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トップレビューte' / 敢えて、理解を望み縺れ尽く音声や文字の枠外での『約束』を。

te' / 敢えて、理解を望み縺れ尽く音声や文字の枠外での『約束』を。

2010.06.01   MUSIC | CD

TKCA-73530 2,800yen (tax in) / 6.02 IN STORES

群雄割拠のインディーズ・シーンにおいて今や確たる地位を築き上げた残響レコード。その始祖であるte'が“敢えて”メジャーとタッグを組んだ通算4作目となる本作は、バンドの真髄と結成から6年間の経験値が実に理想的な形で濃縮した会心の作だ。彼らの音楽性がトータスやモグワイ、65デイズオブスタティックといったポスト・ロックの影響下にあるのは確かだが、それら先陣たちと一線を画しているのは強靱な肉体性を帯びたダイナミズムである。インストゥルメンタル主体のポスト・ロックは微に入り細にわたって精巧な音作りを探究するあまり、繊細さや高度なテクニックが前面に出てしまうことが多い。もちろん楽曲のきめ細やかさや技術力を追求するのも大いに結構なのだが、ロックが本来持ち得た燃え滾る感情、得も言われぬ昂揚感に乏しい。その点、te'は違う。重心のあるリズムとビートはひたすら肉感的で、聴き手の情感をグイッと鷲掴みにする獰猛さもある。気迫の籠もった圧倒的なテンションと鮮血が迸るかの如き瞬発力もある。前3作まではそうした漲るヴォルテージをパッケージすることに腐心していた彼らだが、本作では細部まで緻密な音作りをすることにより意識的になったのが大きな変化だと言えるだろう。冒頭の「決断は無限の扉を開くのでは無く無限の誤謬に『終止符』を打つ。」はプロトゥールスでギターとベースの音をパッチワークのように繋ぎ合わせ、それにドラムの生音を被せるというデジタル・レコーディングの手法を逆手に取った野心作だが、そこにデジタルの無機質さは微塵も感じられない。こうした離れ業を平然とやってのける姿勢はまさにしてやったりで、メジャーとタッグを組もうがロックを基軸に据えたte'のメンタリティが不変であることを如実に物語っている。従来通り曲名が30字、アルバム・タイトルが29字という定型文やジャケットの体裁からも揺るぎないバンドの意志を感じるが、te'が新章に突入したことを痛感するのは、作品全体としても楽曲単位としても構成力がこれまで以上に巧みなことである。終幕を飾る「『参弐零参壱壱壱弐伍壱九参壱伍九伍弐壱七伍伍伍四壱四壱六四』」のめくるめく動と静のコントラストに顕著だが、どの楽曲も決して一筋縄では行かない展開のアレンジが施され、「闇に残る遅咲きは、艶やかな初花より愛らしく『夢』と共になり。」のような浮遊感のあるスロー・ナンバーですら終盤はワルツ風に変調して強弱を付けている。この卓越した構成力に加えてインスト特有の冗長さもないので、全12曲が滞りなく一気に聴けてしまう。インストが難解だという先入観のある人ほど是非本作を聴いて欲しい。te'の音楽に歌はないが、歌心はちゃんとある。それどころか、te'の奏でるインストは歌心なしでは成立しない。ヴォーカルレスではあるが、真に迫るメロディはどれも間違いなく“唄っている”のだ。ドラムもベースもツイン・ギターもその瞬間瞬間で代わる代わる声を震わせている。歌心を身に宿したヴォーカル不在のバンドがインストの無限の可能性を提示した作品として後世まで語り継がれるべき一枚である。(Rooftop編集局長:椎名宗之)

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