ゲストはザ・ギース尾関高文さん。ユニットコントライブ「すいているのに相席」で共演すること早5年目になる2人。娘を持つ父でもある尾関さんと初めて交わす雑談と、高低差の激しい写真をご覧ください。(撮影/PANORAMA FAMILY 文・構成/山脇唯)
「いずれ死ぬしな」っていう感じが……。あんまり他人に深入りしないし。
山脇:いざとなると、尾関さんに聞きたいことが、あんまり……
尾関:じゃあ、なんで私、選ばれたんですか。回を重ねて、出す弾がなくなってきて、仕方なく、みたいなのをヒシヒシと感じるんですけど。
山脇:いや、5月の公演までに「すいているのに相席」のレギュラーをコンプリートしておきたいというのは、もともとあって。
尾関:でも、聞きたいこともないんですね。聞くこともなかったら、ただコーヒー飲みにきただけですよ、これは。
山脇:稽古中だし、知ることによって関係性が変わるんじゃないか? って心配してます。いい方に変わればいいんですけど……
尾関:変わらないと思いますよ。山脇さんて、わりとドライじゃない。僕と似てるんですよ。だから関係性は変わらないと思う。他人にあんまり……
山脇:興味ないんですか?
尾関:ないこともないけど。山脇さんを見てて、似た温度を感じることがあるのよ。
山脇:どういうときに?
尾関:「いずれ死ぬしな」っていう感じが……。あんまり他人に深入りしないし。「かわいそうだな」とか思う、揺れ動くこともあるけど、感情移入しまくらない。ドラマとか観て「あー面白い」と思うことはあると思うけど、周囲の人にそこまで感情移入しないイメージがある、山脇さんには。
山脇:確かに……私、高校生まで、他人が自分と同じように意思、感情を持ってることがわからなかったんですよ。高校の帰り道に、突然「まわりの人も同じように世界を見ているんだ」ってガッと気がついて。
尾関:サイコパスだね、ちょっとね。
山脇:あの人もこの人も、色々考えてるんだ! と思ったら気持ち悪くなって。新幹線乗ってて、窓から知らない街を見たりすると「この家の数だけ意思を持った人たちがいるんだ」って。
尾関:気づいちゃったんだ。
山脇:気分悪くなったりしました。自分だけなら良かった、って。
尾関:そうなんだ。闇を抱えてるね。そういうところを感じますよ、山脇さんに。いい意味でね。
山脇:尾関さんもそういうところあるんですか。
尾関:俺もね、あるのよ。そこまで他人に……ないのね。「死ぬのになあ」っていう。
山脇:結果、死ぬから?
尾関:結果死ぬし……どうでもいい。
山脇:どうでもいい? 嫌われたり、好かれたりに、そんなに重きを置いていない?
尾関:そう。本当に。「死ぬ、なあ……」って。
それを聞いたら、ちょっと好きじゃなくなってきた。裕福な家庭だと思うと。
山脇:今っておいくつなんですか。
尾関:39歳です。
山脇:結構年上だ。わたし36歳の学年だから…
尾関:それなりに離れてるね。
山脇:(ザ・ギースの)高佐さんと一緒にいるから、1個上くらいの感覚でしたけど……
尾関:おじさんよ、おじさん。
山脇:野原しんのすけのお父さん、ひろしくらいの感じですかね。あの人も、子ども2人いて……確かまだ40歳になってない。
尾関:クレヨンしんちゃんの? そうなんだ。なんでそんなに詳しいの。
山脇:実はスペックが高いっていう話で。一軒家持ってて、子ども2人いて、役職ついてて、奥さんのみさえも、たしか働いてないって。
尾関:そうだよね。そうだねえ。負けてんなあ。俺は野原ひろしよりはスペック低いですよ。
山脇:そう思ってみると、クレヨンしんちゃんの世界ってユートピアだな、って。
尾関:平和な世界(笑)。逆にそれを聞いたら、ちょっと好きじゃなくなってきた。裕福な家庭だと思うと。
山脇:でもそれが、25年くらい前の一般的な家庭ってことなんですよね。
尾関:臼井先生が描き始めた頃は。
尾関:うちも家がキリスト教だったの。わりと厳しい。
山脇:あ、そうなんですね。今は違うんですか?
尾関:中学くらいの時に、教会行かなくなっちゃった。
山脇:信仰って、やっぱり支えになりました?
