あら、いやだ。何処かで見た顔だなと思ったら。気付かなかったわよ、あんた影薄いんだもの。とりあえず明けましておめでとう。例によってうちは全部セルフサービスだけど。まあ、お座りなさいよ。それにしてもそのお腹。年始太りってやつね、みっとも無い。腹上死しても知らないから。
こんばんは。マリアンヌ東雲でございます。今宵も痛々しいお葉書が来て居るわね。神奈川県の、ペンネーム「イカ納豆」さん。嫌いじゃないわ、イカ納豆。ホタルイカなら尚更良し。
『マリアンヌさん、こんばんは。私は、26歳の女子フリーターです。あるバンドのファンで、おっかけというか地方のツアーまで行ってしまうこともあります。純粋に彼らの音楽にハマってしまったからか、特にどのメンバーが好きとかはなかったんですが、熱心にライブに通ううちに、メンバーからは顔なじみの客として覚えられています。ベースのAさんはライブ後に、会場でお話してくれるんですが、いつも本当にやさしくて、自分はAさんを男として好きになってしまったようです。今ではメールで連絡も取り合う仲なのですが、Aさんに告白してしまいたい気持ちと、もし嫌われたらどうしようという気持ちが半々で悩んでいます。どうしたらよいでしょう?』
あらま。ワタクシに向かって余所のバンドのおっかけやってますだなんて、貴女よく言えるわね。喧嘩売ってんの? だいたい、いい大人がフリーターをやりながらバンドのおっかけだなんてさ。もう少し現実と向き合いましょう。悩み事にも今一つパンチが足りない。貴女に未来はありません。と斬り棄てたいところであるが、お開きにするには時間が少し早い。ではちょいと考えてみましょう。
ご存知の通り、バンドというのは人気商売。お客様が居て成り立つ世界です。そのAさんとやらが優しいのも、至極当たり前。メールも営業の一環であって、貴女1人だけと遣り取りをして居る訳ではありません。貴女が特別では無いの。それは錯覚、思い上がりというものよ。とはいえAさんはかなりマメで器用な男性なのでしょう。バンドをやって居るような男は「モテたい」だの言う割に面倒臭がりで気が利かない輩が多いですから、Aさんはそのバンドの中では所謂、顧客担当である訳ね。どのバンドにも1人は、そういった役回りのメンバーが居るものです。優しくされたからといっていきなり恋人になろうというのは短絡的です。Aさんもびっくりする事でしょう。で、今回ワタクシが注目したのは、「男として好きになってしまった」この部分。貴女の女性の部分(解るわよね?)が感応して居る訳。
となれば答えは一つです。打ち上げに参加して、酔いに任せて彼の耳元で可愛らしく囁きましょう。
「あたし、帰りたくないな…」。そう、セックスです。一戦交えたらあまりにも道具がお粗末、なんて場合にはあっさり踏ん切りが付くでしょう。但し問題はそうでなかった場合。男というのは誠に勝手な生き物であって、「あの女とヤりてえ」などと願望を抱きながらもそれが簡単に叶ってしまうと途端に興味を無くし、今度は「こんな簡単に股を開く女が本命とか、無しっしょ」と思うようになります。嗚呼、なんて自己中心的。ぞんざいになる貴女への扱い。遠ざかる幸せ。尤も、貴女に風俗嬢並みの超絶テクニックが備わってでも居れば逆転勝利も有り得ますが、「遊び慣れて居るんだなコイツ」と益々敬遠される可能性もございます。男と女を隔てる川はかくも残酷なまでに深く、暗いものよ。貴女に解るかしらね? 男の中でもミュージシャンという人種は殊更面倒臭く、一般の人に比べ自分大好き指数がかなり高めでございますから、自分以外の誰かを真面目に愛するだなんて二の次、三の次。
美しい愛の歌だって、そんな自分に酔い痴れたいが為に生まれるのです。え、言い過ぎかしら? だってそうじゃないの。従って、貴女のような、あまり汚れて居なさそうな女性には、誠実で安定した収入を持った普通の男性が相応しいんじゃないかしら? という結論に行き着く訳ですが、敢えて辛酸を嘗めまくってボロボロになる経験もそれなりに味わい深く、大変よいお勉強になりますので、今回は後者の選択肢を押し付けてみたいと思います。
ワタクシの周りにもそんなボロボロ女子が沢山居ますが、こういった女性達の方が所謂世渡り上手な女より遥かに面白いわよ。人として。まあ、ワタクシの個人的な好みだけれど。晴れてボロボロになった暁にはまたお手紙頂戴。お待ちして居るわ。