2021年10月29日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:ギャスパー・ノエ
配給:太秦
(c)2020 / STUDIOCANAL – Les Cinémas de la Zone – 120 Films. All rights reserved.
私達はみんな悪魔なのか。人間の内に潜む残虐さに恐れ慄く!
”過ぎてしまったことはもう元には戻らない”
本質的かつ至極シンプルな主題を、最も残忍な事例で訓告してくれるこの作品は、時計回りに回転するスプリンクラーの画から始まります。
2003年に日本で公開された『アレックス』。
この作品は、恋人が暴行された男の復讐を時系列を遡って描いています。
劇中の描写は強烈で、2002年のカンヌ国際映画祭でも途中退場者が続出し、大きな話題となりました。
それに対して、今回再構築された『アレックス STRAIGHT CUT』は時間軸に沿ったもの。
いわば"順行版『アレックス』"です。
『アレックス』、『アレックス STRAIGHT CUT』。
両作品に共通して、鑑賞後は大きな疲弊感が残りました。
ストーリーの重苦しさは去ることながら、上下左右にぐわんぐわんと揺れるカメラ、警告のようにチカチカと赫灼する光。
そして、トーマ・バンガルテル(ex.Daft Punk)による音楽は、観る者の鼓動を早め、ガンガンと不安を煽ってきます。
また、オリジナル版は時間の不可逆性が強調され、残酷に感じられたのに対して、ストレートカット版はストーリーが順行に進む分、感情移入もより深く、残酷を通り越して無常さえ感じました。
コロナで世の中が疲弊しきっている今、なぜこの作品を再編集して公開するのか疑問に思いましたが、この衝撃の連続に心地よさを見出している自分がいました。
思考を放棄して噪音と乱像の中を漂う90分はあっという間でした。
『アレックス STRAIGHT CUT』。
オリジナル版『アレックス』を観たことがある人はもちろん、未見の方でも見応えのある作品です。
鑑賞後には『アレックス』が観たくなり、そしてまた『アレックス STRAIGHT CUT』が観たくなるループに陥るはず。
非情な場面もあり、手放しにオススメはできませんが、忘れられない映像体験になることを約束します。
ちなみに、私は、観終えた後に子どもの頃以来の知恵熱を出しました。
(阿佐ヶ谷ロフトA:森優美子)