「しずるワンマンライブってフライヤーに書いたら単独ライブだってわかるだろう」って……、驕りでしたね。
山脇:まずは、先日、ワンマンライブという名の単独ライブが終わったばかりで。
村上:大失敗したやつですね。
山脇:いやいや、名付けを、ですよね。
村上:そうそう、伝わらなかったんですよね。単独ライブだっていうことが。
山脇:なんでワンマンライブって言い方にしたんですか?
村上:去年まで、単独ライブが年1回だったんです。池田も僕も両方ネタを書くから、2年前くらいまでは、1つのライブで半々で書いてて。
山脇:同じライブの中に、それぞれのネタが。
村上:そう。8本あったら、4本4本書いて。特に「こんな感じの作る」とか何も決めずに。それで8本だから、こういう構成かな、って作ってたんですよ。そしたら「統一感ないな」っていう話になって。「それぞれがあっていい」って言われてたけど、それで実際プラスになったのって「両方あっていい」って言われることくらいしかなくないか、じゃあ、一旦どっちかにしよう、ってなって。2年前の、山脇さんが来てくれた吉祥寺のライブも池田が全部書いて、2016年の阿佐ヶ谷も池田。で、次、僕ってなったときに、「これ、年2回できるな」って。冬・俺、夏・池田で。
山脇:ほー。
村上:今年からそうしよう。じゃあ毛色を変えたほうがいいかな、っていうことで「ワンマンライブ」にしたんですけど、そしたら伝わらなくて。企画ライブ、オマージュライブみたいに思われて。「誰か呼んでやるのかな」って。僕の中で「しずるワンマンライブってフライヤーに書いたら単独ライブだってわかるだろう」って……、驕りでしたね。
山脇:ポスターもかっこよくて……たしかに何が起きるかわからない感じは。
村上:余白あけすぎたんです。
山脇:でも、雰囲気がありましたよ。グッズのTシャツとかも可愛くて。
村上:僕がやるから、もう、サブカルっぽくしよう、って。
山脇:なるほど。
村上:まあ芸人だから、真似しきれてないくらいのサブカルでいいかな、って。で、ROCK IN JAPAN、FUJI ROCKみたいなロゴにして、空の写真で。本当は1発目だから、繊細に『こういうライブなんだ』ってことを説明しなきゃいけないのに……やりたいことやりすぎたら、伝わらなくて。
山脇:いやー、でも面白かったですよ。
村上:山脇さん、来てくれるから嬉しいですよ。
山脇:去年の夏に阿佐ヶ谷を観にいったときも、昼公演だったんで、夕方からバッファロー吾郎A先生と飲みながら、ずーっとあれがよかった、これがよかった、って話をしてました。
村上:ありがたいっす。
山脇:そのあと、単独でやってたコントをキングオブコントの決勝で観た時に、地方大会で観た野球部が甲子園に出た、みたいな喜びがあって。
村上:なるほど、行程をね。
山脇:「あのとき阿佐ヶ谷で観たやつ、テレビでやってるー!」というふうに。芸人さんを応援する喜びはこういうのもあるんだな、と。
村上:ファンの人たちは、そんなふうに観てくれてるのかもしれないですね。
僕が、もしかしたら、そういうやつなんじゃないですか。
山脇:先日の単独では、村上さんが女役をやってた『歩道橋女』というコントがすごかったです。
村上:あれ、一番自信なかったんですよ。
山脇:ザ・ギースの高佐さんも、あれすごく好きだったって、帰る時に「歩道橋やばかったですよね」って話しながら。
村上:ありがたいっすねえ。
山脇:ああいう、女性役ってけっこうやられるんですか?
村上:昔すごいやってたんですよ。それこそNSCの頃とか。コントやるうえで、わかりやすいじゃないですか、ボケてるってことが。もう、着替えた段階でボケじゃないですか。
山脇:女のひとをやる、っていう。
村上:感覚的にそっちに寄っていったのか、もともと、女役が多かったんですよ。NSCの授業で一番最初にウケたのも女役で。
山脇:へえー。
村上:それもあって、ちょっとしてから、それを自分の中でそれを避けるようになって。反則までいかないですけど、自分の中で一個……なんていうんだろう。
山脇:禁じ手?
