたいんだ」というのもあるじゃないですか。それを崩したら、ただのストレスでしかない、みたいな。そこのバランスをうまいこと取れないといけないんでしょうけどねえ……
山脇:そうなんですよねえ、生きてくって大変ですよねえ~
じゃあその余裕ってなんなの? っていうね。お金なの?って(笑)。
亘:山脇さんも、この対談が始まる前に言ってたじゃないですか。役者の立ち位置というか、今の自分の立ち位置というか。それこそ変化しなくちゃいけないけど、変化したら「じゃあもともとなんで役者やってたんだっけ」みたいなことあるじゃないですか。
山脇:そうなんですよ、悩んでるんですよ。
亘:「これが楽しくてやってたのに、変えなきゃいけない立ち位置に来た、かもしれないけど、でもなんか違うなー、だとしたらなんだこれ?」みたいな。
山脇:この能力をお金に換えるのは、実は演劇じゃないのではないか、とか。
亘:色々と背負ってるし、経験してきてるし。だとしたら、色々対応していかなきゃいけないんですよね。
山脇:うーん。
亘:それの答えがねー、簡単に出たらいいんですけどね~。
山脇:誰かが出してくれたらいいのになって。 大きな流れで勝手に決まってくれたらいいなあって。
亘:受け身で、大きい流れに流されて、いい方向に行けたらいいですよね。
山脇:もっと自由になれたらね。違う仕事でも、楽しい道があるのかもしれないんですけど……もしかしたら他に「向いてるね」っていわれることが……。でもここまできてねえ、って。
亘:余裕がほしいっすよね。
山脇:なにがきても大丈夫な。
亘:そうそうそう。じゃあその余裕ってなんなの? っていうね。お金なの?って(笑)。
山脇:ああー(笑)
亘:そりゃお金はほしいし。お金があったらもっと色んなことができんのかな、って。これもやりつつ、あれもできるしみたいなこととか……
山脇:うん、うん。
亘:「お金なんて別になくてもいい、好きなことやってればお金なくてもいい」っていう若さではないじゃないですか(笑)。
山脇:ほんとうそう、ほんとそう。
亘:だから考えてかなきゃいけなんですよ。お金が稼げる何かを。そういう意味では変化しなきゃいけない。
山脇:変化を。
亘:考えて、ストレス貯めて。
山脇:ははは。
西松屋とかでカレッジプリント調のを、わりと選びがちです。
山脇:結婚されたのは2009年ですか。
亘:そうです、29歳になる年だから。
山脇:私は30歳になる年に結婚したんですが……こんなだとは思ってなかったですね、結婚。わかってるつもりでしたが、なかなか大変なもんだな、と。
亘:そうっすねえ。僕は、それこそ忙しい時に結婚してるし、余裕がありすぎてあんまり考えてなかった部分はあるのかもしれないですね。まあ、なんとかなるっしょみたいな。
山脇:そっか。その後のこと確かに考えてなかったかな。
亘:子どもは、ずっと欲しいというのはありましたけどね、もちろん結婚したら。子どもが生まれたら、だいぶ責任というか……やっぱりあるかもしれないです。結婚だけだと、どっかで「2人」というか。
山脇:大人が2人いる……
亘:そうそう。共同体なんだけど、大人2人が一緒にいる、って感覚があって。それが、子どもが生まれると、子どもは自分として考えないと、って思えるようになった。わかります? 結婚は、大人同士が、一緒にはいるけど責任がそれぞれにある……
山脇:大人が、それぞれの意志でくっついてるから。
亘:でも子どもはねえ、自分が何かをしてあげなきゃいけないから。それはすごい思いましたね。子どもが生まれた方が、でかいかもしれない。
山脇:ほうー。
亘:逆に、結婚しただけの、2人だけのときの方が、言い方は悪いけど離婚も軽く考えてましたね。もちろん離婚するつもりなんかないですけど、お互いに何かあれば……ていう。でも、子どもできたらそうはいかないだろう、と。
山脇:お子様2人……、倅(せがれ)と。
亘:倅と。
山脇:お嬢さんは、なんて呼ばれてるんですか。
亘:娘です。
山脇:あ。そこは娘なんですね。
亘:娘はね、娘だもんね、でも。
山脇:1歳になって。
亘:かわいいですよ、やっぱ子どもは。
山脇:お子様のお洋服はアメカジなんですか。
亘:あのー、出来る範囲で。
山脇:そこはそうなんですね。
亘:子供服はローテーションも激しいし、そこに金かけるのはさすがに無理だなって。子どもって、ボタンも自分でできないじゃないですか。だから、Gジャン・Gパンを履かせるのは正直もう、ただただ親のエゴでしかないんですよ。
山脇:あー。そうかー!