尾関:ならなかった、当時は。だって、別になくてもさ……小学生とかって、支え、なくていい時期じゃない?
山脇:そう、ですかねえ。
尾関:いじめられたりとか、相当のことがない限り、日々、そんなに支えいらなくない?
山脇:じゃあ、いじめられてなかったってことですね。
尾関:そう、そうね。そういう、『支え』って、疲れてきたり絶望感が出てくると必要になってくるけど、若いうちは、そんなに必要ないじゃない。
世界が終わると思ってて。「ハルマゲドンまであと何時間です」って言われて生きてきたから。
山脇:昔、好きだった人を、信仰を盾に奪われたことがあって。
尾関:え?
山脇:簡単にいうと二股かけられて。私じゃない方の彼女に『婚前交渉はタブー』っていう信仰があって。なのに、しちゃったから「罪悪感を与えてしまった。彼女を一生背負わなくてはいけない」って私がふられて「なんなんだよそれは」って。婚前交渉、だめなんですか?
尾関:なんならね、子どももつくっちゃだめ、っていうのもあった。当時はね、2000年に世界が終わるって話だったんですよ。2000年から楽園の地にみんなで行くために、信じましょう、って。でも2000年になっちゃったから「話違くない?」って。もともと、世界が滅びる予定だったから、滅びる世界に新しく子どもを作るのも良くない、って言われてたの。
山脇:破滅的な……
尾関:世界が終わると思ってて。「ハルマゲドンまであと何時間です」って言われて生きてきたから。
山脇:最終戦争……。
尾関:怖かったよ、だからね。
山脇:私たちの世代はノストラダムスの大予言、けっこうみんな信じてたから、未来のことあんまり考えられなかったですよね。
尾関:そうなのよ。
山脇:20歳になれないかも、って思ってたから、大人になる自分をそんなにイメージできてなかった。
尾関:だからお笑いとかやっちゃったんだよね、きっと。
山脇:あー!
尾関:そういう人多いじゃない。この世代。もちろん人が多いのもあると思うんだけど。
山脇:確かに。
尾関:キリスト教が俺をお笑いに導いたんだね。
「宗教上の理由で棒倒しができない」
尾関:俺もすごいあれだよ。騎馬戦もしなかったし。
山脇:え? なぜ?
尾関:争いだから。争いがダメなんです。剣道、柔道、ダメ。棒倒しも騎馬戦もダメ。
山脇:結構だめじゃないですか。
尾関:運動会のときは「宗教上の理由で棒倒しができない」って。グラウンドの外から見なきゃいけなかった。
山脇:周りにもそういう子いたのかな。
尾関:いたよ。棒倒し、したかったよ。だってすごく楽しそうじゃない。
山脇:まあ、そうですねえ。
尾関:『ドラえもん』も観ちゃダメだし。
山脇:なんでですか?
尾関:ジャイアンが暴力ふるうから。
山脇:じゃあ、けっこう観られるものがない。
尾関:ないよ。『ドラゴンボール』もダメ。
山脇:戦うから。
尾関:そういえば、昔、ジャイアンってよくのび太を殴ったじゃない。あれが今はダメだから、殴るシーンは出ないんだって。万が一何かあったとしても、モクモクモクッて煙が出てきて。
山脇:ポカポカ~って?
尾関:そう、ポカポカ~って音がするだけ。しずかちゃんも、見せるのは、鎖骨まで。
山脇:それは、いいと思いますよ。
尾関:そんな決まりがあるって。
山脇:しずかちゃん、昔はけっこう見せてましたよね、お風呂シーン。
尾関:確かね、映画版とかでもきわどいところまで。……なんであんなシーンあったんだろうね。
山脇:今にして思えば、友達なのに、そういう性的な目で見てたのかって思ったら、ちょっと腹立たしいですよ。
尾関:そうか。確かにね、女性側からみるとそうだよね。
山脇:やや不快ですよ。
尾関:男性から観るとドキドキしてたけど、女性側の意見としては、そうなのね。
抑圧されて、抑圧されて、そういう行為はサタンだって言われて生きてきたから。
山脇:お子様、娘さんだし「変なおじさんに変な目で見られてないか?」とか心配はありますか? どうしたって無頓着だから、子どもは。
尾関:そうね。例えば、銭湯の男湯に小2、小3の女の子を連れてくる親がいるじゃない。アレはどうかと思うよ。しかも、お父さんは何とも思ってないじゃない。
山脇:自分の子どもは、子どもとしか思えないから。誰がどういう嗜好を持ってるかわかんないですからね。
尾関:だから、銭湯は気をつけないといけない。
山脇:確かに。
尾関:ただ、性的なことを早くから子どもに意識させるのも嫌なんだけど、逆に隠しすぎて、性をいやらしいもの、秘密のものとして生きていくと……曲がって育つでしょ。俺がそうだったから。
山脇:そうなんですか。
尾関:抑圧されて、抑圧されて、そういう行為はサタンだって言われて生きてきたから。やっぱり歪んだよね、それはちょっとね。
山脇:禁止されると、逆にすごく惹かれるじゃないですか。そういう性的な興味にフタをされて、それが開いた時っていうのはどんな感じなんですか。
尾関:開いた瞬間は……もう、だから……。これは、色々な所で話してるんだけど。昔、マラソンをしてて。エロ本を拾うマラソンをしていて。
山脇:……エロ本マラソン?
