Rooftop ルーフトップ

REVIEW

トップレビューコロナ禍の日本、過疎化に悩む地方、震災などの社会問題と向き合いながら喪失と復興の物語を描く劇映画『サンセット・サンライズ』

コロナ禍の日本、過疎化に悩む地方、震災などの社会問題と向き合いながら喪失と復興の物語を描く劇映画『サンセット・サンライズ』

2025.01.15   CULTURE | CD

映画『サンセット・サンライズ』

【出演】
菅田将暉
井上真央
竹原ピストル 山本浩司 好井まさお 藤間爽子 茅島みずき
白川和子 ビートきよし 半海一晃 宮崎吐夢 少路勇介 松尾貴史
三宅健 池脇千鶴 小日向文世 / 中村雅俊

【脚本】宮藤官九郎
【監督】岸善幸
【原作】楡周平『サンセット・サンライズ』(講談社文庫)
【音楽】網守将平 【歌唱】青葉市子
【製作】石井紹良 神山健一郎 山田邦雄 竹澤浩 角田真敏 渡邊万由美 小林敏之 渡辺章仁
【企画・プロデュース】佐藤順子 【エグゼクティブプロデューサー】中村優子 杉田浩光 【プロデューサー】富田朋子 【共同プロデューサー】谷戸豊
【撮影】今村圭佑 【照明】平山達弥 【録音】原川慎平 【音響効果】大塚智子
【キャスティング】田端利江 山下葉子 【美術】露木恵美子 【装飾】松尾文子 福岡淳太郎 【スタイリスト】伊賀大介 【衣装】田口慧 【ヘアメイク】新井はるか
【助監督】山田卓司 【制作担当】宮森隆介 田中智明 【編集】岡下慶仁 【ラインプロデューサー】塚村悦郎
【製作幹事】murmur 【制作プロダクション】テレビマンユニオン 【配給】ワーナー・ブラザース映画
Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会/ 上映時間139分
1月17日(金)全国ロードショー

sunsetsunrise_main.jpg

 監督は岸善幸、脚本は宮藤官九郎。『サンセット・サンライズ』は笑いと涙、厳しい現実と夢のような理想、カラッとしつつジンワリと沁みて。いやぁ、良かった!
 

sunsetsunrise_sub1.jpg

 監督の岸善幸はドキュメンタリー番組などの演出を経て映画監督に。前作『正欲』(2023年)の削ぎ落したからこその繊細な緊迫感にはゾクッとした。脚本は反骨精神とユーモアの共存に手腕を発揮する宮藤官九郎。個性豊かな人々が登場し賑やかに物語を作っていく。乱暴な言い方をすると、この二人、静と動。そんな印象を持っていた筆者。で、これがメチャメチャ相性がいい! それぞれの全作品を見ているわけではないので大きなことは言えないが、でも言いたい! 岸善幸監督も宮藤官九郎も、完成した本作を見て、今までにない自身の作品に出会えたんじゃないか?
 主演は、岸監督とは『あゝ、荒野』(2017年)以来の菅田将暉。『サンセット・サンライズ』での菅田将暉演じる主人公の屈託のなさは新鮮だし。
 原作は楡周平の『サンセット・サンライズ』。“泣き笑い 移住 エンターテイメント”の映画となった『サンセット・サンライズ』。新たな自分に出会う、新たな人生を掴む物語である。
 

sunsetsunrise_sub2.jpg

 物語の始まりは2020年の初め。コロナがじわりと広がってきた頃。東京の大企業に勤める西尾晋作(菅田将暉)は仕事もできるが何より釣りが好き。リモートワークが始まり、だったら東京に居る必要ないじゃん、どこにいても仕事やれるじゃん、釣りしてたっていいじゃん! と思っていたところ、ネットで4LDK、家具家電完備、一軒家、家賃6万の激安好物件を見つける。しかもすぐそばに海! 引っ越すしかないっしょ!
 釣り道具一式を持ってすぐに向かった南三陸の架空の街、宇田濱町。フットワーク軽やかな晋作は菅田将暉にピッタリなのだが、だけど、真っ直ぐで無邪気で、思いやりもあって、いわゆる人たらしで、いい大学を出て大企業に入って、人生における苦労も悲しみもまだ知らない、そういう好青年の役って菅田将暉には珍しいんじゃないか? 菅田将暉にしては癖のない人物が、実に生き生きと魅力的。
 