亘:絶対ゴムの方がいいんですよ。安い方がいいし。だから、西松屋とかでカレッジプリント調のを、わりと選びがちです。
山脇:子ども、すぐ成長しますもんね。
亘:すぐでかくなるし、ぼろぼろになるし、自分の思ったような着方をしてくれないと思うし。
山脇:ヒーローもののキュッキュ鳴る靴とかが好きだったりしませんでした?
亘:靴はね、昔は「スニーカーはいいの履かせたい」って、エアジョーダンとか履かせてたんですよ、紐の。でも、紐、めんどくさいんですよ。自分で結べないし。結局べりべりがいいんですよ。
山脇:べりべり。マジックテープの。
亘:今はVANSのスリッポン履かせてます。
山脇:ああー、でもおしゃれ。いつかお父さんと同じお洋服着るようになったりするんですねえ。
亘:まあ、それは使っていいよとは言いますけどね。
山脇:いいなあ、そんなお父さん。
亘:その頃、アメカジがどんな立ち位置にあるのかっていうのはありますけどね。
奥の方で低~い笑い声がするみたいな。
山脇:アメカジのイベントも、されてらっしゃいますよね?
亘:はい。アメカジボーイズ。
山脇:どういうイベントなんですか?
亘:あれは、お笑いライブです。アメカジにちなんだゲームコーナーがあったりとか。
山脇:アメカジにちなんだゲームってどんな……?
亘:こないだやってたのは『アメカジでつっこもう』みたいな。写真を出して「ジェームス・ディーンのつもりか!」とか、少しでもアメカジっぽい感じになってればいい、みたいな。「ヒゲみたいになってる!」とか。
山脇:色落ちが。
亘:あとはもう、大喜利。アメカジ大喜利。
山脇:どんなお題があるんですか。
亘:こないだは「アメカジカフェがオープン、その売りとは?」とか「英語が禁止になりました、今までのアメカジ用語を日本語に直してください」とか。
山脇:楽しそうだなあ。
亘:あとはアメカジショートコント。
山脇:それはもう、お客さんもアメカジ知ってる前提で?
亘:半々ですね。今までのお笑い好きの人もきてくれたりもするし、アメカジショップにビラ置いて宣伝してたりもするんで、アパレル系のひともきてくれたりも、します。
山脇:店員さんが。
亘:奥の方で低~い笑い声がするみたいな。
山脇:その方たちもすごい楽しいですよね。自分の好きな、仕事の用語とかで大喜利してもらったら、嬉しい。
亘:だから、わからない人もいて、わかる人もいて。
山脇:わかんなくても、そういうことなんだなーって楽しそうですよね。だんだん知識が深まっていって。
亘:規模がでかくなってったらいいんですけどね。そういうのも含めて。
監獄ロック? 「やっぱりこれです」って?