村上:自分の中で、なんか。誰にも何か言われたわけじゃないけど、やってなかったんですよ。
山脇:やったらウケるのはわかってるけど、やらないでおく、みたいな。
村上:で、久しぶりにやるってなったときに、好きなもんやろうかなって。1発目だし、スベってもまあ「こけちゃいました、テへ」「失敗しちゃいました」って言えるから。そしたら……女の人がやりたかったんですよね。前々からあったんですよ、自己陶酔してるのかなんなのかわかんない、ハイヒール持ってる女性をやりたいっていうのが。
山脇:すごく面白かったです。最初に、歩道橋の手すりを歩いてて、手にハイヒールもって、車が通るたびにライトをまぶしがる、っていう一連の動きが。それだけでもう。
村上:あれだけでもいい、本当そんくらいなんですよ。だから、そのあとが自信なかったのかもしれないです。その先、ああだこうだ喋るのが、ついてくるのかわかんないから、入り口に。
山脇:期待を裏切らないメンヘラ……メンヘラでいいのかな、メンヘラっぷりが素晴らしくて。喋り方が。
村上:まじっすか? 迷子だったんですよ、リハくらいまで。
山脇:語尾の音が完璧。ああいう人ってああだな、っていう。
村上:じゃあ、2月3日にやっててよかったです。2月4日にやってたら間違ってたキャラでやってたかも。それくらい足元ふわふわな、定まってない時でよかったのかも。
山脇:「ちぇっ」っていうところの言い方が。
村上:あれは言いたいから言う、ってだけで、ボケでもなんでもない、っていう。
山脇:「だよ」とか「だね」とかの言い方も、すごかった。
村上:迷子になってたから「いいや自分の地声で」くらいになって。……僕が、もしかしたら、そういうやつなんじゃないですか。
山脇:え? メンが、ヘラって?
村上:アレ自体が、「自己陶酔している自分をみてほしい」っていう、自己顕示欲に近いというか。じゃあ1人でやるか? やらないだろ、っていう。本物の人に憧れてるんですよ。
山脇:うん。え、本物の人?
村上:お会いしたことないからわからないけど、Coccoさんとか本物っぽいじゃないですか。
山脇:そう……ですね(笑)
村上:みんなが見てるところでも、見てないところでも、同じでいそうじゃないですか。でも僕は、見られてる、ってことで一個ギアをいれるんですよ。だから、Coccoさんは、きっと筋が通ってるから、むしろ、こう……
山脇:裏表がないというか。
村上:そう。僕は結構、人に見られてはじめて、みたいなところがあるので。簡単に言ったら、読書してる自分をみてほしい、とかあるじゃないですか。
山脇:この本読んでる自分を知ってほしいな、とか。
村上:そういうのをやりたかったんです、女性で。それって結構、自分を投影してたのかもしれないですね。
山脇:もし女だったら、あんな感じだったかもしれない?
村上:女々しいとは思ってるんですよ、自分を。だから、なんで迷子になったか、っていうと、自分だから……自分のやりたい女性だから、モデルがいなかったからなのかもしれないですね。
山脇:ほう。
村上:最初はCoccoさんみたいなイメージもあったんで、カツラも長髪だったんですよ。
山脇:……怖いですね。
村上:長髪だとすごい怖くて、これであのキャラだったらひいちゃうなと思って、ボブにして。早めにカツラを発注しててよかったです。
山脇:ボブがね、ちょうどよかったです。
宮沢りえさんの間でできればいいや、いわゆるフリ、ボケ、つっこみの間でやんなくていいや。
山脇:『夫婦』ていうコントでも、リッツとルヴァンで選択を迫られる夫婦の、奥さん役をやってらして。かなわない、と思ったのがスープのクルトンに関しての台詞で……
2人:「主婦の意地の最後のひと手間」
村上:そうっすねえ。
山脇:あれは羨ましかった。あんなことやってみたいな、って。『淵に立つ』が始まった、とも思いました。
村上:あれは、本当に宮沢りえさんになろうと思って。宮沢りえさんの『北の国から』のシュウ、シュウが優しい時の雰囲気を主婦にして、やったんです。だからあのコントは……「いいや」って、あれも「いいや」って。宮沢りえさんの間でできればいいや。池田が池田のお父さんの間でやって、いわゆるフリ、ボケ、つっこみの間でやんなくていいや、って開き直って。そしたらフリで3分くらい使ってしまって。
山脇:しっとりした夫婦の時間が。どんな温度の夫婦で、どんな関係性で、というのがじわじわじわじわと伝わってきました。
村上:だから、逆行してきてる気がして。笑わせるためにやらなくなってる気がして。怖くなるんです。よくないんじゃないかって。
山脇:どういうことですか?
