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04回 「一夜限りのギャンブラー」

第204回 「一夜限りのギャンブラー」

2015.07.01

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富士の裾野にて
 
 なんと、今年の7月でロフトプラスワンは、誕生20周年なんだそうだ。私が20年前、冗談半分に(?)始めた「トークライブハウス」は、ロフトプロジェクトの屋台骨を支える存在にまで成長した。
 思えば、私がロックやフォークのライブハウスを始めた40年前、東京には一軒もそんな空間はなかった。しかし、今やライブハウスは全国に2000軒もあるとか。そして、トークライブハウスを始めた頃、〝ライブ〟といえば音楽であり、トークを毎日のように生で聞かせる空間なんて、東京中を探してもなかった。それが今では、すっかり市民権を得ている。
 音楽に比べれば、トークのライブハウスの数はまだまだ圧倒的に少ないが、確実に増えている。あと何十年かすれば、やはり全国いたるところに出現してくるのだろうか。そんな想像をふくらませていると、なんだかうれしくなった。私はもうほとんど引退状態で、ロフトプラスワン20周年記念事業に関われないが、何が起こるのか楽しみだ。そして来年にはロフト創立40周年記念企画も始まる。
 
<よし! カジノで有り金を使い果たそう!>
 もう、いつ死んでもおかしくない自己を見つめながら生きている70歳。なんだか気分がアンバランスな日が続いているうちに、突然、思う存分ギャンブルをやってみたくなった。よく考えたら、もう何十年もほとんどギャンブルには縁がない。パチンコも競馬も麻雀も、久しく手を出していない。囲碁や将棋はやるが、お金は賭けない。
 昔から、ギャンブルをしている人たちには憧れの気持ちがあった。特に、人生を賭けているような、破天荒な人物に。チキンな私には、とても彼らの真似はできない。その豪快な生き方が羨ましかった。
 思い立ったら即行動だ。自分の部屋にある現金を調べてみると、タンス預金も含めて、40万円ちょっとある。
 「よし! カジノに行ってこれを全部使い切ろう」
 と、直感的に思った。この金額が10倍になるか、全部使い切ってしまうか。そう思うと、ちょっと興奮した。
 カジノといえば、30年前に住んでいたドミニカで、私の経営する日本レストランの真裏にあった。その頃は、毎日のように通っていた。
 日本から一番近いカジノ場を探してみると、ソウルにあった。ソウルか。訪ねるのは40年ぶりだ。行ってみたいと思った。韓国はMERSコロナウイルスが流行しているというが、そんなことはあまり気にならなかった。
 
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カジノがあるソウルのシェラトンホテル。
ラスベガスと比べると、サービスはあまり良くないと感じた
 
<夜明けまでノンストップの勝負>
 昼の間は、ソウル市内を散策してみた。韓国人は総じて優しかった。整形だといわれながらも、韓国女性は抜群にきれいだった。ソウルのダウンタウンの風景は、私が去年、しばらく暮らしていた大阪に似ている。実にいい。
 ソウルの賭場はシェラトンホテルの中にあって、韓国人は出入禁止。1日目は圧倒的に負けた。4時間ぐらいのうち、ほとんどブラックジャックが手元に来ない。これはひどいと思った。「今夜はダメだ。勝負は明日にしよう」と思って早々に部屋に引き上げた。
 翌日。今回は1泊2日なので、残りの金を全部使わなければ帰れない。別に勝つことが目的ではないので気は楽だった。逆に、そこそこ勝っても面白くないな、と思った。
 やはり、昨日は早々に切り上げて、流れを変えたのが良かったのかもしれない。場の雰囲気やブラックジャックのセオリーを無視したスタイルにもかかわらず、順調に勝ち続けた。すると、他の客から文句が出た。私はディーラーのカードを無視して、15以下は断固降りずカードを要求した。これが他の客の顰蹙を買ったのだ。物々しい雰囲気にもなったが、粘って10万円以上は勝った。
 ブラックジャックの場に居づらくなったのもあり、主戦場をルーレットに移した。酒はタダなので、たらふく飲み続けた。酔ってほとんど記憶もないのだが、とにかく朝9時までルーレットだけをやり続けた。
 気がつけば、ホテルのチェックアウトの時間が迫っていた。勝ったり負けたりで13時間。いつ部屋に戻ったのかもわからなかった。
 私の手持ちの現金はすべてなくなっていたので、多分、酔いに任せて最後の大勝負をしたのだろう。完璧に負けたのだ。
 酔って、一睡もしないまま、空港行きのバスに乗った。帰りの飛行機は揺れた。浅い眠りの中、「このまま飛行機が落ちるのもいいな」なんて思っていた。気がつけば羽田に着いていた。
 翌日。目覚めると、東京の蒸し暑い空気に触れながらも、私の心は実に晴れやかだった。「多分もう、こんなことは死ぬまでしないだろうな」と思った。これで、死ぬまでにやってみたかったことのひとつはクリアできた。そう思ったらまた、一歩前に進んでみる気になった。
 
 重たく雲が垂れ下がる、あじさいの季節になった。我が家のあじさいの花もキラキラ美しい。あじさいの手鞠(てまり)咲きの花びらをちぎって棄てて、まるで自分の人生を占うかのように降り注ぐ、霧雨の新緑の小径を歩く。耳を澄ますと、そこには聞こえるはずのない、山から下りてくる風の音がある。すべてを大地に委ねたくもあり……。
 「すべてを運命のせいだとあきらめてはいけない。これまでの努力を無駄にしないためにも」(ガンジー)
 
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ソウル中央を東西で流れる漢江(ハンガン)
 
 
<お詫び>先月号の「おじさんの眼」で、塩見孝也氏の清瀬市議会議員選挙での得票数を「219票」としていましたが、「319票」の誤りでした。お詫びし、訂正します
 
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【毎週木曜日生放送 ロフトラジオ】
ライブハウス稼業を始めて早40年。いつもライブの客入りに一喜一憂してきた創業者・平野悠が「もうこの歳になったら、毎日の売り上げとか気にしないで、気楽に好き勝手なことを喋りたい!」とある日突然思い立ち、なぜかネットラジオを開局しました。名付けて「ロフトラジオ」。だいたい毎週木曜日の20時から22時まで(その日の乗り次第で長くなったり短くなったり)、新宿百人町のロフト仮設スタジオから放送します。
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