尾関:そう、エロマラソン。走りながら落ちてるエロ本を各地で拾って。それをベッドの下に隠して、っていうのを抑圧されてる時期にしてたのね。そしたらベッドの下がパンパンになって。でも、捨てようにも捨てられない。見つかったら、キリスト教だし激怒されるから。かといって捨てる場所もなくて。当時マンションに住んでたんだけど、エレベーターって、乗り込む所に、隙間があるでしょ。あそこにずっと捨ててたの。
山脇:えー!
尾関:片っ端から、拾ってきては、そこに捨てて、っていうのを1年、2年続けてたら、とうとうエレベーターが止まって。1階で工事みたいになって。マンションのエレベーターの前にすげえ数のエロ本が積み上げられてるのを見て、ぞっとして。「これ全部俺のだ」って。恐ろしかった。マジで。
山脇:大きな事故にならなくてよかった。
尾関:その工事以降、ものが捨てられないように、隙間に硬いスポンジが……後にも先にも、そんなスポンジが挟まってるエレベーターを見たことないんだけど。落ちないように、改良されてたよ。
尾関:だからね。本当に、歪んだ方向に、出るよ。
山脇:でも、エロ本拾って集めるくらいは、わりと成長過程で通ることですよね。
尾関:だから、そんなところに捨てなきゃいけないほど追いつめられるっていうか……俺の頭が悪かったのもあるけど、もっといいやり方があるはずなのに、そこに考えが及ばない。だって、エロ本持って歩いてるだけでドキドキしちゃうし。
山脇:ものすっごい悪いことしてる、って気持ちが強すぎちゃうんだ。親に見つかっても「テヘヘ」で済むお家もきっとあるだろうに。
尾関:だから子どもには、押さえつけるよりは、軽く、フリーにしてあげたいけど……かといってアレも嫌なのよ。やけに性に開放的すぎる母親、みたいなのも。
山脇:逆にオープンすぎるやつ。
尾関:「やるんならゴムつけなさいよ」とか言ったりさ、「エロ本がどうの」とか平気で言ってくる親は嫌なんですよ。下品じゃない、なんか。
山脇:品がないのは嫌ですよね。
尾関:なんか、うまく、その……中間でいきたい。
山脇:間をとって。
尾関:中学の同級生の、よくパチンコ屋に行ってるお母さんがね、すごいエロいことばっかり言ってきて、すごい嫌だったのよ。
山脇:そういう親御さん、いたかも。
尾関:教えるなら、科学の見地から……昆虫、動物の交尾みたいなところから。生物的なところから説明していきたいとは思ってる。何故そういうことがあるのか、って。
戸塚ヨットスクールじゃないよね?
山脇:お嬢さんはおいくつですか?
尾関:上は、もう小学2年生です。
山脇:じゃあもう、おしゃまでしょう。
尾関:おしゃまだねえ。
山脇:小2だと、もう、個人として生きてますよね。
尾関:もう、個人だね。すごい、いろいろ意見を言ってくれるというか。
山脇:へえー。今年、8歳で。
尾関:心配だねえ。あんまり勉強好きじゃないみたいだし。すごい引っ込み思案だし。どうしてあげたらいいのかなっていう。
山脇:でも、引っ込み思案なのは悪くないですよ。
尾関:山脇さんも引っ込み思案だった?