村上:コントってもともと不自然な演技じゃないですか。ものによりますけど。
山脇:たしかにちょっとオーバーアクションなイメージはありますね。
村上:リアリティがなさすぎてもついてこれないし。リアリティがありすぎても、演劇になっちゃうし。コントって不自然なやりとりなのに、なんでこんなに自然やりたがってるんだろうな? って。もともとウケたいだけだったのに。
他の所では、池田とやってるときみたいにはできないですね。
山脇:どうしてお2人はあんなに演技がうまいんですか?
村上:池田はたぶん……池田は、うまいっすねえ。
山脇:天性ですか? 2人とも別に演劇部とかだったわけでもない?
村上:ないっすねえ。
山脇:NSC(養成所)って演技の授業とか、あるんですか。
村上:あるんですよそれが。『エクスプレッション』っていって。
山脇:エクスプレッション?
村上:感情表現。エクスプレッション。タイトルからしてやばいでしょ。入らないでしょ、そんなお店があっても。
山脇:入らないですねえ。
村上:名の通りヤバい授業があって。
山脇:え、どんな。
村上:講師が2人いて。その、笑い、泣き、の小、中、大ってあるんですよ。で、講師が(手を叩いて)「ハイ、小笑い」って言ったら、みんなで一斉に、100人くらいで、笑うんですよ。芸人目指して、お笑いやりたくて入ってる人達が。ネタやりたい、笑い取りたいだけなのに。「ハイ、中笑い!」ハハハ……ククク……って。で、絵を描いてくるんですよ。自分が小笑いできる絵、中笑いできる絵、っていうのを。自分が過去、めちゃくちゃ笑った出来事を描いて、その絵を見て笑うんです。泣きも小、中、大とあって。
山脇:うわー。
村上:エクスプレッションやばいですよ。時間割に略されて「EXP」って書いてあって。
山脇:「わー明日EXPだ」とかいって。何曜日ですか。
村上:火曜日です。EXP。そんなんしかやってないんですよ。しかも、講師の2人も、別に監督とか俳優じゃないんですよ。
山脇:エクスプレッションの先生。
村上:胡散臭さはあるけど、もう、お金払ってるんだし言うこと聞いとこう、っていう。そんくらいです。
山脇:吉祥寺シアターで観た時に、「2人だけなのに、こんなに空間が埋められて、芝居が上手いなあ、すごいなあ」って思ってました。
村上:でも、内弁慶なところがある気がしますね……。
山脇:内弁慶とは?
村上:池田とやってるときは、ネタ合わせもできるし、お互いキャラも入ってるし。じゃあ他の所で、ドラマとか演劇で、芝居やってください、ってなったら、池田とやってるときみたいにはできないですね。照れくささもあるからか……。経験値が少ないからっすかねえ。
自分たちの中で、2人でやってる、その感じがボケだったから。
村上:うーん……たぶん、今……、いいんですか、こんなに僕の話で。
山脇:いいんですよ。
村上:山脇さんに言われたこと考えてたら……1年目のときに作家さんにダメだしで言われたんですよ「ボケてない」って。いわゆるボケてツッコんで、ってやってないから。で、ムカついて。「ボケてるけどなあ」って。でも、いわゆる『ボケとツッコミ』ではないじゃないですか。
山脇:一個一個ボケて、ツッコんで……では。
村上:なかったから。自分たちの中で、2人でやってる、その感じがボケだったから。多分……その反骨精神で、2人でリアリティがあったらウケるだろ、みたいな思いがあったんですかね。
山脇:ああー。なんだろう、「関係性で、もっていく」じゃないすけど。
村上:そこが、やっぱちょっと説得力がないと観てくれないじゃないですか。「あ、この2人の、3分の話が面白いんだ、3分でやってるやりとりの雰囲気が面白いんだ」って。したらもう。
山脇:A先生と、そんな話をしました。2人が、どの仕組みに入っていってるのか、その2人をみてるのが楽しいね、って。
村上:ムカついたのも、図星でもあったと思うんですよ。ボケとツッコミをやってない、っていう。ボケてないんですよ。だから、だんだんと……そうですねえ。
山脇:しずる、今は何年目ですか?
村上:13年ですかね。結成でいったら2003年……芸歴で言うと4月で14年目なので。
山脇:計算は……NSC入ってからですか?
村上:NSC入ったときが0年目っていわれて、卒業した年の4月に舞台に出て、デビューです。だから2004年デビュー。
山脇:どうですか、長いことやってみて。14年ってことは22歳から?
