東日本大震災被災地の風俗嬢に取材を続けた本書は、TVでは報じられない被災地の現実を露わにする。家もなにもかも失い「人肌に触れないと気が狂いそうになる」と風俗嬢たちを求める男性たち。自分たちも被災し深刻な家庭事情を抱えていても、彼女たちは聖女の様に客の心を受け止め、癒し続ける。彼らの極限状況を知ると風俗の是非や、「不謹慎」などと道徳的な観点を持ち出すなど、まったくの筋違いに思えてくる。懸命に生きている彼らの「生」の発露の「性」を責めることなど誰にも出来ない。阪神淡路大震災後風呂を解放し営業再開した風俗店など、考えると震災の陰には必ず性産業の奮闘があった。今回の熊本大分の地震でも、熊本に存在する「日本一のソープ」の被災を日本中の人々が案じ、歓楽街が再興されている。人の生ある限り、「性」も避けることはできない。そして震災などの非常時にはなおのことである。そんな基本だが忘れがちなことを、この本は教えてくれる。(多田遠志)