山脇:はい。で、かなりの内弁慶。長女だったのもあって、家では天狗なんだけど、外に出て、自分より能力ある人がいたら、もうびびって何もしない。
尾関:へー。それ、長女だからなのかな。
山脇:家の中にライバルがいなくて。妹はおさえつけて勝てるし。でも、外では一番でいられない、ていう現実にやられてました。
尾関:逆に、妹って、のびのびしていない?
山脇:妹は家で抑圧されてるから、外の方が楽しいんですよ、多分。「お姉ちゃんいないほうが楽しい」みたいな感じで、妹の方が活発でした。外で遊ぶし。
尾関:あー、一緒だ。山脇さんも失敗するのが怖い人だった?
山脇:失敗するのが怖いし、負けるのも嫌でした。負けたくないから最初から走らないタイプ。
尾関:めっちゃそうだわー。そうかー。じゃあ、山脇さんみたいに、うまくモチベーションを見つけて育ってほしいな。
山脇:でも私も途中でめっちゃ登校拒否してますよ。小3から中1までちゃんと学校行ってない。
尾関:衝撃の事実が。
山脇:その時期、親はつらかったと思いますね。
尾関:でも、中学から行けるようになったんだ。
山脇:小5から不登校の子が通う学級に行くことにして。そこでマラソンと畑仕事と登山をめっちゃやって。
尾関:戸塚ヨットスクールじゃないよね?
山脇:じゃないですよ。で、体力ついたから中学校は行けるかな、って入学式出て。そこでキモい自己紹介して笑われたから、中学も最初は行かなかった。
尾関:なんて自己紹介したの?
山脇:「幽☆遊☆白書が好きです」って。
尾関:それで、笑われて、傷ついて?
山脇:そう。でも、担任の先生が幽☆遊☆白書が好きで。放課後、家にきてくれて、幽白トークしてたら、行けるようになりました。
尾関:よかった、救われたね。
相当こっちの才能があるか、人生うまくいってないかのどっちか。そして俺は後者だよ。
尾関:でも、そんな生き方から「舞台に出て生きていこう」みたいになるのって、真逆じゃない? その反動みたいのがあるの?
山脇:だと思います。うまくいってたら、こっちの仕事についてないな、て思うことないですか?
尾関:思う思う。
山脇:順風満帆な人生ならこんな職業選んでないんじゃないかな、って。
尾関:わかるわかる。この仕事してるのって、相当こっちの才能があるか、人生うまくいってないかのどっちか。そして俺は後者だよ。
山脇:いやいや……でも他のことできる人は他のことやってますもんね。
尾関:俺もだって、就職活動したもんね。がっちり。
山脇:就活したんですか?
尾関:した、超した。でも、大学4年の時に『ギャグ大学』っていう日本の大学のお笑い選手権みたいなのがあって。優勝したらアミューズっていう事務所に入れるっていうので、そのとき別のトリオだったんだけど、優勝したの。で、それに甘えて、そっちにいって。やっぱり楽な方が楽しいから。
山脇:へえー。
尾関:途中まで就職活動して、コンビニのミニストップとか受けてたもん。ドキュメンタリーの制作会社も片っ端から受けてた。
山脇:あ、でもそういう方向なんですね。
尾関:もし、そっち受かってたら、100%そっちにいってた。
山脇:ドキュメンタリーが好きだったんですか?
尾関:超好きだった。ノンフィクションがすごく作りたかった。NHKエンタープライズに死ぬほど入りたかった。
山脇:意外な一面。
尾関:今にして思えば、どっちでもいいかな、って思うけど。だからまあ。うまくいってない人がね、行きがちな世界ではありますよ、こっちは。
ザラメをアルコールランプで炙って舐める部活動。地獄のようだった。
山脇:学生時代はどんなでしたか?
尾関:中学はね、キリスト教の流れで、部活に入っちゃダメだったの。夜に集会があるから、体育系は毎日練習があるからダメ、入るなら科学部に入りなさいって言われて。科学は好きだったから、ずっと実験して「Newton」って科学雑誌を読んで……それだけだったなあ。
山脇:へー。
尾関:卒業アルバムとか、科学部で写ってるし。俺も当時すごいデブだったんですよ。
山脇:背が大きい人って、中学まで太ってる人多いですよね。
尾関:それはね、めっちゃ食うから、結局、背が伸びるのであって。本当に死ぬほど食ってたから。で、俺はデブで、他にデブが3人いて。デブが4人しかいない部活でさ、ザラメをアルコールランプで炙って舐める部活動。地獄のようだった。
山脇:地獄までいいますか。
尾関:いまだに、卒業アルバムは燃やしたい。
山脇:背が伸びたのは、いつくらいですか?