山脇:亘さんは、どうなっていくんですか、これから。
亘:それは僕もわかんない。あんまり自分も見えてない、というか。50歳まで、あと13年じゃないですか。50歳の自分はどうなってるんだろう、って思うんですよ。それこそ、変わらない部分というか、好きなことで、飯食えてっていうのができてたらいいなあ、と思うし、それをやるためにどう頑張ろうかな、という部分もあるし、とかは、思いますけど。イメージが本当につかないですね。
山脇:わかんないって言えるのは、やっぱりなんか度胸があるんだな、と思います。
亘:目標はあるんです。ハーレーに乗ってたい、っていう目標。まだハーレーなんて乗ってないんですけど、ハーレーに乗って、ログハウス調のマイホーム建てるっていうのが、人生の目標ではあるんですけど。
山脇:うわあ、それはいいですねえ。亘さん、音楽もそういうの聴くんですか?
亘:僕ねえ、音楽聴かないんですよ。
山脇:ハーレーに乗る人が聴くような音楽が好きなのかな、って。
亘:え? エルビス・プレスリーとか?
山脇:アメカジが好きな人が聴く音楽っていうと何かな、って。
亘:音楽とか、聴かないっていうと嘘なんですけど。音楽から影響を受けたことがあんまりないというか。そりゃあ生きてきてるから、絶対に流行りの音楽は耳にしてるし、ていうのはあるんですけど、「これいいよね!」って語れるほど、のめりこんだことがないんですよ。アンテナ張ってないし。だから、ラジオ出るときに「好きな曲を挙げてください」とか言われると、いっつも困るんですよ。
山脇:……プレスリーかけたらいいんじゃないですか、やっぱり。
亘:監獄ロック? 「やっぱりこれです」って?
山脇:寄せていって。
亘:好きな感じはあるんですよ。それこそ世代だから、ハイスタとか。メロコアとかスカコア、スカとかは世代だったし。聴いててなんか……
山脇:うきうきする?
亘:するなー、みたいのありますけど。「この詩が最高なんだ」ってとこまでいったことないですよね。
山脇:わかります。だんだん「懐かしいな」って感覚でしか音楽をとらえられなくなってて。この曲あの頃きいてたな、20歳くらいだったな、とか。
亘:だから「これ知っておかなきゃいけないなー」って思ってベストを買ってきたり、借りたりして、聴いたり。
親父が「女房」って言ってたから、当たり前に「女房」って言ったら「女房て!」って。
亘:一応iPod持ってて、車で聴くとかありますけど。それこそレゲエとかも聴くし……レゲエは友達の影響というか、そこらへんは友達が聴いてるから。あと自分はメロコアが好きなんだ、スカが好きなんだ、と思って、昔ジャケ買いしたやつとか。いただいたり、誰かが持ってるものを聴いたりもするし。あとはもう本当に、ベタなアーティストさんの……まあベタな、っていったらアーティストの方に失礼ですけど、ベスト盤とか、本当に色んなジャンルを。
山脇:ほうー。
亘:だから「今日はこの気分」っていうのもないから、ランダムなんですよ。ゴリゴリのアンダーグラウンドなレゲエの次にハロプロ、みたいな。
山脇:これは聴かない、ってのもないんですか?
亘:聴かない、っていうのはないですね。別にPerfumeも聴くし。アンテナを立てて「これがいいんだよ」っていうことはないですけど。Perfumeに関しては女房が好きだから、女房がもともと持ってて。
山脇:……女房っていうんですね、奥様のこと。それがずっと気になってて。
亘:そうなんすよ。無意識っていうか……ほうぼうで「女房て」って言われるんですけど、こんなに言われるとは思わなかったんですよ。
山脇:何かを経て、ではなく、最初から女房?
亘:はい。親父が「女房」って言ってたから、当たり前に「女房」って言ったら「女房て!」って。
山脇:私の周りで女房って言ってるの、亘さんだけですよ。
亘:ついさっき、先輩達と「女房て」って話になって。芸人のひとだと『嫁』っていうじゃないですか。
山脇:わりとみんな、そうですね、言いますね。
亘:「一般的にはなんなんだろう?」っていう話になりましたもん。
山脇:……妻?
