かつての悪趣味ブームに捧げる痛みと悼みに満ちた論考
本書は90年代の死体や殺人鬼、薬物などに着目した「鬼畜系」「悪趣味ブーム」を論じた本である。青山正明、村崎百郎ら鬼畜エリート達の活動が実は高度な知性と危ういバランスで成り立っていた事や、洒落の判らない者や安易なパクリによって終焉を迎える顛末を冷静に分析していく。他ジャンルに活路を見いだすか否かによって分かれた彼らの末路は読んでいて心に迫る。また、奥崎健三「神様の愛い奴」やイベント中の事件など当時のロフトプラスワンの役割も示される。当時の現場や当事者達を知っている身には正直辛い本だ。しかしそれは自らの血肉となる時代を完全総括した筆者のロマン氏にとっても同じだろう。
ただ、あの時代は無駄などではなく、影響を受けた者たちが音楽や映画など様々なジャンルに拡散しているはずだ。それはロマン氏自身の存在が証明しているだろう。己の重要な時代に落とし前をつけた彼の次の著作が心底楽しみだ。(多田遠志)