村上:大学を卒業して、NSCに入ったんで、そうですね。14年……怖いっすよねえ。
「お、まじか」と思って。
村上:山脇さん、年齢は、同い年くらいでしたっけ。
山脇:1981年の8月生まれです。
村上:あ、僕81年1月なんで。
山脇:同じ年に生まれて、学年は1つ違いですね。
村上:年女じゃないですか。
山脇:そうなんですよ。こわいですねえ。
村上:きましたねえ。3回目。
山脇:ゾッとしましたよ。あと2回、年女がめぐってきたら還暦になると思うと。
村上:あと2回分って、過去振り返ったら24年前でしょう。そのとき、自分は12歳ですよね。最近ちゃ最近って言えますもんねえ。
山脇:12歳ってねえ。
村上:12歳から今までのことを、もう一回やったら60歳で。
山脇:わー。もうそれくらいしかないんですねえ。1周、12年なんかあっというまですよ。
村上:その間に子どもも12歳になっちゃうと思ったら怖いなあ。
山脇:いや、まだ12歳か、じゃないですか、でも。
村上:12歳の男なんて、ほぼ自我が芽生えてますからねえ。12歳だったら、僕と同じくらいエロいこと考えてますよ。
山脇:12歳で? そうなんですか?
村上:男子はそうっすよ。大人になった今は、理性があったり、社会人だからって、オブラートに包んでるだけで、タネとなるものはもう12歳でできてますよ。これこれこういうものがあるんだ、っていう知識とか、経験とかが積まれてくるだけで、いわゆる性欲のタネっていうのは、小6のときくらいから一緒じゃないですかね。
山脇:ええっ
村上:小学校低学年からありましたもん。
山脇:エッチな気持ちがですか? どんな? 「パンツ見たいな」とか?
村上:まあ、それがあるじゃないですか。で、同級生の中で好きな子ができるから「この子のパンツが見たい」とか、自分の中で差別が生まれて。僕、母が8人兄弟の末っ子で、末っ子の末っ子だから、親戚の、従姉のお姉ちゃんがめっちゃ年上なんですよ。だから僕が小学校低学年で、従姉は普通に20歳とか20歳の手前で。向こうは「お風呂入ろう」って平気で言うんですよ。
山脇:言いますよねえ。
村上:20歳くらいとか10代後半の女の人って、小学生を男だと思ってないから。
山脇:はい。
村上:「お、まじか」と思って。可愛い方のお姉ちゃんの裸ばっかり見てました。
山脇:ええー。
村上:それもう、はっきり覚えてます。タイルの色も覚えてます。
山脇:そうなんですねーええー。そう言う気持ちがあるんだ。子どもたちにも。
村上:女性はけっこう……
山脇:無頓着ですねえ。
村上:銭湯で女湯に入ってくる男の子とか、ぜったいラッキーって思ってますよ。まだ名前とか感情を知らないけど、どこかでこれってラッキーなんだろうなって思ってますよ、絶対。
だからそこでもう、狂ったんすよね……
山脇:村上さん、どんな高校生でした?
村上:僕は、高校生は、「学年で一番目立とう」みたいな。
山脇:うわー、芸人になるべくしてなる高校生。
村上:芸人って、今でいうと二手にわかれるじゃないですか。窓際族というか、「いつか見返してやろう」って人たちと、学年のリーダーだったんだろうなってタイプと。僕はそっち側で。休み時間に別のクラスに遊びいっちゃう、で、他のクラスの子を好きになって、告白してつきあって、みたいな。
山脇:廊下がザワザワみたいな。
村上:中学校が足立区で、いわゆるカースト制度として、もう腕力カーストだったんで。
山脇:腕力の強さが決め手に。
村上:ヤンキーしかいないから。で、スネ夫ポジションだったんです、僕は。
山脇::あら、ジャイアンの横にいて?
村上:喧嘩するときは、別の友達とゲームして遊ぶ。ふだん学校にいるときは、そいつらとゲヘゲヘ。
山脇:拳は汚さず……
村上:汚さずに。「今は腕力が物を言うかもしれないけど、この後、君たちそれで大人までやっていけないだろうから」って思って。
山脇:スネ夫!
村上:足立区で頭良い高校にいっても、街歩いたらそういう人たちがいるから、それは嫌だから「抜け出そう」って目黒区の都立高校に行って。そしたらもう、計算通り、そういう人はいないから。
山脇:はい。
村上:勉強はそこそこに、こっちでなんとかのしあがろう、というか、のさばろう、って。で、ある意味高校デビューをして。
山脇:都立は、共学ですか?
村上:共学です。
山脇:じゃあ、モテたり、します?
村上:高一の時に、その、モテたんですよ。
山脇:はあ!