亘:奥さん? 妻?
山脇:写真家のゴメスくんは『嫁』っていうらしいです。
亘:でも、実は、嫁って、間違ってはいるらしい。本来は、嫁いできた人に対して言うから、お義父さん、お義母さんがつかう言葉。
山脇:あー、「うちの嫁」っていう、息子の奥さんって感じですかね?
亘:本来の使い方としては。旦那が『嫁』っていうのは違うらしい。でもまあ、今はね。
山脇:今はねえ、嫁が定番というか、一般化してますよねえ。
亘:本当は、妻が、一般的なんですって。ついさっきそんな話をしてきました。
山脇:奥さんもダメ、とか言いますよね。
亘:奥さんは、他人の、誰それさんの奥様、っていうのに使うらしいんですよ。
山脇:あ、自分のには言わないのか。
亘:だから『女房』は、間違っちゃいないんですけど、妻っていうのよりはちょっと見下した感じになるらしいんですよ。
山脇:へえー。『姉さん女房』とか言いますけどねえ。
女房、変えたほうがいいのかな。
亘:エピソードで『女房』ってワードが出た時点で、もう、内容が入ってこない、って言われました。そっちが気になって。
山脇:「女房っていうんだー」って思って。あんまり使う人いないですもんね。
亘:だから、これから……変えた方がいいですよね。「あ、これ気になってそうだな」ってなったら。でも『妻』って言っても気になるよな、ひっかかるよなって話になって。
山脇:「妻がね」って……あー。
亘:だから今は「嫁」が、一番気にならない言い方。
山脇:嫁かー。でも我が家も、夫のことをなんていうか、ってのはあって。
亘:なんて呼ぶんですか? 亭主?
山脇:たまに旦那、って言っちゃうんですけど、旦那もあんま好きじゃなくて。
亘:主人?
山脇:主人って、なんか犬っぽくて……犬の飼い主みたいだからなあ。
亘:ペットになったみたいな感覚? 主人だと?
山脇:それでちょっと嫌だなあ、って。
亘:結局なんていうんですか? ひとにいうときに。
山脇:相手が名前を知ってる間柄だったら、名前で言います。
亘:会社みたい。
山脇:文章でも書きたくなくて。家の者が、とかパートナーが、とか書いちゃう。
亘:パートナー(笑)。
山脇:そういう、なんて呼ぶか問題があるから。亘さんは『女房』かー、って。
亘:女房、変えたほうがいいのかな。
山脇:いや、亘さんは女房・倅(せがれ)でいいんじゃないですか。貫いて。
亘:でも、そうなったときに『娘』っていうと、残念感が……
山脇:確かに期待しちゃいましたからね。なんていうんだろう、って。
亘:『姫』とか呼んだほうがいいのかな。
山脇:それは若干テイストが違っちゃいますよね。
亘:「うちの姫がさあ」って。
山脇:お嬢が、とかかな……「うちのお嬢が」。
亘:いいのがあったら教えてください。
亘健太郎(わたりけんたろう)
1980年7月12日生まれ。 神奈川県出身。血液型はA型。NSC東京校10期生。2004年にフルーツポンチ結成。特技は匍匐前進。趣味はスキー、サーフィン、育児。一男一女の父。アメカジ雑誌DaytonaBROSで「フルーツポンチ亘の足元からアメカジ」連載中。2017年7月3日(月)ラスタ原宿にて「アメカジボーイズ vol.5」が開催される。
山脇唯
1981年8月3日生まれ。俳優。ヨーロッパ企画退団後はフリーとして舞台を中心に活動。2013年より「すいているのに相席」に参加、“ユーモア女優“の称号をバッファロー吾郎A、せきしろ両氏より賜る。声の出演にNHK Eテレ「デザインあ」他ラジオCM等多数。ポンポコパーティクラブ代表。6/18(日)アイアム劇団旗揚げ公演「なんでもしますから赤福を売ってください」出演。