メジャーの資本下でリスタートするバンドに対しての過剰な反発
あれはなんだったのだろう。
80年代の半ば、当時、遠藤ミチロウ氏が率いたバンド「ザ・スターリン」のロゴマークのステッカーやバッヂをつけているだけで、ハード・コア・パンクスにボコボコにされる可哀相なパンクスがたくさんいた。私のバンドのベーシストもボコボコにされた。
詳しい事情はよくわからないが、スターリン、というか、ミチロウ氏が、インディーズでのリリースを止めてメジャーのフィールドで活動し始めたことが、一部のパンクスの目には「裏切り行為」と映ったらしい。
だからと言ってバッヂをつけてたぐらいのことでボコボコにされる言われはまったくないよ。単に「アルファベットのSに矢印がスッと入ったデザインが小気味よいから」とか「佐々木」「菅原」といった名字の人が「俺のイニシャルだから」という理由でつけていたのかもしれず、それはそれでボコボコにされても仕方ないようにも思えてきたので厄介だが、やはりボコボコはダメだ。
スターリンの例はほんの一例に過ぎぬ。
80年代という時代には、ロック・バンド、特にパンク系のアーティストは、メジャー・レコード会社の資本下でリスタートすることに対して、それまでのファンやよくわからないギャラリーから過剰な反発を買うことが多かった。
私がやっていた有頂天ですら、ナゴムからのメジャーへ移籍にあたって、少なからず風あたりの強さを感じたくらいだから、インディーズ御三家(苦笑)のトップを走っていたたラフィン・ノーズは、いろいろ大変だったのではないか。どパンクだったし。もしラフィンがパンク・バンドではなくラテン・バンドだったら、さしたる波風は立たなかったに違いない。ラテン・ミュージックのファンはインディーズだろうがメジャーだろうが、陽気に、あるいはムーディーに、ラフィンを歓迎しただろう。バンド名もラテン・ノーズにすれば一石二鳥だ。「ラテンの鼻」。よくわからないが、ラテン・バンドであったなら、あの日比谷野音での圧死事故だって起こらなかったに違いないが、不謹慎なのでそれだけは書くまい。
ライヴでは豚の頭や臓物、爆竹や花火を客席に投げつけるなどして悪名を轟かせた「ザ・スターリン」だが、一部の過激なハード・コア・パンクスたちからは知的だとして異端視された。それにしても、アルファベットのSのロゴを身にまとっただけでボコられるだなんて…
(ジャケット写真は彼らのメジャー・デビュー・アルバム『STOP JAP』、1982年7月発表)。