村上:だからそこでもう、狂ったんすよね……
山脇:なにが狂ったんですか(笑)。
村上:いいんですか、こんなに自分の話。
山脇:いいんですよ、いいんですよ。
村上:小さい時、太ってたんですよ。で、足も遅くて。だから喋るようになったんですよ。
山脇:ほお。
村上:勉強できても女の子にモテないし。ちょっとでも、かまってもらいたいから喋るようになって、クラスで一番うるさいみたいになって。で、中学入って痩せていって。でも、小中と一緒だから、キャラは一緒じゃないですか。身長も高くないし、「純!」って、女友達に下の名前で呼ばれるタイプで。一応みんなのノリでつきあったりとかもしたんですけど、別にモテるわけでもなく。で、片思いもしたりしてて。
山脇:はい。
村上:高校入ったときにはサッカーやってたんで、もう完全に痩せ形だったんですよ。で、普通にしてたら「隣りのクラスのあの子、村上くんのこと好きらしいよ」って入ってきて。もともと痩せてるアイデンティティ持ってないから、「え、話したことないのに俺を?」「え、……見た目で?」って。そしたら、なんか、ちょっと、クールを演じるようになっちゃったんですよ。
もう僕のキャパ越えてて。実は自己プロデュースができてなかったんですよ。
村上:元デブで、「白ブタ」とか呼ばれてて、クラスで一番うるさくて、先生に「5分でいいから黙ってなさい」とか言われてた奴が、「え、そっちもあんの?」みたいになって。かっこつける自分も生まれたんですよ。
山脇:はい(笑)。
村上:高校には色々な奴がくるから「あれ、細身のパンツとか履いてる」とか、「あれ、みんな腰履きしてるけどダサイな」とか、洋服のことも覚えるし。モテよう、学年で目立とうとして、いろいろなことに手を出し始めるんですよ、高校1年で。
山脇:いろいろ。部活もやられてて。
村上:サッカー部でも、僕は色白で、周りみんなめちゃくちゃうまくて、っていう。そこ、算段を間違ったんですよ。「都立だしそこまで強くないだろうな。強いけど、いっても都大会ベスト16だから、たいしてあれだろ」と思って入ったら、ちょうどいい感じのメンバーが入ってきた時期で、結局、東京都代表になるくらいのレベルだったから。僕が一番下手で、サッカー部のなかでは下手でいじられるほうになって。でも学年では異性から「かっこいい」っていわれてる……なんか、いろんな自分がでてきたんですよ。3年間でなんとか彼女も作りたいし、学年で目立ちたいし。
山脇:面白い高校時代ですねえ。
村上:音楽とかもめっちゃあったじゃないですか。96、97、98年とか。あとはサブカルとかも出てくるから、だから今思うと、たぶん、その状況でその情報量とか、囲まれる環境とかが、もう僕のキャパ越えてて。実は自己プロデュースができてなかったんですよ。目の前、目の前、になっちゃってて。
山脇:なるほど。
村上:根がまじめというか、怒られたくないから部活もちゃんとやる、部活やめるって選択肢がないし。部活やってた方が友達出来るって思ってたし。だからもう、いっぱいいっぱいで、3年間。
「こっちはさあ、やっとウルフルズなのに……渋谷系?!」
山脇:音楽は何を聴いてたんですか?
村上:中学校くらいから、ユニコーン、奥田民生さんを聴いてて。それから、高校もその流れで奥田民生さんを聴いて、あとはスピッツとかウルフルズとか、そういうのが好き、みたいな。その頃『HEY HEY HEY!』でトータス松本さんがシャ乱Qのこといじってて。
山脇:え、どんなでしたっけ?