尾関:高校かな……。いや、中学から伸びてたのかな。
山脇:高校からバレーボール部ですか?
尾関:そう。背がでかかったから、鬼のように怖い先生に、無理矢理、勧誘されたのよ。『体罰教師』っていう本に取り上げられたくらい怖い先生がいて。
山脇:それ、その後、問題になったりしたんですか?
尾関:俺が入った頃には、もうあらゆる体罰をやりつくした後だった。それまでの悪行が本になったような人だったんだけど。まあ、その先生に、身長がでかいってだけで「尾関、お前、入れ」って部活に入らされて。それまで科学部で、ろくに運動もしたことなかったのに。
山脇:で、バレーボールを。
尾関:なんだかんだ3年間。でかいってことでセンターをやらされて。部自体は関東大会出るくらい強かった。で、「尾関が喜ぶと盛り上がるな」ってことでレギュラーにしてもらって。俺は、特に何も上手くないのに。
山脇:漫画『ハイキュー』にもいます。身長が2メートル近いけど未経験の子。バレーは素人、でも身長が大きいからレギュラー。
尾関:まさにそれそれ。俺の場合はそれが190cmだったんだけど。
尾関:それで、殴られたり、砂浜に埋められたりしてさ。
山脇:うへえ。校内暴力全盛期ですか。
尾関:全盛期、全盛期。体育館の端から端までビンタされながら移動したり。
山脇:え?
尾関:ビンタされたらよろけるじゃない? それでちょっとずつ移動して、100メートルくらいビンタされ続けるのを「あ、やられてるなー」って見ながら。
山脇:みんなやられるんですか?
尾関:そう。今だから言えるけど、今にして思えば、楽しかった。
山脇:それは……みんな等しくビンタされてたら平気になる?
尾関:平気には、絶対ならないけど(笑)
山脇:麻痺するんですかね?
尾関:辛い思い出は「楽しかった」にもなりますから。で、最後ベスト8になって。ベスト4決めで、俺のネットタッチで終わったの。
山脇:ありゃ、つらい!
尾関:笛がピピピー、ピー、って。でも俺はネットタッチしてなかったの。ボールが当たっただけだったから。そしたら、辞める時に先生が色紙に「尾関はネットタッチしてないの知ってるよ」って書いてくれて。
山脇:泣いちゃう。
尾関:嬉しかった。見てくれてたんだ、って。
山脇:なんか、尾関さんの人生を物語ってる感じのエピソード。
尾関:ほんとだね。
山脇:してないの、知ってる人はいるんですけど。
尾関:歴史には、ネットタッチした人として、記されて。でも知ってくれてる人は少しだけいると。……悲しいよ。
「あ、これ怖い怖い!」って思ってたら、隣りの奴も泣き始めて、みんな泣き出して。
山脇:大学は、何しようっていうので進んだわけでもなく……?
尾関:そうね。浪人して、4人兄弟でお金があんまりないから、国立に行こうと思って。茨城に図書館情報大学っていう、図書館の司書になるしかない国立大学があって。そこか、明治大学に行くか、で。結局、親が「私立でいいんじゃない」って言ったんで明治に。あんまり、そんな華やかなことはしたくない、日陰で生きていたいって思ってたんだけど……
山脇:はい。
尾関:バレーボールサークルに入って……サークルはさ、やっぱり華やかというかさ、キャイキャイするじゃない。すぐに「誰がヤった」とかさ。そんな感じですごいキャピキャピしてて。
山脇:してそうだなあ。
尾関:無理矢理合わせてたけど「キツいな」って思ってて。夏に海辺に合宿いってさ、夜中に先輩が「海いこうぜ」って男女20人くらいでバーっていって。海見ながら、1人の先輩が「俺、このサークル入ってよかった……!」って泣き始めたの。「あ、これ怖い怖い!」って思ってたら、隣りの奴も泣き始めて、みんな泣き出して。俺も下向いて目をこすったりしたんだけど……それをきっかけに「これは居ちゃいけないところだなあ」って。
山脇:そういう雰囲気ありますよねえ、サークルは。
尾関:山脇さんもサークル入ってたの?
