下町のおばちゃんは忙しい。
チャリンコは前後にカゴを設置し、アクティブに商店街を駆け抜ける。植木も大好きだから、馴染みの花屋で買ってはせっせと無計画に玄関前に並べてしまう。田舎から届いたミカン段ボールの空き箱には、大学に進学した息子の捨てるに捨てられない小中高の教科書を入れてビニールに包み、これまた玄関前に放置する。こうして家に入れるまでもないものがどんどん玄関先に溜まる訳である。出来る限り家の中には持ち込みたくない。雨に濡れてもいいものは表に出しておきたい。こうして軒先に本来の壁すら見えなくなるほどの下町アートが築き上げられる訳だ。
そんなある日、おばちゃんは気づいてしまう。幅を取りすぎる室外機の存在に…
そしておばちゃんはボヤくのだ。
「ジャマ臭いわねぇ」と。
挙句の果てに「これ、本当に必要?」と言い出すのである。「部屋のエアコンだけでも動くんじゃないの?」って。
おばちゃんよ、それなら室外機を粗大ゴミの日に捨てるがいい。
だが、その前に言っておく。
室外機の仕事は、圧縮機で高圧になった気体を熱交換器のファンによりヒエヒエにして液化してから圧力を下げてエアコン本体に送るのである。こうして気化しやすい状態の液体をエアコン内で蒸発させて熱を奪い冷たい風を部屋に吹かせるのだ。
確かに室外機は地味である。そのくせデカイ。けれどもそんな室外機は見た目のダメさ加減より遙かに高度な技術を駆使して日夜働いているのだ。しかもこの猛暑の中、室外機は部屋から奪った熱を温風として吐き出し続けるという五反田のSM倶楽部でもやらないような過酷なプレイを続けているのである。
下町のおばちゃんよ、それでも捨てるというなら捨てればいいさ。何も出来ないエアコン本体と共にカラカラに乾いてミイラ状態で秋口に発見されて「奇跡体験!アンビリバボー」に登場するがいいさ。ああ、それがいいさ!
エンドケイプ profile
職業:モノカキ
日本を代表する室外機フェチで36歳独身。
電子書籍・イラストから作詞まで浅くユルく網羅し、特技は雨に濡れない体質である事。
blogエンドケイプほぼオンライン
http://ameblo.jp/endcape01/
室外機マニア
http://www.sonzai.net/