今年春の来日公演も記憶に新しいボブ・ディラン。1962年にデビューして以来、常に現役ミュージシャンとして新作を発表し、終わりなきコンサートツアーを続けているこの音楽界の巨人に向き合うと、私のような中途半端なリスナーはつい怯んでしまうのだが、そんなディランを知る上で非常に心強い一冊が刊行された。萩原健太氏による本書はそのシンプルな書名が語るように、作品(アルバム)を丹念に辿ることでディランの半世紀の歩みを解き明かそうとする試みだ。とかく難解で謎めいていると言われるボブ・ディラン。萩原氏はそうした部分も参考にしつつ「本当に大事なのは、彼が半世紀を超えて紡ぎ続けてきた膨大な“物語”それ自体の中に、果たしてぼくたち聞き手の心をわしづかみにする何らかの真実が含まれているのかどうか」だと言う。読了後、読者はディランをもっと聴いてみたくなるのと同時に、ディランのことがもっと好きになるだろう。(加藤梅造