山脇:インカレの野球サークルに一瞬だけ。新歓バーベキューに行ったら「ハーゲンダッツ買ってあげるよ~」って謎のお姉さんがいて「なんだこいつ」って。そこにいる女性がみんな誰かの彼女なんですよ。気持ち悪いな~って。
尾関:山脇さん、どこだっけ、大学。
山脇:早稲田です。高校が女子校だったんですけど、大学で突然『男女』にさせられる感じがすごく気持ち悪かった。まだまだ男尊女卑がすごい、っていうか。
尾関:当時は特にそんな感じだったよね。女の子は食い物みたいなさ。
山脇:私がいた宇都宮は男女別学の高校が多くて、わりと女の子が強いんですね。そのノリで上京してきたらすごいやりにくくて。
尾関:確かにね。わかるわかる、特に女子はね、「きゃー」みたいな。
山脇:やたらおにぎり作るみたいな。
尾関:なんだろね、あれね。古い男女の関係……九州男児みたいな。今は、多少違うのかな。
山脇:そう信じたいですけど。
尾関:当時は、本当そんな感じだったもんね。
山脇:グループ交際が始まったら、男子みんなの弁当を作ってくる女の子がいて。「じゃあ私にも弁当くれよ」って感じなんだけど、男子の分しか作ってこないんですよ。「男の子はお腹空いてるだろうから」って。私だって空いてるよ!
尾関:そういう考えの女性のもだめだよね、女性の方も。
山脇:なんか内面化しちゃってて、ね。えっと、じゃあ、女性関係は……?
尾関:俺は本当に、ずっと童貞だったんで。大学入って、バイト先で今の奥さんと知り合って。そこからずっとつきあってますよ。
山脇:すごい純愛。
尾関:すごいでしょ。だから別に「遊びたい」っていう気持ちもなく……。気持ちはありますけどね、そんなに、ない。多少遊んだりしたこともあったけど、結果、そこまで……まあ、あれだね、そんなに、そっちにいきたいな、っていうふうにはならなかった。
山脇:めっちゃ遊ぶ人って、たぶん、そういう脳の仕組みなんですよね。ギャンブルが好きなのと同じ。
尾関:パチンコ好きみたいなことよね。だから、まあまあ女性とはそういう感じで。で、まあ、お笑い始めてっていう感じ。
だから、俺は、そんなに向いてないな、って。それは今も思いながらやってます。
山脇:お笑いは、なんでやろうと思ったんですか?
尾関:大学で、友達に無理矢理誘われたんだよ。その友達は今は普通に働いてるんだけど。当時、ジョビジョバ全盛期で。『ロクタロー』とか、夜にコント番組やってて「楽しそうだ。集団コントやりたい」って友達がいて。
山脇:はい。
尾関:自分はそれまで、お笑いなんて一切見たことない、興味がない。とんねるずがサタンだ、って言われて育ってきたから、全く興味がなかった。
山脇:そうなんですね。
尾関:だから「誘われたから、やってみようかな」って。初めてそういうことをやってみたら、わりと面白いし。まあ、友達が持ち上げてくれるわけですよ。なんだかんだ言ってそういうのが好きだから、やって。で、池袋にお笑いの学校、カルチャースクールがあって、友達と行って。その学校には太田プロにいるマシンガンズとか、だいたひかるさんとかもいたんだけど。そこでやりながら、ちょっとずつ、そっちの道へ。
山脇:大学行きながら、そこに通ってたんですか? 夜間?
尾関:土曜の13時から15時までの、本当にカルチャースクール。主婦もいたりする、ゆるい感じの。
山脇:どんなこと学ぶんですか?
尾関:「実際コントをやってみましょう」「次回までにこのテーマでコントをつくってきてください」とか。そこで、友達と2人で「楽しいね」て言ってやってたら、そこに、今一緒にやってる作家の向田ってやつがいて。「みんなで大学の知り合いも含めてやろう」って。で、大学の大会に出た……みたいな流れなのよ。
山脇:じゃあ本当に、小さいときからお笑いに憧れてた、ってわけではなかったんだ。
尾関:そう。だから、俺は、そんなに向いてないな、って。それは今も思いながらやってます。俺はそんな人じゃないな、ドキュメンタリーを作りたいくらいの人だったんだから、って。
山脇:色々話聞いてると、そういうひと結構いるんだな、って。
尾関:ほかにそういう人、いたの?
山脇:前回の、R藤本さんも。すごい目標があって始めた訳じゃない、って。
尾関:でも、藤本さんはセンスがあるからなあ。僕とはわけが違う。
山脇:何が違うって思います?