sunsetsunrise_sub5.jpg

 憧れの移住ライフが始まったが、時はコロナ禍。過疎化が進む海辺の小さな宇田濱町はまだ感染者を出していない。よそ者を、ましてや都会の人間を町に入れるな! どうしても町に入るならソーシャルディスタンスだし2週間の隔離期間は家から出るな! ってことで、せっかく越してきた晋作は家から出られない。「食事は持ってきますから」と大家の百香(井上真央)。百香は宇田濱町役場の職員で、空き家問題担当。父親と暮らす家のはなれを貸し出したのだ。百香にポ~ッとなりつつ、それより何より目の前は絶好の釣りスポット、行くしかないっしょ! とマスクを装着してこっそりいそいそと釣りへ向かう日々。
 

sunsetsunrise_sub3.jpg

 コロナ禍当時の動揺っぷり。現実社会の現在、コロナは終わったわけではないが経験と知識はついた。経験と知識がない、未知のウィルスのパンデミックに手探りで向かった当時の騒動と動揺を思い出す。
 感染した者と感染していない者、ワクチンを打つ者と打たない者、そして感染者を出していない町に暮らす者とよそから来た者、都会と田舎、東京と東北。なにかにつけて二者択一とか二者分断って言葉が出てくる現実社会。で、この宇田濱町では「なんだ? あのよそ者は!」と地元の男たちは、百香の家のはなれに住み着いた晋作が気になってしょうがない。気になってしょうがないから焼き入れてやる! って呼び出した場所は竹原ピストル演じるリーダー格が営む居酒屋で、「地元の海鮮食わせて懲らしめてやる! おだずなよ!(調子に乗るなよ)」って天国のような地獄を味合わせる。「うんめー!」と悲鳴をあげる晋作。三宅建のヤンキーも最高。素朴で見事な海鮮料理には都会になんか負けねぇぞって思いが込められているのかもしれないが、田舎と都会、東北と東京を分断などさせない。海の幸は本当に幸せを呼び込むようだ。
 

sunsetsunrise_sub4.jpg

 だけどよそ者には簡単には踏み込めないものがある。東日本大震災。
 
 宇田濱町の人は個性的な人ばかりだが、みんないい人ではある。百香は過疎化が進む町で漁師で釣り船の船長の父親と地に足を着け、しっかり生きようとしている。そんな百香を思い、「モモちゃんの幸せを祈る会」を結成している男たち。池脇千鶴演じる百香の同僚は姐さん的な存在。みんなぶっきらぼうだがそれぞれを思いやっている。東京から来た晋作は、やはり入ることはできない。震災をどこかに滲ませている、だからこそ浮かび上がる厳しさと優しさに、「わかります」なんて言えない。
 

sunsetsunrise_sub6.jpg

 個性的な人たちと出会い距離を感じつつも、宇田濱町がどんどん好きになり、百香をどんどん好きになる晋作。あぁ、ここで暮らしたい。
 思いやりがあるから埋まらない距離感、踏み込めない事情、踏み込めない心の中。晋作だけではない。「モモちゃんの幸せを祈る会」なんてのを作ってる男たちも、モモちゃんの幸せを祈るのを理由に自分の心の中の本当の気持ちから逃避しているようだ。百香だってそう。自分の幸せを掴まなきゃいけない。
 
 言いたいことは芋煮会で言え! って感じに開かれた河川敷の芋煮会。感情炸裂の芋煮会で物語は大きく動く。ここでの美味い芋煮を作る竹原ピストルと姐さん池脇千鶴が最高。
 

sunsetsunrise_sub7.jpg

 過疎の町の空き家問題などを絡ませ、家族の絆と家族じゃない生き方を提示。
 それぞれが違う人間、それぞれの「好き」を手放すな。それぞれの新しい「好き」を掴みとれ。『サンセット・サンライズ』、喪失と復興の物語でもある。(Text:遠藤妙子
 

関連リンク

このアーティストの関連記事

CATEGORYカテゴリー

TAGタグ

RANKINGアクセスランキング

データを取得できませんでした

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