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マリウポリの20日間 - 市民の命と生活を無残に奪う戦争を記録する重要性を伝える決死のドキュメンタリー

2024.04.26   CULTURE | CD

映画『マリウポリの20日間』

【監督・脚本・製作・撮影】ミスティスラフ・チェルノフ
【スチール撮影】エフゲニー・マロレトカ
【フィールド・プロデューサー】ワシリーサ・ステパネンコ
【プロデューサー、編集】ミッチェル・マイズナー
【プロデューサー】ラニー・アロンソン=ラス、ダール・マクラッデン
【音楽】ジョーダン・ディクストラ
2023年/ウクライナ、アメリカ/ウクライナ語、英語/97分/カラー/16:9/5.1ch/G
【原題】20 Days in Mariupol 【字幕翻訳】安本熙生 【配給】シンカ
©︎ 2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation
4月26日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国緊急公開

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 2022年2月24日、ロシアが地続きの隣国、ウクライナに侵攻し始めた。
 
 ロシア国境からわずか20マイルのウクライナのハルキウ市で育った『マリウポリの20日間』の監督であるAP通信社のビデオジャーナリストのミスティスラフ・チェルノフは、10代の頃、「学校のカリキュラムの一環として銃の操作法を学んだが、ウクライナは友好国に囲まれているのだから、こんなことは無駄なことだ」と当時は考えていたという。その後、ビデオカメラを手に、イラクやアフガニスタンなど各地の紛争を取材。世界にその惨状を伝えていくが、自身の足元、故郷の町の近くの国境の向かい側で、ロシア軍部隊の増強を知る。2014年のクリミアの併合やドンバス侵攻などを経て、2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの全面的な軍事侵攻が起きる。戦争が始まったのだ。
 

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 主な標的の一つとなったウクライナ東部の都市・マリウポリ。侵攻の開始を察知し、仲間とともに現地に向かったチェルノフ監督。本作は脱出する3月15日までの20日間の生々しい記録である。
 空を覆う黒煙、空爆の轟き、ビルの窓から噴き出す炎、瓦礫となった家々。情報が寸断され逃げられない人々。悲痛な声、叫び。怒りと絶望の表情。サッカーをしていた少年が殺され、遺体を抱き泣く父親。生まれて間もない赤ちゃんを抱え病院に駆け込んだが、必死の治療も叶わなかったと聞き泣き崩れる母親。
 「なぜ?」、「なぜ私の子がこんな目に?」、「私たちは何か罪を犯したのか?」、「どうして?」。多くの「なぜ?」という声に心が痛む。
 

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 日を追うごとに攻撃は激しくなり、正視し難い場面が続く。空爆の音が鳴りやまない中、機関銃の音も響き出す。病院での死、道路の端には遺体、集団墓地に押し込まれるように重なる遺体。死と隣り合わせで暮らす人々。情報の寸断が続き、人々は不安と恐怖に苛まれていく。市民による盗難騒ぎも、市民の「攻撃しているのはウクライナ人だ」という声も記録している。戦時下で生きることの厳しさも映し出している。
 
 戦争とは軍人だけの戦いではないのだ。生活を奪うのが戦争で、そんな中でも生活していかなければならない市民。民間人には攻撃はしないというロシア軍は、民間人しかいない場所を攻撃している。地獄だ。
 

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 産科病棟のある病院を攻撃。担架で運ばれてきた妊婦の映像は世界各地で放送。これを「フェイクニュースだ」と言うロシア高官。この欺瞞な満ちた態度から、「記録」というものの重要性が逆に伝わる。後半、マリウポリの警察官がチェルノフ監督たちの脱出をサポート。
 「街の現実を伝えてくれたことに感謝する。もしロシア側が貴方たちを捕まえれば、今まで撮影したものは全て嘘だと言わされるでしょう」
 傷ついた市民を残して脱出するチェルノフ監督自身の心情も浮かび上がる。
 

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 戦争は未だ終わらず、長期化は避けられない。このドキュメンタリー映画を観たら、戦争の犠牲者を数字だけで捉えることはできないだろう。一人一人の命、一人一人の人生があったのだ。
 
 『マリウポリの20日間』は、本年度のアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞した。(Text:遠藤妙子
 

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