尾関:俺は本当はお笑いをやる人じゃないと思う。
山脇:でも、そんな、いまさら……辞めらんないですよね。
尾関:うん。死ぬしな、死ぬしいいかな、って。
山脇:「今回の人生はこっちでいいかな」みたいな?
尾関:うん。こっちでいこうかな。
山脇:「俺は芸人だい」って感じは、あんまりない?
尾関:ないねえ。
山脇:人間として、今生を生きてるみたいな。
尾関:今回のターンは芸人かな……って。いや、好きなんだよ、好きなんだけど、実力的な問題とか、色々で、それは、思うね。「ドキュメンタリーを作るべきだったのかな」とかね。いや、それは実際に作ってる人に申し訳ないですけど、大変なのはわかったうえで、ですけど。
山脇:そうかー。
尾関:もちろん、好きは好きで、思い入れはありますけどね。
危害を加えてくることもないし、こっちを悲しませることもないし……牛だな、って感覚ですよ。
山脇:小さい時、欲望は持っててよかったんですか。あれがほしい、とか。
尾関:それはね、大丈夫。でも、そこまで強く言えないね。妹がたくさんいるし、家も裕福じゃなかったから、あまり無茶は言えないし。……周りに合わせて生きる人だったんだね、俺は。波風たてないように、たてないように。
山脇:ほう。
尾関:高校の時、他に華やかな奴もいたんだけど、意外と俺が一番友達多かったの。
山脇:誰とでも合わせられるから。
尾関:お笑いは、そういうのをぶっ壊して、突き抜ける人がいくものだけど……。自分は、現場があったら、波風をたてない。みんなと仲良く「しちゃう」んだよ。生きてきた道のりがそうさせるというか。
山脇:「あのひと嫌い」とか「苦手」もない?
尾関:ないない、全然ない。だから、それがお笑いに向いていない。
山脇:でも、そういう人がいないとまわらないじゃないですか、現場は。
尾関:でも、そういう人は、突出しない。だから、長く続けて、じわじわ広げていくタイプなのかな、とは思ってる。
山脇:だからかな、尾関さんって喋りやすいなーと思うのは。
尾関:敵対心のない動物と喋ってるみたいなことだと思う。目の前に牛がいてもさ、何も思わないでしょ? 危害を加えてくることもないし、こっちを悲しませることもないし……牛だな、って感覚ですよ。
山脇:え? 尾関さんが牛ってこと?
尾関:そう。みんなは牛と一緒にいる感覚と一緒だから。
山脇:はあ。
尾関:その、牛の愚鈍さを「いやだな」って思う作家さんとかもいると思う。
山脇:「牛がいるな」ってのが?
尾関:「もっとキビキビやれよ。もっといい演技してこいよ」って、そういう尖った感じを要求する作家さんに怒られたことはすごいあったから。
山脇:闘牛になれよって感じで?
尾関:「現場の空気はどうでもいいんだよ」って。そういう方とはご縁がないんだな、それはそれとして、しょうがない。牛として生きていこう、って今は思ってる。
山脇:頭ひとつ抜ける人って、そこそこ喧嘩しますもんね。そんな意見いうんだ、って思うくらい。普通できないですもんね。そこまで喧嘩するほどの意見も、ないし……
尾関:そうそう、本当そうなんだよ。
山脇:「もめないほうがいいやん」って普通は。でも「あの人あの現場でもめたらしいよ」「えー」っていう人もいる反面、すっごい気に入る人もいるんですよね。
尾関:そうだよね、本当にそう。そういう人に憧れるね。自分の意見をいって、突き抜けて、走り抜けていく人。自分は、その走り抜けた後の地面をならす人だから。そんな人は先には行けないのかなって。
山脇:ケモノ道を整えるみたいな……?
尾関:そういう人生なんだろうな、って。
死ぬ細胞もないと、手にならないわけだから、そういう役目も合っていいし。
山脇:変わりたいとは思わない?