村上:番組のなかで、トータスさんが「シャ乱Qはクソだ」って普通に言ってたんですよ。で、シャ乱Qが番組にきたら「ウルフルズがこんなん言ってたで」って「えー、こないだトイレで会いましたよ」とか言うんですよ。それ観て「おもしれー」って。
山脇:えー。
村上:それで、ウルフルズのほうが、サブカルの一歩手前というか、多分モテそうだな、センスいいって思われそうだな、って思って、そっちの方がいいな、好きだな、って。中学校のときなんてカラオケでシャ乱Qの『マイベイブ』とか歌いまくってたのに。
山脇:懐かしい……。
村上:めちゃくちゃ歌いまくってたんですよ。でも平気でシャ乱Qもその過去もこっちに追いやって。ウルフルズだ、奥田民生だ、スピッツだ、俺はこっちだ、って、全部武器にして。ジュディマリとかも聴きましたし。
山脇:ええ。
村上:友達で、本当に音楽好きな奴がいて。そいつがね、足立区のやつで。越境で足立区から来てるのが、学年に3、4人しかいないんですよ。そいつと、たまたまサッカー部で一緒で。そいつが最初からCDウォークマン聴いてて「めっちゃおしゃれだな、こいつ」って思ってて。そしたらそいつがPIZZICATO FIVEとか聴いてたんですよ。「なにその世界観? 待ってよ!」って。「こっちはさあ、やっとウルフルズなのに……渋谷系?!」「フリップフラップ? なにそのおしゃれな双子!」
山脇:いましたねえ! おしゃれな双子。
村上:もう、そっちも、広く浅く。人間関係も、趣味も、広く浅く。だから、そのときに、僕ができあがってるんですよ、多分。
「いやーそこまではわかんないですけど」「でもサブカル好きなんですよね」ってキャラでいいやって。
山脇:この前の単独ライブも、客入れ音楽からブリッジから「選曲がしゃれてんな」っていう……感じはあったんですけど。
村上:どこまで言っていいかわかんないですけど、この連載、ほかの人の記事みてると、結構みんな色々こと言ってるから……池田の耳に届かなければいいんですけど、まあ、見ないんで。まわりまわって伝わるかもですけど……まあ言っちゃうんですけど。
山脇:ありがとうございます。
村上:久々の単独で自分が書く、ってなって。オール自分プロデュースだったんで、けっこうプレッシャーもあって。じゃあ、どうしようってなって……「20歳の自分に戻ろう」って思ったんですよ。その頃って、渋谷の単館映画いってりゃいい、サントラ買えばいい、と思ってたんで。
山脇:うわーわかります、その感覚。
村上:でもそれが自分だ、って。20歳のその自分が、大人になったのが今だから。他のすごい人とか見てても、自分がサブカルに対してカスカスなこともわかってるから、そっちに全部寄せちゃおうかな、って。そしたら、馬鹿にされても笑ってもらえるじゃないですか、芸人だから。だからあの時の感じで、「じゃあお前どういうルーツで渋谷系ができて、とかわかってんの? 説明できんの?」って言われたら、「いやーそこまではわかんないですけど」でいいや、「でもサブカル好きなんですよね」ってキャラでいいやって。で、そういうフライヤー作って、そういう客入れ音楽にして。
山脇:はい。
村上:一見騙せるお洒落感で。
山脇:いやあ(笑)。まあ、はい。
村上:だってめっちゃベタベタですよ、あれ。
山脇:いやあ、ルミネでSuchmos流れてるなあ、って思いました。
村上:『今夜はブギーバック』流して、スーパーカー流して、くるり流して。最後だけ最近の、Suchmosいれて。出囃子も一応コントとかけてるんですけど、ガワもガワ、薄い薄い、すぐほつれちゃうようなところでリンクさせるって言う。
山脇:ええ。
村上:歩道橋のコントも、女が出てくるから椎名林檎の曲にしよう、街の話だから『正しい街』にしよう……歌詞とかよくわかんないけど、まあ雰囲気に合うだろう、みたいな。めちゃくちゃ薄々なサブカルロックフェスをやってたんですよ。
山脇:聞いて納得……というか、むしろそれを聞いて好感度が上がりました。
村上:おしゃれって思ってくれる人は思ってくれていいし。あとはもう、わかる人は「こいつ多分……つぎはぎだな」「それっぽく匂わしてるけど、まあまあないぞ、奥行き」みたいな。それ1回やっちゃおう、って、グッズもサブカル描いてる渋谷直角先生に描いてもらって。
山脇:ヴィレッジヴァンガードで取り扱って。完璧ですよ。
村上:初めて本買う時、ヴィレヴァン行きましたからね。本屋行かないで。
山脇:ヴィレヴァン、遊べる本屋でしたっけ。
村上:そう。遊べる本屋ってコンセプトだから、図書券で雑貨も買えたんですよ。
山脇:あ、そうなんですか。
村上:紫式部の図書券、たまに親がどっかからもらってくるじゃないですか。親は本を買うと思ってるから、くれるんですよね。で、「ヴィレヴァンで雑貨変えるぞ!」って。紫式部には申し訳ないですけど。
『トレインスポッティング』、『バッファロー’66』、『ヘドウィグ&アングリーインチ』、この3本でやってきた奴は、僕みたいな奴なんで要注意。
村上:山脇さんも単館映画観てました?
