1960年代、ビートルズが世界を席捲していた時代、アメリカではビーチ・ボーイズが夏とサーフィンと恋を歌ったヒット曲を連発しアメリカ中の若者を虜にしていた。その中心人物であるブライアン・ウィルソンが、実は夏やサーフィンといった明るいイメージとは正反対の内向的でナイーブな音楽青年だったことは意外と知られていない。ブライアンはビートルズを越えるべく創作活動に専念し、やがて音楽史に残る名作「ペット・サウンズ」を完成させたが、当時の音楽シーンには受け入れられず、ブライアンは失意の内にドラッグにはまってしまう。本映画は、こうした60年代のブライアンと、聡明な女性メリンダと出会い、長年の薬物依存から立ち直っていく80年代のブライアンをダブルキャストで描いたもので、天才音楽家の苦悩と孤独、そして創作へ向かうイノセンス、ひたむきな愛などが赤裸々に描写されている。まさに愛と慈悲に満ちた奥深い作品だ。（加藤梅造）