尾関:思わないね。ずっとこのままでいくほうが、無理がないから。
山脇:あー。
尾関:ここまできたからね。合ってる、合ってないもあるから。50代くらいで、貯めてきたものが、うまく……何かいいことがあるかもしれないな、とは思ってる。それは、あるだろうと。
山脇:信じたいですよね。
尾関:そうね。
山脇:でも尾関さんはお子様いるし。次世代にちゃんと遺伝子を遺してるから。
尾関:はっはっは。
山脇:そこが羨ましいですよ。
尾関:よく言われるけど、子どもは可愛いし、大好きだけど「遺してるからホッとしてる感」はあんまりないよ。
山脇:遺伝子のデータが残ってたら、私本体が死んでもまだいける気がするんですけど。ここで終りか~って思ってますよ。
尾関:へー。そういう、本能なんだろうね。
山脇:正直、遺伝子だけ持ってってもらって、どっかで作ってもらってもかまわない。
尾関:そういう願望が強いんだね。
山脇:ありましたね。だんだん諦めてきましたけど。
尾関:俺は別に、それは、それで……。あのね、赤ちゃんの手が作られていくときってさ、一回いこう、カエルの手みたいになるんだよね。
山脇:水かきができて?
尾関:そう。最初、水かきみたいなのがあって、それがふわーとなって、なくなって、指ができていくんだけど。ようは、細胞が死んでいくわけですよ。水かきだったところの細胞が死んで、指になる。死ぬ細胞もないと、手にならないわけだから、大きな話になっちゃうけど、『人間』というでっかい生物として考えると、そういう役目も合っていいし。だから、残すことだけが……
山脇:いいわけでもない、と。そうかー。
結構キツめの生活をしてる方が、後々「よかった」って思うのよ。
山脇:今でこそ、結婚して子どもいる芸人さんって多い印象ですけど、第一子ができた当時ってどんな感じでした?
尾関:芸人で、まわりで2人目か3人目だったから。でも、そんなに……貧しいですけど、お金はあまり関係ないというか。生まれたら、生きていくし。
山脇:それ、わりと皆さん言いますよね。
尾関:生まれて、育てなきゃいけないと思ったら、そういうふうに生き方が変わっていくから、ある程度は稼げるようになるもんね。
山脇:そうか、それはうちのパートナーに言ってほしいです。とにかく怖くてやだやだ言ってるから。
尾関:子どもが出来るのが?
山脇:「ただでさえお金ないのに育てられないよ」って。
尾関:お金はね、本当に関係ないです。でもその人に「育てよう」って気持ちがないとだめです。それで別れるよね。「なんで私ばっかりみてるの」ってなって、それで離れていく人を山ほど見てるから。本当、そこだけだよね。育てようという気持ちがあるかどうか。という話を旦那さんに今度話すね。「あなたの気持ち次第ですよ」って。
山脇:「じゃあ2人っきりでいい」って言うかもしれないな……。
尾関:それはそうだよ、2人っきりの方が楽だし、いろいろできるもんね。
山脇:ただ、飽きてくるんじゃないか? ってのも思ってます。ずっと2人だけでいると。
尾関:それもある。確かにね。あと、さっきの部活の話じゃないけど、結構キツめの生活をしてる方が、後々「よかった」って思うのよ。子どもがいて、かなりキツい思いをしてきたけど、あとから「あの経験しといてよかったな」って。
山脇:というと?
尾関:子どもが夜泣きする半年間、全部俺がみてて。いま思えば大変だったけど「人間は毎日3時間睡眠でもわりといけるんだな」とか。極限の経験があると「アレに比べたら今は楽だな」とか。まあ、昔の人の考え方……「つらい思いしてたら何でも楽になるんだー」とか言ってる人と一緒なんだけど。
山脇:スパルター。
尾関:嫌なことのほうが思い出になるから。楽なことはほら、飽きることが多いですからね。
山脇:なるほどなー。
尾関:無よりは、何かしら、いいことも悪いこともあったほうがさ。よく言う話ですけど。
尾関 高文(おぜきたかふみ)
1977年8月6日生まれ。 広島県出身。身長190cm。特技は恐竜のおはなし、バレーボール。ASH&Dコーポレーション所属。2004年に高佐一慈と「ザ・ギース」を結成し、キングオブコント2008、2015ともに決勝進出。「すいているのに相席」レギュラー。2017年5月30日から6月4日にかけて単独ライブ「Private Yellow」が開催される。著書に『芸人と娘』(飛鳥新社)。
山脇唯
1981年8月3日生まれ。俳優。ヨーロッパ企画退団後はフリーとして舞台を中心に活動。2013年より「すいているのに相席」に参加、“ユーモア女優“の称号をバッファロー吾郎A、せきしろ両氏より賜る。声の出演にNHK Eテレ「デザインあ」他ラジオCM等多数。ポンポコパーティクラブ代表。