山脇:高校の時、「女優になるからいっぱい映画観るぞ」とか思って、宇都宮でやってないやつを観に、単館行くために東京いってました。
村上:渋谷のあそこ行きました? スペイン坂の。もうなくなっちゃったけど。
山脇:行きました。あと、『バッファロー’66』を絶対に観なきゃと思ってて。
村上:出た! 『バッファロー’66』!
山脇:あれを観とかなきゃおしゃれになれないと思って。
村上:『トレインスポッティング』、『バッファロー’66』、あと『ヘドウィグ&アングリーインチ』、この3本おさえてる奴は要注意ですよ(笑)。当時から、好きな映画聞かれて、その3本でやってきた奴は、もう、僕みたいな奴なんで要注意。
山脇:憧れの女優は? って聞かれてクリスティーナ・リッチって答えたり、グンゼの下着はヴィンセント・ギャロが着てるからかっこいいって言い出したり……
村上:マジでそれだったんですよ、俺。
山脇:そう言う時代ですよね。情報が多くて、どれが一番かっこいいかわからないくらい。
村上:よくないんですよ、だから。さぼってたんですよね~、いろいろ。
山脇:この年代はそうなんじゃないですか。上はすごい、知識とかすごい人がたくさんいるし、下は下でぎゅっとしてるし。
村上:僕、同学年にピースの又吉さんがいて。又吉さんって、いい意味でオタクっていうか、中学から図太い芯があって、好きなものがあって。本も音楽も服もめちゃくちゃ詳しいじゃないですか。
山脇:はい。
村上:又吉さんが、趣味だったり知識だったりの自分を形成するものの、五角形パラメータの最大値5でやってるところを、俺はせいぜい2だな、って思ってて。太刀打ちできないんですよ。五角形のうち、どっか欠けてる人がいたら、話せるんですよ、俺は全部手を出してるから。でも、全部を俺より知ってる人がいる時に「やばい」って。10代20代で誤摩化してたから。でも、もう引き返せないし、今から一本槍も無理だしなー、って。薄いな~、って。もう、芸人として薄くやってくしかないんだな、って。だから最近は、できるだけ知らないことは知らないって言える時間を作った方がいいなって。ずっと、わかってないのにオウム返ししてたんで。
山脇:わかってないのにオウム返ししてたんですか(笑)。
村上:誰もそんなこと思ってないのに、俺は知っておかなきゃいけない、って、勝手に自分でつくった書き割りみたいな自分をね。そんなことないのに。
「これだー! これがお洒落だー!」って。
山脇:じゃあファッションも高校のときは色々?
村上:そうなんです、それも彼女の影響で。僕、そういうところ女っぽいんですよ。よく彼氏が変わったら服装変わる女子いるじゃないですか。「あれ? 久しぶりに会ったらめっちゃストリート系になってるぞ」みたいな。僕、あれなんです。
山脇:へえー。
村上:高校の時、すごい可愛くて、センスいい子がいて。自分はセンスいいわけじゃないけど、あの子センスいいな、っていうのはわかるじゃないですか。その子と、高校最後につきあえたんですよ。その子は、実家が笹塚で、下北沢とかで買い物してて、全部知ってたんですよ。
山脇:全部っていうのは……?
村上:もう、全部。DEP’Tとかもその子に教えてもらって。「何デプトって、めちゃくちゃお洒落じゃん! 古着もあるしオリジナルもあるし!」って。その子のおかげで腰履きやめて、細身がかっこいい、って。あの、きれいめっていう言葉があったじゃないですか。
山脇:はいはい。
村上:それまでマルイにいってたんですけど、勿論マルイもいいんですけど。でも今はマルイじゃないんだ。イネドオムじゃない、PPFMじゃないんだ、って。
山脇:そういうのありましたねえ! デパートじゃないんだ、路面店だって。
村上:そっちいって「あー。これかっこいいわー」っていう。もともと太ってたから、痩せて嬉しくて、細い服に憧れてるから、細い服着てるんです。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのスーツとか、かっこよかったじゃないですか。ルパン三世かっこいいな、とか。それで細身の服を買うようになって。
山脇:今も、細身ですもんね、なるほど。
村上:その頃、ファイヤー通りのTEXっていう店を、その彼女に教えてもらって。
(PANORAMA FAMILY:TEX! うわー懐かしいっすね~)
村上:ありましたよね、TEX。で、1階にレディースの、Flowerだっけな。レディースの店もあって。赤とネイビーのポロシャツを、「これレディースだけど、男も着れるんじゃね?」って買ったんですよ。そしたら着られて。「これだー! これがお洒落だー!」って。「これ、レディースだよ?」って。史上最高に細かったんですよ、サッカーやってて。169cmなのに54kgだったんで。
山脇:ほっそいですねえ。
村上:それで「スタンスミスのベロクロ、素足で履いちゃいます」「ハーフパンツも少し短めです」みたいな……。あそこがちょっと間違えちゃったなって、今思うと。
山脇:間違えてないですよ、いいことですよ。
多分、A先生が察知してくれたのかもしれないですね。
山脇:ギャグラリーのMCとかでわかる、村上さんのオールマイティさっていうのは、そこからきてるんですね、きっと。私もそこまで何かにめっちゃ詳しいわけじゃないから、深くなるとわからない、ってときにサポートしてくれる司会、というか。
村上:浅い一言でいいMCですね。
山脇:いやいや、浅いとは言わないですけども。
村上:ギャグラリーって、プレイヤーの持ち時間がそれぞれ2分だから、間に挟める言葉って、一言、二言じゃないですか。その間に次の人の番になっちゃうから。だから楽しいのかな。これが、ゆったりギャグして、ゆったりギャグして、っていうところに僕がMCで入っちゃったら、しっかり受けて返さないといけなくなるから、浅いのがバレちゃうんですよ。ポン、ポン、ってラリー感のなかで、自分が出した言葉をつつかれる前に逃げられるから、ごまかせてるのかもしんないです。
山脇:そっとアシストをいれてもらってるようで、観客としては助かるなと思って観てます。
村上:それは、多分、A先生が察知してくれたのかもしれないですね。うん。ミーハーだから、できるのかもしれないですよね。
山脇:わりと多方面のことを、知ってないと。
村上:知識があるっていうより、一応こう、言えるみたいな、あるかもしれないですよね。
山脇:楽しいですよね、ギャグラリー。何が起きたか忘れちゃうんだけど、ずっと楽しい。
今のうちに「恥ずかしいお父さんなんだよ」っていうのを、やっていきます。
山脇:36歳になった今年は、どうしますか。
村上:そうすねえ。子どもができて1発目の1年なんですよね。……覚悟します、じゃあ。こう、芸人として、つつかれる部分みたいなのを……。意地張らないことを、します。子どものために。
山脇:あら。
村上:今やっとかないと……ここで「父親だから」って意地張っちゃうと、10年後引き返せなくなって「俺は本当はたいしたもんじゃないんだよ」って言えなくなるから……。今のうちに「恥ずかしいお父さんなんだよ」っていうのを、やっていきます。本当に、強がりで、プライド高いから。そこだけね、なんとかしたいですよねえ。
山脇:プライドって、でも、ないよりはあったほうがいいですよねえ、そりゃ。
村上:まったくないとね、あれですよね。だから、プライド持って、へし折られても、プライドで返さない。
山脇:プライドで返さない?
村上:今までは、中身のないプライドで返してたから。知らないことなのに「ああ~」みたいな。そういうのを言わないようにします。
山脇:私も「あーなんだっけそれ、聞いたことあるな」とかいっちゃいます。
村上:本当の自分をコントロールできたらいいですよね。見世物なんでね、結局。
山脇:色々なことに詳しい年下の人といる時に、素直にもの知らずおばさんになれたらいいんですけど。何を知ってて何を知らないと恥ずかしいのかがわからなくなっちゃって。
村上:あと、勝手に向こうが期待してると思い込んだりして。「別に俺が知らなくったって向こうはショック受けねえよ」って気づけずにここまでくる、っていう。
山脇:先輩風を吹かすつもりもないけど、吹いてしまって自分が追いつめられちゃう。
村上:色んな人が良いこと言ってて「あーしみるわー」ってなっても実際なかなかできないんですよね。
山脇:お互いに、年男、年女で。今年は頑張っていきましょう。
村上 純(しずる)
1981年1月14日生まれ。東京足立区出身。成蹊大学法学部卒業。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。東京NSC9期生。2003年、池田一真とコンビ・しずるを結成。バラエティ番組、ライブや舞台で活躍するほか、2011年には映画「ワラライフ!!」で俳優デビュー。2009年、2010年、2012年 2016年キングオブコント決勝進出。2017年2月3日にルミネtheよしもとにて単独ライブ『SHIZZLE IN JAPAN FES.2017~1日目』を行う。
山脇唯
1981年8月3日生まれ。俳優。ヨーロッパ企画退団後はフリーとして舞台を中心に活動。2013年より「すいているのに相席」に参加、“ユーモア女優“の称号をバッファロー吾郎A、せきしろ両氏より賜る。声の出演にNHK Eテレ「デザインあ」他ラジオCM等多数。ポンポコパーティクラブ代表。